【27】電撃ゴーレム
「よーし、ソイツを倒せば、ラストの雷撃ゴーレムだ! デカイ雷撃のあとに現れるからな! 端っこにいても、ちょっとビビッと来るだろうが、その窪みから出ないようにしてくれ。一人でもそこに残ってないと、また最初っからになるからな!」
ビクトルの言葉に、サラが深く頷く。
サラがいてくれれば大丈夫だろう。
その戦士としての強さと誠実さが、頼もしく感じられる。
「電撃ゴーレムは他とは違い、胸のコアが分厚い装甲で隠されてる。だからまず、これを破壊しなきゃなんないんだ! デカイ雷撃が来る、雷撃ゴーレムが現れる、両腕を上に上げて吠える。この時がチャンスだ! みんなで『爆発スライムコア』を一斉に投げ込んでやれ!」
日傭生たちが「おう!」と応えると同時、デクスターが両手斧を斜め後ろに構え直した。
ブンブンと両腕を振るうアイアンゴーレムの攻撃を掻い潜り、マルカデミーガントレットを煌めかせる!
「ヘヘッ! 木端粉砕斬んん!」
ズドン! パァァァン!
乾いた音が響いてアイアンゴーレムの胸のコアが砕け散る。
奥の壁の石版が青く輝き、天井の12個のランプすべてに明かりが灯った。
すると、中央の天井付近に漂っていた黒い雷雲が、にわかにゴロゴロと音を立て始めた。
「来るぞ! 窪みの端に退避!」
デクスターとサラの二人が、急いで窪みの端に退避する。
そしてダッカドが、ビクトルの目の前に走り寄ってきた。
仄かな灯りの中で、ダッカドの濃い灰色の目と視線が合う。
それはいつもの無表情の中で、冷たい眼光を放っていた。
だが……曲刀を持つその手が、微かに震えている。
「……ん?」
ビクトルが訝しげに眉を潜めたその時、ダッカドの背後で激しい雷鳴が轟いた!
ガラガラガラ! ドシャアアァァァァァン!!
太い稲妻が床を撃ち、地を這う蛇の如く電撃が散る。
「くそっ、ビビッと来やがった!」
両手斧を構えたデクスターが苦しげに、片膝をつく。
間髪を入れず、「ズドォォォン!」と轟音を響かせて、高さ3mはあろうかという大きなゴーレムが姿を現した。
顔・胸板・肩・肘・手首・腰・膝・足のパーツは他のゴーレムと共通だ。
しかし、その肉体は青光りする電撃で構成され、胸のコアは分厚い胸板で覆い隠されている。
手首の端からビリビリと電撃を迸らせ、無表情なその目が威圧的にキランと煌めいた。
「ウオオオオオオオオオン!!!」
肘を曲げた両腕を振り上げて、大きく一声咆哮する。
「今だ!!!」
誰よりも先んじて、ビクトルが手にした『爆発スライムコア』を投げつける!
それを合図に、一斉に皆が『爆発スライムコア』を投げつけた。
電撃ゴーレムに纏わり付く電撃が、投げつけられた『爆発スライムコア』を微かに穿つ。
「キイィ!」
甲高い叫び声のあと、「ドオォォォォン!」と爆発音が上がった!
連続して、「ズドン! ズドン!」と爆音が上がる。
「ウオオ! ウオオオオオオオン!!!」
驚いたような声をあげ、電撃ゴーレムの巨体が揺らめく。
早くも右肩と腰にダメージを負い、その体勢が大きく崩れている!
「膝を狙え!」
ゴーレムを人型に繋ぎ止めるパーツさえ壊してしまえば、足止め可能だ。
「うりゃあ! 剛斧弾んん!!」
デクスターのマルカデミーガントレットが白く輝き、両手斧を電撃ゴーレムに向けてブン投げる!
クルクル回転しながら両手斧が「ドガン!」と電撃ゴーレムの膝を撃つと、電撃ゴーレムは前のめりに倒れ伏した。
「チッ! これじゃ胸の装甲を狙えない! 残りの『爆発スライムコア』を投げるんだ!」
しかし、日傭生たちは顔を見合わせてうろたえるだけで、誰も『爆発スライムコア』を持ち合わせていないようだ。
「ハハハッ! 倒れた相手にビビってる場合かよ! 首をちょん切ってやるぜ!」
両手斧を構え直したデクスターが、追撃体勢に入る。
「やめろ! 不用意に近づくな! 電撃がくるぞ!!」
「うらあああ! 剛弾カチ割り撃いい!!」
ビクトルの制止も聞かず、デクスターがスキルを発動する。
両手斧を大きく振りかぶって飛び上がると、光の軌跡を描いて電撃ゴーレムに向かって急降下した!
「すりゃあああああああ!!!」
降下する勢いで両手斧を「ブン!」と振り下ろす!
その時!
ビビビビッ!!
電撃ゴーレムの身体中に激しい電撃が迸る!
「うぎええええええ!!!」
まさに飛んで火に入る夏の虫!
デクスターの身体が電撃に包まれて、激しく痙攣する!
電撃をバシバシと周囲に迸らせながら、電撃ゴーレムが「ドン!」と両の拳を付いて、上体を起こした。
その目は怒りに満ちた光を放ち、爛々と輝いている。
「コオオオオオオオオオ!」
グイッと顔を上げると、床でのたうち回るデクスターに顔を向けた。
その目にヒュインヒュインと音を立てて、青い光が集まり始める。
「やばい!! レーザービームだ!!」
今のデクスターが避けれるはずもない!!
「上空全方位放射!」
誰かの声が響くと同時、いきなり、電撃ゴーレムの顔がギュインと斜め上を向く!
そして、グルリと顔を横に一回転させながらレーザービームを放った!
ヒュウイィィィン!! ズドドドドドドドォォォン!
青色のレーザービームが柱の上部を打ち砕き、粉塵が撒き散らされる。
「なんだ、今の!?」
視界の端に入ったプルデンシアの瞳が……?
ターコイズブルーの輝きを放っていたように見えて、ビクトルは目をこする。
さっきの声も、プルデンシアだったような……。
そうしている間にも、片膝をついて身を起こした電撃ゴーレムが、再びレーザービームを放たんとして再充填している!
「せやっ!」
呆気にとられているビクトルを尻目に、電撃ゴーレムに向かって、サラが跳んだ!
「サラちゃん!」
レーザービームが放たれようとしたまさにその時、サラが電撃ゴーレムの顔をポンと蹴って、クルリと宙返りを打つ!
ヒュゥン!
電撃ゴーレムの顔が斜め上を向き、サラの背中ギリギリをレーザービームがかすめた!
「はァッ!」
「タンッ!」と床に着地したサラが、間髪を入れずにバトルナイフを切り上げる!
電撃ゴーレムのフェイスマスクを真っ二つに切り裂いて、返す刀で胸板を斬りつけた!
ザシュッ! ザグッ!!
「フオオウッ……!」
物凄い斬れ味だ! これが闇属性の力!
電撃ゴーレムの上体がよろめいて、胸の装甲が剥がれ落ちる。
緑に発光するコアが、剥き出しになった!
「ダッカド!!」
「せいやぁっ!!!」
素早く飛び退くサラの後ろから、ダッカドが一瞬にして電撃ゴーレムに詰め寄った!
「熱破竜巻斬り!!!!」
マルカデミーガントレットが白く輝き、ダッカドが真横に曲刀を薙ぐ!
さらに流れるようにクルリと身を翻すと、真下から真上に斬り上げた!
「シュン!」と風を切り裂いて、白い十文字の軌跡が電撃ゴーレムのコアを捉える!
パァァァァンッ!!!
乾いた音を立てて、電撃ゴーレムのコアが破裂した!
「クオオオウ……」
電撃ゴーレムの両肩がガックリと落ち、電撃が掻き消える。
そして関節部のパーツが、ボトボトと床に転がり落ちた。
「『はぁ〜い、お疲れさまでしたぁ〜。ゴーレムすべて、討伐し終わりましたよ〜♪』」
緊迫した空気の中、あの気の抜けるようなやけに明るい口調のアナウンス。
「デクスターの治癒を!」
「はい、もう終わってます」
振り返るダッカドに、プルデンシアが余裕綽々で微笑み返した。
レーザービームとか、そもそも反則でしょ。聞いてないし。