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飛んで火に入るドラゴン迷宮管理人  作者: みきもり拾二
◆第三章 ドラゴン迷宮管理人の破滅
46/68

【46】じれったい


「周りくどい! 実に周りくどい!! それなら火をつけてしまえばいいじゃないかっ! 電撃でもいいだろう! ねえ、アスタくん!」

「えっ!? えええっ!?」

「ああ、それが一番手っ取り早いな。そうすればこの迷宮ごとドカァン、だ。狂化ドラゴンも、喜んで迷宮の外へ飛び出していくだろう」


 ビクトルが上に向かて両手をパッと開くと、ロンフォードが目を三角にして「ぐぬぬ」と唸る。

 その様子に、アスタが「あはは」と笑った。


 オイルに満たされた部屋だけに、松明の明かりすら命取りになりかねない。

 そのこともあって、ここでの灯りは『ミートワームの水晶体』を上手く使うしかないのだ。


「笑ったね! アスタくん! 今、笑ったね!」

「え? あ、はい……」

「アスタくんに『狂化毒』を掛けて、ヘイトルアーを使ってもらうってのはどうかな〜? ンンン? そうすれば魚もカエルも一気にまとめて一網打尽だろ〜? いいアイディアだと思わないかぁ〜〜い?」


 声を低くして、恨めしそうな表情でロンフォードがアスタを威圧する。


「ああ、その方法も無くはないんだ」

「えええっ!? ちょ、ちょっと待って下さいよ!」


 過去に、物見櫓の台車や木材、木箱、ウッドゴーレムの木材、宝箱などから頑丈な『重戦車』を作って、ヘイトルアーとスーパーアーマーやウルトラガードの組み合わせで突き進む、という方法を取ったパーティもあった。

 だが、その方法では、足場の悪さが致命的なミスを生みかねないのだ。


「足場はオイルまみれの鉄板だ。この砂や土を撒いておけば、多少はマシになる。重戦車で突き進むのもありなんだがな。とはいえ、視界も悪いし、重い装備を背負って足を滑らせれば、プールに落ちて大事にもなる。だから俺は、あまりオススメしないのさ」

「なるほど〜」


 プルデンシアはとても感心したと言わんばかりの表情で、ニッコリと微笑んだ。


「まあとりあえず、おおよその全貌は分かったろ? オイラーフィッシュを黙らせて、油ガマガエルを冷え冷えにしてやれば、いいだけの話さ」


 腰に手を当て、一同の顔を眺め回す。

 ハインツが顎に手を添えて、そっと復唱した。


「肉を投げてオイラーフィッシュの食欲を満たす、天井に向かって冷気スライムコアを投げつつ砂や土を撒きながら前進、天井が開いて油ガマガエルが落ちてきたらフルバレットブーストで倒す、そしてオイラーフィッシュを根こそぎ倒し、宝物を奪取する。ですね?」


 ちらっとハインツが視線を送ると、ビクトルはビッと親指を立てた。


「私の出番は無さそうだ! キミたちで好きに制圧したまえ!」

「いいだろう」

「任せろってんだ!」

「俺もやりますよ」

「じゃあ、念のため、役割を決めておこうか。……サラは、下がって見ておくか?」

「……ああ、済まない……休ませてもらえると、ありがたい……」


 調子の悪そうなサラが、弱々しく頷く。


「肉を撒いてる最中に、オイラーフィッシュが通路に突っ込んでくることもある。もうちょっと奥まで下がっておいた方がいい。なんなら、安息処に戻って寝てた方がいいんじゃないか?」

「心遣い、感謝する。だが、ここで見届けるだけでも……うっ……」


 言いつつも、やはりどこか苦しげだ。


「いざとなったら、あたしが連れて行きますから」

「女のこたぁ、お嬢に任せておけばいいんだってばよ!」

「……ああ、そうだな」


 ビクトルは心配げに溜め息をつくしかなかった。



 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



「キイェ!」

「うわあああああ〜!」


 肉を撒くアスタに向かって、オイラーフィッシュが1匹突っ込んでくる!


「せいっ!」


 ダッカドがたちまちの内に踏み込んで、オイラーフィッシュを叩き切る。

 ビシャッとオイルと血が撒き散って、通路の石壁を濡らした。


「あ、ありがとうございます!」

「構わぬ」


 やはり剣の腕前は確かだし、対応の素早さも感嘆するものがある。

 懐刀として使うには、十分すぎるだろう。


「あまり前に出るなよ、アスタ。今みたいに特攻してくるからな!」

「はい!」

「おらよっ!」


 デクスターが肉塊を5つ掴み上げ、豪快に投げつける。

 その内の一つを、天井裏の油ガマガエルの舌が素早く掴み取る。

 その他の肉塊がオイルの中にドボリドボリと沈み込むと同時、水面が激しく揺らめいた。


「だーいぶ大人しくなってきたな」


 だいたいいつも、寝袋一つ分で十分なのだ。


「最後の1つまでサービスしとくぜ!!」


 そう言って、デクスターが部屋の中央付近までミートワームの肉を投げ入れた。

 ドボンとオイルの中に沈み込み、部屋がシーンと静寂に包まれる。


「よしっ! 今のうちだ!」


 ビクトルは冷気スライムコアを掴みとると、グイッとナイフで突き刺した。

 「キイィ!」と声が上がると同時、天井目掛けて軽く投げつける。

 ボフンと冷気コアが弾けて、天井に氷の霧が広がった。


 それと同時、アスタとデクスターが、土の詰まった袋を持って、鉄板の橋へと躍り出た。

 慎重に、橋の端から端まで砂や土を撒いていく。


 時折、オイルの水面がユラリと揺れるが、オイラーフィッシュが飛び出てくる気配はない。


 ダッカドが左の壁に刺さった木の棒を引き抜くと、すぐさま右の壁へと向かう。


 指定通りに穴に突き刺すと、プールの床から「ゴゴゴゴ」と低い振動音がして、水面が激しく揺れ動いた。

 そして徐々にオイルの水位が下がっていくと、部屋の左寄りに、幅5mの鉄製の足場が現れた。


「よしいいぞ! その調子で進むんだ! 油ガマガエルとオイラーフィッシュが腹を空かせる前にな!」


 ビクトルの言葉に三人が頷く。

 どうやら、問題は無さそうだ。


 そして、何事も無く部屋の真ん中を過ぎた頃……。


「ええい、じれったい!」


 さっきからずっと、イライラした様子で足を踏み鳴らしていたロンフォードが、やにわに、ビクトルが肩から下げていた麻袋に手を突っ込んだ。


「おい、何をする気だ!?」


 驚くビクトルに、ロンフォードはニヤリを笑ってスクロールを1枚掴み上げる。


「この私が終わらせてあげるのさ」


 言うやいなや、スクロールをバッと広げてマルカデミーガントレットをかざした!


「天宮の盟約により、汝に命ずる!

 永久凍土の地表より 我が御前にその力を示せ!

 ────アイシクルファング!!!」


 一瞬の出来事だった!

 ロンフォードのマルカデミーガントレットが煌めくと同時、天井裏から「ザンッ!」とばかりに何本もの氷の牙が伸びてくる!


「ギョエッ……!!」


 短い呻き声を残して、油ガマガエルが串刺しになる!


 バシャシャシャッ!!


「うわああああ!?」

「ちょっ……! なにやってやがる!!?」


 大量の血飛沫とともにオイルが部屋一杯に飛散した。

 オイルまみれになったダッカドとデクスターが、ギロリと後ろを振り返る。


「ふあーっはっはっはっ! 見ろ、これで終わったじゃないか!」

「勝手なことはやめてくれ! 上手く行ったから良いものの、誰かがオイルのプールに落ちてたら、どうするつもりだったんだ!?」


 さすがのビクトルも、ロンフォードに詰め寄って、ギラリとその目を睨みつける。


「ハッ!? 私としたことが……!!」


 ビクトルと視線が合った瞬間、高笑いをあげていたロンフォードが、一瞬にして我に返ったような表情になる。

 そして、真っ青な顔をしてワナワナ震え始めた。


「わかってくれたなら、いいんだ。だが、冗談やってる場合じゃない。みんなを危険に晒すようなことやめてくれ」


 思いの外、素直な反応のロンフォードに、ビクトルは諭すように語りかけた。


「……あああ、なんということだ……モンスター討伐ポイントとファイナルアタックポイントを入手してしまったではないか! ガッデムッ、なんたる、失態ッ!!!」


 パタリと片手で両目を覆い隠し、天を仰ぎ見るロンフォード。

 そして悔しそうに拳をグッと握り締めると、ガックリと片膝をついて項垂れた。


 後ろで見守っていたハインツとプルデンシアも、苦笑いを浮かべるしか無い様子だ。


「(気にしてるのはそっちかよ……!)」


 ビクトルも、唖然として脱力するしか無い。

 この人、どこまで本気なんだろう……。


 そう思わずにはいられなかった────。






何のためにいるんだロンフォードwww何のために……あれれ? 

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