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飛んで火に入るドラゴン迷宮管理人  作者: みきもり拾二
◆第二章 ドラゴン迷宮管理人の困惑
32/68

【32】全滅危機!

「やべえっ!」


 ビクトルは咄嗟に口と鼻を抑えこんで、部屋の外の方へ身体を向けた。

 少し吸い込んだせいか、急激に目眩がして吐き気と頭痛が押し寄せる。


 急いで腰のポーチをまさぐると、『解毒剤』を掴み取った。

 アンプルの首をパキリと折り、中の液体をすぐさま喉の奥に流し込む。


 ゴクリと飲み込んで、胃に冷たい感覚が広がると、ビクトルの身体がフワンと白い光りに包まれた。

 そして徐々に目眩が収まっていく。


「う……くぅぅ……間に合ったぜ……」


 レイスの毒は強烈だ。

 肺から血液中に入り込み、一気に脳へと駆け上がってくる。

 大量に吸い込めば、3分ともたないはずだ!


「みなさん、解毒します! あたしの近くに来てください!!」


 プルデンシアの差し迫った声が響く。

 ダッカドとデクスターが、真っ青な顔をしてプルデンシアの牢獄へと駆け寄っていく。

 しかしすでに毒が回り始めているらしく、牢獄の鉄格子に崩れるようにしてしがみつくのが精一杯の様子だ。


 これでは部屋の隅に展開されているサンクチュアリも、型なしだ。


 牢獄の中で生け贄役の二人の日傭生も、目を剥いて泡を吐き出していた。


「うげえええ! うがあああああ!!」

「うぎょほっ! げふふひいい!!」


 酷い呻き声が木霊する。

 魔法陣脇でもがく戦闘役の日傭生には、ゴーストの1体がその首を掴み、魂を吸い取ろうと『デスキッス』を繰り出している。


 早くリタイアさせなければ、三人とも生命が危険だ……!!


「フオオオオオ……!」


 大混乱の中、レイスが赤い目を光らせて舞い降りてくる。


「はあぁっ!!」


 すかさずサラが、レイスに斬りかかった!


「……あの毒が、効いていないのか……?」


 ミートワームの毒糸が燻された白煙にも、スライムの毒霧でも、サラにはほとんど影響がなかった。

 空恐ろしさを感じながらも、今のこの状況では非常に頼もしいことに違いはない。


「ダッカドさん、今すぐ日傭生さんのリタイアを!」


 プルデンシアの叫びに、解毒を受けたダッカドがフラフラと立ち上がる。

 そしてマルカデミーガントレットを光らせて、三人の日傭生をリタイアさせると、再び苦しげに片膝をついた。


 無理もない、レイスの猛毒は疲弊が激しいのだ。


「コオオオオ……!」


 そんな中、サラに二度三度斬りつけられたレイスが、両腕を左右に水平に差し上げて、再び天井へと舞い上がる。

 その両手の下で、水色の光がキラキラと膨らみ始めた!


「猛吹雪だ!」


 しかしキャンセルボタンは、リタイアした日傭生の牢獄だ!


「やばい、サラ! あそこのボタンを押してくれ!」

「ヒイイィィィィ!!!!」


 ビクトルの声を遮るように、サラに向かってゴーストが襲い掛かる!


「はァァッ!!」


 咄嗟にゴーストを切り捨てるサラ!

 しかし!


「────キャンセルが間に合わない!!!」


 ビクトルが絶望に駆られたその時!


「マジックキャンセル、発動!」


 プルデンシアの声が響くと同時、天井がキラーンと白く光り、レイスの手のひらの光球が掻き消えた!


「へっ!?」


 レイスがクルリと身を翻すが、魔法はすでにキャンセルされている!

 ハッとしてプルデンシアの方を見ると、一瞬、その瞳がターコイズブルーに輝いていたように見えた。


「(まただ……確か、電撃ゴーレムの時も……)」


 確証は無いが、プルデンシアが先天性精霊力者(グァルノイド)の能力を使ったとしか思えない。

 ともかく、危機を脱したのは間違いない。

 気づけば全身汗だくで、小刻みに身体が震えていた。


「くっそ! 死ぬかと思ったぜ!」

「デクスター、ゴーストからだ」

「おうよ!」


 プルデンシアの『解毒』と『治癒』を受けたダッカドとデクスターが、持ち直した様子で、ゴーストに襲い掛かっていく。

 マルカデミーガントレットを煌めかせ、瞬く間に3体のゴーストを引き裂いた。


「はあっ!!」

「フオウ……!」


 部屋の中央では、サラがレイスと交戦中だ。

 レイスのあちこちが靄と化しているのに対し、サラは全くの無傷だ。


「ダッカド、デクスター! フルバレットブーストを叩き込むんだ!」

「おうよ! ダッカドの兄貴、ここは譲ってもらうぜ!!」

「いいだろう」


 さすがのダッカドも、これ以上、戦闘を長引かせるのは得策ではないと考えたようだ。


「古の賢者よ! わたしはここだぞ!」


 レイスの気を惹きつけようと、サラがわざと声をあげる。

 白い息を吐き出しながら、レイスは油断なく大鎌を構えてサラを見据えた。


 その隙に、デクスターがレイスの背後に回り込む。

 そして、すかさずスキルを繰り出した。


「おらああ! 剛弾カチ割り斬んんフルバレットブースト!!!!」


 マルカデミーガントレットがキランキランと輝いて、デクスターの身体がヒュンと高く跳ぶ!


 ズダァン!!


「シアアアア……!!」


 背中を真っ二つに引き裂かれ、一瞬にして、レイスの身体が靄と化す。

 赤く光る目が弱々しく点滅し、口から黒い煙をモワモワと吐き出した。


「頭にトドメ、イケルぞ!!」

「うっしゃああ!! 剛斧弾んんっフルバレットブースト!!」


 着地したデクスターはクルンと一回転すると、マルカデミーガントレットをキランキランと煌めかせながら、両手斧をブン投げた!


 ザグッ!!


 デクスターの放った両手斧が、見事にレイスの首を跳ね上げる!

 声もなく、レイスの頭が靄と化した。


 そして靄はそのまま霧散して、ゴトリゴトリと、王冠と腕輪だけが床に残された。


「やったぜ! ファイナルアタックいただきぃ!」


 パシッと両手斧を受け止めて、デクスターが右腕を得意げに突き上げる。


「やりましたね! さすがデクスターさんです!」

「でへへ……もっと褒めていいんだぜ、お嬢」


 にこやかに拍手を送るプルデンシアに、デクスターはニヤッと口角を上げて微笑んでみせた。


「(やれやれ、何がファイナルアタックいただきぃ、だ……)」


 危うく、毒霧で全滅してもおかしくないところだった。

 そのことを問い詰めたい気分で一杯だった。


「さあ、あと1体です。がんばりましょう!」


 プルデンシアの明るい声が木霊する。

 こういう時は、彼女の天真爛漫さに救われる思いだ。


 ビクトルは小さく首を横に振ると、額をビッショリと濡らす汗を拭った。


「……次は、ターンアンデッドのフルバレットブーストで、きっちり終わりにしようぜ」

「いいだろう」


 サラとダッカドが服飾品を飾り棚に収めると同時、魔法陣に黒い光が大きく揺らめいて、三度(みたび)、レイスが姿を現した。

 豪華な首飾りと腰ベルトを身につけている。


「シャハアッ!」


 白い靄を吐き出して、大鎌を振るうレイス。

 それを「ガキィン!」とデクスターが受け止めたところに、ダッカドが駆け戻ってくる。


 そしてダッカドはすぐに、マルカデミーガントレットをレイスに向かって突き出した。


「ターンアンデッド、フルバレットブースト!!!」


 ダッカドのマルカデミーガントレットがキランキランと光り輝き、レイスの足元に大きな白い光の輪が現れる。

 そして、情けない声を残して、レイスはその白い光の輪の中へと吸い込まれた。


「よっしゃ、決まったな! ダッカドの兄貴!」


 デクスターとダッカドが、軽くハイタッチを交わす。


「そいつを飾り棚に納めれば、『生け贄の牢獄』と、宝箱の扉が開く。早くしてくれよ」


 頭上に迫る針山を見上げながら、ビクトルが言葉をかける。

 さっき、日傭生が連打した分もあって、針山は半分ほどの高さまで降りてきていた。

 まだまだ余裕はあるが、やはりこの状況は居心地が悪い。


「コイツを納めなきゃ、どうなるんだ?」


 デクスターの意地悪そうな声に、ビクトルがハッとなる。

 その手には、豪華な腰ベルトを掲げていた。

 今更ながらに、自分の置かれた状況の危機を思い知らされた。


「……生け贄が捧げられれば、またレイスを3体倒すことになる」


 ハッタリだ。

 今までそうした場面に、出くわしたことが無いのだから当然だ。


「へえ、そうかい」


 チャラチャラと豪華な腰ベルトを揺らしながら、デクスターがビクトルを見つめている。

 まるで、言葉の真意を測ろうとしているかのようだ。


「……ま、いいんだぜ。レイスの討伐数を増やしたいなら、そうしろ。俺の指示がなきゃ、魔法キャンセルもおぼつかないだろうが」


 わざとらしく、ニヤッと笑ってみせる。


「やめないか、二人とも」


 すでに首飾りを飾り棚に納め終えたサラが、二人の間に割って入ってきた。

 呆れたように、「フン」と鼻息をついている。


「悪ふざけはそこまでだ。早くしないと、プルデンシアまで巻き添えになるぞ」


 キッとした視線でデクスターとダッカドを睨みつける。


「大丈夫ですよ〜、サラちゃん。デクスターさんはそんな悪い人じゃありません」


 一方のプルデンシアはニコニコ顔だ。

 肝が太いのか、ダッカドとデクスターを信頼しきっているのか……。


「デクスター、その辺にしておけ」


 ダッカドがクイッと顎をしゃくってデクスターを促す。


「わかってるって。冗談冗談。ヘヘッ」


 内心、ホッとしながらも、ビクトルは二人の動向を見守った。

 どうやら、不穏な動きはない。


 デクスターが服飾品を飾り棚に収めると、魔法陣がフワンと白く光を上げた。


「『はぁ〜い、お疲れさまでしたぁ〜。生け贄さんを解放しまぁ〜す♪』」


 あの気の抜けるような口調のアナウンスが鳴り響く。

 すると、頭上の針山がピタリと止まり、鉄格子がガリガリと音を立てて下がり始めた。


「(ふう、やれやれだぜ……)」


 ダッカドとデクスターに隙を見せてはいけない。

 ビクトルは心に強く、刻み込んだ────。




ピンチは脱したものの、まだまだ、信頼が置けるとは言え無さそうですね。……って、プルデンシアちゃんすごすぎません?w

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