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飛んで火に入るドラゴン迷宮管理人  作者: みきもり拾二
◆第三章 ドラゴン迷宮管理人の破滅
43/68

【43】無謀突撃の代償


「馬鹿な真似はよせ! ヒゲもじゃくん!!!」

「サンクチュアリ!!」


 背後でロンフォードの声と同時に、ハインツがサンクチュアリを展開する声が聞こえる!


「逃げろ! サラあああああああああっ!!!」


 力なく落下してくるその身体。

 ビクトルの視界を遮るようにして、狂化ドラゴンの黒い身体が舞い降りてきた!!


「ウガアアアアアアアッ!!」


 ダメだ! やられる!!

 ビクトルの胸が張り裂けんばかりに悲鳴を上げたその時だった!


 ズグッ!!


 ────うなじのあたりに、何かが噛み付いた!?

 全てがスローモーションのようにゆっくりと流れ、ビクトルの全身に力が漲る!


「うおおおおおお!! サラあああああああああっ!!!」


 ターコイズブルーの閃光が迸り、ビクトルは勢い良く跳躍していた!


 ズダァンッ!! ドォォォォォンン!!!!


 背後で狂化ドラゴンの竜爆炎が炸裂する!!

 その爆風よりも一瞬速く、ビクトルはサラの身体を宙で抱き止めていた!!


 ズダン!


「ぐへっ……!」


 背中から、石壁に勢い良くぶち当たる。

 それでもなぜか、サラの身体を抱きしめたままスタリと床に着地していた。


 周囲で燃え盛る青い炎。


 しかしその青い炎は、二人の周囲2mほどのところで、赤い半透明のシールドによって遮られていた。


「……何が起こっているんだ……!?」


 爛々と燃えるターコイズブルーの光を感じながら、ビクトルは視線を上げた。

 部屋の中央で、狂化ドラゴンが雄叫びを上げている。


 さらにグッと首を沈めて後ろ脚を踏ん張ると、身を捻りながら宙へと舞い上がった。

 部屋一杯に、嵐のような暴風が轟音を上げて吹き荒れる。


「昇竜嵐からの昇竜大ブレス!!」

「ヒゲもじゃさん! 撤退を!!」


 向こうから、ハインツの声が聞こえてくる。

 ビクトルはハッとして立ち上がると、サラを抱きかかえたまま、すぐさま駆け出していた。


「ウゴアアアアアッ!!」


 物凄い唸り声を上げながら、狂化ドラゴンが翼をはためかせる。

 その口元では、青い炎がみるみるうちに膨らんでいく!


「ふおおおおおおお!!」


 サラの身体を抱きしめたまま、強風を物ともせず、ビクトルが部屋の隅をひた走る。

 見ると、隠し扉付近、サンクチュアリの中で、ハインツとアスタが二人でロンフォードのマントを引っ張っていた。


「撤退だと!? 何をバカなことを言っているんだね!?」

「文句はあとでお聞きします! ここは撤退です!!」

「ロンさん、逃げましょう!!」

「離せ、アスタくん! 私はまだ何もしちゃいないぞ!」


 ロンフォードは両腕と足をバタバタさせて、是が非でもそこに留まろうとしているようだ。

 この期に及んで、あの男は……。


 ビクトルは勢いよくロンフォードに駆け寄ると、その腰をヒョイと持ち上げた。

 左腕にサラ、右腕にロンフォードを、楽々と抱え上げている。


「なっ!!?」

「オッケーだ!!」


 ハインツと目配せすると、一目散に迷宮管理人ルートへと駆け出した。


「ンギアアアアアアアアアアッ!!」


 物凄い雄叫びとともに狂化ドラゴンがブレスを吐き出した!

 その熱風に押されるようにして、4人は迷宮管理人ルートへと駆け込んだ!


「早く! カードを!!」

「こら、アスタくん! 何をする!!!」


 アスタはロンフォードの上着のポケットから素早く『迷宮管理人のカード束』を取り出すと、カードリーダスリットにくぐらせた!


 床に描かれた魔法陣が「シュイン!」と青い光を放つと同時、5人の姿が掻き消える。


「ンガハアアアアアッ! グガアアアアアアアアアアッ!!」


 あとには狂化ドラゴンの雄叫びと、狭い通路いっぱいの青い炎だけが残された────。



 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



「はあっ! はあっ! はふっ!……大ブレスを出してくれて、助かったぜ……」


 安息処に続く通路で、サラを抱きかかえたビクトルがへたり込む。

 安堵感からか、激しい疲労感が押し寄せる。

 まるで目が飛び出しそうなほどの吐き気と目眩に、ウネウネと視界が歪んでいた。


「うぇ……っぷ……」

「だ、大丈夫ですか!?」


 アスタの声が聞こえるが、それに答える余力も無かった。

 その腕に抱きしめられたサラは、気を失ったまま、ピクリとも身動ぎしない。


「なんてことしてくれるのかな〜? ハ〜イ〜ン〜ツくぅ〜〜ん」


 その背後では、こめかみに怒りマークを浮かべたロンフォードが、壁にドンと手をつきハインツに詰め寄っている。

 そのままゴツンと音を立てて、おでことおでこをくっつける。


「リスクを最小限に留めたいだけですよ、ロンさん。やはり、ヒゲもじゃさんのおっしゃる通り、討伐補助装置は使うべきと判断しました」


 ハインツは動じる様子もなく、両手を腰に当て、毅然とした姿勢でこれに相対している。

 一方のロンフォードは、相当に怒りが収まらない様子だ。

 眉を潜めて口をねじ曲げ、くっつけたおでこをグリグリと動かしている。


 間に割って入ってやりたいが、ビクトルはそれどころではなかった。

 ようやくに目眩が治まってくる。


「私の『狂化毒』の効力をキミも見ただろう〜? あのままあそこにとどまって、トドメを刺せばそれで済んだことじゃないか、ンンン〜?」

「まだ、どれほどの体力が残っているかわかりません。サラさんが傷ついた以上、防御のリスクも高まるのは必然です。そして僕のフルバレットブーストだけでは、手数が足りないのは明白でした」

「だぁ〜かぁ〜らぁ〜〜〜! アスタくんがまだいただろう! なぁ〜にを寝ぼけたことを言ってるんだねキミはぁぁぁ〜!!!」

「いつ、発動して頂けるかわからない戦力を計算に入れるわけには行きませんので」

「バァーカかキミは!? まぁ〜だ相手が何をしてくるか、見たいから発動を遅らせていたに決まってるだろう!? キミのその頭は飾り物なのかね!?」


 左手の拳を握りしめ、ギリギリと歯軋りをするロンフォードに、ハインツは胸を張って毅然とした表情のままだ。

 どうやら、まだまだ長くなりそうだ。


「まあまあ、気にしないでください。それよりサラさんの手当てを」


 困り顔のアスタが、ポンポンとビクトルの肩を叩く。

 ビクトルは力なく頷くと、サラを抱き上げ、廊下の先の安息処へと向かった。



 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



「あ、おかえりなさい」


 ヨロヨロとしながらも安息処に足を踏み入れると、ニコニコ顔のプルデンシアに迎えられた。

 そして目にした光景に、思わず、ズッコケそうになる。


「……何を、してるんだ?」

「え?……あああ、綾取りですよ。ご存じないですか?」


 丸テーブルの前に腰掛けたプルデンシアは、テーブルの上の、ロンフォードの毒蜘蛛と綾取りをしているのだ。


「……それは見れば分かる」

「この子たち、とぉっても賢いんですよ〜。難しい取り方でもへっちゃらなんです」


 テーブルの上の毒蜘蛛たちが、どこか得意気に、4本の足を高々と差し上げてみせる。

 ……呑気なものだ、と思わずにはいられなかった。


「それより、どうしたんですか、サラちゃん? それに、管理人さんのその頭」

「頭?」


 何の事だか、すぐにはわからない。

 気が付くと、全身汗だくで、額から目に染みてくる。


「……とりあえず、サラに手当てをしてもらっていいか?」

「あ、はい、もちろんですよ。ベッドの上に寝かせてあげましょう」


 プルデンシアに促され、二段ベッドへと向かう。


「(……こんなにサラって重かったか? それともさっきまでは死に物狂いで、感じなかっただけなのか……?)」


 そんなことを思うほどに力が入らない。


 ほうほうの体で、なんとかベッドの下の段に、サラの身体を横たえる。

 握りしめたままのバトルナイフをそっと外してやると、腰の鞘に収めて、枕元に置いた。


「怪我はしてないみたいですけど?」

「……狂化ドラゴンの『極限竜咆哮』にやられたんだ。それで意識を失ったらしくて……ふうっ……」


 顔の汗を拭いながら、ビクトルが頷く。

 疲労からか、息も絶え絶えだ。


「そうですか。ひとまず、治癒のスキルは使っておきますね」

「ああ、頼む。他に、何か入り用のものはあるかな?」

「そうですね。冷たい水に、タオルでも濡らしてもらえますか? 少し……熱が出てるみたいです」


 サラの頬に手を当てるプルデンシアが、そっと頷いた。

 全身が軋むような痛みに苛まれながらも、ビクトルはキッチンへと足を向けた。


 キッチンに向かうビクトルと、未だにグルグル巻き状態のダッカドとデクスターの視線が合う。

 その目は、どこか訝しげな表情をしていた。


「いいか! キミに与えられた時間は明日までだ! それ以上は絶対に譲らない! 絶対にだ!」


 ハインツに向かってそんな声を上げながら、ロンフォードがツカツカと部屋に入ってくる。

 そしてしかめっ面をしたままビクトルを見るなり、ビッと指を差した。


「キミもしっかり協力したまえよ────つるピカヒゲもじゃくん!」

「……つるピカ、ヒゲもじゃ、くん……?」


 ふと、頭に手をやったビクトルが、一瞬にして、愕然とした表情になった────。








いったい……何が起こったんだってばよ……?

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