【41】直行する!
「よかろう! この私も狂化ドラゴン討伐に協力しようじゃないか!! おい、そこのヒゲもじゃくん!」
ロンフォードはブワッとばかりにビクトル指さすと、得意げな表情で丸メガネをクイッと押し上げ、ギランとした瞳でニヤリと笑った。
「キミは迷宮管理人カードを持っているだろう! それをよこしたまえ」
「……別にいいが……どうする気だ?」
「どうするもこうするもない! 今から転送装置で『竜の間』に乗り込むんだ!」
「えええっ! 今からですか?」
横から素っ頓狂な声を上げたアスタに、ロンフォードは眉根を寄せて口元を歪めてみせた。
「当ったり前だろう、アスタくん! 我々は忙しい〜んだ!」
「忙しいって……しばらく依頼は何も舞い込んで来てな……むぐぐっ!!」
言いかけたアスタの口を、ロンフォードがパシっと手で塞ぐ。
「い・そ・が・し・いんだよぉ〜、ア〜スタくぅ〜ん」
ドロリとした威圧的な視線で睨めつけるロンフォードに、アスタはそれでも、小さく首を横に振った。
その様子に、ロンフォードが目を三角にしてギリギリと歯ぎしりをし始める。アスタの胸ぐらを掴み上げ、何事かヒソヒソと囁いているようだ。
アスタには、権力に物怖じしない鈍感さがあるようだ。
先ほどの言動といい、ロンフォードとは正反対の真正直なところもある。
「(何かとんでもないスキルを持っているのか?……先天性精霊力者なのかもな……)」
”呪われし”ロンフォード=ロンガレッティに目をつけられただけのことはある。
そういうことだろう。
「まあ、待てよ。狂化ドラゴンが『竜の間』にいるとは限らないだろう」
ビクトルの言葉に、ロンフォードがニヤッとして顔を上げる。
「いるさ! 間違いなくね!」
そう言い放つ表情は、自信に満ち溢れている。
「……だとしたら、狂化ドラゴン討伐に向かう前に、ここの迷宮の部屋をすべてクリアすることをオススメするぜ」
ビクトルの言葉に、一同の視線が集中する。アスタの胸ぐらを掴んでいたロンフォードも、片眉を上げて言葉の真意を計るように、ビクトルを見やっていた。
「理由を、お聞かせ願えますか?」
ハインツの問いかけに、ビクトルはひとつ咳払いをすると、穏やかに口を開いた。
「話は簡単さ。『竜の間』にはドラゴン討伐向けの補助装置が用意されている。それを使うには、五つのメダルが必要だ。それは部屋をクリアした時に入手できる宝箱の中にある」
「その、補助装置は、討伐には欠かせませんか?」
「普通のパーティならな。炎から身を守る『爆炎シールド』、竜巻を防ぐ『破風の三角錐』、補助攻撃装置『バリスタ』。この3つを上手く使うことで、優位に立てる。『竜の間』はだだっ広い部屋だが、ブレスや竜爆炎を防ぐには狭すぎる。使えるものはきっちり使うのが、賢いやり方だ。その他にも、迷宮で手に入るアイテムを上手く使うべきだろう。しかも相手は狂化ドラゴンだ。石橋を叩いて渡るぐらいの準備をすべきだ」
「なるほど、さすがですね」
「ここに来る本科生たちを、散々観察してきたからな。俺の助言や助太刀で、悠々クリアしていったパーティも山ほどいる」
ビクトルの言葉に、ハインツが苦笑する。
「クエスト規約違反も、開き直りですか。潔いですね」
「どっちみち、もう後戻りはできそうにないからな」
「なるほどね。……と、いうわけです、ロンさん。僕としては……」
「なぁ〜にを怖気づくことがあるんだね!」
ロンフォードはバッとアスタを突き放すと、ツカツカとハインツに歩み寄った。
「たかがトカゲ一匹じゃないか! キミの力があれば倒せるだろう! ……あっ!」
わざとらしく、ロンフォードが何かに思い当たったとばかりの顔をしてみせる。
そして、目を細め、ニヤ〜っと口角を上げた。
「自信が無いのだね? 所詮、親の七光りで得た地位、虎の威を借る狐程度の実力というわけだ。ンンン?」
「はははは」
髪を掻き上げながら、ハインツは肩を小さく揺らして笑った。
その向こうで、アスタが「なんてこと言うんでうすか!」と言わんばかりの顔をしている。
「僕に異議はありませんよ。今からでも、ご同行します。是非にも」
ロンフォードを見据えるハインツの目が冷ややかだ。
その視線を真っ向から受け止めるロンフォードが、小さく「へ〜え?」と返している。
これにはビクトルも溜め息をつくしかない。
この程度の挑発に乗るとは、ハインツもまだまだ若いということだろう。
「(まあ、若い内は向こう見ずなぐらいじゃないと、騎士の腕前も上がらないか……)」
そのことは、ビクトル自身も身に滲みてよくわかっているつもりだ。
「で、そこのターバンくんとハゲ頭くんはどうするんだね?」
ブワッと大げさな動作でマントを翻し、ロンフォードがダッカドとデクスターを指し示す。
プルデンシアも、大きな耳をピンと立てて、二人の様子を伺っている。
「……我らは協力しない。勝手にするがいい」
「ほ〜う? まだ、目先の関係に拘るのかね?」
「なんと言われようと、構わぬ」
ギラリと眼光を放ち、ダッカドがロンフォードを睨みつける。
プルデンシアは残念そうに、大きな耳をペタリと横に倒した。
「では、仕方ないな! 頑固者は捨て置いて、行こうじゃないか、諸君!」
誇らしげにバッとマントを翻すロンフォードに、ビクトルは呆れたように首を横に振った────。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「あとは、事前にサンクチュアリを展開しておくのをオススメするぐらいかな」
「なるほど」
────『竜の間』に通じる迷宮管理人ルート。
声を潜めて、ビクトルはひと通りの情報を伝えていた。
狂化ドラゴンは隠し扉の向こう、『竜の間』で眠っているのを確認済みだ。
「とにかく、注意事項はさっき言った通り3点だ。『昇竜大ブレス』と『竜爆炎』は頭を低くして後ろ脚をグッと踏ん張るモーションをした時だ。あと『極限竜咆哮』は耳を絶対に塞ぐこと」
「それと、胸の分厚い鱗の下に『竜心臓』が隠されているんでしたね」
「そうだ。竜心臓を露出させて、そこへ集中的にフルバレットブーストを叩きこめば、そう……10発も叩き込めば、普段なら倒せる。アイツの体力がどれほどか、そこまではわからないが」
できれば、魔法強化薬やスキル強化薬を合わせて使いたいところだ。
「わかりました。みなさん、大丈夫そうですか?」
頷き合うと、ハインツを先頭に、隠し扉へと静かに向かう。
「なあ、ロン」
最後方からついてくるロンフォードに、ビクトルが呼びかける。
「なんだね、ヒゲもじゃくん?」
「この頭の上の、いい加減にしまってくれよ。もういいだろ」
ビクトルの頭上で佇む、ロンフォードの毒蜘蛛を指さす。
ちなみに、他の二匹は安息処に残したままだ。
「キミは先天性精霊力者なのだろう? だから、念のため、さ」
そう言って、ロンフォードはウインクをしてみせた。
どうやら悪気があってのことでは無いようだ。
だとしたら仕方ない。
頭に乗せたまま、『竜の間』に乗り込むしかなさそうだ。
「行きますよ」
先頭のハインツが声を潜めて呼びかけると、サラはバトルナイフを抜き放ち、アスタもショートソードをギュッと持ち直す。
そんな二人に頷き返すと、ハインツはカードリーダスリットに、サッとカードをくぐらせた。
いきなり狂化ドラゴン直行キタ━━━━━━(゜∀゜)━━━━━━!!!!
あれ? プルデンシアとダッカド・デクスターは……?