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飛んで火に入るドラゴン迷宮管理人  作者: みきもり拾二
◆第二章 ドラゴン迷宮管理人の困惑
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【28】不信感

「だーかーらー、俺の指示をちゃんと聞け、って言ったろ?」

「ケッ、うっせえよ」

「ああ〜ン? 偉そうなツラして『命令無視した挙句、ヘマしたヤツは許さねえ』とか言ってたのはどこの誰だったかなぁ?」


 ヒゲもじゃ男ビクトルが、嬉しそうに目を細めて、顎ヒゲをゴシゴシとしごいている。

 まだ少し、電撃の影響が残る様子のデクスターは、目を見開いたあと、顔を歪めてそっぽを向いた。


「まあまあ、いいじゃないですか。誰にだって、失敗はありますよ」


 細い目をさらに細めて、耳をピコピコ動かしながらプルデンシアがデクスターの肩を優しく叩く。


「お前、ここに来て二度目だろ? サラに助けてもらったの」


 「フフリ」と笑うビクトルに、デクスターはそっぽを向いたまま身動ぎしなかった。

 プルデンシアが「デクスターさんは強いから本当は大丈夫なんですよ〜」なんてフォローをしているが、それも果たしてどうだろう、といったところか。


 だいぶ溜飲を下げた様子のビクトルが、サラの視線に気づいて顔を上げた。


「管理人殿、あなたの持つ知識は素晴らしい。情報があるだけで、これだけ戦いやすいとは思わなかった」


 穏やかな表情のサラが、ビクトルを見つめている。

 その澄んだ瞳は、尊敬の眼差しに彩られているようだった。


 ビクトルは、少し照れたように鼻の下をこすった。


「役に立ったようで、光栄だ。まあ、バカとはさみは使い様ってな。上手く使えなきゃ、ただのムダ知識さ。それに……」


 肩をすくめて微笑みかける。


「今回は、サラに救われた。結局は、優秀な戦士が必要ってことさ」


 それでもサラは真剣な面持ちで、小さく首を振った。


「わたしは所詮、作戦のピースに過ぎない。予期せぬことが起こるのは戦場の常であり、そうした小事で才を発揮するのが兵の務めだ。だが管理人殿、あなたの知識は軍を率い、勝利に導くに足る価値があり、あなたはその使い方を心得ている。これは賞賛に値することだ」


 嫌味のない、キラキラした瞳に見つめられ、ビクトルは照れるしかなかった。


「あたしもサラちゃんの言うとおりだと思います」


 同意するプルデンシアもニコニコ顔だ。

 この二人とは上手くやれそうだと、ビクトルは感じていた。


「ハハハッ、まあ、なんだ。その……」


 言いかけた時、宝箱の捜索を終えたダッカドと三人の日傭生が近づいてきた。


「貴様の言うとおり、『鉤爪のメダル』があった。これで2つ目だな」

「『スキル強化薬』と『魔法強化薬』も重要だぜ。無くさないようにな。それと、『鋼鉄のカード』があったろ? ソイツで『冒険者たちの安息処』に行けるから、今日はもう終わりにしようぜ」

「ほう、安息処があると?」

「ああ、そこの通路を出たすぐのところに転送装置の魔法陣がある。そこからピュン、と飛ぶだけだ」

「いいですね〜。ここのお風呂は、温泉らしいんですよ」


 耳をピコピコ揺らしながら、プルデンシアが嬉しそうに両手をポンと合わせる。


 そういう情報だけは把握してるんだな、とビクトルは苦笑した。

 天然っぽいプルデンシアらしいと言えばプルデンシアらしい。


「というわけで……」

「いや」


 「安息処へ向かおう」と言いかけたところに、ダッカドが制するように片手を上げた。


「その前に、次の部屋について聞いておきたい」

「ん? そんなの、安息処に戻ってからでよくないか?」

「今、聞きたいのだ」


 ダッカドが、冷たい目つきでビクトルを見据えている。

 ビクトルは小さく肩をすくめると、「フン」と鼻息をついた。


「第四の部屋『古賢者の間』は、レイスの討伐がメインだ。ゴーストも出てくる」

「ほう、アンデッドか」


 そう言うと、ダッカドは何事か考えこむようにして顎に手を添えた。


「待ってくれよ。まさか、今すぐ攻略したい、とか言い出すんじゃないだろうな?」


 ビクトルの言葉に、チラリとダッカドが視線を上げた。


「アンデッドならばやりようがある。次の部屋まで進んでおこう。今日は出発に出遅れた」


 冷たい視線が、ビクトルを真っ直ぐに捉えたまま離さない。

 その目に、何か思惑がありそうだと、ビクトルは感じずにはいられなかった。


「待て待て。ここは素直に俺の意見に従った方がいい。もう夜だ。次の部屋は、この時間帯は面倒なんだ」

「そう言って、我らから逃れるつもりか?」

「はあ? なんでそうなる?」


 辛抱強く対応していたビクトルだが、これには眉を潜めるしかない。

 ダッカドの、ピクリとも動かない冷たい視線も煩わしい。


「次の部屋でおそらく、クエスト達成率50%だ。そうなれば、貴様が突然いなくなったとしても、我らに不都合はなくなる」

「俺が逃げ出すこと前提か? この部屋だって、すべて俺の言った通りだったろ」

「まだ信用出来ない」


 はっきり言われて、さすがのビクトルもカチンと来た。


 確かに、隙あらば逃げ出そうとは考えていた。

 しかしサラとプルデンシアの事も気になるし、陰ながらの助力は考えないでもなかったのだ。


「まだ信用出来ないってなら、俺の助言も意味ないだろ」

「信頼して欲しければ、次の部屋を攻略してからだ」

「なんだそりゃ……」

「ハッハッハッ、さすがダッカドの兄貴だ。よそ者を軽々しく信用するのは、ただの腐れ脳みそだ!」


 ふてくされていたはずのデクスターが、ここぞとばかりにダッカドの肩を持つ。


 上から目線も甚だしい。

 やはり協力するんじゃなかったと、ビクトルは心の奥で舌打ちするしかなかった。


「じゃあな、あばよ」


 抗議するように片手を振り上げると、クルリと踵を返す。


「待ってくれ、管理人殿」


 サラの制止に、ピタリと足を止めるビクトル。

 振り返ると、サラが真剣な眼差しでビクトルを見つめていた。


「わたしはあの黒いドラゴン────狂化ドラゴンを倒さなければならない。そのためにここに来た。どうか、あなたの力を貸してほしい」


 胸に手を当て、懇願するような眼差しでビクトルを見つめている。

 契約者の思惑に左右されるのは、日傭生のやるせなさだ。


 もともと、サラを助けようとしてこの状況に飛び込んでしまった経緯ではある。

 ダッカドの言葉だけでそれを放棄してしまうのも、半端に違いない。


 サラが助けを求めているのなら、その期待に応えたい────。


 それがビクトルの、偽らざる本音だった。

 今ここでビクトルが去ったとして、このまま彼らが次の部屋に向かったなら、やはりビクトルは手助けせずにはいられないだろう。


 サラとプルデンシアのためにも────。


 ビクトルは腰に手を当て、「フン」と鼻息をついた。


「わかったよ、サラ。キミがそういうのなら俺は協力しよう」


 言いつつ、ダッカドに向き直る。

 表情一つ変えず、ダッカドはビクトルを見据えていた。


 相変わらず、嫌な目で見ていると思わざるを得ない。

 だが、サラのためなら、立ち向かえる気がした。


「まあ、そういうわけだ。是非とも、俺の言葉に耳を貸してもらいたいね。信頼するに値するかどうかは、そちらの判断に任せるよ」






なんだかヤな感じですねえ……。

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