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飛んで火に入るドラゴン迷宮管理人  作者: みきもり拾二
◆最終章 ドラゴン迷宮管理人のリタイア
59/68

【59】呪蠱の逆襲

 ドビュバッッッ!!


 気味の悪い音を立てて、無数の触手が四方に向かって伸びてくる!


「うおおおっと!!」


 べチャリべチャリと、石床や壁を打ち、酷い匂いのする粘液をまき散らす!

 狂化ドラゴンの周囲に取り付いていたサラたちも、必死の形相でこれを切り裂き、避けるので精一杯だ!


「グギャオオウッ!!!」


 間隙をついて、狂化ドラゴンが宙に舞い上がる。

 その間にも、呪蠱(じゅこ)の触手がヒュンヒュンと音を立てて伸びてくる!


「みんなっ! 一旦、退避だ! 距離を取れ!!!」


 蜘蛛の子を散らすように、5人が部屋の隅へと駆け戻る。

 その背後から、轟音を上げて竜巻が襲いかかる!


 ブオオオオオオン!!!


「……うっ!」


 強風に煽られ、サラの足が一瞬止まる!!

 その時────!


 ビシッ!! ズダァン!


 サラの足首に一本の触手が絡みついて、その身体を引き倒した!

 たった一瞬の、その機を逃さず!


「ぐあっ!!」


 倒れこんだサラに、何本もの触手が襲いかかっていく!


「くそっ! 何をする、離せっ!」


 足首に絡みついた触手にすぐさまバトルナイフを突き立てる!

 しかし、一斉に襲いかかった触手が見る見るうちに、サラに巻き付いていく!


「サラっ!!」


 ビクトルは思わず腰の長剣を引き抜いて、駆け出していた!


「は、離せ! や、めっ……んぐっ……!!」


 バトルナイフごと絡め取られては何もできない!

 ズリズリと引きずられながら、あっという間に、その腕にその腰にその太ももに、赤紫の触手が絡み付き、その口の中や太ももの間にまで潜り込んでいく!


 苦悶に悶えるサラの表情に、ビクトルの心の奥が、言い様のない戦慄に震えた!


「このヤロおおおう!!」


 絡め取ったサラの身体を宙に持ち上げる触手に向かって、大上段から長剣を振り下ろす!


 ブニッ! ブシャッ!!


 ゴムのような感触に、気味の悪い音を立てて、触手から紫色の液体が迸る!


「サラさんを離せ!!」

「たあっ!」

「うりゃっ!」

「せいっ!!」


 アスタとハインツ、ダッカドとデクスターも駆け寄って、サラを絡め取る何本もの触手に斬りつける!

 しかし、数が多すぎて切り離せない!!


「グワオウッ!!」


 サラを絡め取ったまま、唸り声とともに狂化ドラゴンが天井高くに舞い上がる!

 そして────!!!


 ジュボリッ!!


 不気味な粘液を撒き散らし、ウネウネと波打つ触手が一瞬にして、サラをその口の中へと引き込んでしまった!


「サラああああああああああああああああああっっ!!!」


 胸が張り裂けんばかりの絶叫を、無情な竜巻が掻き消していく。

 これを見守っていたロンフォードが、ニヤリと笑みを浮かべた。


 サラを飲み込んだイソギンチャクのような呪蠱が、ムチャリムチャリと気味の悪い音を立てて、その口を蠢かせる。

 まるでサラを、じっくりと味わうかのように────!


「グガアアアアアオオオオオオウゥゥゥゥッ!!!」


 サラを取り込んだ狂化ドラゴンが、勝ち誇ったような雄叫びを上げて身を翻す!

 瞬間、竜巻よりも激しい強風が、吹き荒れ始めた!


「くっ……昇竜嵐!!」


 見ると、狂化ドラゴンの口元に、青い炎が猛烈な勢いで膨らみ始めている!

 今度こそ、昇竜大ブレスに間違いない!


「サラ! サラ! サラああああ!! 絶対に、助けてやるからな!!」


 ビクトルは一目散に、仁王立ちするロンフォードの爆炎シールドへと駆け込んだ。

 振り返ると、他のみんなも、『破風の三角錐』の下へと退避している。

 そしてサンクチュアリのプルデンシアと視線が合う。

 プルデンシアは大きく頷いて、すぐさまバリスタを動かし始めた。


 ドロリとした紫色の液体のついた長剣をビッと薙ぎ払い、狂化ドラゴンを睨めつける。

 今までのドラゴンの時には感じようもなかった感情が、ビクトルの中に渦巻いていた。


「グ・オ・オ・オ・オオオオオオオ!!!」


 ビクトルの思いを嘲笑うかのように、腹まで響くような唸り声を上げて、狂化ドラゴンが大きな青い炎を喉元に溜め込んでいく!

 ビクトルはプルデンシアへの発射合図に向けて、薄汚れたマルカデミーガントレットを嵌めた右腕を、すっと大きく突き上げる。


「(早く隙を見せろ、早く……早く、早く、早く……)」


 知らず呼吸が荒くなり、突き上げた右腕がプルプルと震えていた。


 ジリジリとしながらも、狂化ドラゴンの翼が水平にピタリと止まるのを待っている。

 「焦っては駄目だ焦っては駄目だ」と言い聞かせながら、永遠とも思えるその一瞬に向けて、全神経を集中させた。


「グホオオオオオオオオオオオオオオオウッ!!!!」


 荒れ狂う強風に唸り声が木霊する。


「(……来い!!)」


 大きな翼をバサリと天に向かって突き上げて、今まさに、狂化ドラゴンがその翼を振り下ろさんとしたその時!


「……グゲエェッ……!!」

「……なんだ?」


 突然、狂化ドラゴンの首の動きがピタリと止まり、その目が驚愕に見開かれる。

 喉元に溜め込んだ青い炎が、ボフボフと音を立てて放出されていく。


 ……まるで、麻痺バリスタを打ち込んだ時のような……!


 プルデンシアを見ると、驚いた表情でビクトルの方を見ていた。

 麻痺バリスタを打ち込んだわけじゃない……?

 しかし明らかに様子がおかしい……!

 誰もが戸惑い、ビクトルに視線を送る。


「グヒッ!……ゲゲッ、ゲボッ!……」


 いつの間にか強風も息を潜めている。

 苦悶の表情の狂化ドラゴンはガクガクと巨体を震わせ、今にも落下しそうな雰囲気だ。


「ふあーっはっはっはっ! この時を待っていた────!!」


 静寂を切り裂いて、ロンフォードがブワッと両腕を広げてマントを翻す。


「さあ、見せてみろ! キミの中に巣食う、本当の力を!!!」


 握りこぶしを突き上げるロンフォードの言葉に応えるかのように、狂化ドラゴンがドクンと大きく身体を仰け反らせた!

 瞬間────!


「グギャアアアアアアアアアアアアァァァァァァッ!!!!」


 ドシャアアアアアッッッ!!


 狂化ドラゴンの胸元から、大量の紫色の血が噴き上げた!!


 喉元を締めあげられたような声を上げ、狂化ドラゴンの目がクルリと白目を剥く。

 そしてグラリとその身体が大きく横に揺れ、ユラユラと力無くその長い首が揺れ動いた。


 ズダバシャアァァァァン!!!


 狂化ドラゴンの身体が石床に叩きつけられ、大量の血溜まりを跳ね上げる。


「ふあーっはっはっはっ! いいぞ! やはり、私の思った通りだ!!」


 この状況を喜んでいるのはロンフォード一人だけだ。

 アスタもダッカドもデクスターも、訳が分からないといった表情でビクトルを見据えている。


「これは、どういうことですか? 狂化ドラゴンは死んでしまったんでしょうか?」


 駆け戻ってきたハインツも、戸惑いの表情だ。

 しかし、狂化ドラゴンが死んだとするなら、討伐達成のアナウンスがあるはずだ。


「黙って見ていたまえ、ハインツくん! 今、我々は伝説を目撃しているのだ!!」

「さ、サラはどうなっているんだ!?」

「ふっふっふっ、わからないかい、つるピカヒゲもじゃくぅん?」


 嬉しそうな表情で、ロンフォードがユラリとビクトルに顔を向ける。


「サラくんの呪蠱(じゅこ)は────勝ったのさ」




逆襲の逆襲で、もう何がなんだか……(@_@;

事態は好転してるのか!?

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