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飛んで火に入るドラゴン迷宮管理人  作者: みきもり拾二
◆最終章 ドラゴン迷宮管理人のリタイア
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【58】狂化ドラゴンの呪蠱

 ────あれは、呪蠱(じゅこ)


 やはりそうか、と思わずにはいられなかった。

 そうだとすれば、なぜ狂化ドラゴンが麻痺や閃光からの回復が早かったのかも、すべて納得がいく。


「あれが竜心臓に取り憑いて、ドラゴンは狂化ドラゴンとなった、と考えるべきだろう!」

「なるほど。では、あれに攻撃を加えるべきですね?」

「ああ、もちろんそうだとも! あれを倒さない限り、狂化ドラゴンが死ぬことなどあり得ないッ!」

「アイツの弱点はあるのか?」


 ビクトルの問いかけに、ロンフォードは「フフッ」と笑って丸メガネをクイッと押し上げた。

 そして自信ありげに胸を張ると────。


「さあね!」


 ……と、声高らかに答えた。

 ビクトルとハインツは、思わず、冷たい視線で顔を見合わせる。


「だが、呪蠱(じゅこ)なんてものは、ただのモンスターに過ぎない! それこそ、ドラゴンに比べれば取るに足りないだろうよ! あれから先に片付けるべきとしても、作戦に変更など必要ないだろう? なぁにを恐れているんだね?」

「触手攻撃以外にも、何をしてくるかわからないからですよ。無策のまま兵を誘導し、むざむざピンチに陥れるわけには行きませんから」

「ふあーっはっはっはっ! 慎重にして堅実なのはいいことだがね! 恐れを知らぬ勇猛果敢さも、英雄には必要な要素さ! そう、絶大なる力こそこの世の────大・正・義ッ!!」


 ブワッと両腕を広げてマントを翻すロンフォード。

 二人は「相談するだけムダだった」と頭を抱えるしか無かった。

 いったい、この堂々たる自信はどこから来るのか……?


「ロンさん、今は冗談に付き合ってる場合じゃないんだ。何か考えがあるなら、真剣に教えて欲しい。俺には、アイツがサラを狙っているように見える。狂化ドラゴンを好きに暴れさせて、あんたは何を、待ってるんだ?」


 グッと眉根を引き締めて、ビクトルがロンフォードを睨みつける。

 ロンフォードは丸メガネの奥から、チラリとビクトルに視線を向けた。

 いつものロンフォードとは違う、凍てつくほどに冷ややかな目だ。


「……言ったろう? 呪蠱(じゅこ)の事は、私に任せておけ、と」


 ロンフォードの言葉に、ビクトルはハッとなる。

 もしかして、サラの呪蠱と何か関係していることなのか……?


 その冷たい瞳と言葉の意味が飲み込めなくて、ビクトルは戸惑うしか無かった。


「ロンさーん!」


 その時、毒蜘蛛を頭に乗せたアスタが、息せき切って駆け寄ってきた。

 『狂化毒』のスキル効果時間が切れたのだ。


「あ、ハインツさんとビクトルさん! アイツ、全然降りてこなくって……」


 石床に膝をついてハアハアと荒い息を吐き出している。

 やはり『狂化毒』は疲労が激しいようだ。


 狂化ドラゴンの方を見ると、今は地表を駆け回るサラに向かって、炎弾と触手を繰り出している最中だ。


「ロンさん、俺に『三倍狂化毒』を使ってください! 一気に仕留めます」

「なぁにを言ってるんだね、アスタくん。我々の目的は、討伐じゃないよ〜?」

「えええっ!!」


 驚いてロンフォードを仰ぎ見るアスタに、ロンフォードはニヤリと笑った。


「だからせいぜい、今のまま、狂化ドラゴンを怒らせるだけ怒らせていなよ」

「そそそ、そんなぁ〜……」


 助けを求めるような視線で、アスタがビクトルとハインツを仰ぎ見る。

 ビクトルは肩をすくめて小さく首を振るしか無かった。


「アスタ、昇竜大ブレスをやってくれれば、麻痺バリスタのチャンスなんだ。ヤツを焦らして、誘発させるしかない」

「たしかに今は、それしか手が無さそうですね。落ちてきたら、あの胸の呪蠱(じゅこ)にフルバレットブーストを集中的に叩き込みましょう」

「そうしたまえ! 時が来れば私も動こう!! だからアスタくんもがんばって、逃げ回るようにッ!」

「えええっ! で、でもですね……」

「もっと頭を使いたまえよ、アスタくぅ〜ん。触手は下向き、顔は上向き。とすればふた手に別れれば済むだけのことじゃないのかね?」


 嫌らしい笑みを浮かべるロンフォードに、アスタが考えを巡らせている。


「待ってくれ。そんな単純な特攻を仕掛けろってのか? 無謀過ぎる!」


 口を挟んだビクトルに、アスタはキリッとした表情をしてみせた。


「わかりました! やってみます!」

「その調子だ、アスタくん! キミはやれば出来る子なのだからね! ────狂化毒ッ!!」


 ロンフォードがマルカデミーガントレットをはめた左手をアスタの頭上に差し出すと、白い煌めきとともに毒蜘蛛が「キキッ」と鳴いてアスタのうなじに噛み付いた。


「うっ……!」


 ひとつ呻き声を上げると、アスタがフラリと立ち上がる。

 その目は爛々とした力強い眼光を放っていた。


「行きたまえ!」


 サッとロンフォードが前に向かって手を薙ぐと、アスタがクルリと踵を返して唸り声をあげた。


「うおおおおおおおお!!!」


 ブンとショートソードを薙ぐと、竜巻に向かって飛び出していく!

 そのまま竜巻に乗って一気に上昇し、狂化ドラゴンより高く飛んだ!


「何だアイツ!?」


 明らかに、今までの動きと違う!


「ヘイトッルアァァァァァッ!!」


 地表のサラの動きを追っていた狂化ドラゴンが、吸い付けられるようにアスタの方へと視線を向ける。

 その周囲には、かすかに黒い靄が取り巻いていた。


 呪蠱(じゅこ)の触手は……サラの動きを追いかけたままだ。

 となれば、アスタと狂化ドラゴンの一騎打ちだ!


「うおおおお!! 貫く!!!」


 言うなり、アスタはきりもみ状態で回転しながら、狂化ドラゴンへと急速落下し始めた!

 狂化ドラゴンがクルリと身を翻し、その口元に炎を溜める!


「まずい、竜炎槍だ!!」

「行けっ! アスタくん!!」

「うおおおおおおおおおおっっ!!!」


 特攻するアスタが止まれるはずもない!


「グヒャアアアウ!!!」


 雄叫びとともに、狂化ドラゴンが炎を吐き出す!

 青い炎は槍となってアスタに襲い掛かった!


 だがしかし!!


 キュィィィィィンンン!!!


「なんだ!?」


 アスタの手にするショートソードが、急激に黒い靄を吸引して、戦慄いた!


「スラァァァッシュ!!!」


 ドシュウッ!! ザグゥッッ!!


「ヒギエェェェェ!!!」


 アスタの身体が弾丸のごとく、狂化ドラゴンの頬を切り裂いた!


「竜炎槍ごと貫いただと!?」


 サラのバトルナイフと同じことが、アスタにもできるのか!?

 衝撃に、呪蠱(じゅこ)の触手も空を掴むように動きが緩慢になる!


「隙ありっ!!!」


 石壁を蹴って、サラが跳ぶ!


 ザシュウッッ!!


「ウキャアアアァァァ!!!」


 サラのバトルナイフが狂化ドラゴンの翼を切り裂いて、宙を舞うその巨躯がグラリと揺れた!


「剛斧弾んん、フルバレットブーストォォ!!」


 地表から放たれたデクスターの両手斧!

 弾丸となって、狂化ドラゴンの胸元にぶち当たる!


 ズガアァァァン!!


「キ、ギシエエエェェェッ……!」


 数本の触手が千切れ飛び、狂化ドラゴンが苦悶の声を上げて落下する!

 「ズダァン!」と地響きを上げて床に落ちたところを、すかさず詰め寄ったダッカドが曲刀を大きく振りかぶった!


「砂岩割裂斬フルバレットブースト!!」


 ズドオォォォン!


 白い閃光とともに、紫色の血飛沫が辺り一面に飛び散った!


「ヒギエエエエエエッ!!」

「グジュブリュッッ……!!」


 雄叫びを上げてもんどり打つ狂化ドラゴンの胸元で、イソギンチャクのような呪蠱がその口を固く閉ざす。

 これは集中攻撃の大チャンスだ!!


「みんな、今だ! 集中攻撃を食らわせろ!」

「うおおおお!!」

「せいっ!」


 苦痛に悶える狂化ドラゴンの側面から、サラとアスタが刃を突き立てる!


 ズグッ! ザシュッ!!


 一撃では終わらない。

 ダッカドとデクスターにハインツも加わって、ヒットアンドアウェイで何度も何度も斬りつける!


「セントライトアタックフルバレットブースト!」

「さぁっ!」

「熱破竜巻斬りフルバレットブースト!」

「剛斧閃んんっフルバレットブースト!」

「うおおおっ!」


 ズシュッ! ザンッ! ズドォン! ガシュッ! ズバッ!


 斬りつけられるたび、狂化ドラゴンが呻き声を上げて後退る。

 大きく切り裂かれた頬、ボロボロの翼、そして身体に受けた無数の傷。

 さすがの狂化ドラゴンといえど、5人の猛攻の前に体勢を立て直せない様子だ。

 しかも、呪蠱が固く口を閉ざしたとあっては、反撃の糸口すらなさそうだ!


「いいぞ! そのまま一気に決めてやれ!!」


 ビクトルの攻撃指令に、ダッカドとデクスターがさらに追撃を加えようとした時だった!


「グブチョチョブチョ……!!」


 固く口を閉ざしていたはずのイソギンチャクのような呪蠱(じゅこ)が、ウネウネと波打つように蠢き始めた!




ようやく集中攻撃を食らわせたと思ったら……!?

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