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飛んで火に入るドラゴン迷宮管理人  作者: みきもり拾二
◆第二章 ドラゴン迷宮管理人の困惑
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【29】第四の部屋


「……とまあ、部屋の構造はこんな形だ」


 チョークをクルリと回すと、ビクトルは皆の顔を見渡した。


 第四の部屋『古賢者の間』の前。

 通路の壁に、八角形をした部屋の間取りを書き記していたところだ。


 この部屋は、レイスを3体倒し、6つの服飾品を入手しなければならない。

 レイスは、言わずと知れたゴースト系の最上級モンスターだ。

 両手持ちの大鎌を振り回し、4種類の魔法を繰り出してくる。


 そして時折、ゴーストを召喚することがある。

 このゴーストが、昼には2体しか現れないところ、夜には6体現れてしまうのだ。

 ゴースト自体はさほど強くはない。

 だが、ゴーストの叫びは人の心を掻き乱し、恐慌に陥れてしまうことがある。

 恐怖でパニックに陥った人間は、ゴーストの思うがままだ。

 冷たい手でしがみつき、生きたまま魂を吸い取る『デスキッス』。

 霊体エクトプラズムが引き出される様は、見るもおぞましい光景だ。


 さらに厄介なのは、ゴースト系のモンスターには、物理武器攻撃が効かないことだ。

 エンチャントのかかった武器か、スキル攻撃でなければダメージを与えられない。

 エンチャントスキルを持っていなければ、スキルバレットの消費が激しくなるというわけだ。


「そして、この『生贄の牢獄』も厄介な要素の一つだ」


 ビクトルがコンコンと、チョークで壁を指し示す。


 部屋中央の床には、魔法陣が描かれている。

 その魔法陣を取り囲むようにして、生贄を乗せる正方形をした石の台が四つある。

 ここに生贄役を乗せて呪文を唱えると、魔法陣からレイスが現れ、戦闘が開始される。


 そして戦闘が始まると同時、生贄の台の周囲には頑丈な鉄格子が現れる。

 容易に逃げ出すことのできない、まさに牢獄といったところだろう。


 それに加えて、天井から鋭い針山が降りて来る仕掛けもある。

 針山は60分で生け贄の台に到達する。

 天井から生け贄の台までは10m。6分間で1m進む計算になる。

 人間の身体には厚みがあるから、およそ54分で決着をつける必要があるというわけだ。


「54分でレイス3体……」

「聞いただけでも大変だろ?」


 レイスは手強く体力も多い。

 短期決戦を目指すなら、スキル攻撃フルバレットブーストのオンパレードでいくしかない。

 ただし、フルバレットブーストと一口に言っても、残弾数が多い方が効果は高くなる。

 だから疲弊した状態で臨むより、フルチャージされた状態の方が望ましいのだ。


 ビクトルが休憩を勧めるのも、そうした理由があった。


「ちなみに、生け贄も指を咥えて見てるだけ、ってわけじゃない。台の上にあるボタンを押すことで、レイスの魔法を食い止めることができるんだ」


 レイスの放ってくる魔法は、『毒霧』『石化霧』『魂吸い取り』『猛吹雪』の四つだ。


「これに『ゴースト召喚』を含めて、五つの固有モーションがある。そのモーションでどのボタンを押せばいいかが判断できる。で、魔法を発動する前にタイミングよくボタンを押せば、綺麗にキャンセルできるってこと」


 レイスと戦闘を行いつつ、チームで密に協力し合うことも、この部屋では試されるというわけだ。


「ただし、ひとつだけ注意点がある。魔法キャンセルボタンを押すと、頭上の針山が1m下がってきてしまうんだ。4つの台、全員分のね。それにより、討伐しなければならない時間はさらに短くなってしまう。だから、レイスが魔法を何度も繰り出してくる前に倒す必要もあるってわけだ」


 ビクトルの言葉に、日傭生たちが息を飲む。

 すでに自分たちがそこに乗せられるであろうことを予期しているようだ。


 ちなみに、生け贄役は人間である必要はない。

 台に乗せる重量が関係しているらしく、20kg以上の物さえ乗せておけば、戦闘は開始できる。

 三人娘の時は、ビクトルと魔法使い娘が生け贄役になり、あとの二つはアイアンゴーレムの鉄屑を乗せた。

 そして戦士娘が、二つの無人の牢獄のボタンを押す役を担当して、凌いでいる。


「まあ、どのタイミングでどのボタンを押すかの指示出しは、俺に任せてくれ。『生け贄の牢獄』の中にいれば、レイスやゴーストの武器攻撃を食らうこともないから、ある意味、安全だ。怪我人や魔法使い、アーチャーなどは、ここに入ることをオススメするぜ」

「あたしたちのパーティは、魔法使いもアーチャーもいないんですよね」

「だな。残念ながら、『生け贄の牢獄』の利点を利用することはできなさそうだ。まあ、もともとレイスは魔法耐性が強いし、ダメージソースはホーリーウェポンなどのエンチャントをかけた戦士に任せるのが一番さ」

「わたしの闇力は効くのだろうか?」

「それは問題ない。闇属性に斬れぬモノ無しだ」


 サラに向かって、ビクトルは自信ありげに親指を立てた。


「レイスは攻撃を食らわせると、ダメージを受けた箇所が一時的に靄のようになる。靄になった状態では攻撃を加えても意味は無い。だからできる限り、違う部位を狙って攻撃してくれ。……っと、その前に、役割を決めておくか。戦闘役はそっちに、生け贄役はこっちに集まってくれ」


 ビクトルは壁に縦線をピーッと引いて、縦線の左に「戦闘役」、右に「生け贄役」と書き込んだ。


「俺は指示を出すためにも、『生け贄の牢獄』に入ろう。いいだろ?」


 言いつつ、「生け贄役」側へと移動する。


「あとの生け贄役は、お嬢と日傭生二人でいいだろ。なあ、ダッカドの兄貴」

「ああ、そうだな」

「あたしは構いません。囚われのお姫様、ってなんだかカッコ良くないです?」


 胸の前で手を合わせ、呑気なプルデンシアの言葉に、一同がニヤリと笑う。


「よし、じゃあこれでいいか?」



 <戦闘役>

 ダッカド、デクスター、サラ、日傭生一人


 <生け贄役>

 ビクトル、プルデンシア、日傭生二人



 別れて集まった一同だが、ビクトルの問いかけに誰も言葉を発しない。

 特に、生け贄役に割り当てられた日傭生たちは、どこか顔色が悪そうだ。


「他に、何か攻略法は無いのか? これだけでは、ただ単に、事前に情報があるだけのようだが」


 ダッカドが冷たい視線で問いかける。


「まあ、焦んなって。そもそもだ、エンチャントは誰かできるのか、ってとこから聞くべきなんだ」

「それなら問題ねえ。ダッカドの兄貴はクレ持ちだ」


 デクスターが得意気に言い放つ。


「ほう、そうなのか?」

「ああ。サブクラスにな」

「ランクは?」

「Cだ」

「へえ」

「以前のクエストで、ダッカドさんの回復とサンクチュアリで、ピンチを凌いだこともあるんですよ。ダッカドさんは、腕の良い僧侶さんなのです」


 ビクトルが知っているダッカドは、ただ剣の腕が立つだけの日傭生だった。

 マルカデミー本科生になって、殊勝にも、研鑽に励んでいたということだろう。


「(リムテアには珍しく、現実的で合理主義者なところがあるからな)」


 聖属性の使い手である僧侶と騎士には、対アンデッド系スキルが豊富だ。

 マルカデミーは、あくまで”聖騎士養成アカデミー”であるから、その特性を活かすクエストが多いのも当然だろう。


 アンデッド相手と聞いて、ダッカドがその気になったのも頷けた。


「僧侶のスキル、確認させてもらっていいか?」

「いいだろう」


 ダッカドは頷くと、ガントレットの甲をタップして、ステータス画面を開いた。

 宙にシュインと音を立てて、半透明のモニターが浮かび上がる。


「ターンアンデッド、ホーリーウェポン、サンクチュアリ、ヒール。基本スキル4つだけか」

「そうだ」

祝福(ブレス)は無いのか?」

「我らには不要だからな」

「ふむ……」


 『祝福(ブレス)』は、精神安定と士気向上をもたらすグループエンチャントだ。

 それによって、少々の攻撃力アップや防御力アップが望める、と言われている。

 加えて、ゴースト系の恐怖スキルに対抗するには有用だ。

 とはいえ、通常では大きな効果があまり期待できず、使いどころが限られる、というのは間違いないだろう。

 スキル取得の効率性を重視する本科生たちの間では、無用スキルとして取得されないことが多いのだ。


「……まあ、いいだろう。しかし、ホーリーウェポンがあるってことは、日傭生3人も、戦力になるんじゃないか? 生け贄には鉄屑を乗せて……」

「戦闘役が6人では多いだろう。貴様の示した、その図によるとな」


 言いつつ、ダッカドが壁に描かれた部屋の見取り図を顎で指し示した。

 八角形の部屋で、広さは10m四方程度だ。

 さらに4つの『生け贄の牢獄』がある。


 近接武器を振るうには、広さ的に四方向から一人ずつ、つまり4人がベストとも言える。


「ああ、たしかにそうかもしれないな」

「で? 何か良い攻略法はあるのか?」





生け贄の台とか……嫌な予感しかしないッ!

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