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飛んで火に入るドラゴン迷宮管理人  作者: みきもり拾二
◆第二章 ドラゴン迷宮管理人の困惑
33/68

【33】冒険者たちの安息処


 ────ドラゴン迷宮『冒険者たちの安息処』。


「ぷあっはっはあっ! 風呂あがりの酒はうめーぜ!」


 ワインボトル片手に、舌鼓を打つデクスター。


「ほどほどにしておけ。明日に響くぞ」

「わ〜ってるって、ダッカドの兄貴」


 諌められてもご機嫌な様子のまま、デクスターは『ミートワームのステーキ』にかぶりついた。

 二人の前には、山盛りに盛りつけた『ミートワームのステーキ』と『麦パン』、『キノコとモヤシとジャガイモのスープ』が配膳されている。


 ダッカドとデクスターは、安息処に据え置かれた六人がけの丸テーブルで夕食中。

 ビクトルはその給仕をしている最中だ。


 安息処は、ダイニングキッチン、暖炉のあるリビング、二段ベッドが2つ据え置かれた寝室、風呂場、洗面台とトイレからなっている。

 ダイニングキッチンとリビングと寝室はつながっていて、一部屋と言ってもいいだろう。

 廊下を出て、一番奥にある転送装置の魔法陣を挟むようにして、その手前に風呂場とトイレの扉がある、といった配置だ。


「おう、なかなかうめーぞ。マルカグラードの料理店と遜色ねーわ」

「クエスト中に、このような食事ができるとはな」

「そりゃどーも」


 軽く礼を言うビクトルに、二人とも無反応だ。

 思わず心の中で舌打ちするしかない。


 ちなみに、キノコとモヤシはミートワーム女王の巣に群生していたものを採集したもので、ジャガイモはクレイゴーレムの土の中から掘り出したものだ。

 麦パンは、第三の部屋の宝箱に入っている『通常食』から出したものだ。

 さらに、食後のデザートには、ウッドゴーレムから採れたリンゴとみかんを、はちみつと塩で味を整えたフルーツ盛り。


 調味料やワインは、あらかじめビクトルが買い揃えておいたものだ。


 プルデンシアとサラは、今は風呂だ。

 ここの風呂は美容効果のある温泉で、楽しみにしていたらしい。

 先に風呂を済ませたダッカドとデクスターに、入れ替わるようにして、いそいそと姿を消してしまった。


「(コイツら、カラスの行水並みに早い風呂だったな)」


 二人がいない内にプルデンシアの『組織』の話を……と思っていたら、プルデンシアの料理話を聞いている内に風呂から戻ってきてしまったのだ。


 まあ、仕方がない。

 方法も時間も、まだいくらでもある。


 そのプルデンシアとサラを待ってからの夕食になると思いきや、ダッカドがさっさと腹ごしらえにすると言い出したのだ。


 別々に食事をすることに、特に問題があるわけではない。

 酒に酔って、さっさと寝入ってくれれば、それに越したことはない。

 逃げ出すにしても、その方が確実だ。


 デクスターの荒々しい食事の給仕をしながら、ボンヤリとそんなことを考える。

 よほど空腹だったと見えて、掻き込むようにして『ミートワームのステーキ』を次々に平らげている。


「(食い過ぎだ、バカ。こりゃ絶対、おかわりを要求してくるな)」


 デクスターの様子を横目で見ながら、保冷庫から取り置きのミートワームの肉を取り出した。幸い、ミートワームの肉は腐るほどある。


「(この様子じゃ、この先の『油壺の間』で使う予定の分まで平らげそうだな)」


 思わず苦笑しながら、チラリと二人の様子を窺い見る。


 ダッカドはワインをくゆらせながら、ゆっくりと味わっている様子だ。

 リムテアには珍しく、物静かで冷静な男だ。

 以前からそうだった。

 物欲も薄そうで、ただただ『組織』のやり方に忠実であるように見える。

 剣の腕は立つし、敵に回したくない男には違いない。


 なぜそのような男が、あえて『組織』に加担しているのか?

 その才能があれば、引く手あまたな気もするが……。


 心の奥底には、今の社会を憎む良からぬ考えが渦巻いているのかもしれない。


「おい、おかわりはねえのかよ?」


 あっさりと一皿を平らげたデクスターが、予想通り、不満げに声をあげる。


「ちょっと待ってろ。今、焼き始めたところだ」


 適当な大きさに切った肉を、早速、網に乗せて炙り始める。

 肉の焼き上がるのを待つデクスターは、大声で、レイスが大したことなかったとかどうとかと、話し始めた。


「(フンッ、いい気なもんだぜ。街の酒場にでもやってきたような態度だ)」


 給仕を買って出たとはいえ、駄賃を巻き上げてやりたい気分になってくる。

 それも、毒を盛られたくないという警戒心からだ。

 逆に言えば、そうした警戒を、ダッカドもデクスターもしていない、ということになる。


「(睡眠薬でもありゃあな)」


 今度、村に露店を出す時にでも仕入れておこう。

 そんなことを思うビクトルだった。


「最上級のモンスターだからってよ、俺んらの前じゃ塵も同然ってことだよな。そういやぁ、たしか……」

「ほらよ。お待ちどう」


 山盛りのミートワームの肉をテーブルに置く。話に夢中のデクスターは、礼も言わずにその肉に手を伸ばした。

 ダッカドは何くわぬ顔で、デクスターの話に耳を傾けている。


「こっちの食器は片付けるぜ」


 二人とも返答しないが、ビクトルは手早く、積み上げられた空の皿やナイフとフォークを回収していった。


「(ったく、返事ぐらいしろっての)」


 そんな事をボヤきながら、山積みの食器を手に、流し台へと向かう。


「(サラもプルデンシアも、長い風呂だな。まあ女の子だしな。あ〜あ、せっかくハダカを拝むチャンスだってのによ……)」


 どちらのハダカも見てみたい。


 サラは、あれだけの身体能力だ。

 きっとしなやかな腰つきから丸くて形の良い尻をしているに違いない。

 胸もそこそこありそうだった。

 肌ツヤもあるし、唇の色からして乳首も綺麗だろう。

 何より、男を惹きつける女らしい艷やかさがある。


 プルデンシアも、思ったより膨らみがあった。

 小柄で細い体型だが、出るところは出ているとなると、そのギャップに堪らなくそそられるものがある。

 いい香りもしていたし、あれでフォレシアン的には十分大人なのかもしれない。

 だとしたら、だとするぞ……!


 勝手な妄想に、変に胸がドキドキと高鳴ってくる。


「(くっそ〜、今すぐにでも管理人の洞窟に戻りたいぜ!)」


 気に入らない男たちの給仕をさせられているばかりか、無視されまくった挙句に皿洗いまでやっている。

 まるで、下積みの苦行を味合わされているかのような気分だ。


「(まあ、仕方ないか。変に物事を荒立てて、ヤツらに敵意を抱かれちゃ面倒だしな)」


 何と言っても、二人とも、激情家のリムテアだ。

 感情に火が付けば、何をしでかしてくるかわからない。


「(さすがの炎耐性の俺でも、その邪火には太刀打ち出来ないぜ。なーんちゃって)」


 冷たい水に濡れながら、しっかり泡を立てて皿洗いをしていた時だった────。


「てめえの声、どっかで聞いたことあんだよな」


 ドキッとするような言葉を投げかけられる。


 声に振り向くと、いつの間にか、デクスターがすぐ後ろに立っていた。

 木の切れ端を爪楊枝代わりに、シーハーシーハーしている。


 テーブルの方を伺うと、ダッカドは我関せず、といった素振りで静かにスープをすすっていた。





ホッと一息と思ったら……!

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