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飛んで火に入るドラゴン迷宮管理人  作者: みきもり拾二
◆最終章 ドラゴン迷宮管理人のリタイア
54/68

【54】ロンフォードの提案


「ロンさん、聞きたいことがある」


 ロンフォードのすぐ横に寄り添うように立ったビクトルが、声を潜めて囁きかける。


「なんだね?」


 砂塵を掻き分けるアスタとプルデンシアを見つめたまま、聞き返すロンフォード。

 どうやら、ビクトルの調子に合わせてくれているようだ。


 ビクトルは生唾を飲み込むと、思い切って、口を開いた。


「……人に取り憑いた呪蠱(じゅこ)だけを、殺すことってできるのか?」

「ほ〜う?……」


 丸メガネの端を光らせるロンフォード。

 そのまま、ピクリとも身動ぎせず、押し黙ってしまった。


「呪術師のあんたなら、知ってるんじゃないかと思ったんだが」

「無論、知ってるさ」

「じゃあ教えて欲しい。『狂化竜の胆嚢毒』は、呪蠱(じゅこ)だけを殺すものなのか?」

「い〜や、それは違う。呪蠱(じゅこ)をも殺す毒を口に含めば、人も生きてはいまいさ」


 ビクトルの背筋に寒気が走る。

 やはりサラは、自分も死ぬ気でいるのだ。

 胸の奥がキュッと、締め付けられたように苦しくなる。


「他に方法は無いのか? 教えて欲しい。頼む」


 真剣な眼差しで、ロンフォードの横顔を見据える。


「無いですよ〜、無い無い」

「もっと奥のほうかもしれませんよ、アスタさん」

「おっかしいな〜」


 ロンフォードは表情一つ変えず、どこか楽しげに見える二人を見据えたまま、何事か考えを巡らせている様子だ。

 たまらず、ビクトルが再び口を開きかけたその時、ロンフォードはそっと、ビクトルの肩に手を置いた。


「取り引きしようじゃないか、つるピカヒゲもじゃくん」

「取り引き?」

「なぜゆえに、キミがそのような事を言い出したのか、私はあえて問わないとしよう。その代わり、呪蠱(じゅこ)については仔細を問わず、私に任せて欲しいのさ」


 思わぬ提案に、ビクトルは言葉を失った。

 ロンフォードがクイッとビクトルに視線を向けると、ニヤッと笑みを浮かべた。


「信用したまえよ〜。決して、キミの悪いようにはしないさ。ただ、私にも大事な用があるのでね。そのために、ここにいると言っても良いだろう」

「……さっさと帰りたがってたじゃないか」

「ふあーっはっはっはっ! すべては駆け引きさ!! 私が思う方向に、流れが向くようにね!」


 高笑いを上げるロンフォードに、アスタがキラキラした目で手にしたカギを掲げてみせた。


「ありましたよ、ロンさん! ビクトルさん!」

「やりましたね、アスタさん」


 パチパチとにこやかに手を叩くプルデンシア。

 二人がビクトルの表情に気づく様子はない。


「……だとしたら、あんたってホントに嫌なヤツだな」

「なんとでも言いたまえ! 私は自身の目的に素直なのさ! 真っ直ぐ、脇目もふらず全身全霊全力一直線ッ! それが、我が青春のあるべき姿ッ!」


 グッと力強く握りこぶしを作ってみせるロンフォード。


 曲がりくねった性格のクセによく言う……。

 そんな言葉を飲み込むと、ビクトルはそっと頷いた。


「良いだろう。俺はあんたに賭けるぜ、ロンさん。事、これに関しては、あんただけが頼りなんだ────」


 ロンフォードは「フフッ」と笑うと、ビクトルの目の前に拳をスッと差し出した。

 その拳にコツンと拳を合わせた時、ほんの少しだけ、胸の内が軽くなった気がしていた。



 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



「……大規模蒸気機関? ここが?」

「ええ、そうです。迷宮を回りながら、ひと通りのマッピングをしてみて気がついたのですよ」


 ────冒険者たちの安息処。


 第一の部屋の再攻略を終え、第七の部屋の宝箱を入手した一同は、安息処に戻ってきていた。

 狂化ドラゴン討伐に向けての最終作戦会議のためだ。

 その雑談の中で、このドラゴン迷宮についての話になったのだ。


 丸テーブルのイスに腰掛けながら、ハインツがマルカデミーガントレットのステータス画面を立ち上げる。

 マッピングページを表示させると、宙に浮かぶ半透明のモニターを、パタリと水平に押し倒した。

 そして、半透明モニターをトントンとタップすると、マッピングされた迷宮が、立体映像となってフワリと宙に浮かび上がった。


「おお、なんだこれ!?」

「マルカデミーガントレットの最新版OSです。まだ、管理部門と風紀委員にしか公開されてませんが」


 浮かび上がった立体映像は、円筒形の縦長の部屋を中心に、その周囲を螺旋を描いて取り巻くように、ぐるっと6つの部屋が配置されていた。

 ミートワーム女王の間と第二の部屋を始点に、ゆっくりと下りながら、第七の部屋まですべての部屋が、『竜の間』にほぼ隣接しているような形だ。


「この部分は、僕の推測ですけどね」


 ハインツが指さしているのは、『竜の間』の天井から第二の部屋の天井へとつながっているアルファベットの「J」を上下逆さにしたような管だ。


「こうした蒸気を冷やして水に戻すための巡回路がついているはずなのですよ」


 水はそこから緩やかにマグマの部屋まで下って、再度、蒸気となって、竜の間に据え置かれていたはずの巨大なタービンを回していた、という話だ。

 第三の部屋、第四の部屋、第五の部屋はもともと無かったもので、あとで迷宮ように拡張されたものだろうとハインツは言った。

 第六の部屋は、当時からマグマを増幅させる部屋で、イフリートやドラゴンがいたはずだと。

 そして第七の部屋には、大型のクランクシャフトとコンロッドが設置され、地上にその動力を伝えていたはずだ、とも。


 蒸気となる水源は、地表に氷河となって山と積まれている。

 それが、この大規模蒸気機関を作る促進力にもなっていたのだとか。


「この形は、イスパニール辺境王国が、北アグリア大陸の各地に建造した『大規模蒸気機関』そのものなんですよ。以前、公務記録を調べた時、この地でビクトル=マルカーキスがこれを幾つか建造した、という記録を見た覚えがあります。今は『コアマシーン』が開発されたことで、こうした蒸気機関は大小問わず、廃れてしまいましたが」


 コアマシーンとは、ゴーレムの胸のコアや、バリスタの操作コアにも使われている球体状の物を指す。

 おそらく、レイスの部屋にあるマジックキャンセルボタンも、コアマシーンにつながっているのだろう。


 コアには、精霊力エネルギーを補充する機能だけでなく、構成する機械の制御を行う機能も盛り込まれているらしい。

 材料となる霊鉱石(ラムセス)が希少であり、狙った機能を持たせるための技術がややこしいため、どんなものでも簡単に大量生産、というわけには行かないらしいが。


 それでもエイムレルビス連邦王国には日常的に存在しているものと言っていいだろう。

 スイッチひとつで操作可能なものから、マルカデミーガントレットなどの認証を通して使用するもの、果ては自立して稼働するものまで、各種のコアが存在する。

 もちろん、マルカデミーガントレットもそのひとつだ。


「ビクトル=マルカーキスは殊の外、大規模蒸気機関の建設に熱心だったという話だねぇ」

「『────魔法は、得てして使役する人材を選ぶが、科学はそれを選ばない』。でしたね?」


 プルデンシアがにこやかにそう言うと、ハインツはニッコリと頷き返した。


「ええ、そうです。ビクトル=マルカーキスは、庶民でも制御できる動力機関の開発にご執心だったそうですよ。英雄譚では、『暴れ狂うドラゴン討伐に乗り出し、これを力ずくで使役し、魔物王となった』とされていますが、実際には、この大規模蒸気機関の発熱源として、ドラゴンやイフリートを利用しようとした結果、それらを使役する力を身につけてしまった、ということのようですね。当初は、戦争目的のドラゴン使役ではなかった、そういうことなのです」

「ふあーっはっはっはっ! 例え当初の目的がそうでなかったにせよ、強大なエネルギーは即ち強大な戦力となる! むしろ、闇雲に力を身につけたことで、軍事目的に転化してしまったのは否めない事実さ!」


 高笑いを上げるロンフォードに、ハインツが肩をすくめる。


「まあ、それは否定しません。ですが、マルカグラード聖騎士養成アカデミーが、その最上級最難関として、この歴史的意義のある建造物を迷宮として再利用しているには、それなりの理由があるということです。この世に、誰もが扱える共通の機能・性能をもたらそうとした結果、イスパニール辺境王国が北アグリア大陸統一に乗り出し、エイムレルビス連邦王国となるに至った経緯と意義を。そしてそれが、今はコアマシーンという形となって実現されていることを。マルカデミーガントレットは、攻撃スキルなどの戦闘能力以外にも、各種様々なコアマシーンを操作する権限が与えられています。それが持つ意味を、マルカデミーガントレットを使役する者に常に意識してもらい、正しく理解してもらおうと、そういうわけでしょう」


 ハインツの言葉に、一同がしんとなる。

 ダッカドも真剣な面持ちだ。デクスターはその顔を、横目でチラチラと伺っている。


「歴史を知り、今を知る。そのことが、自身のいる世界と社会を理解し、最善の方法を見出すためのカギとなるだろう」

「仰るとおりですね」


 ダッカドの言葉に、ハインツが深く頷く。


「……残念だが、そういうことを感じている本科生がどれだけいるか、だな」

「いえ、構わないのです。人の理解の速度には差があるものです。ですが、体験や経験をしておくことで、いつかそれが花開く時がありますから」

「はっはぁっ! 難しい話はよっくわかんねえ!」

「ですよね〜」

「あたしもです」


 デクスターが胸を張り、アスタが苦笑いを浮かべ、プルデンシアが「ふふふ」と笑う。

 堅苦しい空気が取り払われ、ほんのひと時だけ、柔らかな雰囲気に包まれた。

 ハインツはいつもの優しい微笑みを浮かべると、ステータス画面を素早く閉じた。


「さて、雑談は終わりにして、作戦会議に移りましょうか」


 ハインツの言葉に誰もがピッと姿勢を正す。

 最終決戦の時は、すぐそこまで迫っている────。





考えを聞かずに賭けちゃっていいんですかね~?

しかし、ドラゴン迷宮ってそういう施設だったのか~。(無責任

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