第一魔界 信じ抜く気持ちの先には…… 前編
朝の眩しい日差しと優しい風が吹いている坂道を学校に向かう為、ゆっくりと歩いて下ってくる女の子。ピンクの長い髪を一つにまとめ青いリボンで結んでいる。名前はユウナ。この物語の主人公でまだ見習い魔法使いの十四歳。成績は中の上で悪くは無いが少しのんびり屋。
「今日もお日様が気持ち良いなぁ~。」
そう言い、左目を閉じながら左手を太陽にかざした。
指と指の間から顔に日差しが漏れている。
そんな事をしているといきなり後ろから声がした。
「ユウナ~!そんなゆっくりしていると学校に遅れちゃうぞ!!」
そう言いながら走り過ぎていくクラスメートの女の子。
ユウナのクラスメートで親友。名前はチサ。ショートカットで男まさりの女の子でスポーツ万能。成績はというと・・・あまり良くない。
「あっいけない!遅れちゃうね!」
ユウナも後を追うように走っていく。
学校に着くと教室では昨日のテレビの話やゲームの話で盛り上がっていた。良く見る教室での風景だ。
「ユウナ!!」
チサが手を上げて呼んでいた。
「もう~チサったら相変わらず足速いんだから追いつけないよぉ~」
「あははっごめんごめん!」
ユウナがふくれてチサが笑いながら謝る。これもこの教室ではよくみる風景。
「ねぇユウナ。昨日7時からあった”笑ったらdead or alive”見た?」
”笑ったらdead or alive”とは観客が笑うと逆バンジーで飛ばされたり、客席の地面が開きプールに落とされたりするジンマカイで人気のお笑い番組である。
「いやぁ~・・・その時間は部屋で勉強してたかな・・・」
「もう~勉強勉強ってユウナは真面目過ぎるんだよぉ~。もっとこの青春時代を謳歌しまくらなきゃ!!」
「何で・・・テレビを見る事が青春を謳歌する事に繋がるんだろう・・・」
「口答えは許さ~~~ん!!」
っとチサが指を光らせた。その指をユウナに向けると一つに結んでいたリボンが解けた。
「口答えするやつはこんな真面目な髪型じゃなく可愛い髪形にしてやる!!」
そう言うと後ろにあった髪が両サイドに分かれてツインテールになった。
「やっぱりこっちの方が全然可愛いじゃん!」
チサが意地悪そうに言った。
「あ~~~!もう~~~!私こういう髪型にするの恥ずかしいんだからぁ~~~!何で口答えしたらツインテールにされるのか意味分かんないよぉ~~~。それに悪戯に魔法使ったらダメだよぉ~~~」
ユウナは顔を真っ赤にしながら両手で髪を押さえた。
するとその手を取りながら
「いつもそんな真面目な髪してないで、たまにはオシャレすればいいのに。ユウナがちゃんとオシャレしたら凄く可愛くなるのになぁ!!・・・あたしの次に」
ジョーダンぽくチサが言った。ユウナは言葉が無かった。
「いつまでつまらない事をおしゃべりしてるの!!チサさんは可愛いって言うか、ただのスポーツ馬鹿じゃないの?」
そう言いながらクラスメートのマホが近寄ってきた。
「誰がスポーツ馬鹿だって!!」
「あなたしか居ないじゃないの。スポーツ馬鹿なんて。」
「なんだと~~~!!」
間に入るようにユウナが
「二人共だめだよぉ~。そんなケンカしたらぁ~。」
「だってユウナ!こいつが私の事をスポーツ馬鹿だなんていうから!!」
「本当の事を言っただけよ!!」
「だ~か~ら~二人共ケンカしちゃだめだって~~~」
言い合う二人の間でユウナがオドオドしていると
「おい!授業始めるぞ!みんな席につけ」
その声を聞いてマホは席に戻っていった。ユウナはホッとしながら席についてマホの背中を見つめながら思った。
(マホ・・・小さい頃はよく一緒に遊んでいたし、あんなに笑ってくれていたのに今じゃ全然笑ってくれ ないし友達すらも作ろうとしない。明るかったマホは何処にいっちゃったのかな・・・)
ユウナのクラスメートで親友だったマホ。黒髪を腰まで伸ばしていつも冷たい目をしている。いつも一人でいて、誰とも絡もうとしない。小学校の頃は今とは違い誰にでも優しく笑顔が絶えない女の子だった。
静かな教室に先生の声だけが響く。
「・・・っであるから、魔法を使う時には魔力を消費しているので・・・」
ユウナがノートに授業内容を書いていると、小さな手紙が飛んできた。
「・・・気を付けないといけないのは自分のレベルに合った・・・」
“ユウナ~♪やっほ~(^^)vさっきマホに邪魔されて話せなかったんだけど、今日の放課後暇かな?買い物 に付き合って貰いたいんだけど(^人^)”
チサの方を見ると手を合わせて笑顔をしてたのでユウナも笑顔になり頷いた。するとチサが口パクで「ありがとう」っと言った。
「・・・でも決して使ってはいけない魔法というものがあり・・・」
ユウナはふと心で思った。
(こんな何気なくクラスメートと過ごす時間がとてもかけがえない。でもこんなかけがえない時間をマホ とも一緒に過ごせないかなぁ・・・)
ユウナは今でもまたマホと笑い合って過ごせる事を望んでいた。凍ったような無表情のマホがどうしても何か隠しているように思えてならなかったのだった。
放課後になりチサが声を掛けてきた。
「ユウナ行こう!」
「あっちょっと職員室に寄ってから行くから校門のところで待ってて。」
そう言いながら教科書やノートを鞄に入れる。
「うん。分かった。早く来ないと先に行っちゃうからね!!」
「私を誘ったんだから一人でなんて行かないでしょ。」
「あっそっか!!」
そんな他愛も無い会話をしながらチサが教室を出て行く。ユウナがふと見るとマホも同じように教科書を鞄に入れていた。
「あの・・・マホ・・・」恐る恐る声を掛ける。「・・・何」振り返る事もなく、手を止めずに答える。
「これからチサと街に行くんだけど一緒に行かない?」ユウナがそう言い終わる前にマホが「行かない!!」
困った表情を浮かべるユウナをよそ目に席を立ち帰ろうとするマホ。ユウナがそれを止めるように話す。
「マホ・・・どうしちゃったの?最近のマホ何か変だよ。人と話す事もしないし、全然笑わなくなったし・・・冷たい感じって言うか・・・何て言うか人が変わっちゃったような感じがする。もし悩みとかあるんだったら私・・・」
「なに私の事を知ったようなに言ってんの!!元々私はこういう人間なの!!冷たい人間なのよ!!全然笑わなくなった?何も面白い事なんて無いんだから笑わなくて当然でしょ!!人なんて面倒なだけなんだから一人でいいの!!そういうお節介は本当に迷惑・・・もう話し掛けないで・・・」
そう声を荒げた。そして教室のドアに向かった。マホの背中にユウナが言葉を掛ける。
「そんな事言ったら私悲しいよ・・・
一人でいいなんて・・・
そんな訳ないよ・・・
全然幸せそうじゃないもん・・・
昔は一緒に笑ってたじゃん・・・
面白い事とかじゃなく・・・笑ってたじゃん・・・」
ユウナの目からは大粒の涙がこぼれる。マホは背中を向けたまま
「もう・・・放っておいてよ・・・
もう・・・話し掛けないで・・・
・・・幸せはあなたがなって・・・ユウナちゃん・・・」
そう言って教室から出て行ってしまった。でもその背中はとても寂しそうで辛そうに見えた。ユウナは開いていた教室の窓に手をかけて、空を見つめた。
(ユウナちゃん・・・か。マホ、今でも私の事そう呼んでくれるんだね。)