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飛んで火に入るドラゴン迷宮管理人  作者: みきもり拾二
◆第二章 ドラゴン迷宮管理人の困惑
25/68

【25】プルデンシアとサラ


「(ノッて来たか……ははっ、口からでまかせだったが、この場さえ凌げりゃ十分だ)」


 ダッカドとデクスターが自分と気づく前に、行方をくらませたい。

 その前に、お嬢に『組織』の事を伝えられれば御の字だろう。

 どう言い含められているかはわからないが、忠告だけはしておきたい。

 その言葉に耳を貸すか貸さないかは、本人次第だ。


 さすがに、サラが何を思ってこの一団に加わったのかまではわからないが……。

 いずれにせよ、『組織』とは無関係であれば、また協力する機会もあるだろう。


 ビクトルはそんな風に自分に言い聞かせた。


「見たところ、随分と戦力が減ったようだ。だがな、俺から言わせれば、十分な戦力だ。さ、どうする?」


 ダッカドは黙ったままで答えない。

 ビクトルを値踏みするかのように、ジッと見据えている。


「報酬の事なら心配するな。生活には困っちゃいない。まあもちろん、そちらから感謝の気持ちでもあれば、受け取ることもあるだろうけどな」

「報酬が必要ないとなれば、嬉しいですよね、ダッカドさん」


 お嬢がニコニコしながら口を挟んでくる。

 出世欲のないフォレシアンだが、蓄財には目がなく、ケチ……もとい、倹約家で商人が多いことで知られている。


「ダッカド、わたしの直感だが、この人は信用できそうだ」


 サラの言葉に、ダッカドはチラリとデクスターの方を伺った。


「ウソこきやがったら承知しねえ。すぐにでも首を撥ねてやんぜ」


 デクスターの言葉に頷くと、ダッカドは「フンッ」と鼻息を鳴らした。


「いいだろう。まずはその言葉を証明してもらうぞ」


 遠ざかる曲刀に、ビクトルがニヤリと微笑む。


「そうと決まれば早速、次の部屋の攻略のための準備だ。俺の指示通りにやれば、すぐに終わるさ」



 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



「サラちゃんだけは、あたしが雇った日傭生さんなんですよ。マルカグラードの大正門のところで、飛び入りでしたから」


 散乱する『スライムコア』を拾い集めながら、お嬢がニコニコ顔でそう話す。


 ダッカドとデクスター、それに三人の日傭生も、次の部屋の攻略のため、ビクトルの指示通りに素材を掻き集めている最中だ。

 部屋の離れた場所で、木材などを掻き集めている。


 お嬢の名はプルデンシアだそうだ。

 メインクラスはスカウトだが、やはり、サブクラスがドルイドらしい。

 簡単な治癒と解毒程度のことはできると言った。


「本当の事を言うと、サラちゃんを雇うのに、ダッカドさんとデクスターさんは、あまり乗り気じゃなかったんですけど」

「そうだろうな。二人の顔に、そう書いてあった」


 頷くサラに、プルデンシアがコロコロと笑った。


 一方、ビクトルは、『組織』らしい対応だ、と感じていた。


 彼らは、自分たちの知らないよそ者を嫌い、出来る限り排除したがる傾向にある。

 ビクトルが『組織』に乗せられていた時も、日傭生を雇うのは『組織』の役割だった。

 おそらくこの一団も、ダッカドとデクスターが雇った日傭生ばかりなのだろう。

 しかもその日傭生のほとんどが、『組織』の息がかかっている連中のはずだ。


「どうやって二人を説得したんだ?」

「いいえ、あたしが強引に契約したんです。手に入るはずの素材1つが欲しいだけで、他に報酬はいらないって言うし、サラちゃんの熱意があまりにもすごいので。あたしの契約した、初めての日傭生さんなんですよ。サラちゃんは」

「それは光栄だ」


 サラが恭しく頭を下げてみせる。

 プルデンシアも軽く会釈を返してみせると、また二人して笑い合う。

 ビクトルの見たところ、とても今日出会ったばかりの二人には見えなかった。それだけ、二人はぴったりと波長が合っている気がした。


「しかしまたどうして、サラは飛び入り参加を?」

「わたしは────『狂化ドラゴン』を倒すためにここに来たのだ」

「狂化ドラゴンだと!?」

「そうだ」

「さっきのあの子ですね」

「ちょっと待ってくれ……ってことは、キミはさっきのヤツが現れると、知ってたって言うのか?」


 ビクトルの問いに、サラは深く頷いた。

 ビクトルは、それに驚愕せずにはいられない。


 マルカグラード聖騎士養成アカデミーのクエストには、時折、『狂化モンスター』が現れる。しかしそれは、システム異常によって引き起こされる不運な現象、とされている。


「(それを意図的に発生させた、って言うのか?)」


 にわかには信じ難い。


「そんなことって、できるのか?」


 サラは少し考えを巡らせたあと、そっと言葉を発した。


「昨晩のことだ。わたしは、マルカグラードのシステム管理室に侵入したのだ。そして、プルデンシアたちのクエストに細工を」


 プルデンシアが口元を手で覆い、「まあ」と言葉を発した。


「やり方は、以前に出会った人物がやっていた方法を、見よう見真似で」

「……見よう見真似だが、上手く行った、というわけか」

「ああ、そのようだ」


 ビクトルは顎に手を当てて考えを巡らせた。


 狂化モンスターは、討伐ボーナスがつくことが知られている。

 だが『組織』が、わざわざそんな危険を犯すはずがないのだ。


 彼らのやり口は、クリアしやすいクエストを厳選し、浪費を抑えて人数の力で手早くクリアする道を選ぶというものだ。

 期限よりも早くクリアすることで得られる、早期クリアボーナス狙いもある。


 たとえ、狂化モンスターを意図的に呼び出せたとしても、彼らがやるとすれば雑魚モンスタークラスだろう。

 よほどの名誉欲でもなければ、ドラゴンのような、そもそも討伐の難しい強力なモンスターを狂化させる意味は薄い。


 サラの顔をチラリと見る。

 曲がったことを嫌いそうな、気の強そうな表情をしている。


 狂化モンスターを意図的に出現させることが本当に可能かどうかはわからないが、彼女がウソをついているとは思えない。


「(やはりサラは、『組織』とは関係ない。断言できそうだ)」


 そしてプルデンシアをチラリと見る。

 今はすでに、彼女が『組織』のターゲットであることを確信している。


 プルデンシアが言うには、たまたまクエストで一緒になった本科生の誘いで、とある古びた館に行ったという。

 そして、そこに住まう貴族の老婆が館の一員として認めてくれて、タダで生活をさせてもらっているのだとか。


 それを聞いて、ビクトルは頭を抱えた。

 あの館の連中に違いない、と。

 プルデンシアの語ってくれた区画、その雰囲気と言い、確信が持てる内容ばかりだ。


 しかも同じようにして、自警団幹部や都市議会議員、州議会議員が客人としてやって来て、将来の就職先を約束してくれるばかりか、「優秀な本科生との出会いに乾杯!」と褒めそやされているという。


 ビクトルは苦い過去を思い出し、溜め息をつかざるを得ない。


「(……あの館での賛美の声は、すべて偽り……)」


 美味い話があろうはずもない。

 今の自分は、いい思いをしたそのツケだ。

 だがそれを、立身出世を信じて疑うことのなかったビクトルに、見抜けるはずもなかった。

 心の隙を見透かされていたとはいえ、堕ちるべくして堕ちた罠だった。


「見てください、こんなに集まりましたよ」


 プルデンシアが得意気に、拾い集めた『スライムコア』を指し示す。


 天真爛漫でそれほど欲も無さそうに見えるが、この娘にも、そうした心の隙があるのかもしれない。

 フォレシアンの多くはケチ……もとい、蓄財に目がなく倹約家だというし。

 プルデンシアの「”タダ”で住まわせてくれるっていうんですよ〜」と言った時の表情ったら……。

 『組織』はその性質に目をつけたのだろう。

 このまま放っておけば、自分と同じ末路を辿るのは目に見えていた。


 助けられる可能性があるなら、その可能性を信じたい。


「なあ、プルデンシア」

「はい? 何でしょう」


 『組織』の話をしようと決意した時だった。

 ニコニコ顔のプルデンシアの向こうから、荷物を抱えたダッカドとデクスターたちが戻って来るのが見えた。


「(チッ……タイミングが悪いぜ)」


 長期化も已む無し。

 ビクトルは立ち上がると、ビッと親指を立ててみせた。


「まあ任せとけ、って。俺を信じろ」


 そう言うと、プルデンシアは元気よく「はい」と答えた。




サラとプルデンシアはいい人っぽい!

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