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第二魔界 信じ抜く気持ちの先には…… 後編

ユウナはマホと初めて出会った時の事を思い出した。小学二年の夏休みユウナが近所の公園の前を通りかかった時、公園内から子犬の声と少年達の声が聞こえた。


「この犬、すっげぇ~きたねぇ~!!」

「俺の家の犬と大違いだ!」

「じゃあさ!この池に投げてみようぜ!!」

「おぉ!良いねぇ~!!」


そんな声が聞こえたかと思うと次の瞬間、子犬が池に投げ込まれた。


「やっぱりきたねぇ~!俺の手が汚れちゃったよ!」

「もう放っておいて帰ろうぜ」


そんな話をしながら立ち去る少年達をユウナが引き止めた


「あなた達何してるの!!溺れちゃってるじゃないの!助けてあげてよ!」


少年達は睨みつけるようにユウナに近付いてきて


「何偉そうに俺達に命令してるんだよ!そんなに助けたければお前が助けてやれよ!!」


そう言うとユウナの肩を押し、池に突き落とした。まだ幼いユウナにとって池はとても深く広かった。子犬と共に溺れるユウナ。そんな姿を見た少年達は怖くなって逃げて行ってしまった。


「だ・・・れか・・・たす・・・け・・・て・・・」


息をしようとしても吸い込むのは水ばかり。薄れゆく意識の中でユウナは子犬に手が届いた。おもむろに芝生の上に思い切り投げたのだった。


(ごめんね・・・痛いけど我慢してね・・・)


子犬は無事に芝生の上に落ちて命は大丈夫のようだった。だがユウナは力尽きるかのように沈んでいってしまった。その時、見知らぬ女の子が池に飛び込みユウナの元へ潜っていった。そしてすぐにユウナとその女の子の顔が水面から飛び出した。女の子が声を掛ける。


「大丈夫?私の声が聞こえる?もう大丈夫だからね!!」


ユウナとその女の子も芝生まで辿り着き、ユウナを仰向けに寝かせた。胸に耳をあて女の子が言う。


「まだ息はあるみたいね!!」


そしてユウナのお腹に手をあて呪文を唱えると、ユウナは咳き込みながら水を吐き出した。


「もう大丈夫みたいね!本当に!無理して死んだらどうするの!!」


「ご・・・ごめんなさい。でも子犬ちゃんが助かって良かった。」


ユウナはそう言うと子犬の方に顔を向けた。子犬はしっぽを振り近付いてきた。女の子がまた話し掛ける。


「優しいんだね。命をかえりみずに助けるなんて。」


「あなたも私を助けてくれたじゃない。命の恩人だね。ありがとう!!」


「ううん。本当に助けてくれたのはあなただよ!その子犬、私のだもん!」


「えっそうなの!」


助けた子犬は助けてくれた女の子のペットだった。ユウナが驚いた表情をしていると


「本当の命の恩人はあなただよ!ありがとう!!」


そういうと女の子はユウナの手を握った。更に女の子は話す。


「もしあなたが困った事があったら私が必ず助けてあげる。良かったら友達になってくれない?」


ユウナはとても嬉しそうに起き上がり


「一方的に助けられるのは嫌だなぁ~!お互いに助け合える友達なら喜んでなりたい!!」


女の子は驚いた感じだったが、すぐに笑い出し


「あはは。お互いに助け合える友達かぁ~!良いね!これから宜しく!!」


「こちらこそ宜しくね!そういえば名前知らないとね。私はユウナだよ。あなたは?」


「ユウナかぁ~良い名前だね!!私は・・・マホ!!」


その女の子こそ幼き日のマホだった。そしてマホは立ち上がると背中を向け二、三歩歩いてから


「ユウナちゃんって呼ぶね!」


ユウナは不思議そうな顔をして言った。


「えっ別にユウナでも構わないよ!」


マホは少し黙り込んでから振り返って話した。


「だって・・・ユウナちゃんって感じだし、それに私大切な友達を“ちゃん”って呼ぶんだよ。」


その時のマホの笑顔は夕日に照らされていてキラキラしていた。でも、きっと夕日じゃなくマホ自身の素直な思いがユウナの目に眩しく輝いたのだろう。その日からユウナとマホはたまに会う仲になり、楽しい事も辛い事も打ち明け合っていた。学校は違っていたけど一番の大切な友達同士であったのは間違いなかったであろう。しばらくしてマホは公園に来ないようになり小学五年生の春頃にはすっかり会えなくなってしまっていた。二年後、中学入学の時のクラスでマホを見かけたが、あの頃のキラキラした姿は無く凍りついたような表情で誰も寄せ付けない感じになっていた。だが、ついさっきマホは確かに“ユウナちゃん”と呼んだ。幼い頃に呼んでいた癖で思わず出てしまったのだろうか?何はともあれマホの中には今でもユウナと一緒に過ごした思い出が残っているのは間違いない!!


そんな事を思い出していると後ろから突然声を掛けられた。


「ちょっとユウナ!!何やってるの?遅いから戻ってきちゃったよ。」


両手の甲を腰に当てて膨れた顔でチサが怒っていた。ユウナはごまかすように笑いながら


「あ、ごめんごめん。教室に忘れ物がある事に気が付いて取りに戻ってきたら夕日が綺麗だったから眺めてた。」


「もう~本当にのんびりしてるんだからぁ~。早く行こうよ!!」


「うん!行こう行こう!」


ユウナは鞄を手に取り二人で教室を出て行った。そして街に向かう間、チサはいつも以上に元気でいつも以上にユウナに話し掛けた。きっとチサは気付いていたのかもしれない。詳しい事情までは知らないにしろ、ユウナが落ち込んでいるのをごまかすように元気に振舞っている事ぐらい分かったはずである。だってチサもユウナの大切な親友なのだから・・・


 街に着くとたくさんの人が歩いている。さすがに学生の姿は少なく、大人達が目立つ。チサは目当てのお店を次々に歩いていくがなかなか気に入る物が見つからないのか買おうとはしない。前を歩いていたチサが立ち止まり少し考えるとユウナに「ちょっとカフェで休もうか!」と言った。ユウナが疲れている事に気を使ったのかは分からないが、近くにあったカフェに入る事にした。テーブルはテラス席に三つあり、店内に五つあった。雰囲気的には白を貴重としたシンプルな作りになっており、清潔感があるように感じた。ユウナとチサは一番外が見やすい窓側のテーブル席に座った。店員がやってくるとユウナはコーラをチサはカフェオレを頼んだ。注文を受けた店員はユウナ達より少し年上な女の人でユニフォームはメイド風のいかにも男受けが良さそうな格好をしていた。そんな事を詮索している間にコーラとカフェオレが運ばれてきた。「お待たせしました!!」店員がいうほど待たされた感じはしなかったが、一応の流れみたいなものだろう。お互いに疲れているのか席に着いてからの無言状態をチサが打ち破った。


「ユウナぁ~たくさん歩かせてごめんねぇ。」


チサが申し訳無さそうに話し掛けた。ユウナは正直ヘトヘトに疲れていたが平気そうに話した。


「ううん。大丈夫だよ。ところでなかなか見つからないみたいだけど何を探しているの?」


「えっ・・・うん。ちょっと・・・ね。」


不意に目を逸らして言葉を濁した。そして思い出したかのように立ち上がった。


「あっ!あそこならあるかも!ユウナ疲れているだろうから少しここで待ってて貰っていいかな?すぐに戻るから!!」


そう言うとチサはユウナの返事も聞かずに店から出て行ってしまった。


「へ・・・私も一緒に・・・ってもう行っちゃった・・・。」


ユウナは立ち上がろうとした腰を再び下ろした。


(まぁ何か秘密にしてるようだし、追い掛けないでここで待っていた方が良さそうだなぁ。それに正直疲れちゃってるのは本当だから休んでおこうっと)


もうすっかり街は暗くなって、魔力で光る街魔灯がいまとうがほのかに照らしていた。道行く人も街に着いた時よりは少なくなっていた。そんな風景を頬杖をつきながらコーラを一口飲もうとした時、見覚えのある人影が見えた。


「えっ・・・マホ!?」


ユウナはおもむろにお金を置いて店を飛び出した。確かにあの姿はマホのようだった。いつも見る暗い表情で街外れの方向に向かっていった。必死に見失わないようにマホを追い掛けるユウナ。でもその方向は今は使われていない廃工場地帯だ。こんな時間に何の用があってそんな所に向かっているのだろうか?案の定、廃工場地帯に着いてしまったがマホらしき人影は一つの大きな廃工場に入っていく。ユウナもこっそり後を追うように入っていき物陰に隠れて様子を伺った。周りはもちろん誰一人居ない静寂が包む闇の中に取り残されたような感じだった。そして月明かりが差し込む広い空間の中央辺りまで歩いた人影は止まりゆっくりと口を開いた。


「さあ出てきなさい!今日が約束の日よ!私を・・・私を解放してくれる日よ!!」


言われた言葉にびっくりしてしまいもう少しで声を出してしまいそうになってしまった。しかしユウナはそれでマホらしき人影がマホ本人だと確信した。だが何を言っているのか訳が分からなかった。約束の日?解放?そして誰に言っているのか不思議に思っていたその時マホの影が伸び、その中から不気味な生物が現れた。頭には長いツノが生え、背中には黒い翼というよりかは羽といった方がいいだろう。顔は鬼のように恐ろしい形相でキバも見えていた。そしてその生物は大きかった。ただ居るだけで威圧されている感じを覚えた。しかしユウナはその生物が何であるかを分かっていた。なぜならその生物の指に生えていたツメこそが何よりの証拠だった。悪魔特有のツメだ!!ユウナは足が震えて動けなくなっていた。


「やっとこの日がきたか。」


悪魔は薄気味悪いような低い声でそう言った。マホはすかさず話した。


「そうよ!三年前のあの日あんたはユウナにとり憑いていた時、私にその存在を気付かれた。そして一つの約束をした。ユウナから出て行く代わりに私の中で3年間エネルギーを蓄えた後、ジンマカイから出て行ってくれると。元々あんたの目的は魔力の強い者からエネルギーを吸い取り、その蓄えたエネルギーでジンマカイを滅ぼそうとしていた。だけど、あの時のあんたにはジンマカイどころか私一人さえ殺せる力が無かった。ユウナを除いてはね。本来とり憑かれた本人が悪魔を追い出す事が出来るのはこの世界でも数人の上級魔法を使える者だけ。子供のユウナが出来るはずも無かった。悪魔を殺す方法があるとしたらたった一つだけ・・・とり憑かれた人間もろとも消滅させる他ない。私にユウナを殺せる訳も無く、唯一助ける方法としてユウナの代わりになった。」


その話を聞いたユウナは衝撃で胸が苦しくなった。


(あんなに笑顔で優しかったマホが変わってしまったのは私のせいだったんだ。小さい頃に急に会えなくなったのは私にまた、とり憑いてはいけないと思って会えずにいたんだね。明るくて優しい笑顔が消えたのは三年もの間、ずっと魔力を吸われ続けていたから・・・私を遠ざけるようにしたのは苦しんでる姿を見せないように、見られないようにしていたからなんだね。それがどれだけ辛く苦しい事か・・・それなのに私は・・・私は・・・気付いてあげられなかった・・・助けてあげられなかった・・・)


ユウナの目からは涙が溢れ出していた。流れても流れても止まらなかった。胸が張り裂けそうで苦しかっった。マホはずっと辛さを耐えていた。そんなマホがあの時ユウナちゃんと呼んでくれた事が、何よりも助けを求めていた証拠だ。


“だって・・・ユウナちゃんって感じだし、それに私大切な友達を“ちゃん”って呼ぶんだよ”


マホはユウナと同じでずっと大切な友達と思ってくれていたのだった。命を削りながらも思いは一緒だったのだ。


マホは強い口調で悪魔に向けて言った。


「さぁ!!私は誰にも言わずに三年間あんたがジンマカイから出て行けるだけのエネルギーを与えた。約束通り出て行って貰おうか!!」


「約束はちゃんと果たす。ジンマカイからも出て行ってやる。だが、これだけのエネルギーがあればジンマカイを滅ぼす事も容易いな。」


悪魔は笑いながらそう言うと拳を握りしめた。それにマホは反論した。


「約束が違うぞ!!大人しく出て行くって言ったじゃないか!!」


「お前の本来の望みはユウナを生かす事だ。俺はそこはちゃんと守ったし悪魔が願いを聞いてくれると思う方が可笑しな話だ。ジンマカイは滅ぼしてから出て行ってやる。」


「そ・・・そんな・・・」


マホは膝から落ちた。ボロボロになるまで悪魔にエネルギーを与え続け、大切な友達さえも遠ざけてしまった挙句、結局悪魔の良い様にされてしまった。もうダメだ・・・そう絶望に陥ってしまったマホの耳に声が聞こえた。


「ちょっといい加減にしなさい!私の大切な友達を苦しめて許さないんだから!!」


そこにはユウナの姿があった。大切な友達をボロボロになるまで追い詰めた悪魔とそれに気付いて助けてあげられなかった自分自身に怒っていた。そしてマホの元に近付いてしゃがみ込み抱き締めた。


「私の為にこんなボロボロにさせてしまってごめんね!でも、もう一人で抱え込まなくて大丈夫だからね!楽しい事も辛い事もいつも分け合ってきたじゃないの。また一緒に分け合おうよ!」


「ユウナ・・・ごめんね!私・・・たくさん嘘ついちゃって・・・酷い事もたくさん・・・」


マホの言葉を止めるようにユウナは更に強く抱き締めた。それを見ていた悪魔が嬉しそうに口を開いた。


「ユウナじゃないか!本来俺はお前の持つ力が欲しくってとり憑いていたんだ。マホの力も並みの魔法使い以上だったから二つの力が手に入れば良いと思って、まずはマホにとり憑いてその間に更に魔力が強まったお前から奪えば俺は無敵だ!!」


悪魔は手を振りかざした。その風圧でユウナとマホは壁まで飛ばされてしまう。


「思った以上に力が蓄えられているようだな。お礼に大切なユウナがボロボロになるところを見ないで済むように先にお前を殺してやる!!」


そう言うとマホめがけて一直線に襲ってきた。マホはもう自分には少しの魔力も残っていなかったので、どうする事も出来ず、ただ目を閉じた。

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