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飛んで火に入るドラゴン迷宮管理人  作者: みきもり拾二
◆最終章 ドラゴン迷宮管理人のリタイア
53/68

【53】復活のサラ

 ────冒険者たちの安息処。


「ともかく、別に謎というほどのシロモノでもなかったよ、つるピカヒゲもじゃくぅ〜ん」


 オイラーフィッシュのソテーを平らげたロンフォードが、口元を拭きながら眉を潜めてみせた。

 言葉通り、第七の部屋の謎が満足の行く内容ではなかったらしく、戻ってきてからずっと、不満たらたらだ。


 今は、皆で遅めの昼食の最中。

 おそらく、ここでの食事もこれが最後になるだろう。


「文句は是非、迷宮設計者に言ってくれ」

「さすがに故人に唾を吐く真似はできないねぇ。ただ、私ならもっとゾクゾクするような仕掛けを施すよ」

「例えば?」

「そう、例えば……隠し扉からお化けが飛び出してくるようなびっくり箱的なね」

「それ、さっきロンさんがやったやつじゃないですか?」


 オイラーフィッシュのソテーを頬張りながらツッコミをいれるアスタに、ロンフォードが口をへの字に曲げた。

 同じく丸テーブルで食事をするダッカド、デクスターは無関心な様子だ。


 食事をそこそこで終えた様子のハインツは、ナイフを取り出して、木片を小さく削り出している。


「そういうアスタくんは、心臓が飛び出るぐらいに驚いてたじゃないか!」

「えええっ? そんなことないですよ。驚いたのは……ビクトルさんじゃないですか?」

「驚くを通り越して、呆れたってのが正解だけどな」


 ビクトルの言葉に、目を三角にしたロンフォードが「ダン」とテーブルを叩いて立ち上がる。

 広い丸テーブルの中央に置かれた拳大の白い珠『リセット珠』が、ポンと跳ね上がった。


「キミたち! びっくり箱は偉大なのだよ!? あれほどシンプルにしてかつ、想像力に満ち溢れた脅かしアイテムは無いと言ってもいい!」


 ……びっくり箱に対して、何をそんなに愛着を持っているのか?


 これにはアスタも、苦笑いを浮かべるしかないようだ。

 ベッドの脇で二人で食事をしているプルデンシアとサラも、クスクスと笑っている。


 ロンフォードは皆をギロリと見渡すと、「フン!」と鼻を鳴らして「ドン!」とばかりに腰掛けた。

 そして固く腕を組み、イライラとした様子で指をトントンし始める。


「管理人さん、この魚のソテー、とても美味しいです」

「まだおかわりはあるだろうか?」

「ああ、いくらでも焼くぜ。特に、サラは腹いっぱい食べろよ」

「ふふっ、ありがたい」


 すっかり体調が戻った様子のサラに、ロンフォード以外の誰もが安堵の表情を浮かべ、その場が和やかな雰囲気に包まれる。


「食え食え! 病なんざ、食っときゃ勝手に良くなんだよ!」

「ああ、そうだな」

「サラさんの戦闘能力は替えが利きませんからね。体調が戻るまで、1日でも2日でも待つつもりでしたが」

「ホントですよ。迷宮を探索しながら、ハインツさんとお話してたんですよ」

「そう言ってもらえると、ありがたい。感謝に絶えない」

「ハンッ! 俺んらがいりゃあ、どうってことねえんだけどよ。なあ、ダッカドの兄貴」

「いや、戦士サラは貴重な戦力だ。頼りにしたい」

「おおっと、いけねぇ! 前言撤回だぁっ!」


 ハゲ頭をパシリと叩くデクスターに、アスタとプルデンシアが楽しげな笑い声を上げる。

 そんな和気藹々とした雰囲気の中、ビクトルはそっと視線を落とし、どこか浮かない表情になってしまう。


 それもそのはずだ。

 風呂場での出来事を思い出すと、どうしても心が重くなってしまうのだ。


「どうされました?」


 問いかけられて視線を上げると、ハインツがナイフの手を止めて、ジッと見つめていた。

 いつものあの柔らかい微笑みがなく、眼差しが真剣そのものだ。


「ん? ああ、いや……なんでもない。その……お褒めに預かり光栄だが、ちょっと塩気が足りなかったかな、と」

「別に、そんなことねーぞ。てか、俺んらもおかわりが欲しいぐらいだぜ」

「俺もです!」

「ああ、そうか? んじゃ、次を焼くとするか」


 デクスターとアスタにビッと親指を立ててみせると、自分の食事もそこそこに席を立つ。


「ワインはもうねえのか?」

「デクスター、その辺にしておけ。このあと、狂化ドラゴン戦だぞ」

「あっははぁ〜。いっけねえ、そうだったわ」


 ダッカドとデクスターのやりとりを後ろに聞きながら、思わず小さく頭を振って溜め息をついていた。

 今はまだ、あのことを皆に知らせるべきではないだろう。

 この場合、相談するなら、ハインツではなくロンフォードだ。

 だが、果たして、あのロンフォードが真面目に取り合ってくれるか……。

 かといって、他にどうすればいいのか、ビクトル一人では見当もつかないでいた。


「あとはもう、ハインツくんたちに任せたよ〜。私は面倒は嫌いでねぇ」


 イライラした様子のまま、ロンフォードがネットリとした声をあげる。


「……そういえば、正解はなんだったんだ?」


 オイラーフィッシュの肉をフライパンにかけながら、ビクトルが問いかける。

 ロンフォードは意地悪そうに、ニヤァとした笑みを浮かべた。


「さぁ〜〜て、なんだと思うかね? 当ててみたまえよ」

「ポイズン、じゃなかったでしたっけ?」


 もったいぶろうとした横から、アスタがさらっと正解を口走る。

 目を三角にしたロンフォードが「ガルルル」と唸り声を上げ、アスタがビクッと背筋を伸ばした。


「了解。ミートワームの女王か。なら、楽勝だな」


 相変わらずのコンビだ。

 浮かない表情をしていたビクトルも、思わず苦笑してしまう。


 ちなみに、謎2の数字列はアルファベットを表している。


「ヒントを見るまでもなく、数字列が26個ある時点ですぐに気がついたさ! せめて、順番を入れ替えてもらいたかったものだねぇ!」


 数字が示すのは、アルファベットを構成する『線の種類』だ。


 1:│

 2:/

 3:\

 4:─

 5:⊂

 6:⊃

 7:∪

 8:∩


 ヒントの「問=873」は「Q」を表し、「答=234」は「A」というわけ。

 ポイズンならば、つづりは「POISON」だから、2つの謎を組み合わせた答えは────。


 160 87 1 56 87 131


 となる。

 そしてリセット珠を使う部屋は、『毒糸の間』が正解というわけだ。


「ちなみに、その『リセット珠』は間違った部屋で使ってしまっても、再度入手ができる。ただし、第七の部屋に戻るとガーゴイル6匹を倒さなきゃならないけどな。それでもまあ、リセットする部屋をクリアするのに戦力が足りない時は、『連鎖の間』でスライムを復活させるのをオススメしてるぜ。対ドラゴン用に、スライムコアも補充できるしな」

「なるほど、それは面白いですね」

「その必要はないだろ〜。ささっとクリアしてしまおうじゃないか!」


 ロンフォードがさも懲り懲りだ、と言わんばかりに肩をそびやかし、両手を上げる。


「ミートワーム女王なら、是非、わたしに任せて欲しい」

「もう大丈夫なんですか、サラちゃん?」

「それを証明するのにも、丁度いい」


 サラが自信あり気な表情で皆を見ている。


「いいと思います。僕は賛成ですよ」

「サラくん、ささっと頼むよ! ささっとね!」

「ああ、問題ない」


 サラはニコリと微笑むと、グッと拳を握りしめた。

 チラリとその様子を覗き見たビクトルが、またしても暗い表情になる。


 サラならきっと、何事もなくガーゴイルロードとミートワーム女王を仕留めるだろう。

 そうなれば────あとは狂化ドラゴンだけだ……。


 残された時間は、刻一刻と迫り来ている────。



 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



「せいっ! はっ! やぁっ!」

「キシイィィィィ!!!」


 ────第一の部屋『毒糸の間』。

 ガーゴイルロードと復活したミートワーム女王を相手に、サラが縦横無尽に躍動していた。


「クカアアアッ!!」


 跳躍したサラに向かって、ガーゴイルロードがロックジャベリンを投げつける。

 それをもクルリと反転して交わし去ると、サラは壁を蹴って跳んだ。


 ズグシュッ!


「ヘゲェイィィィ!!」


 ミートワーム女王の翼を斬り裂くと、さらにその背中を蹴ってガーゴイルロードに向かって跳ぶ!

 息つく間もない流れるような猛攻だ!


「うおおおおおお!!」

「クカカカカッ!」


 ロックジャベリンを両手に持ち替えたガーゴイルロードが身を翻し、振り向きざまにサラに斬りつけた!


 ヒュン!


「なんだ!?」


 見上げるビクトルが思わず声をあげる。

 サラは、ロックジャベリンを振るうガーゴイルロードの腕を蹴って、ヒラリとその背中へと飛び移ったのだ!


「はああっ!!」


 バトルナイフを水平に構えたサラが、ガーゴイルロードのうなじ目掛けて突きを繰り出す!


 ザグシュッ!!


 硬い石の肌に、いともたやすくバトルナイフが突き刺さる!


「クケエェェェッ!! クガアアァッ!!!」


 カラスのような雄叫びをあげて、ガーゴイルロードが身悶えた。


「はあああああああっ!!!!」


 気合もろとも、サラは突き立てたバトルナイフを横に薙いだ!


 ズブシャアアッ!!!


 ガーゴイルロードの首半分が引き裂かれ、大きく左に折れ曲がる。

 サラがガーゴイルロードの背を蹴って跳ぶと、ガーゴイルロードの身体は錐揉み状態で地面に落下していった。


「地這砂塵斬り!!!」


 落ちてきたガーゴイルロードに、ダッカドのスキルが炸裂する!!


 ザシュッ! ズダァァァァン!!


 胴からざっくりと割かれて、ガーゴイルロードの身体が床に叩きつけられる。


「グゲエエエエェェェェ……」


 ビクビクと身体を震わせながら身を起こそうとするガーゴイルロードの瞳から、赤い光がシュンと消え失せた。

 そしてピクリとも動かなくなると、静かに砂塵へと崩れ落ちていった。


「さっすがダッカドの兄貴だ! チャンスは絶対、逃さねえ!」

「デクスター、そっちはどうだ?」

「おう、バッチシよ!」


 床に落ちたミートワーム女王も、デクスターの手ですでにトドメを刺されていた。


「あとは、大量のミートワームを片付けるだけか」

「わたしに任せろ。すぐに終わる」


 言うなり、サラは真っ暗な洞穴に向かって駆け出した。


「我らも行くぞ、デクスター」

「おうよ!」

「フフッ、僕は灯りを持つ係だけで良さそうですね」


 『ミートワームの水晶体』を貼り付けた松明を片手に、ハインツたちが追っていく。


「サラちゃん、すごいです! もう安心ですね!」

「フン! この程度の相手、たかが知れているさ! ねえ、アスタくん!」

「さすがサラさん、凄過ぎてビックリですよ! ね、ロンさん!」


 目をキラキラさせて答えるアスタを、ロンフォードが眉根を寄せて睨みつける。

 この二人は相変わらずだ。


「プルデンシア、ガーゴイルロードの砂塵の中から、鍵を回収しよう。あっちは4人に任せておいて問題なさそうだ」

「はい、そうですね」

「あ、俺も手伝います!」


 アスタがにこやかに駆け寄ってくると、プルデンシアとともに砂塵の山を掻き分け始めた。


「ふあーっはっはっはっ! 砂山いじりとは、キミたち二人にお似合いだよ!」


 ロンフォードの皮肉に、「え〜、そうですかぁ?」なんて返しているアスタとプルデンシア。


 そんな二人をよそに、ビクトルはそっと、ロンフォードに近づいた────。



完全復活のサラ。あっさりとガーゴイルロードも倒し、あとはもう狂化ドラゴン戦を残すのみ! そんな中、ビクトルはロンフォードに……?

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