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飛んで火に入るドラゴン迷宮管理人  作者: みきもり拾二
◆最終章 ドラゴン迷宮管理人のリタイア
65/68

【65】ヘイトブレイカー

「ヒュアアアアアアアッ!!!」

「行かせるかあああああああああああああっ!!!!」


 バトルナイフを引き抜こうとするサラを、ビクトルがガッシリとその両腕で抱きしめる!

 長剣がその手からこぼれ落ち、乾いた音を立てて石床に転がり落ちる!


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!」


 ヘイトブレイカーを振り上げ、部屋の隅からアスタが猛然と突っ込んでくる!


「ヒッ! ヒギアアアアアアアアッ!!」


 物凄い声を上げながら、サラがビクトルの喉元に噛み付いた!

 「ブシャリ!」と肉が千切れて血飛沫が上がる!


「ダーク・ザン・ダークネスゥ!! スラァァァァァッシュッッッ!!!」


 ヘイトブレイカーが狂喜の雄叫びを上げて打ち震える。

 渦巻くすべての感情を切り裂くように、アスタがヘイトブレイカーを力の限り振り抜いた!


 ザンッ!!


 凶悪な刃がサラとビクトルの身体を突き抜ける!

 ヒュオンと旋風が駆け抜けて、一瞬にして風が止んだ────。


 一拍の間を置いて、パァンと音を立ててサラの首に巻きついた白の首輪が弾け飛ぶ。

 そしてサラの股の間から、大量の血が「ブシャアアアッ」と噴き出した。


 サラを抱きしめるビクトルが、クルリと白目を向いて、その身体がグラリと横に揺れた。

 瞬間、サラの瞳に精気が戻り、驚愕に目を見開いた。


「……ビクトル……?」


 膝を折り曲げ後ろのめりに崩れ落ちるビクトルを、サラが抱き止める。

 その瞳からは怒りの炎が消え、戸惑いの光に覆われていた。


 サラの足元に、見る見るうちに血溜まりが広がっていく。

 その中には、ピクリとも動かない無数のオタマジャクシと、一匹の甲虫が横たわっていた。


「『回復』を!」


 プルデンシアが走り寄って、マルカデミーガントレットを白く輝かせる。

 血が溢れ出る首元に手を添えて、フルバレットブーストで回復スキルをビクトルに向けて解き放つ。


「まだバトルナイフを抜かないで! ショックで死んでしまうかもしません!」


 バトルナイフの柄を握りしめ、ワナワナと震えるサラの手を、プルデンシアが押しとどめる。


「汝、その気力を振り絞り、己を見失う事なかれ! 『祝福(ブレス)』!」


 ハインツも駆け寄って、ビクトルに精神高揚効果のある『祝福(ブレス)』のスキルを適用する。


「僕も『回復』を使います! その間にバトルナイフを抜いてください!」

「デクスター、バトルナイフを頼む! 直後にフルバレットブーストで我が『回復』を使おう!」

「おうよ、任せとけ!」

「行きますよ!」


 ビクトルを取り囲むその輪から、キランキランと白い光が溢れ出た。


「回復フルバレットブースト!!!」


 ハインツとダッカドの声が同時に響いて、静寂が辺りを支配する。


「……うっ……」


 皆の腕の中で、ビクトルがピクリと身じろぎした。

 ゆっくりと首を動かして、眩しげにそっと、まぶたを開いていく。


「……俺は……?」

「大丈夫でした、ビクトルさん? 手間取っちゃって、スミマセン」


 誰もが安堵の溜め息を漏らす。

 そんな一同の上から覗き込むように、アスタが肩を上下に揺らしながらも、照れ笑いを浮かべていた。


 ビクトルの右手を取り、グッと握るハインツにも、いつもの微笑みが戻っている。

 プルデンシアは薄らと浮かんだ涙を、小さな指でそっと拭っていた。

 ダッカドとデクスターはビクトルの目を見て、ニヤリと笑い、そして小さく頷いた。

 皆を見上げるビクトルは、まだ疼く胸と首元の痛みに耐えながら、天を見上げて「ふう」と溜め息を漏らした。


 そんな輪の中から、小さく震えるサラが、蒼白な顔でそっと立ち上がる。


「……わたしがいては、人を不幸にするだけだ……」

「そんなことはないよ、サラくん。キミの身に起きた凶行の根源は、そこに転がる呪蠱(じゅこ)たちさ」


 呆然とした表情で、サラがロンフォードを見上げる。


「フッフッフッ、それとも、何も覚えていないかね? 実は今の今まで、ずっと呪蠱(じゅこ)に操られていたんじゃないのかな?」

「ばかな……そんなわけがない……」


 サラが悲しげな表情で眉を潜める。


「だって、そうは思わないかい? 日傭生として雇われていたのは、呪蠱(じゅこ)だったのだよ? すべては、呪蠱(じゅこ)が創り出した妄想だったんじゃないかね〜?」


 ニヤニヤとしながら、白い首輪の消えたサラの首を指し示した。


「やめろ! バカなことを言うな!!」


 サラの叫びに、他の皆も二人の様子に気がついた。

 ビクトルは痛みに悲鳴を上げる身体を強引に揺すると、皆の手を押しのけて立ち上がった。


「ふあーっはっはっはっ! なぁにをそんなに意固地になることがあるのだね! 私から言わせれば、実にキミは穢れのない乙女そのものだよ? んんん?!!」


「バカな!! そんなはず、あるわけがない!

 わたしは戦士として生まれ、戦士として育ち、戦士として戦ったんだ!!

 そして5年前の敗北により、男たちから辱めを受け、復讐の中で血をすすりながら生きてきた、殺人鬼だ!!

 穢れたわたしが今のわたしだ! わたしの過去を否定するな!!!」


「い〜じゃないか! すべては妄想! キミは穢れ無き乙女だったというわけでも!」

「やめろ……やめろやめろやめろやめろ……! いい加減なことを言うのはやめろ!! わたしを侮辱するな!!」


 手を横に薙ぎ、ロンフォードを睨めつけるサラ。

 ロンフォードは相変わらず、ピッと背筋を伸ばして、見下すように口元に笑みを浮かべ、サラを見つめている。


「ロンさん、やめてください。そこまで言う必要はないですよ」

「これが笑わずにはいられるか、アスタくん! バカバカしいったらありゃしないだろ! キミたちだって、妄想メンヘラ女に巻き込まれて散々な目に合わされたのだぞ? 少しは怒りを覚えないのかね? だとしたらお笑いだ! ふあーっはっはっはっ!」


 さらに高笑いを上げるロンフォードの胸ぐらを、ビクトルがガツッと掴み上げる。

 怒りに震え、そのこめかみには太い血管が青々と浮き出ていた。


「彼女を……サラをこれ以上侮辱するな」

「なんだキミは? 彼女の願いに応えてやれたのは、この私のおかげだぞ?」


 ニヤニヤしながら冷たい視線を投げかけてくるロンフォードに、ビクトルはギュッと拳を握りしめた。


「わたしは戦士だ……戦士であるがゆえに、陵辱されたのだ……戦士だからこそ、生き抜いて復讐を果たしたのだ……戦士だから……」

「ハンッ! 今度は女々しく泣き喚くのかい? ウソじゃないというのなら、さっさと死ねばいいじゃないか! 呪蠱(じゅこ)からはすでに、解き放たれたのだから! そうさ、キミは普通の女の子に戻ったのだよ! 見た目の可愛い、ちょっと強いだけの、普通の女の子にね!」


 俯くサラの身体がフラリと揺れる。

 次の瞬間、ダッとばかりにサラは駆け出していた!






ど、どこへ行って何をする気だってばよ?!

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