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飛んで火に入るドラゴン迷宮管理人  作者: みきもり拾二
◆第二章 ドラゴン迷宮管理人の困惑
30/68

【30】ターンアンデッド

「ああ、そうだな。クレ持ちなら、ターンアンデッドが非常に有用だってのはわかるだろ?」


 『ターンアンデッド』は、僧侶と騎士が取得できる聖属性魔法で、アンデッド系のモンスターを一撃で葬り去る効果がある。

 たとえ葬り去れなくとも、攻撃力や防御力を低下させる効果が期待できるとも言われている。

 ただし、ターンアンデッドの重ねがけは効果が無いので、同じ相手に複数回の使用はあまり好ましくない。

 使用するなら、一発で、確実に葬り去るのが一番だ。


 幸い、レイスは1体ずつ出現する。


「前の部屋で入手した『魔法強化薬』を飲んでターンアンデッドを撃つ、フルバレットブーストでターンアンデッドを撃つ。これで2体のレイスを倒せるはずだ」


 先の三人娘も、僧侶娘のターンアンデッドで2体のレイスを倒している。


「うっひょう、そいつぁいいや」

「……いや、『魔法強化薬』はこの先のために置いておこう。通常発動二回、ラスト一体にフルバレットブーストを叩き込むのが得策と見た」


 言いながら、ダッカドは顎をさすると、チラリとビクトルを見た。


「言ったはずだぞ。制限時間は54分も無い。生け贄を見殺しにしたくなければ、2体をターンアンデッドで早急に倒しておいて、3体目を攻撃スキルのフルバレットブーストで一気に叩くのが最善にして最良なんだ。迅速にして安全かつ、不慮の事故が少ない」


 ここでもまた、二人の意見が割れたようだ。


「このあと、『魔法強化薬』の使いどころはあるんでしょうか?」


 ピコピコと大きな耳を動かしながら、プルデンシアが二人の顔を見比べるようにして尋ねてくる。


「無い。パーティに魔法使いがいれば別だがな」

「でしたら、ここで『魔法強化薬』を使う方が良さそうですね。ね、ダッカドさん」


 ニコニコ顔のプルデンシアに、ダッカドが片眉を上げる。


「……いいだろう。『魔法強化薬』使用、通常使用、フルバレットブースト使用の三回だ」

「いやいや。ターンアンデッドが失敗することもあるし、3体目に攻撃スキルのフルバレットブーストを叩き込む……」

「決まりだ。他に何かあるか?」


 頑として譲らない構えのダッカドに、ビクトルも溜め息をつくしかない。


「やれやれ。こっちも生命を張って生け贄役をやるんだ。きっちり片付けてくれよ」

「大丈夫だ、管理人殿。あなたの生命は、わたしが保証しよう」

「そう言ってもらえると、心強いぜ、サラ。頼りにしてる」


 ビクトルが親指をビッと立てると、サラは深く頷いて返した。


「あとは戦闘開始前に、サンクチュアリをフルバレットブーストで展開しておいてくれ。万が一の時の、安全地帯として使えるからな」

「そうしよう」

「ああ、頼む。俺からは以上だ」


 ビクトルが皆を見回すと、デクスターがニヤッと笑って首を「ゴキリ」と鳴らした。



 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



「じゃあ行くぜ!」


 魔法陣に立つデクスターが、両手斧を高々と突き上げる。


「我、四つの贄とともに、汝の怨念を雪ぐ者なり────!」


 言い終わるやいなや、床に描かれた魔法陣が黒の光を放って輝き始めた。


 同時に、『生け贄の台』を囲うようにして、天井に向かって鉄格子が「ガチャーン」と重い響きを立ててせり上がってくる。

 見上げると、天井から「ゴリゴリ」と低い音が響き、鋭い剣山がゆっくりとその切っ先を覗かせ始めていた。


「(いつ見ても、寒気がするぜ。毎回、上手く切り抜けているとはいえな……)」


 しかも今回は、全幅の信頼のおけないメンバーでの戦闘だ。

 サラが奮起してくれるとはいえ、その攻撃がどこまでレイスを脅かせるか、定かではない。


「(頼むぜ、サラ────!)」


 黒く渦巻く光の束が寄り集まって、やがてひとつの人影を形成していく。

 そしてピカっと光を放ったかと思うと、レイスが姿を現した。


 やや薄緑色に発光した半透明の身体。大きな両手持ちの鎌を携え、王族のような立派な衣装の上にローブを羽織っている。

 骨の手と顔が覗いていて、豪華な装飾が施された首飾りと腕輪を身につけていた。


 頭蓋骨の真闇のような眼窩には、赤紫色の光が灯っている。

 それはこの世のすべてを憎むかのような憎悪の色に燃えていた。


 足元の魔法陣からは黒の光がシュワシュワと立ち昇り続け、異様な雰囲気を醸し出している。


「クシャアアアアア……!!」


 突然、口から白い息を吐き出すと、レイスが手にした大鎌を斜め後ろに振り上げた。


「シャハアッ!!!」


 不気味な呼吸音と共に、大鎌をグルリと一閃!

 「ガキィン!」と音を立てて、デクスターの両手斧がレイスの先制攻撃を受け止めた。


「いけ! ダッカドの兄貴!」


 デクスターの声に、ダッカドが素早く『魔法強化薬』のアンプルをパキリと折って、中身をゴクリと飲み干した。

 フワリとした虹色の光に包まれたダッカドは、右手にはめたマルカデミーガントレットをレイスに向かって力強く突き出した。


「ターンアンデッド!!」


 マルカデミーガントレットの白い輝きに、虹色の光が纏わり付くようにして煌々とした輝きを放つ!

 瞬間、レイスの足元に、白い光の輪が現れた。


 そして虹色の光を撒き散らしながら、白い光の輪が「シュィン!」と一気に収縮した!


「ヒウゥゥゥゥゥ……」


 無念の声を上げながら、レイスの身体がその中に吸い込まれていく。

 そして、クルクルと回転しながら小さくなって、掻き消えた。

 ターンアンデッドの魔法が、完璧に効果を発揮したのだ。


 「ゴトリ、ゴトリ」と音がして、レイスが身につけていた首飾りと、腕輪が床に落ちた。


「やりましたね!」

「さっすがダッカドの兄貴だ!」


 日傭生たちからも「おー」と歓声が上がる。

 出だしは上々のようだ。


「よーし、いいぞ。その首飾りと腕輪を、壁の飾り棚に置いてくれ。そうすると、次のレイスが現れる」


 頷くと、日傭生とサラがひとつずつ、レイスの服飾品を拾い上げた。

 こうしてる間にもゴリゴリと重い音が不気味に響き、四人の生け贄役の頭上に鋭い剣山が迫ってきている。


「まだまだ余裕はありますけど、急ぎましょう!」

「問題ない、任せろ!」


 サラと日傭生が服飾品を収めると同時、魔法陣に小さく渦巻いていた黒い光が、大きく立ち昇る。

 そして、異様な呼吸音とともに、2体目のレイスが姿を現した。


 今度は頭に王冠、左手に腕輪の服飾品を身につけている。


「シャハアッ!」


 先ほどと同じように、すぐに大鎌を大きく振り回してくる。


「ターンアンデッド!!」


 すぐさま、ダッカドがターンアンデットを唱えると、レイスの足元に白い光の輪が現れた。

 しかし、今度はレイスが吸い込まれることはなく、白い光の輪はキラキラとした光を散らして掻き消えてしまった。


「失敗したか! フルバレットブーストを叩き込むんだ!」

「ヘヘッ! 構やしねえよ!」


 デクスターが、ホーリーウェポンのかかった両手斧をブルンと振るって、レイスに打ち掛かる。

 駆け戻ってきたサラが、それに続いた。


「でいっ! ふんがっ! ほいっ!」

「はっ! せいっ! やっ!」


 二人を相手に、レイスはキリキリ舞いだ。

 右腕と左半身が靄とかすむ。


「コオオオオ……!」


 レイスが怒りに赤い目を滾らせて、口から白い息を迸らせると、両腕を大きく振り上げ天井高くへと浮き上がる。


「ゴースト召喚だ!」


 宙でクルリとレイスが回転すると、魔法陣の黒い光が大きく立ち昇り、青白い半透明の身体をしたゴーストが次々と現れた。


「ヒイィィアアァァァァァ……!!」


 この世の何かを呪い、嘆き悲しむような叫びだ。





指示を無視してますが、2体目は無事に倒せるんでしょうかねえ?

なんだかんだで、レイスはゴースト系最上級モンスターなのに……。

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