【61】伝説の赤紫竜
「キシャアアアアッ!!」
アスタの持つ巨大なヘイトブレイカーが、突き出た節足をワキワキと蠢かして奇声を上げる。
「ルアアアアアア!!!」
ブレスを終えたマルカーキスレッドドラゴンが、アスタに気づいて牙を剥き出しにして吠えた。
「闇に帰るがいいっ!!」
ブルゥンとヘイトブレイカーを大きく振るうアスタ!
マルカーキスレッドドラゴンは、その身を捩って素早くこれを交わし去った。
「ふあーっはっはっはっ! アスタくん、そんな特攻じゃダメに決まってる!!」
さっきはそれをやれと言ってたくせに……。
炎に燃える部屋に、ロンフォードの高笑いが響き渡る。
渾身の一撃を交わされたアスタに向かって、マルカーキスレッドドラゴンが猛スピードで突進していく!
アスタはスタリと石床に降り立つと、巨大なヘイトブレイカーを携えたまま駆け出した。
もの凄いスピードで縦横無尽に逃げ回る!
その動きは、サラをも凌いでいるようだ!
「ルァアアアッ!」
パウン! パウパウゥン!!
弾幕の如く、数発の炎弾がアスタに向かって飛んで行く。
アスタはまるで背中に目が付いているかのようにこれを避けるが、あれでは他に被害が及びかねない。
「プルデンシア! バリスタで動きを止めよう! 外れても、アイツの動きの邪魔ができればなんとかなるかもしれない! やれるか!?」
「はい! 任せて下さい!」
頬かむりで耳を塞いでいるプルデンシアの耳元に、大声で呼びかけると、プルデンシアが大きく頷いた。
それに頷き返すと、ビクトルは素早く、バリスタに通常バリスタ矢を込めた。
プルデンシアが自信に満ちた表情で、マルカデミーガントレットをはめた右手をバリスタの操作コアの上にかざす。
キリキリと音がして、バリスタが飛び回るマルカーキスレッドドラゴンに照準を定めていく。
「発射!!」
バシュゥン!!
プルデンシアがサッと右手を横に薙ぐと同時、バリスタ矢が猛スピードで飛ぶマルカーキスレッドドラゴンめがけて飛んで行く!!
「外したか!」
バリスタ矢が後方に逸れるのを見て、ビクトルは次のバリスタ矢を手に取った。
「管理人さん、ここはあたしにすべて任せてください!」
顔を上げたビクトルはギョッとなった。
プルデンシアの瞳が────ターコイズブルーにチロチロと燃えていたのだ!
「キミの先天性精霊力者のスキルは……?」
「『コアマシーンの操縦士』です!」
言うなり、プルデンシアの瞳がさらに輝きを増した!
「連射します! オート装填モード発令!!」
瞬間、バリスタ矢が次々と、フワリと宙に浮いていく。
「マジかよ!?」
バリスタがキュインキュインと音を立て、今まで見たこと無いほどのスピードと緻密さで、高精度な動きを見せる。
「ターゲットの後方に照準! 撃てっ!!」
パシュン、パシュシュシュシュゥン!!
バリスタ矢が弾幕のごとく、立て続けに飛んで行く!
ズドン!!
「ヒアアッ……!!!」
その内の一本が、マルカーキスレッドドラゴンの後ろ脚に命中した!
一瞬のバランスを崩した瞬間!
「ジャイアントグラップリングスネア!!!」
ドゴヒャアッ!
「ルアァァァ……!!」
ハインツの声とともに、壁から黄金の巨大な手が現れて、マルカーキスレッドドラゴンの身体を鷲掴みにしたのだ!!
その身を食い止められたマルカーキスレッドラゴンが、その瞳を怒りに炎で滾らせる!
「ゥルアアアアアアアァァァァァッ!!!!」
ズゴオォォォォォォンッ!!
マルカーキスレッドドラゴンが怒りの咆哮を上げると同時、その周囲に爆炎が弾けた!
「ぐおおっ!」
衝撃波がサンクチュアリを突き抜けて、ビクトルたちの身体を震わせる。
その隙に、ジャイアントグラップリングスネアから解き放たれたマルカーキスレッドドラゴンが、天井高くに舞い上がる!
まるで、これで頭上を取ることなどできまい、と言いたげな表情で!
そして超音波のような甲高い叫び声を、部屋一杯に響き渡らせた!
「ルゥアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!」
「くっ……!!」
ビクトルもプルデンシアも、耳を抑えてしゃがみ込む。
しかしその塞いだ手を突き抜けて、脳みそごと揺さぶられる感覚に陥ってしまう!
『極限竜咆哮』をさらに超えた、とんでもない雄叫びだ!!
歯を食いしばって見上げる先、天井のマルカーキスレッドドラゴンの周囲に赤紫色の炎が業火となって揺らめいていた。
「竜爆炎か!?」
「ルアゥゥゥゥ!!」
瞬間、マルカーキスレッドドラゴンの身体が一筋の光となって石床を撃った!!!
ヒュドンッ! ズドドドオォォォォォォォォンンン!!!
「うごおうぅっ!!!」
激しい揺れとともに、石床が砕け散る!
爆炎が吹き抜け、ビクトルの身体が石壁に叩きつけられる!
マグマのように溶けた石床が飛散して、周囲の壁にべチャリべチャリと張り付いた!
ドラゴンが暴れればマグマが活性化して噴火する────。
そんな言い伝えを彷彿とさせるような凄まじい攻撃だ!
「ルゥアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!」
強風が吹き付けて、再び、脳みそごと揺さぶられるようなあの咆哮!
歯を食いしばって見上げると、マルカーキスレッドドラゴンはすでに天井付近に浮上していた。
その周囲には────やはり炎が渦巻いている!!
「マズイ! またあれをやる気だ!!」
すでにサンクチュアリは解けている!
近くの『破風の三角錐』も粉々に砕け散っていた!!
────ビクトルとプルデンシアの、逃げ場がない!
「『アークフェザー』起動!!!」
横からプルデンシアの声がして、視界が眩い光に包まれた!
それと同時!
「ルアゥゥゥゥ!!」
ヒュドンッ! ズドドドオォォォォォォォォンンン!!!
再び上がる激しい爆音!!
しかし────!
「なんだ!?」
今度は衝撃一つ起きない!?
眩い光に、薄らと目を開けると、目の前に……。
────大きな人型の背中が見えた。
「……魔石兵? いや……白騎士か?」
その背中には、4対の妖精の羽のようなものが付いている。
いつかのニュース映像で見た、王国騎士のプレートメイルをまとっているようにも見えた。
その大きな鋼鉄製の騎士が、巨大なナイトシールドをかざして衝撃を防いだのだ。
無茶苦茶な攻撃の中で何が現れた!?