【04】いざ!ドラゴン戦!
────『竜の間』に続く、扉の前。
「よーし、作戦は以上だ。それぞれ、アイテムや装備の最終チェックをしてくれ」
ヒゲもじゃ男ビクトルの言葉に、三人娘たちは不平も漏らさず、素直に身の回りの道具のチェックを始めた。
あれからすでに、三晩が過ぎている。
最初は不審がっていた三人娘だが、迷宮を共に進む内、すっかりヒゲもじゃ男ビクトルに信頼を寄せるようになっていた。
あとはもう、ドラゴン討伐を残すのみ。
彼女たちのクエスト期限は明日の夕刻だが、十分に余裕があると言えるだろう。
ビクトルの指示通りにやれば問題なく、ドラゴン討伐を達成できるはずだ。
そうなれば、早期クリアボーナスもゲットできる。
そのための作戦は、今しがた伝えたばかりだ。
第七の部屋『謎の間』の床には、『竜の間』の見取り図や各自の配置図、ドラゴンの弱点や行動パターンなどがビッシリと、白のチョークで書かれていた。
一晩ぐっすり休んで、三人娘のスキルバレットもフルチャージされている。
これに、迷宮で得られる素材から作ったお手製のアイテムを持ち込めば、火力は十分だろう。
ビクトル自身も、いざというときのために『手榴弾』を2個、『閃光目眩まし玉』を2個を腰紐に引っ掛けている。
腰のポーチの中にも、いつも持ち歩いている『解毒剤』2つに『回復薬』2つ、それと『閃光目眩まし玉』が1つ入っている。
あとは、迷宮で手に入る『麻痺バリスタ矢』1本と『通常バリスタ矢』10本に、お手製のものを含めた合計23本のバリスタ矢の束と、『ミートワーム女王の毒玉』を所定の位置まで運ぶ役を負っているぐらいだ。
「(この戦いが終わったら、彼女たちともお別れか)」
そう考えると、少々しんみりした気持ちになる。
いつもの事だが、知り合ったマルカデミー本科生たちとの別れには、一抹の寂しさを感じずにはいられない。
「(まあ、散々、ハダカも拝み倒したしな……)」
和気藹々と言葉を交わしながらお手製アイテムをチェックする三人娘の様子を眺めながら、ビクトルは目に焼き付けたその裸体を思い返していた。
「(あとは、誰かここに留まってくれる子がいると最高なんだがな……)」
顎をさすりながら、そんなことを考える。
その時、戦士娘と視線が合った。
軽くウインクをすると、戦士娘が小さく投げキッスを返してきた。
「(ふふふ、やっぱ本命はこの子だろうな)」
今朝のことを思い出して、思わずニヤニヤが止まらない。
「『上手くドラゴンを倒せたら、今晩は二人だけの熱い夜にしない?』」
他の二人が洗面所で身支度中、耳たぶに熱い吐息を吐きかけながら、そんな事を囁いてきたのだ。
濡れた瞳で見つめ合い、まさにむしゃぶりつくような情熱的な濃厚キス。
脳髄までネットリと絡め取られるかというほどに、心の奥底まで高揚させられた。
久々に味わう熱い吐息と、腕の中で艶めかしく動くしなやかな肉体。
すべすべで柔らかな肌に触れ合う心地よさ。
やはりリムテア女は、情熱的で開放的だ────。
ビクトルは、そう思わずにはいられなかった。
薄着の上からその豊満な胸を揉みしだき、硬くなった突起にむしゃぶりついたところで、お預けを食らってしまったが。
妖艶な笑みを浮かべながら、スルリとベッドから離れていくその瞳が忘れられない。
無事にドラゴン討伐を終えたら、祝杯に取っておきのワインボトルを開けよう。
三人と飲み明かし、そしてそのあとで思うがままに、あの続きを……。
そう考えただけでも、鼻息が荒くなってくる。
色仕掛けなどされなくても、もともとドラゴン討伐に協力する気は十分すぎるほどにあったのは間違いない。
それでも、俄然やる気にさせられたのは、偽らざる本音だろう。
もちろん、青い果実の二人も捨てがたい。
魔法使い娘はすっかりビクトルを信頼しきっていて、期待通りに従順だ。
僧侶娘も、なんだかんだでビクトルの助言に感謝しているようだし、あとひと押しでデレそうだ。
「(どーせならもう、三人揃って俺の胸の中に飛び込んでこい! カモなう! ああ神様、選べない罪深き俺を、どうぞお許し下さい……ムフフ……)」
めくるめく妄想に、鼻をぷくぷくさせながら目を細め、うっとりと天を見上げるビクトルだった。
「はい、もうバッチリ」
「わたしの方も問題ありません」
「あたしも大丈夫よ」
妄想に浸っているうち、三人娘が装備のチェックを終えたようだ。
ビクトルは咳払いをすると、シャキッと胸を張って背筋を伸ばした。
「いいか、『麻痺バリスタ矢』は1回キリしか使えないからな。俺の指示を絶対に待つんだぞ。一番狙いをつけやすく、なおかつ、相手の攻撃を未然に防ぐ最高のタイミングで叩き込むんだ」
「同じことを何度も言わないでよね! それぐらい、分かってるんだから!」
『麻痺バリスタ矢』を打ち込む担当の僧侶娘が、プンスカと言わんばかりに頬を膨らませる。
「まあ、ミスった時はみんなあの世で仲良くしましょ」
「やめて、縁起でもない……」
明るく言い放つ戦士娘に、魔法使い娘が弱々しく首を横に振る。
「あたしに任せときなさい、ってば!」
僧侶娘はドンと胸を叩いて「フンッ」と鼻を鳴らした。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「扉、開きます!」
キリッとした口調で、魔法使い娘が『金のカード』を大扉横のカードリーダスリットにくぐらせる。
すると、大扉がキランと白い光を放って消え失せた。
「ゴー!」
ビクトルの掛け声を合図に、戦士娘が開け放たれた空間へと駆け出していく。
そこは直径60mほどの円筒形をした大きな空間だ。
天井までの高さはゆうに100m以上ある。
その天井の中心には、朱色で紋様の描かれた木製の円板がはめられている。
直径10m以上はあるだろう。
描かれた紋様の意味するところは、残念ながらビクトルにもわからない。
「(今のところ、攻略に関係して無さそうだから、いいんだけどな)」
そんな事を思いつつ、部屋の奥の床にうずくまるドラゴンを見据えた。
赤い鱗で覆われた、炎系のドラゴンだ。
侵入者たちの立てる騒がしい音に、ノソリとその長い首をもたげて、ギロリとした鋭い視線を向けて来る。
金色の瞳に縦長の鋭い瞳孔が、凶悪な雰囲気を醸し出していた。
「うおおおおおおお!」
長剣をスラリと抜き放ち、戦士娘が広い部屋の真ん中近くまで踊り出る。
そしてラウンドシールドを長剣の柄でバンバンと叩いた後、長剣を突き上げた。
「ヘイトルアー!!!」
戦士娘のマルカデミーガントレットが白く光り輝くと同時、戦士娘の身体から発せられる白いモヤ。
瞬間、ドラゴンはスックと起き上がると、鋭い牙を光らせて大きく吠えた。
「グガァァウッ!」
『ヘイトルアー』は戦士系の基本スキルのひとつで、モンスターをイラ立たせて注意を惹きつける効果がある。
ドラゴンはものの見事に、そのスキル効果に引っ掛かったようだ。
「よし、俺たちも行こう!」
「はい!」
「任せといて!」
僧侶娘は左に、魔法使い娘は右に壁伝いに走り始める。
ビクトルはバリスタ矢の束と大きな毒袋を両肩に引っ下げると、魔法使い娘の後ろを駆けていく。
ドラゴンは他の三人に目もくれず、頭を前に突き出して、戦士娘に向かって突進し始めた。
さあ、もうドラゴン戦! 果たして三人娘は勝てるのか!?