【03】お風呂♪
「あ〜、生き返るぅぅぅ〜。ホンッッッッット、温泉っていいよね〜」
僧侶娘が顎先まで湯に浸かりながら、ほおっと大きく溜め息をついた。
「今日は災難続きだったから、余計に癒やされます……」
その横で、頬の汗を丁寧に拭い取り、心地よさそうにそっと微笑む魔法使い娘。
「こ〜んな立派な安息処があるなんて、さっすが『最上級クエスト』の『ドラゴン迷宮』ね。ンフフ」
すっかりご満悦な表情の戦士娘が、風呂の石垣に両肘を乗せてくつろいでいる。
その豊満な乳房がわずかに水面に浮き上がり、タプタプと揺れていた。
「(いい! 若いってのは最高にいい!)」
風呂場の角、通気口から三人の様子を覗きこむヒゲもじゃ男ビクトルが、ニヤニヤとイヤらしい笑みを浮かべていた。
すでに夜。
ゴーレムの部屋を無事にクリアし終えた三人娘は、迷宮の冒険者向けに用意された安息処の大きな風呂場で、入浴を楽しんでいた。
ここはマルカグラード聖騎士養成アカデミーが管理する迷宮のひとつ、ドラゴン迷宮。
最奥でドラゴンが待ち構える『竜の間』を含めて、計八つの部屋で構成されている。
ドラゴン迷宮攻略クエストの期限は5日。
1日でのクリアは不可能だからということで、わざわざ風呂場付きの安息処まで設置されているというわけらしい。
ちょっと過保護すぎやしないか?
そう思わないでもない。
しかし、目の前に広がる楽園に、心の中で「マルカデミー、グッジョブ!! グッジョブ、マルカデミー!!」を叫ばずにはいられない。
「それにしても、まさか今日一日で、日傭生全員リタイアさせちゃうなんて……」
「まあ、仕方ないんじゃない? それぐらいやってもらわないと、”最上級最難関”って感じしないし」
「キモいワーム77匹、スライム94匹、ゴーレム32体だっけ〜? 初日なのに、討伐数ハンパな〜い」
「私なんて、ファイナルアタック68回も取ってたわ」
「えええ……すごいです」
「あんたも、モンスター討伐ポイントだけで、日傭生をリタイアさせた分、ポイント回収できたでしょ?」
「はい。まあ、それはそうなんですけど……」
マルカデミー本科生は、ある一定以上の『マルカデミーポイント』を溜めれば無事に卒業となる。
そのマルカデミーポイントは、「講義に出席」「クエストクリア」「モンスター討伐」などによって入手可能だ。
ただし、リタイアには、マルカデミーポイントを消費する必要がある。
もちろん、日傭生をリタイアさせるにも。
だからほとんどの本科生は、自身もリタイアしたくないし、日傭生もリタイアさせたくない、というのが本音だろう。
日傭生は日傭生で、単なる稼ぎのためだけでなく、ほとんどの者がマルカデミー本科生になることを目標にしている。
日傭生として雇ってもらい、クエストクリアすることで、その功績がデータベースに蓄積され、入試資格を得られるようになるのだ。
だからリタイアすれば、稼ぎが得られないだけでなく、本科生になるための道も遠のいてしまう。
戦力とマルカデミーポイントを失う本科生と、日銭と入試機会を失う日傭生。
双方、痛みを伴う決断なのは間違いない。
「明日からはレイスと油ガマガエルとイフリートも倒す、っておっしゃってましたよね」
「もうドラゴン倒すだけでいーよー、そんなに戦闘するの面倒くさいよー」
「わたしたち三人で、ホントにクエストクリアできるんでしょうか……?」
「うーん、これは私の勘だけど、あのヒゲ男、信用できると思うわ。ここのことよく知ってるみたいだし」
「フンッ! あんな浮浪者みたいな男、ほんっとに信用できるんだか……」
僧侶娘がザバリと水面を揺らして立ち上がる。
腰に手を当てると、さも気に入らないとばかりに頬を膨らませた。
なだらかな胸を湯滴が伝い落ち、薄い下毛から太ももに滴り落ちていく。
「(金髪に青い瞳、真っ白な肌、強気でキツイ性格。────典型的なイスパンだな)」
金髪碧眼痩身の多いイスパンは、男も女も美形揃いだ。
ただ、性格はキツく、相手にするには骨が折れる人物が多いのも特徴だ。
イスパンから言わせると、穏やかに論争しているだけだそうだが、他者から見ると、バカにされているとしか思えないような言動が多いのだ。
この僧侶娘も多分に漏れず、唯我独尊な雰囲気がある。
身体の方はまだ成長途上か、小柄なうえに予想通りのつるぺただ。
淡く色づく小さな乳首は可愛らしいが、どこかまだ、子供っぽさをそこかしこに残している。
「(しかし、ふむ……尻はいい! 丸みのあるなかなかいい尻をしているな)」
顎ヒゲをゴリゴリさすりながら、ニヤニヤとその裸体を眺め回す。
丸い尻からスラっと伸びる白い太ももは、なかなかそそるものがあった。
今は膨らみすら無いその乳房も、丁寧に揉みしだいて心地よい刺激を与えていけば、きっと大きくなるはずだ。
キツイ性格でも、女としての本能に目覚めれば、あるいはかえってデレデレになるという可能性も無くはないだろう。
美形揃いのイスパンだけに、今後への期待は一番、といったところか。
「でも、あのヒゲ男の言う通りにやって、あれだけいたゴーレムもあっさり討伐出来たのは確かでしょ? 最後に電撃ゴーレムまで出てくるだなんて、聞いてないし」
戦士娘は少しウェーブのかかった黒髪をうなじからそっと掻き上げると、艶めかしく頭を振った。
三人の中では一番年長だろうか? すでに、女としての魅力を十二分に備えているようだ。
「(リムテア女だな、間違いない────)」
ヒゲ男ビクトルが、胸を高鳴らせて「フフリ」とほくそ笑む。
戦士としてよく鍛えあげられた引き締まった肉体に、それでいて女性らしいラインを維持した豊満なバストと大きなお尻。
褐色の肌に艶やかな瞳、そして妖艶さを漂わせる厚ぼったい唇。
むせ返るような色気に溢れていた。
それにリムテアは、男も女も情熱的にして開放的な性格だ。
激情さえこじらせなければ、明るく陽気な人柄が多いのだ。
そして気が合えば、誰とでも肌を重ねるのがリムテアの流儀だ、なんて話はよく耳にする。
彼女といい仲になれば間違いなく、熱い夜をお願いできるだろう。
「(その肉体からどんな性技を繰り出してくるのか……! 想像するだけでどうにかなっちゃいそうだぜ!)」
彼女と過ごす日々はきっと、それだけで時が過ぎるに違いない。
身体が保たないぐらいの疲労感の中、二人で激しく求めあいたいぜ……!
なんてことを想像すると、身体の芯からウズウズせずにはいられない。
「スキルをフルバレットブーストで使って、ひと部屋クリアするたびに8時間のスキルバレットフルチャージ休憩を挟む。その方法でも2日もあれば大丈夫、っておっしゃってましたよね。わたしたちだけでは、とてもそんな発想になりませんから」
魔法使い娘がおずおずと、僧侶娘の顔を見上げる。
鳶色の綺麗な瞳、肌は病弱な印象を受けるほどの白さだ。
わずかに膨らんだ胸と、薄らと浮いたあばらに、細い太もも。
華奢すぎるその身体は、抱きしめただけ壊れそうなほど儚い印象を受ける。
「(イスパンと原種アッグルの混血かな。────まあ、いわゆるアッグルだ)」
アッグルは『北アグリア大陸の人』という意味を表す言葉だ。
本来は、イスパンやリムテアがやってくる以前から北アグリア大陸に住んでいた種族のことを指すのだが、混血が進んだ今現在は、”イスパンでもリムテアでもフォレシアンでも無い人”のことを総称してアッグルと呼ぶ。
「(言葉遣いや気遣いからして、出自は良さそうだな。もしかすると、下流貴族の家柄かもしれないぞ!)」
控えめな仕草や言葉遣いも、庇護欲を掻き立てるものがある。
ガリガリなその身体さえなんとかなれば、一番彼女にしたいタイプかもしれない。
「(俺と一緒にしばらくここで暮らせば、美味しい手料理を食わせてやるぜ! そうすればきっと、肉付きも良くなるぞ! そしてあんなことやこんなことを教えこんでだな……)」
素直で従順そうだし、教えた分だけ精一杯に尽くしてくれるに違いない。
思わず、フンフンと鼻息が荒くなる。
戦士娘が熟した食べ頃の果実とすれば、僧侶娘と魔法使い娘はまだ、熟しきっていない青い果実といったところだろう。
だからこそ、今後の手入れ次第で如何様にも成長していくに違いない。
「ま、とにかく私らにできる事といえば、ひとまずあのヒゲ男の言う事に耳を貸してみるってことぐらいでしょ。ダメならダメで、適当なところでリタイアしちゃえばいいことだし。その分のポイントも、十分溜まったしね」
「ドラゴンにあたしのモーちゃんブチ込むまでは、リタイアしないんだから!」
「そこまで無事に行けると良いですね……」
「なんとかなるでしょ〜、ンフフ」
「明日もみんなでがんばろー!」
「はい、そうですね」
なんだかんだで、三人、上手くやっているようだ。
「(フッフッフッ。やる気があるってのは、俺にとっちゃ好都合。まあ、任せとけって。お望み通り、ドラゴン討伐も達成させてやるよ)」
ビクトルは「フフリ」と微笑むと、そっと腰を上げた。
「(さて、と。気づかれない内にキッチンに戻るか)」
今は三人の信頼を得るのが先決だ。
覗きがバレようモノなら、すべてのチャンスがフイになりかねない。
それにまだ、覗き見るチャンスはある。
暗闇の中、ビクトルは静かにその場をあとにした────。
いきなりお風呂でスミマセン(ウフフ