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飛んで火に入るドラゴン迷宮管理人  作者: みきもり拾二
◆最終章 ドラゴン迷宮管理人のリタイア
55/68

【55】最終決戦へ

「砂塵切りが残り10発、地這砂塵斬りが残り39発。その他はフルチャージ状態だ」

「俺んらは、剛斧斬が残り20発で、あとはフルチャージだぜ」


 作戦会議はまず、残りスキル数の確認から始まっていた。

 ハインツには、攻撃スキル3種と足止めスキル1種があるそうだ。

 プルデンシアはなぜだか、攻撃スキルを持っていないようだ。


「まあ、多少のスキルバレット消費が避けられなかったのは、仕方ないでしょう。問題無いですか、ヒゲもじゃさん?」

「普通のドラゴンならな。ただ、相手が狂化ドラゴンだ。どの程度体力があるのか、まったく読めない」

「ふむ、なるほど」

「いいじゃないか、それぐらい! 私たちには、サラくんとアスタくんがいる! キミたちマルカデミーガントレットの囚人がただの木偶の坊に成り下がっても、この二人ならば問題ないさ!」


 ロンフォードが意地の悪い笑みを浮かべて言い放つ。

 サラは澄まし顔で頷き、アスタは照れ笑いを浮かべている。


「そう言うロンさんは、どうなんだ?」

「私かね? 私の毒蜘蛛たちのスキルは残念ながら、狂化ドラゴンには通用しないだろう! 計算に入れないでくれるかな!」


 言いつつ、さっと払いのけるように手を上に振る。


 自身の戦力外通告を堂々と……。

 是が非でも、マルカデミーポイントが欲しくないようだ。

 呆れるしかないビクトルに、ハインツとダッカドとデクスターさえも苦笑いを浮かべている。


「スキルの確認は以上にしましょう。ここからは、具体的な作戦に移ります」


 ハインツが小さく手を挙げ、注目を促す。


「僕から4つの提案があります。よろしいですか?」


 右手で4を指し示しながら、ハインツが一同の顔を眺める。


「まず1つめは、『竜の間』の補助装置の作動方法についてです。これは、入手した5枚のメダルを所定の位置に嵌め込むことで作動させられます。ですね、ヒゲもじゃさん?」

「ああ、そのとおりだ。5枚嵌め込んだあと、呪文を唱えることで『爆炎シールド』が展開し、バリスタが現れる」

「了解です。今回、狂化ドラゴンの攻撃は苛烈にして強烈です。通常のドラゴンでは、初期段階で繰り出してくることの無い『極限竜咆哮』『竜爆炎』を繰り出してくることも確認済みです。となれば、出来る限り早く、この補助装置を作動させる必要があります。そこで僕からの提案ですが……」


 ハインツはピッと人差し指を立てた。


「『竜の間』の正面扉から2人、対面の『迷宮管理人ルート』の隠し扉から3人。メダルを嵌め込む係が、ふた手に分かれて踏み込むことで、作動までの時間を出来る限り短縮する、というのはどうでしょう? 通常ではそのような作戦はあり得ませんが、今回は、正規のクエストクリアが目的ではなく、あくまで狂化ドラゴンの討伐が目的ですから」

「ああ、なるほど」

「いいんじゃないでしょうか? あたしは構いません」

「問題ない」

「ダッカドの兄貴がいいってなら、俺んらも構わねえぜ」

「ありがとうございます。詳しい役割分担は後ほど、改めて決めましょう。次に2つめですが……」


 ハインツはひとつ「コホン」と咳払いをして、さっきから削り出している、先の丸い円錐形の木片をつまみ上げた。


「『極限竜咆哮』に備えて、全員、『耳栓』をした方が良いと考えます。これは、それ用に削り出したものです。あとは布団を切って、綿(わた)と一緒に布で包めば、十分でしょう」

「なるほど、耳栓か……」

「通常のドラゴンと比べても、狂化ドラゴンの『極限竜咆哮』には前振りモーションがほとんど無いようでした。聞いた瞬間に耳を塞げば、目眩程度で抑えられますが、タイミングが悪ければ、サラさんのように直撃を食らって失神してしまう場合もあります。咄嗟に防御姿勢を取れない時のために、耳栓をしておくべきと考えます」


 感心しつつも、ビクトルはすぐに不安を感じていた。


「だが、耳栓をすれば、指示の声も聞こえないんじゃないか?」

「ええ、その不安はあると思います。そこで、僕からの3つめの提案です」


 ハインツは柔らかく微笑むと、指を3つ立ててみせた。

 どうやら、すでに対策は考案済みの様子だ。


「ヒゲもじゃさんからの全員への指示出しは、ジェスチャーにしてはどうでしょうか? 各自もそれぞれに同じジェスチャーをして、ヒゲもじゃさんが見えない位置にいる人にも伝達していく必要がありますが」


 皆の表情を眺めると、一様に考えを巡らせている様子だった。


「要は『攻撃』『退避』『待機』の3つのタイミングさえ分かればいいのです。狂化ドラゴンが、どういう攻撃を繰り出してくるかは、あまり重要ではありません。基本的に安全地帯に引き篭もり、タイミングを見計らってヒットアンドアウェイで攻撃をして安全地帯に戻る、を繰り返せばいいのですから。その方が、サラさんのダイナミックな戦闘の邪魔にもならないでしょう」


 なるほど、確かにそのとおりかもしれない。


「僕とダッカドさん、デクスターさんは、基本的にフルバレットブーストを叩き込むだけ、という決め事にしておきませんか?」

「いいだろう」

「俺んらも問題ねえぜ!」

「ヒットアンドアウェイか。なるほどな。わたしも心がけよう」

「3つだけなら、シンプルでわかりやすいジェスチャーにできそうだ。耳栓をしていても問題ないな」


 どうやら、皆、納得した面持ちだ。


 ここにいる全員、すでに一度は狂化ドラゴンの凄まじさを目撃している。

 であれば、慎重な行動を心がけるだろう。

 そうした計算も、ハインツの頭の中には入っているのかもしれない。


 ハインツの4つの提案の最後は、非常事態に対しての2つの対処法についてだった。


 ひとつは、万が一、各自が退却せざるを得ない状況に陥った場合の時のこと。

 その時は、迷宮管理人ルートから避難できるように各自に1枚ずつカードを渡しておくというものだ。


 もうひとつは、閃光スライムコアと麻痺スライムコア、冷気スライムコアを各自に渡しておいた方がいいのでは、という提案だ。


「スライムコアをまとめて威力を高める、というのも考えたのですが、それによって機会が一度に失われるよりも、万が一の保険的に使用する方がリスクが低いかな、と。一瞬でも相手の動きを止められれば、そこで危険回避も可能ですから。そもそも、ヒットアンドアウェイ戦法を基本としますしね」

「状況によっては、俺が集めて回ろう。順調にいけば、ここぞという場面が訪れるかもしれない」

「なるほど、それもいいでしょうね」

「いいだろう」

「俺んらは問題ねえぜ!」

「わたしも従おう」


 すでにハインツに異議を唱える者はいない。

 この討伐隊のリーダーが誰であるか、誰の目にも明らかだった。


「終わったかい? グダグダとくだらない作戦を考えている暇があったら、さっさと乗り込みたまえ」


 腕組みをしてふんぞりかえるロンフォードの言葉に、ハインツは軽く会釈をして返す。


「では、最後に詳しい役割分担を決めて、討伐に向かいましょうか」


 「おう!」とダッカドとデクスターが吠える。

 いよいよ、最終決戦という雰囲気になってきた。


 サラもグッと口元を引き締めている。

 アスタでさえ、少し緊張した面持ちになっている。

 プルデンシアは相変わらずのニコニコ顔だ。


 ビクトルも、クッと表情を引き締める。

 あとはもう、運を天とロンフォードに任せるだけだ────。



 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



「では向かいましょうか」

「はい、行きましょう♪」

「やーれやれだぜ!」

「決戦だ。腕が鳴る」

「行きましょう、ロンさん」

「フンッ!!」


 役割分担を終えた一同が、ぞろぞろと連れ立って、廊下へと姿を消していく。

 ビクトルも後に続こうと、『バリスタ矢』の束を抱え上げた時だった。


「ビクトル」


 すぐ横で、神妙な顔つきをしたサラがいた。


「どうした、サラ?」

「その、腰の剣はどうした? それに、ガントレットまで」


 ビクトルの右手には薄汚れたガントレット、腰には長剣が携えられている。

 それを、サラが不思議そうな目で見ていた。


「ああ、これか? 第五の部屋攻略前に、取ってきたやつだが」

「そうなのか? それは、気付かなかった」

「無理もないさ。サラは調子が悪そうだったからな」

「ああ……」


 『バリスタ矢』を抱え上げ、サラの顔を見る。

 どこか、いつもの気高い雰囲気ではなく、元気が無いように見えた。


「俺の剣なんだ。本科生になったばっかりの時に、武器屋で自分で選んで買ったやつなのさ。んで、これは、マルカデミーガントレットさ」

「あなたも戦うのか?」

「いや、どうだろうな。役割分担としては指令係だから、剣を使うことはないかもしれない。しかしまあ、万が一、さ」


 ビクトルを見つめるサラが、どこかボンヤリとしている。


「俺だって、剣を振るって活躍する英雄を夢見てた時もある。それに、その……ダッカドたちを見てるとさ、妙にこう、気分が高揚してきたのさ。諦めるには、早過ぎるんじゃないか、ってね」

「諦めるには、早い?」

「そうだ。俺は、自分と自分の行末に絶望してた。この迷宮での生活に馴染みきってたのも、それが原因かもしれない。だが、今は違う」


 肩に背負った『バリスタ矢』の束を背負い直すと、ニコッと微笑んでみせる。


「この戦いが終わったら、俺はきっと、ここを出る。何ができるかはわからないが、何かやれるって自信が、ぐわーっと湧いてくるんだ。なぜだか、よくわかんないけどな」


 明るい表情のビクトルとは対照的に、サラは沈んだ面持ちで、視線を落とした。


「……わたしには、未来が無い」


 少しの沈黙のあと、サラは小さな声で呟いた。


「────復讐など考えるべきではなかったのだろうか?」


 哀しげな視線を、ビクトルに向けてくる。

 ずっと一人で、思い悩んできた瞳だ。


 ビクトルは眉をキリッと結ぶと、穏やかに口を開いた。


「サラのしたことで、喜んでいる人もいるかもしれない────」


 「え?」と驚いた表情を浮かべるサラ。

 その瞳には、信じられない、といった光が浮かんでいた。


「この連邦王国はなんだかんだ、あちこち紛争の絶えない世の中だ。モンスターも時々、街を脅かしている。そのための聖騎士であり、聖騎士養成アカデミーだ。生命の奪い合いは、どこかしらで行われている。今だって、たぶんな。それにサラを傷つけたのは、ヒドいヤツらだろ? だから、もしかしたら、な」


 訝しげに眉を潜め、サラが首を横に振る。


「信じてみてもいいと思うぜ? サラが、サラ自身が、戦士としての誇りを持っているのなら────死を望む前に、過去の行いが過ちか否か、世に問うべきだ」


 ビクトルの真剣な眼差しを、サラがまじまじと見つめ返している。


「あなたは……」

「俺は信じてる。サラを」


 サラが大きくその目を見開く。

 ビクトルは、その視線を捉えて離さない。


「だから、サラ。────勝って、俺と一緒に、ここを出よう」


 二人見つめ合ったまま、動かない。

 ジッと見据えるサラの瞳の奥で、何かが揺れ動いていた。


「どうしました〜?」


 廊下の奥からプルデンシアの声が聴こえる。

 『竜の間』正面チームはもう、移動したのかもしれない。


「……行こう。まずは狂化ドラゴンの討伐が先だ」


 ビクトルの言葉に、サラが表情を引き締めて頷いた。

 その顔は、いつも気高い戦士の顔だった────。





いよいよ、狂化ドラゴン戦へ!! 結末やいかに!

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