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飛んで火に入るドラゴン迷宮管理人  作者: みきもり拾二
◆最終章 ドラゴン迷宮管理人のリタイア
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【64】戦慄の刃

「アスタくん!」

「はい! 俺はいつでもやれます!」


 汗だくのアスタが、引き締まった表情でロンフォードに走り寄る。

 まだ息が荒く、肩を上下させているが、アスタはやる気だ。

 その両肩と頭上に乗った毒蜘蛛たちが、揃って「キキッ」と声を上げる。


 いつもボンヤリしているアスタの、どこからあれほどまでの気力が生まれるのか……。


「私の呪蠱(じゅこ)と、アスタくんのヘイトブレイカーで、伝説の呪蠱(じゅこ)を打ち破るのだ!」


 言うなり、ロンフォードはマルカデミーガントレットをはめた左手を、アスタに向かって突き出した。


「待ってくれ、ヘイトブレイカーでサラを斬るのか!? サラは……サラはどうなる!?」

「俺のヘイトブレイカーは憎悪の源を断ち切る刃! 今のサラさんの憎悪の源が呪蠱(じゅこ)ならば、呪蠱(じゅこ)だけを斬ります!」

「だったら最初からそうしておけば……!」

「言ったろう、つるピカヒゲもじゃくん! 私は、すべての流れが私の思う方向に向くまで待つ主義だと! グチャグチャのバラバラに分散した糸とその綾を、丹念により集めて束ねて重ねてこそ、すべての事象が思いのままの美しき模様を描くのだ! 見てみたまえ! もはやサラくんの呪蠱(じゅこ)に、逃げ場はないッ!」


 マントをたなびかせて言い放つロンフォードの背後に、ビクトルは蜘蛛の巣を垣間見た気がした。


「ヤツはここで、抹殺するッ!!!」


 力強くニヤリと笑うロンフォードに応えるかのように、マルカデミーガントレットがキランキランと眩しい光を放った!


「────三倍狂化毒!!」


 瞬間、アスタの首筋に、三匹の毒蜘蛛が飛びついた。


「キシャシャシャシャシャシャシャシャ!!!」


 奇声を上げて、アスタのうなじにその鋭い大顎を突き立てる!

 ズグリ、と鈍い音がして、アスタの身体に呪蠱(じゅこ)の毒が駆け巡る!


 瞬間、アスタが天に向かって高らかに吠えた!


「うおおおおおおおお! ヘイトルアあああああああああああああああああ!!!」


 ドンと空気が弾けて風が駆け抜ける。


 瞬間、三人と剣撃を繰り広げていたサラが、グイとアスタの方を睨みつけた。

 その周囲に黒い靄がボフンと弾ける。

 黒い靄はたちまちに渦を成し、禍々しい影を作り出していく!


 サラの瞳が紫色に燃え上がり、その顔を鬼のような形相に歪める。

 ギリリと奥歯を噛みしめる喉の奥から、「グルルル」とケモノのような唸り声を上げ、カッと両目を見開いた。


「……死……!」


 サラの背後でそそり立つ、黒い靄。

 それはいつしか、呪蠱(じゅこ)の姿となっていた。


「ヘイトォォォブゥレイカァアァァァァァァァァァッッ!!!」


 鬼の形相を浮かべるアスタが、ヘイトブレイカーを振り上げる!


「キッシャアアアアアァァァァァァァァッ!!」


 ヘイトブレイカーは甲高い奇声を上げて、サラに纏わり付いた影を吸い上げる!

 そしてアスタの手の中で、メキメキと音を立てながら、凶悪にして醜悪な姿へと変貌していった!


 マルカーキスレッドドラゴンの時と同じように!

 あの禍々しくも凶悪なその姿へと!


 刀身が伸び、幅が広がり、柄から無数の触手が伸びてアスタの腕を絡め取る。

 ギチギチと音を立てて節足が生え、甲羅がびっしりと刀身の刃裏を覆い尽くす!


「キシェエエエエ! ヒギャアアアア! クキイイイイイイイ!!!」


 耳を塞ぎたくなるような凄まじい奇声が交錯し、強風が嵐のごとく吹き荒れる。


「ヒュワオウッ!!」


 サラがアスタを油断なく睨めつけながら、横に走る。

 アスタは巨大な姿に変貌したヘイトブレイカーを「ブン」横に薙ぎ、そして下段後方に構えた!


「行け、アスタくん! 憎悪する者は知るだろう! その激情が、自らの喉元を食い千切ることを────!」


 強風にマントをはためかせ、ロンフォードが天に向かって呪詛を突き上げる!


「行きます!!」


 壁を上に向かって走るサラを、アスタが追いかける。

 しかし、その速度が違いすぎた!

 サラの向かうその先は……天井にポッカリと口を開けた黒い穴だ!


「ダメだ、逃げられる!」

「進路を塞ぐのです、アークフェザー!」


 プルデンシアが瞳をターコイズブルーに光らせて、白い機体に指令を出す。

 白金に輝くアークフェザーは、大きなナイトシールドを構えて、妖精のような羽根を広げて飛んだ!


 シュウゥゥン!!


 白い光を巻いて、アークフェザーがサラの進路に立ちはだかる。


「ヒュヒイイイイッ!!」


 奇声を上げて、アークフェザーに打ち掛かるサラ!


「アークライトシールド!!」


 シュパァァァン!


 プルデンシアの声とともに白い光が瞬いて、サラの攻撃はアークフェザーのナイトシールドに完璧に防がれる!


 サラはすぐさまナイトシールドを蹴りつけて、壁にピタリと張り付いた。

 獣か虫けらか、およそ人間とは思えぬ仕草だ。


 そこへアスタが、全速力で突進していく!


「サラさんを返すんだ!!!!」


 迫り来るアスタから逃げるように、サラはダッと壁を蹴って横に走り、下に向かって駆けて行く!

 その先には────仁王立ちするロンフォードの姿が!!


呪蠱(じゅこ)の主を断つ気か!? 逃げろ、ロン!!!」


 ビクトルの言葉に、ロンフォードは微動だにしない!


「ヒュキャアアアッ!!」


 鬼の形相のサラがロンフォードに斬りかかる!


 ガヒィィィン!!!


「さすがだね、ハインツくん!!!」


 顔を歪めたハインツが、その一撃を受け止めていた。


「その余裕はどこから来るんですか、ロンさん……」

「クホオオオオウゥゥ……」


 サラとハインツ。

 切り結ぶ二人がギリギリとその腕に力を込める。


「ホーリーアーマーのスキルは、唯一無二にして闇を防ぐ技! サラさん、いや、呪蠱(じゅこ)よ! 如何にあなたの力といえど、僕のこのスピアは折れませんよ!!」


 ハインツの持つショートスピアは仄かに白く光り輝いている。

 幾多のモンスターを打ち破ってきた聖騎士たちを、支えてきた聖なる力だ!


「うおおおおおおおおおお!!!」


 アスタが頭上から斬りかかる!

 サラはハインツのショートスピアを蹴って、距離を取ると、すかさず横へと走って行く。


「ふあーっはっはっはっ! しっかりしたまえ、アスタくん!」


 プルデンシアを守るダッカドとデクスターの前を横切り、サラが再び壁を走る!

 アスタが必死の形相でこれを追い、ハインツはショートスピアを脇に抱えて、付け入る隙を伺っている。


「ちょこまかと逃げるしか無いのか、呪蠱(じゅこ)よ!!」


 ロンフォードの罵りに、クイッとサラが向き直る。

 そしてロンフォード目掛けて突っ込んできた!


 ハインツがすかさず、その間に立ちはだかる!


 タンッ!


「なにっ!?」


 ヒュルヒュルと回転しながら弧を描き、ハインツとロンフォードの頭上を越えて、サラはロンフォードの背後へと着地した!

 そして間髪をいれず、ロンフォードに向かって刃を向けた。


「ヒュルアアアアアアッ!!」

「サラああああああああああああっ!!!!」


 絶叫とともに、長剣を構えたビクトルが、その間に割って入る!

 その切っ先をすり抜けて、バトルナイフもろとも、サラがビクトルの懐に飛び込んだ!!


 ズンッ!!! ズググッ!!!


「ぐぇほっ……!!」


 サラのバトルナイフが黒い光を放って「ヒュイィィン」と唸り、ビクトルの右胸を貫いていた!

 ビクトルの背中から血しぶきが上がり、ロンフォードの背中を真っ赤に染める!




うわあああああああヤバイッ!?

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