【08】決死の攻防!
それでも戦士娘は、ギリギリのところで攻撃を交わしていく。
「ガアアッ! ガアアッ! グガアアアアッ!」
バックジャンプ突進二連発に、バックジャンプ竜巻。
横旋回からの三連炎弾、そして滑空突進。
回転尻尾攻撃にバックジャンプ竜巻、横旋回からの飛びつき鉤爪攻撃。
ありとあらゆる攻撃を次から次へと繰り出してくる。
さすがの戦士娘も無傷とは行かない。
竜巻に行く手を遮られ、尻尾攻撃に足を取られ、鉤爪攻撃に肩当てを弾き飛ばされた。
「しつこいのよ!」
起き上がりざまに戦士娘が長剣を横に薙ぐ。
それをヒョイと横ステップで交わしたドラゴンは、首をグンと沈めて後ろ脚に力を込めた。
「来るぞ! 『竜爆炎』だ!!!」
「キシャアアアアアアアアアアア!!」
ドラゴンの奇声とともに、その身体にモワモワと赤い炎が立ち昇り、陽炎が揺らめいた。
「早く、『爆炎シールド』に逃げ込むんだ!」
戦士娘が慌てふためいて『爆炎シールド』に転がり込む。
「衝撃に備えろ!!」
「クオオオオオオオオ!!!」
ビクトルの絶叫と同時、ドラゴンが甲高い声を上げ、グルンと身を捻りながら宙に舞い上がった!
そして、部屋の中央へと急降下する!
ドオオオオオンッッ!!!
地鳴りのような音が鳴り響き、ブワッと灼熱の衝撃波が広がった!
一瞬にして天井まで真っ赤な火柱が昇り立ち、周囲のすべてを焼き焦がす!
「きゃあああ!!」
『爆炎シールド』を突き抜けて、激しい衝撃が三人娘とビクトルに襲いかかる。
まるでその身を掴まれて、激しく横に揺さぶられたかのような衝撃だ!!
「キシャアアアアアア!!!」
もう一度、ドラゴンが天に向かって奇声を上げる。
炎がブワンと戦慄いて、竜巻に乗って飛散する。
「今だ! フルバレットブーストで叩きこめ!!!」
「チャージエナジーボルト! フルバレットブースト!!!!」
ビクトルの声と同時、魔法使い娘の声が木霊した。
陽炎の向こうで強烈な光が瞬いて、魔法使い娘の掲げる両手スタッフの先端に、強大なエネルギーがみるみるうちに凝縮していく!
「貫け!!」
真っ白なビームがドラゴン目掛けて飛んで行く!
ヒュィン! ズドン!!!
「キギャアアアアアア!!!」
悲痛な叫びをあげて、ドラゴンの身体が大きく揺らめいた。
「グラップリングスネア、フルバレットブースト!!」
戦士娘のマルカデミーガントレットが光り輝いて、ドラゴンの後ろ脚が何かに掴まれたかのように動かなくなる。
「アイシクルスピア、フルバレットブースト!!」
「スピニングアタック、フルバレットブースト!!!」
「ハヤブサ斬りフルバレットブースト!!」
ズドシャアァァン! ドガアァァンン!! ザシャアアアアッ!!!
「グゲエエッ……! ガアアアッ……!! ゴフュウウゥッ!!!」
次々に繰り出されるフルバレットブースト攻撃の前に、ドラゴンも苦しげな呻き声を上げるしか無い。
あちこちで鱗が剥がれ落ち、黒い肉に赤いマグマのような血液が噴出し始めていた。
そして────口から吐き出す息が、黒煙のように染まっている!
「がんばれみんな! あとひと押しだ!」
ビクトルの言葉に、三人娘に気合が漲る。
「ヘイトルアー!」
戦士娘のヘイトルアーに、ドラゴンの赤紫色の瞳が光る。
「ダンッ!」と踏ん張ると、天に向かって「グアオウウ! グアオウウウウウウ!!」と二度吠えた!
「バックジャンプ滑空突進だ! ガードスキルで受け止めろ!!」
ボロボロの翼をはためかせ、バックジャンプで舞い上がる!
そして、戦士娘めがけて急降下してきた!
マグマの血が迸り、石壁に当たって煙を上げる!
「ウルトラガード、フルバレットブースト!!!」
戦士娘のガントレットが光り輝いて、戦士娘のラウンドシールドから大きなシールドが弧を描く!
「グガアアアアアアアアアアッ!!!!」
ズダァァァン!!
唸りを上げて突進してくるドラゴンを、戦士娘が渾身の力で受け止める!!
マグマのような血が飛散して、あちらこちらで白い煙が巻き上がった!
「今よ!!!」
「これで最後なんだから! スターライトアタック、フルバレットブゥゥゥスト!!!」
ズゴオオオンッ!
「ギエエエエエエエ!!」
僧侶娘のモーニングスターがドラゴンの背中を打ちのめす!
「サンダーバード、フルバレットブースト!!!」
ズガシャーーン!
「ギヒャアアアア!!!」
魔法使い娘の放った電撃が、鳥の姿を成してドラゴンに襲いかかり、その身体を電撃に包み込む!
「竜心臓を貫け!!!」
軽やかに回転しながら間合いを取る戦士娘!
胸元から『スキル強化薬』を取り出すと、素早く飲み込んだ!
「超激! フライハイスラッシュ、フルバレットブゥゥゥゥゥスト!!」
まさに全身全霊!
戦士娘の絶叫とともに、五色の光を撒き散らし、マルカデミーガントレットと長剣がキランキランと異常なまでに眩い光を放った!
「はああああああぁぁぁぁっ!!」
気合もろとも、長剣を水平に構えた戦士娘がドラゴンに向かって突進する!
シュヒンと風を切り裂いて、戦士娘が一筋の閃光となる!
ドラゴンの竜心臓に突き刺さり、背中を貫いて舞い上がった!
大きく目を見開いて、ドラゴンが声も無くビクリと身体を震わせる。
瞬間、竜心臓から炎が上がり、瞬く間にドラゴンの肉体を業火が飲み込んだ。
軽やかに床に舞い降りる戦士娘。
その背後で業火に燃えるドラゴンが、ズダァンと音を立てて倒れ伏した。
「『お疲れさまでしたぁ〜。見事にドラゴン討伐ですね〜』」
気の抜けるようなあの明るい口調のアナウンスと同時、三人のマルカデミーガントレットから「ピンポロピロリン♪」と軽快な音が一斉に鳴り響いた。
「やった!! クエストクリアよ!」
「まさか、信じらんない!」
「わ、わたしたち三人でドラゴン討伐だなんて……!」
感激する三人娘をよそに、ビクトルは、やにわに駆け出した。
「ちょっと待ってろ!」
腰のポーチを外し、燃え盛る炎の中へと飛び込んだ。
「なになに? どうしたの?」
「何をする気なんです?!」
三人娘が見守る中、しばらくして、業火の中からゆっくりとビクトルが姿を現した。
その瞳はターコイズブルーの輝きを放ち、その胸には直径30cmほどの大きな碧玉が抱かれていた。
「ドラゴンは討伐すると炎に包まれて燃え尽きるんだ。運が良ければ、角や翼などの素材が幾つか残るが、ほとんどの素材は燃え尽きてしまうのさ。その前に、コイツをな」
身につけたボロを炎がチロチロと焼き焦がしていく。
それを気にする様子もなく、ビクトルはゆっくりと少女たちに近づいた。
「見ろよ、立派な『龍玉』だ。この世に二つとないシロモノだぜ。俺からのサービスだ、受け取りな」
と、いきなり魔法使い娘が「きゃあ!」と悲鳴を上げてそっぽを向いた。
戦士娘が「あら」と呟き、頬に手を当て、ほほ笑みを浮かべる。
顔を真っ赤に染めた僧侶娘は、肩を震わせ右拳を握りしめた。
「『龍玉』獲得ボーナスもついて、これで三人とも、きっちり卒業……」
「レディに向かってなんてモノ見せつけてくれるのよ、バカああああああ!!!」
言うなりクルリと回って右拳を振りかぶる!
ドガシッ!
「ぐえほっ!!!」
僧侶娘の見事な右フックがビクトルの顎に炸裂し、ビクトルは目を剥いて横倒しに倒れ伏した。
大きな碧玉がコロコロと床に転がって、ビクトルの燃え落ちたズボンと、露出した下半身を冷ややかに映し出していた────。
ちょっ!w 三人のためにと思ってした親切が……。