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飛んで火に入るドラゴン迷宮管理人  作者: みきもり拾二
◆最終章 ドラゴン迷宮管理人のリタイア
63/68

【63】サラの呪蠱


「サラっ!!!」


 その姿を認めると、思わず安堵の気持ちが広がっていく。

 駆け寄るビクトルに向かって、サラはクルクルと前転しながら落ちてきた。


 ドゲシッ!!


「ぐはっ……!!」


 ビクトルの顔を、勢い良く踏みつけるサラ!


「ヒヤオウッ!!」


 喉の奥から獣じみた唸り声を発すると、ビクトルの顔を踏み台のようにして跳んだ。


「サラちゃん!?」


 「ザシュッ!」と音を立ててプルデンシアの前に降り立つサラ。

 その目は────輝きを失って、深淵の底暗さにも似た陰りを帯びていた。


 そしていきなり、プルデンシアに向かってバトルナイフを繰り出した!


「ヒャフゥッ!!」

「ふあっ!」


 シュン! シュン! シュヒン!!


 物凄い早業だ!

 しかし、スカウトの鬼回避スキルか、プルデンシアが物の見事に交わし去る!


「俺んらのお嬢に何しやがる!! オラアァッ!!」


 横から駆け寄ったデクスターが、両手斧を振り上げた。


 ブゥン! ドガンッ!!


 デクスターの両手斧は空を切り、石床に深々と突き刺さる!

 その一撃を軽やかなバックステップで交わしたサラ。

 体勢を低くして、一瞬にしてデクスターの懐に飛び込んだ!


「くっ!?」

「ふんっ!」


 ガキィン!!


 寸でのところで、ダッカドが割って入る!

 サラのバトルナイフを曲刀で受け止めると、サラの身体ごとかち上げた!


「せやっ!」


 サラはクルクルと後方宙返りで降り立つと、右に左に軽やかなステップでダッカドに迫っていく!


「せいっ! はっ! ふん! えいっ!」


 カン! キン! ガッ! キィン!


 ダッカドが、上段から下段に打ち込んで、中段突きからヒラリと身を翻して曲刀を横に薙ぐ!

 サラは軽やかにバトルナイフで受け止めると、シュンと風を巻いて姿を眩ませる!


 一瞬にしてサラの姿を見失い、ダッカドが驚愕に目を見開く!


「上!」


 ハインツが叫ぶとともに、ショートスピアをクルクルと回しながら割って入る!


 ガチィン!


 ハインツのショートスピアとダッカドの曲刀が交錯し、寸でのところでサラの一撃を受け止めていた!

 ギリギリと三者の力がこもり、一拍の間を置いて「ガシャァァン!」と音を立てて弾けた!


 サラはバク転で間合いを取ると、精気の感じられない胡乱な目で、ジッと……プルデンシアを見据えた。

 そして、油断なく構えるそのバトルナイフには、闇属性の黒い光がまとわりついていた。


「じゅ、呪蠱(じゅこ)だ! サラの中に、まだ呪蠱(じゅこ)がいる!!」

「ふあーっはっはっはっ! 残念だよ、サラくん! 呪蠱(じゅこ)に意識を乗っ取られるなんてね!」


 高笑いを上げるロンフォードに、ビクトルも歯ぎしりせずにはいられない。


「どういうことだ、ロンさん! サラの呪蠱(じゅこ)は、アスタの一撃で死んだんじゃなかったのか!?」

「見ての通りさ。呪蠱(じゅこ)は一匹ではなかった、そういうことだろうね。さすがの私も、盲点だったよ〜」


 呪蠱(じゅこ)は一匹じゃない……。

 ビクトルは、風呂場で見た光景を思い出していた。


 あの、黒いオタマジャクシ……!

 そうだ、サラは気味の悪い甲虫は、黒いオタマジャクシが成長した姿だと言っていた。

 一匹を殺したところで、新たにどんどん取り憑くだけ……!


「すごいですね。攻撃スキルを使い切ったこの状況では、どうやら僕らに勝ち目はなさそうです」


 静かに言葉を発するハインツの顔には、いつもの微笑みが無い。

 鋭い目つきでサラを見据えながら、プルデンシアを守るようにしてその前に立ちはだかった。


「ちいぃ、めんどくせー」

「ガントレットの恩恵が無くとも、我らの剣技に衰えなし」


 ハインツの左右を固めるようにして、ダッカドとデクスターも武器を構える。


「や、やめろ、みんな! サラは操られているだけなんだ!」

「フヒュアッ!!」


 痛みをこらえて身を起こすビクトルが言うやいなや、サラがプルデンシア目掛けて跳躍した!


「ずりゃぁっ!」


 ガキィン!


 デクスターがその一撃を食い止めて、サラが跳ねるように着地するところを、ダッカドが素早く曲刀で斬りつける!


 ヒュキイィィィン!!


「……なにっ!?」


 闇属性に斬れぬモノ無し!!

 ダッカドの曲刀は、黒い靄を纏うサラのバトルナイフによって、真っ二つに切り裂かれていた!


「はいっ!!」


 すかさずハインツがサラ目掛けて突きを繰り出す!

 サラは仰け反るようにしてそれを避けると、グルンと下段回し蹴りを繰り出した!


 ガシッ!


「くっ……!」

「おりゃあ!!」


 横によろけたハインツの背後から、デクスターが両手斧をブンと振るう!


 ヒュキキキキキキキキキッ! キイィィン!


 耳を塞ぎたくなるような金属音とともに火花を散らして、デクスターの両手斧もその片刃を真っ二つに切り裂かれる!


「ちっくしょ!!!」


 構わずブルンと一回転させて、デクスターが両手斧を振り下ろす!


 タンッ!


 振り下ろす途中の両手斧を蹴って、サラがバク転で再び距離を取った。

 ハインツ、ダッカド、デクスターの三人が、プルデンシアを守るようにして立ちはだかるが、武器は壊れ、息が少し上がっていた。

 このまま戦いが続けば、ハインツたちにますます不利な状況となるであろうことは、誰の目にも明らかだった。


「ふっふっふっ、サラくんはプルデンシアくんと契約している身。その契約の縛りが鬱陶しいのだね? わかるよ、わかるとも〜」


 拳を顎に添え、さも嬉しそうにロンフォードが笑っている。


「頼む、ロンさん! サラを……サラをアイツから解放してやってくれ!」

「ああ、もちろんだとも!」


 必死なビクトルの声に、ロンフォードがニヤリと口角を上げた。


「残念ながら、アレはお淑やかなサラくんの手には余るようだ! その気になれば、この北アグリア大陸を再び、焦土と化すことができるっていうのにねぇ……。だがしかし! 穢れを知らぬ清き乙女心は、憎悪に満ち満ちた闇の生き物から解放してあげるのが、この世の美徳というものだろう!」


 そう言って、ロンフォードはブワッとマントを翻した。





完全に敵! 果たしてサラを解放できるのか?

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