【26】第三の部屋
────ドラゴン迷宮第三の部屋、『魔石兵の間』に続く通路。
「……で、最後に電撃ゴーレムを倒すってわけ。俺からは以上だ」
ビクトルは、白のチョークで壁面いっぱいに攻略法を書き終わると、一同の顔を見渡した。
この部屋は、石版に刻まれた文言をヒントに、絵画より現れる6種のゴーレム計12体を順番に倒し、最後に電撃ゴーレムを倒すとクリアとなる。
しかしその倒す順番を間違えると、最初からやり直しとなり、倒しそびれたゴーレムがドンドンその場に増えていくという仕組みだ。
あの三人娘が、しっちゃかめっちゃかになっていた部屋だ。
石版に刻まれた文言は下記の通り。
「岩をも穿つ、氷の力
砂を潤し、木の芽息吹く、母なる泥
泥に還りて、砂塵と帰す
鋼の如く、岩に絡みし、木の力
凍てつく氷も、また鋼の如し」
部屋は石造りで、直径20mほどの円形だ。
中央の天井には、黒々とした雷雲が浮かんでいる。
壁から1mほどのところに6本の柱が等間隔でグルリと並び、その内側の床は二段ほど窪んでいる。
そこが戦場だ。この窪みに足を踏み入れた瞬間から、戦闘が始まる。
戦場を取り囲む6本の柱には、ゴーレムの絵が描かれた絵画が掛けられている。
入り口から見て時計の針の方向に、絵画の配置は下記の通りだ。
<絵画の配置>
1時:アイアンゴーレム
3時:クレイゴーレム
5時:サンドゴーレム
7時:ウッドゴーレム
9時:アイスゴーレム
11時:ストーンゴーレム
正しい順番で倒していくと、天井にグルリと円状に設置された12個のランプが、1つずつ灯っていく。
12個すべて点灯すると、部屋中央の天井付近に浮かぶ黒々とした雷雲から、電撃ゴーレムが現れるというわけだ。
ゴーレムは、顔面・胸板・肩・肘・腰・膝・足の一部分が、すべて共通の素材で出来ている。
それ以外の部分は素材や形状が異なっていて、各種のゴーレムになるわけだ。
また、胸板の緑色に光るコアを壊すと、身体を構成する素材が飛散して、ゴーレムは完全停止する。
「まあ、共通素材の膝を優先的に破壊して、足止めするのが一番無難さ」
足止めするためのお手製アイテムも、すでに作成済みだ。
「ぶっちゃけ、順番に倒していけば、最大4体を同時に相手にする状況が一度あるだけだ。分かってれば、マジで大したこと無い部屋だな」
そう言って、ビクトルは「フフリ」と笑った。
「わたしは問題ない。作戦通りに動こう」
「フンッ、俺んらも問題ねえぜ。なあ、ダッカドの兄貴」
デクスターに声を掛けられても、ダッカドは腕を組んでじっと壁面を見つめたまま、黙っている。
さっきからずっとその調子だ。
ビクトルが説明している時も、黙ったままで身動ぎ一つしていなかった。
その横で、プルデンシアが小さく耳をピコピコ動かしながら、ダッカドの様子を伺っていた。
「……いいだろう」
しばらくして、ダッカドがビクトルに頷きかけた。
ビクトルは小さく肩をすくめて親指を立てた。
「皆、それぞれの役目をしっかり果たすように」
ダッカドの言葉に、デクスターと三人の日傭生が「おう」と答えた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「次は3時と5時の柱! 地雷セットだ! クレイゴーレムをまだ倒すんじゃないぞ」
ビクトルの指示に日傭生二人が、即席の地雷を柱の下にセットした。
「3時、準備完了!」
「5時もオーケーっす!」
「よっしゃああっ! すりゃああああ!!」
デクスターが両手斧を振るい、クレイゴーレムに打ち掛かる。
右手にはめたマルカデミーガントレットがキラリと白く輝いた。
「木端粉砕斬んん!!」
「グモオオオオオ!」
右腕を振り上げ、デクスターに襲いかかるクレイゴーレムより先に、デクスターの両手斧がその胸のコアを撃ち抜いた。
ズドン! パァァァン!
乾いた音をまき散らして、クレイゴーレムのコアが砕け散る。
クレイゴーレムはヨロヨロと一歩二歩後退ると、「ザザア」と音を立てて崩れ落ち、ただの土塊と化した。
瞬間、奥の壁の石版が青く光り、天井のランプがまたひとつ灯る。
「サラは9時のアイスゴーレムと11時のストーンゴーレムの足止め準備! ダッカドは3時方向のクレイゴーレムにトドメを、デクスターは5時方向のサンドゴーレムのトドメだ! 真ん中で足止めしないようにだけ、気をつけてくれ!」
「ああ、まかせてくれ」
「おうよ!」
「いいだろう」
ビクトルが言い終わらない内に、3時と9時方向の柱の絵画がフワンと緑の光を上げる。
瞬間、3時方向からクレイゴーレムが、9時方向からアイスゴーレムが、絵画から浮き出るようにして現れた。
そしてクレイゴーレムが、ドスンと床に降り立った時!
ズゴォォォン!
「グモモモモ……」
床に置かれた地雷を踏んで、爆発が上がる。
狙い通り、お手製の『地雷』がクレイゴーレムの足を吹き飛ばしたのだ。
『地雷』は、第一の部屋と第二の部屋で手に入る素材を集めて作った、即席のものだ。
『スライムジェル』『爆発スライムコア』『木の板』『まきびし』『ミートワームの毒糸』を利用している。
ゴーレムが踏めば、まきびしがスライムコアに突き刺さり、爆発を引き起こすというわけだ。
「地這砂塵斬り!」
体勢を崩し、無防備になったクレイゴーレムに、ダッカドがスキルを発動して斬りかかる。
右手にはめたマルカデミーガントレットが白く輝き、ダッカドの曲刀がクレイゴーレムのコアを破壊した。
部屋の奥の石版が青く光り、天井のランプがまたひとつ灯る。
その間にも、サラがアイスゴーレムの足を破壊し、柱の前で足止めに成功していた。
「すぐに5時方向と11時方向から出てくるぞ! ダッカドはアイアンゴーレムのトドメ用意だ!」
「わかっている」
「まかせとけ!」
柱の絵画がフワンと緑の光を放ち、5時方向からサンドゴーレム、11時方向からストーンゴーレムが現れた。
ズゴォォォン!
再び、サンドゴーレムが地雷を踏んで足が吹き飛ぶ。
そこへデクスターがスキルを発動して打ち掛かり、いともたやすくサンドゴーレムを仕留めた。
「へへへ! 討伐ポイントとファイナルアタックのボーナスステージかよ!」
「みなさん、とても手際がいいです!」
「よし! 出現はあと1回だ。7時方向に地雷セット!」
ビクトルの指示に、日傭生が地雷を携え、7時方向の柱に走る。
ビクトルの作戦は単純だ。
ゴーレムが出現する位置は一定だから、予め、お手製の地雷を床に置いて、出現と同時に足止めをするというものだ。
いっそ、地雷でゴーレムを吹き飛ばしてもいいのだが、マルカデミー本科生が討伐ポイントとファイナルアタックボーナスを欲しがることを考慮して、この形に落ち着いている。
できれば、出てきた瞬間に2体とも地雷で足止めをしたいところだが、それだとスライムコアが足りないのだ。
混乱を避ける意味合いもあり、あとで倒す方のゴーレムは、武器で脚を破壊する足止め作戦にしている。
ただこれも、スキルバレットの関係で「誰が足止め役をするか?」という点でいつも苦慮をする。
ゴーレムの動きを止めるためだけにスキルを使うのは、非常に嫌がられるのだ。
今回は、サラが足止めに専念してくれるので楽でいい。
ダッカドとデクスターがトドメ役、そしてプルデンシアと三人の日傭生は地雷セット役だ。
プルデンシアはファイナルアタックを稼ぐことに興味が無いらしく、誰からも不平が出ない配置になっている。
ダッカドが作戦を了承したのも、スキルバレットの消費を抑えた上に、討伐ポイントとファイナルアタックを稼ぐチャンス、ということもあったはずだ。
おかげで、ここまで、何の不備もなく思い通りに進んでいる。
雷雲からの落雷が二度ほどあったが、特に混乱を引き起こすことはなかった。
そうこうしているうちに、窪みの中は、最後にアイアンゴーレムを残すのみとなった。
それも上手く端の方で足止めしているから、何の心配もないはずだ────。
順調順調! 何の心配もないはずだ!