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第三魔界 強い想いが呼び起こしたものとは…… 前編

(今まで何の為に・・・こんなに苦しんだの?・・・大切な友達に酷い事までして耐えたのに・・・)


マホは絶望してしまった。


(本当ならば今夜、全てが終わり元通りの生活が戻ると信じていたのに悪魔なんかを信用してしまい、私が与え続けた魔力でこんな事になってしまうなんて・・・そればかりか結局ユウナを巻き込んでしまった。・・・せめてユウナだけでも守らないと・・・)


悪魔の鋭いツメがマホめがけて迫ってきた・・・その時、鈍い音が静寂な空間に響いた。


「あなた何かに・・・!!

 あなた何かに・・・!!

 マホを殺させるものですか!!ジンマカイも滅ぼさせない!!」


白い光を帯びた大きな鉄のシールドが悪魔のツメを弾いた音であった。ユウナの防御魔法のシールドがマホを救ったのだった。悪魔は一瞬、驚いた様子だったがニヤリと笑った。


「ほぉ~俺の攻撃を防ぐとはさすがユウナ。思っていた通りあの頃より魔力が強まっているようだな。だが、そんなシールドじゃ俺の攻撃をもう防ぐ事は出来ないぞ!!」


悪魔はそう言うと右手を広げてシールドに向けた。次の瞬間その手の平が輝き出して、光りの光線を飛ばした。あっという間に手の平から飛んだ光はシールドにぶつかり激しく爆発した。「わああああっ!!!」シールドは壊れユウナ達は再び壁に飛ばされた。マホは飛び散った欠片が頭に当たり血を出していた。ユウナも膝が擦り切れ、頬を切ってしまった。悪魔がゆっくりと歩きながら近付いてきて、ユウナの前でしゃがみ込んだ。


「ユウナ!マホを守りたいか?ジンマカイを救いたいか?」


「当たり前でしょ!大切な友達もみんなが居るこの世界も壊されたくない!!」


「そうか。それならお前が大人しく俺と一緒に魔界に来るなら今度こそ大人しく何も手を出さずにジンマ カイから出て行こう。」


悪魔は何かを思い付いたかのように笑みを浮かべながら言った。それを見て怪しいと思ったが、ユウナは迷った。自分一人が魔界に行けばマホもジンマカイも無事に済む・・・でも本当にこの悪魔はその通りにするのだろうか?どっちにしても今の状態が最悪って事は変わらない・・・それなら言う通りにして、とりあえずこの場だけでも切り抜けるしかないんじゃないかと思った。そして頷こうとした時


「そんな話信じたらダメだよ!また嘘に決まってるんだから!ユウナを逃げられない魔界に連れて行って 、『いつでもジンマカイを滅ぼせる!』とか言って抵抗出来ないようにして、一番魔力が高まった時に 自分の中に取り込もうとしてるだけなんだから!!」


マホはうつぶせで両肘で支えながら上体を起こして必死に叫んだ。悪魔の二度の攻撃でもう動けない体を起こすので精一杯だった。もう魔力も体力も精神力も無い状態のボロボロの体が震えていた。きっと声を出すのさえも辛いはずである。ユウナの前にしゃがみ込んでいた悪魔は立ち上がるとマホのところまで歩歩き出した。そしてマホの横まで行くと左足でマホの背中を踏みつけた。「あああああ!!」体中に激痛が走り、マホの叫び声が廃工場に響き渡った。


「俺はユウナに聞いているんだ!お前は静かに倒れていればいいんだよ!!力も残ってないお前を殺すなんて容易い事。ユウナの答えを聞くまで大人しくしていろ!!」


更に左足に力を入れ、マホの体を圧迫した。


「うああああっ・・・」


「もう~やめてぇ~~~!!本当にマホが死んじゃう!!」


ユウナは涙を流しながら叫んだ。そして顔を落とすと小さな声で言った。


「一緒に・・・魔界に行くから・・・もうやめて・・・」


それを聞いた悪魔は怪しげな笑みを浮かべながらマホの体から足を離すとユウナのところにまた戻ってきた。


「賢い選択だな。約束通りマホは生かしといてやる。それでは魔界に行くぞ!!」


そう言うと両手を広げ呪文を唱え始めた。何処からとも無く生温かい風が吹き始め、凄まじいエネルギーが地面を揺らし始めた。突然、廃工場の屋根を突き破り空から黒い稲妻が降り注いできた。いつしか黒い稲妻は悪魔の頭上に空間の歪みを作り出していた。ユウナもマホも開きかけている魔界への入り口から漂う、とてつもない悪しき気を感じて震えが止まらなかった。世界の終わりというものを直感で悟ってしまうほどのものだった。そうしている間に生温かい風も空からの黒い稲妻も静まっていて空間の歪みが安定して闇に続く魔界への入り口が大きく広がっていた。悪魔はゆっくりと両手を下げるとユウナの右腕を掴んだ。


「さぁユウナ!これから永遠に暮らす事になる魔界へ行くぞ!」


そう言うとユウナと共に宙に浮き、ゆっくりと空間の歪みに入ってゆく。ユウナの頭の中には絶望しかなかった。もう楽しかった生活を送る事も大切な友達と過ごす時間も出来ないんだと・・・全てを諦めたユウナが目を閉じかけたその時、左手を誰かに掴まれ引っ張られた。


「ユウナ!!ダメだよ!!そんなところに行っちゃ・・・ずっと一緒に居ようねって約束したじゃん!!」


空間に入っていくユウナと悪魔の体が少し止まった。閉じかけた目を開け、引っ張られてる左手の方に振り返った。そこに居たのはチサだった。ユウナは不意に叫んだ。


「手を離して!!このままじゃチサも一緒に空間に飲み込まれてしまう!!」


その言葉を遮る様にチサも叫んだ。


「嫌だよ!この手を離してしまったら、もう二度とユウナと会えなくなってしまうよぉ!!そんな風にな るくらいなら一緒に飲み込まれてしまった方が良いもん!!ユウナ一人だけ辛い思いさせられない   よ!!」


チサは更に力強く引っ張る。だが、空間の引き込む力は強さを増していく一方で逆にチサの体も空間に引っ張られ始めた。それを見て悪魔が口を開く。


「もうお前の力ではどうする事も出来ない。ユウナは俺と一緒に魔界に行く。分かったら潔く諦めて手を 離すんだ。」


「諦めるなんて事出来る訳無いじゃん!!大切な友達なんだよ。何があっても絶対この手は離さな    い!!」


「死にたいのか?」


「死なんて怖くない!!ユウナが居ない世界の方がよっぽど怖くて耐えられないよ!!」


悪魔は苛立ちをあらわにしていた。そして早く空間の中に入ろうとするかのように魔力の力を強めた。チサが大きく引きずられた時、もう一人の手がユウナの腕を掴んだ。


「そうだよね。諦めたら大切な友達を失ってしまうんだよね。」


ボロボロのマホだった。諦めてしまうという事が大切なものを無くしてしまう事に繋がると気付いたのだった。その反対に諦めない気持ちを持っていれば失う事はないと・・・


「ユウナ!私達絶対諦めないから!!だからユウナも諦めないで!!魔界なんかに行かなくてもジンマカイは滅んだりしないし、私も殺されない!!その悪魔を倒してこれから先も一緒に居ようよ!!」


「でも・・・でも・・・この悪魔の力は強大だし・・・私一人で済むなら・・・」


「一人で全部抱え込まないで!!ユウナが居なくなったらずっと辛くて辛くて・・・心に大きな穴が空い ちゃって生きているのか死んでいるのかさえも分からなくなっちゃうよ!そんな風になってもユウナ一 人だけが居なくなっちゃったで済むと思うの?」


ユウナは顔を伏せて泣いていた。こんなにも大切に思ってくれる存在。どんな状況でも決して自分の事を見捨てないでいてくれる存在。これから先も一緒に歩もうと言ってくれる存在。ユウナは心から嬉しくて泣いていた。右腕に感じる冷たい悪に満ちた手を断ち切る事が出来れば大切な友達の元に戻れると分かっていたが、その悪に満ちた手は強くユウナの腕を掴んでいる。必死に振り払おうと試みたが悪魔の力は強く無駄な抵抗だった。


「今更、抵抗しても無駄だ。この状況下でお前はもう逃げる事は出来ない。」


悪魔に掴まれた右腕もチサとマホに掴まれた左腕も、もう感覚が無いくらい引っ張られていた。引っ張るチサとマホの二人も限界に近付いてきていた。だんだん二人の体も宙に引っ張り上げられていく。


「やっぱり私達の力じゃユウナを助けてあげるのは無理だったのかな・・・本当にこのままじゃ魔界に三人とも行っちゃうよ・・・でもこの手は絶対どんな事があっても離さない!!」


ゆっくりと上がっていく体を必死に下の方向に力を入れて地上に降りようとするがどうしようもならない二人。それを上から見たユウナは静かに目を閉じて祈った。大切な友達とこのまま魔界に引き込まれたくないと祈った。せめて自分以外の二人を救って欲しいと祈った。その時、誰かがユウナの頭の中に語りかけてきた。


(この最悪な状況の中でまだ希望を捨てずに助けたいと願うのか?)


ふいに驚いたユウナは目を開け辺りを見回したが誰も居なかった。その声は老人のようにゆっくりとしていて優しい感じだった。そしてゆっくりと落ち着いて目を再び閉じて思いで答える。


(どんなに最悪でどうしようもない状況でも諦めない気持ちを大切な友達から教えられました。私はいつ までもその思いを信じて祈ります。)


頭の中の声は更に問う。


(それほどまでに助けたいと思う者はお前にとってそれほどの価値があるものなのか?)


(価値とかそういうのじゃありません。私が心から大切に思える友達なんです。何をしたから何が返ってくるとかじゃなく私自身が助けたいと思うんです。)


(己の心にただ従ってるだけか・・・もしこの状況を打開出来たとしてお前は何を犠牲に出来る?)


(何でもです!!二人を助けて頂けるなら私の持っているものなら全てを差し出します。)


(その言葉しかと受け取った。この先どんな事になっても後悔するでないぞ。)


頭の声がそう言った次の瞬間、ユウナの体が白く光り始めた。その光りで悪魔は目が眩んだ。


「何だ!!この光りは一体何なんだぁ!!」


目を右手で覆う悪魔。だが、光りはだんだん強さを増し、無数の光りの帯が空に魔方陣を浮かび上がらせたのだった。チサとマホも突然の事に驚いて手を離しそうになったが何とか耐えた。そしてその魔方陣からユウナの頭の中に語りかけた声が聞こえた。


「なかなかジンマカイを好き放題にしてくれたみたいじゃな。皇魔こうまよ。わしの子供達を傷付け た罪を償って貰おうかのぅ。」


悪魔の名が皇魔という事が魔方陣の声によって判明した。皇魔は不思議そうな顔をして動きを止めた。少し焦ったような感じだった。


「な、なぜ俺の名をしている!姿を現せ!!」


「なぜじゃと?ふぉっふぉっふぉっ。まさか人にとり憑き過ぎて記憶をどこかに忘れてきてしまったんで は無かろうな?それにしてもあの時、お前は消滅したはずじゃのにまだこうして生きとるとは悪魔のく せに運はあるみたいじゃの。」


「俺を消滅させただと!!ま、まさかお前は・・・」

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