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飛んで火に入るドラゴン迷宮管理人  作者: みきもり拾二
◆最終章 ドラゴン迷宮管理人のリタイア
57/68

【57】竜心臓!?

 ズグシュッッッ!!!


「ギエエエエエエエエエエエエエエ!!!」


 サラの一撃が、物の見事に狂化ドラゴンの頭頂をとらえた!

 大攻撃の余韻に恍惚として咆哮をあげていた狂化ドラゴンが、突然の衝撃に大きく身を捩らせる。


 ズダン、ドンッ、ゴロゴロッ!!


 脚をもつれさせ、横回転で二度ほど転がると、頭を大きく横に振る。

 何が起こったかと言わんばかりの仕草だ。


「地這砂塵斬りフルバレットブースト!!!」


 その機を逃さず、ダッカドがマルカデミーガントレットを煌めかせる!


 ドガシャアアアアッッッ!!!


「ギエエエエエエッ!!!」


 胸元の分厚い鱗の破片が弾け飛び、狂化ドラゴンが大きく上体を仰け反らせ、後退る。


「竜心臓が露出したか!?」


 確認する間も無く、狂化ドラゴンは素早く身を捻ると、ブルンと宙へと舞い上がった。

 それと同時に、強風が押し寄せて、バタバタと服の裾をはためかせる。

 昇竜嵐だ!


「ゥゴアギシャアアアアアアアアッ!!!!!!!」


 強風が吹き荒れる中、またしても響き渡る『極限竜咆哮』!

 『破風の三角錐』の下、両腕で顔を覆い、風に抗うビクトルの目に、驚くような光景が飛び込んできた!


「なんだ……あれ?」


 いつもなら、真っ赤に燃える竜心臓があるはずの場所には────ウネウネと蠢く触手がみっしりと生えた大きな口が開いていた。

 まるでイソギンチャクのような……!


「グチャ、チャチャ、グジュリ……」


 内臓が蠢くような奇妙な音を立てて、大きくて赤紫の触手が揺れている。

 その穴の奥には……なにやら、紫色に光る目のようなものが幾つも見えていた。


「あれは……どうすりゃいいんだ!?」


 もしもあれがいつもの竜心臓ではなく、弱点でも無いとしたら……?

 ……長期戦は必至となる?

 フルバレットブーストを叩き込んでいって良いのかどうかもわからない。


 ハッとして辺りを見渡すと、吹き荒れる昇竜嵐の向こうから、ハインツとサラがビクトルの方を伺っているのに気が付いた。

 ダッカドとデクスターもだ。


 咄嗟に、わからないとばかりに大きく首を横に振って見せると、ハインツが眉を潜めて険しい表情になる。


「ンギャハアアアアッ!!」


 昇竜嵐が吹き荒れる中、怒りに満ちた酷い声を上げて、狂化ドラゴンが竜巻と炎弾を繰り出してきた。

 しかも、イソギンチャクのようなものが触手をシュインシュインと伸ばしてくる!

 唖然としていた一同が、蜘蛛の子を散らすように逃げ惑い始めた。


「くっそ! 大ブレスじゃないのか!?」


 あのイソギンチャクのようなものをどう対処すべきかもわからない上、いつものパターンすら通用しない。

 何からどうすべきか、頭の中が混乱して整理がつかないでいた。


 その時、サラが目の前に駆けてきた。


「サラっ!」


 視線が合うと同時、サラがクンッと方向転換をする。

 その背後を、ビシビシと石床を打って、イソギンチャクの触手が追いかけていく。


 ブゥンと唸りをあげて、竜巻が『破風の三角錐』に当たって(くう)(ほど)ける。


「……ん?」


 一瞬の出来事だったが、ビクトルは、何か違和感を感じていた。

 触手の動きに何か……。


「ヘイトルアー!!」


 竜巻の合間を縫って、敢然と部屋中央に走り出たアスタに、狂化ドラゴンがギロリと視線を向ける。

 しかし、宙に留まったままで、竜巻と炎弾を繰り出してくるだけだ。

 触手はサラを追い掛け回している。


「それっ!!」


 爆炎シールドから飛び出したハインツが、狂化ドラゴンの側面から閃光スライムコアを投げつける。

 しかし!


 シュイン!


 触手の一本が素早く伸びて、閃光スライムコアを絡め取ってしまった!


「ウソだろ!?」


 触手の中からわずかに閃光が漏れた後、触手はスライムコアの欠片をポイっとばかりにその口の奥へと放り込んだ。


「くっ……!」


 その間にも、部屋は竜巻と炎弾が我が物顔で演舞し続けている。

 まるで、固定砲台だ。


 サラとアスタが駆け回り、隙を縫って近づこうと試みるが、狂化ドラゴンはユラリユラリとその体勢を変えて油断も隙もない。

 しかも、赤紫の触手が、縦横無尽に伸びてくる。


 シュバッ、シュバババッ!


 少しでもその足を止めようものなら、一気に絡め取られてしまうだろう!


「たあああっ!!」


 一瞬の隙を突き、横から壁を駆け上がったアスタが斬りかかる!


「ゴガアッ!!」


 アスタの動きを察知した狂化ドラゴンが、右腕の鉤爪を振るって応戦する!


「うわっとおっ!!」


 ブンッ!


 寸でのところで身を捻って交わしたアスタだが、その体勢は無防備だ!


「すりゃっ!」


 アスタの危機に、背後からダッカドが麻痺スライムコアを投げつける!

 しかし狂化ドラゴンは、まるで見えていたかのように、ヒラリと一段高く舞い上がって、パシリと触手がこれを叩き落とした。

 石床の上でスライムコアはボフンと煙を上げて、何事も無く霧散していく。


 その間にアスタは体勢を立て直したが、やはり炎弾と竜巻に逃げ惑うしか無い。


「くそっ……! 向こうも、こっちの動きが分かってるみたいだ……!」


 二度も刃を交えれば、対抗策を繰り出してくるということか。


「どうする……? どうすりゃいいんだ?」


 誰もが攻撃のチャンスを見出だせないでいる。

 このまま空振り攻撃が続けば、疲労が蓄積して深刻な事故も起きるだろう。

 だからと言って、爆炎シールドの中に留まろうとしても、あの触手が……。


 その時、壁沿いにハインツが走り寄ってきた。

 自身の耳栓を外すと、ビクトルにも耳栓を外せ、といった仕草をして見せた。


「ヒゲもじゃさん、あれが竜心臓ですか?」

「いや、違う! いつもはあんなんじゃない」

「やはりそうですか。様子がおかしいと思いました」


 ハインツが厳しい顔つきで狂化ドラゴンを見上げた時、二人の耳にロンフォードの高笑いが響いてきた。


「ふあーっはっはっはっ! いいぞ、狂化ドラゴンよ! お前の狂化たる由縁をッ、惜しげも無く魅せつけるがイイッ!!! ふあははははははっ!」


 こんな時にあのイスパンは……。

 ビクトルは軽い頭痛を覚えずにはいられなかった。


 そんなビクトルの肩にそっと手を置くと、ハインツはクイッと片眉を上げて見せた。


「ここは、ロンさんに聞くしか無さそうですね」

「……ああ……ああ、そうだな」


 二人は頷き合うと、壁沿いにロンフォードの元へと駆け出した。

 ゴオゴオと荒れ狂う竜巻に、行く手を阻まれながらも、身をかがめながら慎重に歩を進めていく。


 と、炎弾を交わしたサラが、バックステップで二人の前に近寄ってきた。


「サラ!」


 しかし、触手の追撃を交わすのに精一杯で、すぐに壁伝いに走り去る。

 その光景に、ビクトルはハッとなった。


「……まただ!」

「どうかしましたか?」

「今の、触手の動きだ! サラとアスタばかり追いかけてる!」


 ビクトルの言葉に、ハインツが目を見開いて、狂化ドラゴンを見据えた。


「……確かに、そうかもしれませんね」


 二人見つめる先、サラとアスタが駆け回り、それを触手が追い掛け回している。

 ダッカドとデクスターは竜巻と炎弾の前に、ほとんど爆炎シールド内に釘付け状態だ。

 プルデンシアも、バリスタの後ろに身をかがめて戦況を見守るしかない様子だ。


「とにかく、ロンさんのところへ急ごう! この状況が続くとマズイ!」

「そうですね」


 二人、頷き合ったところに炎弾が襲い来る!

 素早く駆け出した背後で、ボフンと炎が弾けた。


「ロンさん!」


 爆炎シールドの中で腕を組んで仁王立ちするロンフォードのもとに走り寄ると、すぐにハインツがその肩を揺さぶった。

 丸メガネの奥からギロリと鋭い視線を投げかけてくる。


「ロンさんならあれが何か、わかってますよね?」


 ハインツの問いかけに、ロンフォードは少し身を傾けると、耳に手を当てた。


「あ〜〜? 聞こえんなぁ〜」


 ……今はそんなコントをやってる場合じゃない。

 ビクトルはロンフォードの耳にねじ込まれた耳栓をスポン、と外した。


「なぁにをするんだね〜、つるピカヒゲもじゃく〜ん」

「ロンさん、あんたに聞きたいんだ。あれは何なのか、ってね!」


 問いかけに、ロンフォードはニタァリと笑みを浮かべた。


「見ての通り、『呪蠱(じゅこ)』さ────」






ドラゴンの胸に呪蠱! そりゃ強いはずだってばよ!

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