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飛んで火に入るドラゴン迷宮管理人  作者: みきもり拾二
◆第三章 ドラゴン迷宮管理人の破滅
45/68

【45】第五の部屋

 ────ドラゴン迷宮、第五の部屋『油壺の間』の前。


「ほい、ご苦労さん。この辺で良いだろう」

「はひっ! はひぃっ! ふううううっ!!!」


 真っ赤な顔をしたアスタが大汗を掻きながら、パンパンに膨らんだ麻袋を3つ、ドサリと床に投げ出した。


「ハハッ! だらしのねえ!」


 両肩に同じような麻袋を3つずつ抱えたデクスターが、悠然としてドンとばかりにそのそばに麻袋を下ろした。


「あたしもここでいいですか〜」

「ああ、適当で構わないよ」


 プルデンシアとサラも1袋ずつ、ダッカドとハインツがそれぞれ2袋ずつの、計13袋個の麻袋が並んだ。

 麻袋は何故か毎回、安息処に補充される。

 中身は、先ほどゴーレムの部屋で掻き集めてきた砂と土だ。


 通路も、その奥の第五の部屋も、明かりはなく、暗闇が支配している。

 プルデンシアとサラ、ビクトルの手には、松明の先に『ミートワームの水晶体』をくっつけたものが握られている。

 それが煌々と、皆の姿を照らし出していた。


 そしてビクトルは、右手に薄汚れたガントレットを、腰には長剣をぶら下げていた。

 それはビクトルが本科生の頃に使っていたマルカデミーガントレットと長剣だ。

 この部屋の攻略に出る前に、ロンフォードにカードを借りて、『迷宮管理人の洞窟』から持ってきたものだ。


 もはや、ここから逃げ出すつもりは毛頭ない。

 皆と一緒に、狂化ドラゴンに立ち向かうという意思表示のつもりだった。

 ……誰もそのことを尋ねてこないのが、ちょっと寂しいところだが。


「つるピカヒゲもじゃくぅ〜ん。そのくっさいのはなんだね〜? 嫌がらせはやめてもらえるかな?」


 手ぶらのロンフォードが鼻を摘んで、手をパタパタさせている。


 手伝いもせずによくもそういうことを……という言葉を飲み込んで、ビクトルは鼻息をついた。

 ロンフォードが視線で指し示しているのは、ビクトルの抱えてきた寝袋だ。

 中には、ミートワームの肉がどっさりと詰め込んである。


 あとは、背中に背負った麻袋に、スライムコアが15個と魔法スクロールが入っている。

 冷気スライムコア8個に、閃光スライムコア5個、麻痺スライムコア2個、そしてレイスの部屋で入手した『アイシクルファング』のスクロールだ。


「とりあえず、この部屋の攻略法を話すから、よーく聞いてくれ」


 『油壺の間』は、プールのような部屋にオイルがいっぱいに満たされた部屋だ。

 部屋の長さは50m弱、プールは深さ4mほど。

 天井は高さ3mほどのところで鉄格子状になっていて、その上には『油ガマガエル』が鎮座している。

 プールに貯まったオイルは、この油ガマガエルから溢れ出た粘液だ。


 油ガマガエルは体長4mほど。

 オイルを撒き散らしながら素早く動き周り、鉄格子の隙間から超速で舌を伸ばし、侵入者を絡め取ろうとしてくる。

 とはいえ、レイスに比べれば、モンスターとしてはデカイだけで何の事はない。


 他にも、オイルのプールの中には、オイラーフィッシュという魚類モンスターが泳ぎまわっている。

 体長1mほどの中型魚で、鋭く尖った鼻先とナイフのような鋭い切れ味のヒレを持ち、オイルの中から体当たりを食らわせてくる。

 いつも、全部で50匹ほどいる。


 どちらも、土魔法があれば討伐は非常に楽になる。

 重力でその場に押しとどめる『グラヴィティスネア』、岩の剣山で敵を突き刺す『牙岩剣山』などを組み合わせればいい。


 他にも、『アイシクルファング』のスクロールを使う手もある。

 だが、今回のメンバーを考えると、そのスクロールはイフリートか狂化ドラゴンまで取っておきたいところだ。

 ここでは温存しても問題はないだろう。


「まあ魔法に頼らずとも、この2種のモンスターはぶっちゃけ、大したことはない。それよりも、注意すべきはオイルだ」


 オイルによって注意すべき点は2つ。


 ひとつは、このあとの第六の部屋『炎獄の間』には、2体のイフリートが控えていること。

 オイルまみれのままで乗り込もうものなら、炎上間違いなしだろう。


 もうひとつは、プールにかかる足場が鉄板製のため、ツルツルと滑りやすいということ。

 正直、戦士など近接系が普段通りに戦おうとしてもまず無理だろう。


 その鉄板製の足場は、壁の左右に向かって渡されている。

 幅3mの橋が、5m間隔で計6本、部屋の奥に向かって並んでいるのだ。


 そして部屋の奥へと進むには、橋と橋の間に足場を出現させる必要がある。


 その足場を出現させるためのスイッチが、左右の壁に施されている。

 左の壁には二本の木の棒が刺さっている。

 太さ4cmほど、長さは50cmほどの長い木の棒だ。

 この棒を引き抜いて、右の壁の穴に入り口の石版に記された文言通りに刺すことで、床から足場が現れる仕掛けとなっているのだ。

 その文言は下記の通りだ。


「獅子吠ゆる 磨羯の笛、

 金牛の背に 処女を乗せし、

 双児 双魚を、

 いずれをや天秤に掛けんとす 巨蟹の両鋏、

 白羊踏み鳴らす 大地の天蠍、

 人馬が捧ぐ 宝瓶の水、

 すべてを飲み干し 凶源 欄干に墜つ」


 全く意味不明の文章だが、要は、1行2つのワードに気づけば話は簡単だろう。


 棒を挿し直す壁には、時計をちょうど45度左に回転させたような数字の配列で円盤が掲げられている。

 そして数字の間に棒を挿す穴が空いている。


        ●  3  ●

     2           4

    ●             ●

   1               5

  ●                 ●

12                   6

  ●                 ●

  11               7

    ●             ●

     10         8

        ●  9  ●


 要は、こんな感じだ。


 例えば、1行目。

 獅子座は7/23〜8/22の星座だから、7と8の間の穴に棒を挿す、というわけだ。

 磨羯座も同様に考えればいい。


 そして棒を挿して足場が現れると同時、オイルが少しずつ床下に排出される。

 すべての足場を出現させると、プールに溜まったオイルがすべて排出される他、天井の鉄格子が開いて油ガマガエルが降りて来る、というわけだ。


 ちなみに計12本の木の棒は、第二の部屋にあった刀身の欠片と組み合わせればバリスタ矢にもなる。

 部屋をクリア後に、しっかり回収しておきたいところだ。


 なお、オイルプールの中、部屋の中央部あたりに宝箱がある。

 安全に宝箱を入手するにも、確実に足場を出現させてオイルを排出するのが一番、というわけだ。


「で、オイラーフィッシュ対策だが……このミートワームの肉を使うってわけさ」


 言いつつ、ビクトルはポンポンと、肩に背負った寝袋を叩いてみせた。


 油ガマガエルもオイラーフィッシュも、肉食だ。

 しかも、相当に腹を空かせた状態でいる。

 ミートワームの肉を投げ込めば、先を争うようにして寄ってたかって食らいつく。

 食欲が満たされると、双方とも攻撃性が下がるため、その間に前進すればいい、というわけだ。


 ただし、念のため、油ガマガエルには冷気スライムコアを投げつけておく。

 冷気の中では動きが鈍くなり、冬眠に近い状態になるからだ。

 それに、上から滴り落ちてくるオイルも凍らせて阻止することもできる。


 オイラーフィッシュはオイルさえすべて抜いてしまえば、まさに丘に上がった魚だ。

 正直、さほど恐れるほどのモンスターではない。


「そんなまどろっこしいことをせずとも、最初からすべて凍らせてしまえばいいじゃないか! そのためのスライムコアとスクロールだろう?」


 ロンフォードのツッコミに、ビクトルは「フフリ」と笑った。

 血気盛んでせっかちなパーティは必ずそういうことを言うのだ。


「ここのオイルは、凝固点が高いんだ。だから、スライムコアの冷気で簡単に凍ってしまうのさ。それに凍ったオイルプールの中から宝箱を掘り起こすのは、結構な手間だぜ? かといって、せっかく凍らせた氷のオイルを溶かしてちゃ、油ガマガエルもオイラーフィッシュも活性化し、元の木阿弥さ。だからこのやり方が、一番安全にして確実なのさ」


 ビクトルの言葉に、プルデンシアが「おー」と声をあげた。





オイルまみれはホント、けしからんですよ!

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