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飛んで火に入るドラゴン迷宮管理人  作者: みきもり拾二
◆第三章 ドラゴン迷宮管理人の破滅
35/68

【35】来訪者再び

「一体……何が起こったんだ……?」


 ダッカドたち以外の声がするということは、風呂場に侵入者……?


「……管理人洞窟から風呂場は覗けるから……」


 そこでビクトルはハッとなる。

 ────誰かが、聖騎士養成都市マルカグラードからやってきたのだ。

 そしていつもの覗きポイントに……!


 それに気づくと、ビクトルは頭を抱えた。

 だとしたら、逃げようとしても、外にいる連中に見つかってしまうかもしれない。

 何人でやって来たかは分からないが、取り押さえられて妙な疑いを掛けられれば、それこそ面倒だ。


「まずは、状況把握だ……」


 逃げ出せる状況なら、そのあとからでもいい。

 逃げ出せない状況なら……。


「……なんとかするさ」


 呟きながら、ビクトルは風呂場の方を覗き見た。


「ここは俺んらのクエスト中だ! 邪魔しようってなら許さねえ!」


 デクスターの怒声と、両手斧を構える音が聞こえてくる。


 開け放たれた脱衣所から覗き込むと、ダッカドとデクスターの向こう、風呂場の隅に少年の姿があった。

 顔を真っ赤に染めて、前に突き出した両手をブンブンと振っていた。


「お、俺は怪しい者じゃありません! 本当なんです! ね、サラさん!」

「(サラさん……? 知り合いなのか?)」


 少年の首には、白い首輪が巻かれている。日傭生だ。


 歳の頃は、10代半ばか。

 背は中背より少し高いぐらいで、焦げ茶色の髪に鳶色の目をしている。

 アッグルだろう。

 見たところ、どこにでもいる平凡そうな少年といった風貌だが……。


 ……どこかで会ったことのある顔だ。


 その足元には、覗きポイントを覆っていた頑丈な鉄格子が落ちている。

 少しグラついていたが、ついに落ちてしまったか……。


 それはともかく、石垣造りの大きな湯船の中では、全裸のプルデンシアとサラが抱き合ってしゃがみこんでいる。

 サラは何か言いたげな素振りをしているが、プルデンシアに固く抱きつかれて身動きが取れない様子だ。

 押し付けあった二人の乳房が、脇の横から丸くはみ出ている。

 吸い寄せられるようにして、ついつい、そこをガン見してしまう。


「怪しいよ! 怪しいよ〜、アスタくぅ〜ん! 見るからにね! ハインツくんもそう思うだろ〜? ほ〜ら犯罪者だよ、犯罪者」

「な、何言ってるんですか、ロンさん! 今はそういうこと言うの、やめてください!!!」


 通気口から聞こえてくる声に見上げると、丸メガネの男がニヤけ顔を覗かせていた。

 イスパン特有の金髪を綺麗に撫で付けて、青い瞳がイタズラっぽい光を湛えていた。


「(アイツは……!!)」


 その顔を見て、ハッと思い出す。


 ”呪われし”ロンフォード=ロンガレッティ。

 数日前、突然に迷宮管理人の洞窟に訪ねてきた丸メガネの金髪男と、その日傭生の少年だ。

 よく見れば、二人ともあの日と同じ格好をしている。


 ロンフォードは、フリルいっぱいの襟元に、大きな赤い宝石のはまったブローチ。白いシャツに白いズボンを履き、その上から白の上着を羽織り、裏地の赤い白マントを翻している。

 足には宝石の散りばめられた、白と黒の革靴だ。

 両手には真っ白の手袋をはめ、その上から左手にマルカデミーガントレットをはめている。


 アスタと呼ばれた日傭生の少年は、白のYシャツと黒の長ズボンの上に、簡素な革製のブレストアーマーをつけていて、腰にはショートソードを下げている。

 手には指先の出るタイプの革製のグローブ、足にはどこにでも売ってそうな革のブーツだ。


「(今度は一体、何をしに……? しかも風呂場にまで押しかけてきて……)」


 ビクトルが訝しんでいると、丸メガネのロンフォードを押しのけるようにして、またひとり、男が顔を覗かせた。


「ちょっといいですか、ロンさん」


 爽やかにそう言うと、軽やかな身のこなしで風呂場の隅にスタリ、と舞い降りてきた。


「お騒がせして申し訳ありません、お嬢さんたち」


 見上げるプルデンシアが悲鳴を上げるかと思いきや、ぽ〜っとした表情でその男の顔に見とれているようだ。


 無理もない。

 イケメン無罪というやつだ。

 肩まで伸ばした金髪がサラリと揺れ、綺麗な碧眼の優しい目つきをしている。


 ハノエル聖典教の濃い紺色の修道服の上から、白金のスケイルメイルを着込み、足はズボンの上から白金に輝く膝当てとプレートグリーブ。

 手には、ショートスピアを携えていた。

 右手に輝くマルカデミーガントレットの手首の色は────青だ。


「(イスパンの騎士だな。見慣れない顔だが……)」


 歳の頃は18、19といったところか。


「ちょおっと、ハインツくん! この私を差し置いて、先に降りるなんて酷いじゃないか!」

「僕は、マルカグラード聖騎士養成アカデミーの風紀委員をしている、ハインツ=ハイネス・ハインリッヒと言います」


 優雅な仕草で腰を上げ、堂々とした佇まいで名乗りを上げる。

 その瞬間、ダッカドとデクスターに動揺が広がった。


 名前を聞いて、ビクトルも驚きを隠せない。


「(あれが名に聞く”トリプルハイ”! 王国騎士にして『白騎士』の名を抱くハインリッヒ家の御曹司がマルカデミー入りしたって話は、聞いたことがあったが……!)」


 ミドルネームに”ハイネス”の称号を戴いているということは、今現在、王室に属している家系ということだ。

 そこいらの下流貴族でもなければ、一介の地方領主でもない、最上級の家系の出身と言えるだろう。


 ハインツは、淀みない仕草で懐から一通の巻物を取り出した。

 結び紐を解き、フワッとその巻物を縦に広げてみせる。


「このクエストに対しシステムハックの異常を検知、ならびに、クエストリタイア者からモンスター異常があったとの確認が得られました。

 我々はその調査と、システムハック犯捕縛のためにやって来ました。

 これは、マルカグラード聖騎士養成アカデミー理事長マルガリータ=マルカーキス殿からの、直々のご命令によるものです」


 そう言って、巻物の下部に記されたサインを指し示した。


 穏やかな口調だが、素早く、皆の表情に視線を走らせている。

 油断も隙も感じられない、こなれた様子だった。


「そこの奥にいるヒゲもじゃさんも含めて、みなさん、調査に協力していただきますよ」


 巻物を手早く閉じながら、ハインツは、白い歯をキランと光らせて微笑んだ────。





先日やってきたあの二人がようやくここで再登場!

もう一人、なんだかすごい肩書きの人がいますねえ?

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