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飛んで火に入るドラゴン迷宮管理人  作者: みきもり拾二
◆第二章 ドラゴン迷宮管理人の困惑
24/68

【24】合流

「おう、ダッカドの兄貴! そっちの部隊はどうよ?」

「三人を残してリタイアさせた。甚大な被害だ」

「じゃあ俺んらのヤツらも、リタイアさせちまうぜ?」

「そうしてください」


 お嬢とダッカドが頷くのを見て、デクスターがマルカデミーガントレットをはめた右手を振りかざす。


「我、汝らのリタイアを承認する────!」


 ガントレットが白く光り輝くと、部屋のあちこちで光が上がる。

 そして再び、部屋は静けさに包まれた。


「チッ、残ったのはこれだけかよ。参ったな。どうする、ダッカドの兄貴?」

「うむ……あれが相手となると、今の戦力では厳しそうだ。リタイアも、念頭に置かねばならんだろう」

「リタイアだと? それは困る」


 キッと眉を引き締めて、サラがダッカドに視線を向ける。


「わたしはヤツを倒さねばならない。そのために、この一団に加わったのだ」

「ケッ! 日傭生が何ほざいてやがる。勝手に付いて来やがったのは、そういう理由か?」

「そうだ。ターゲットが確かにここにいるとなれば、わたしは退く訳にはいかない」

「勝手にしろ! 俺んらはむざむざ死にに来たわけじゃねえ! だろ、ダッカドの兄貴?」

「うむ。正直、ここまでの被害は想定外だ」

「でもでも、あたしもお婆さんを早く安心させてあげたいですから」


 ニコニコ顔のお嬢が、大きな耳をピコピコ動かしながら、睨み合うダッカドとサラの間に割って入る。


「サラちゃんには、その熱意に打たれて加わって貰ったわけですし、このまま引き下がりたくない気持ちもすご〜〜くわかります」

「言うねえ、お嬢」

「討伐するだけなら我々でなくても良かろう。次に来る一団を待つんだな」


 ダッカドが冷たく言い放つ。

 すでに、リタイアする気でいるようだ。


 冷静な判断だ。

 それに、今すぐここから消えてくれるなら幸いだと、ビクトルは感じていた。


「でもでも〜、クエスト達成50%未満での全員リタイアは、聞き取り調査義務があるんじゃないです? なのにこのまま無傷で帰ったら、すっごく怪しまれそうですよ。どうするんです?」


 お嬢がちょっと困ったように眉を潜め、首を傾げてみせる。

 食い下がるお嬢の様子に、デクスターが「たしかにな」と呟きながら顔をしかめた。


 実力不相応の無謀な本科生や、嫌がらせ、イタズラ目的でのクエスト予約を防止するために、「クエスト達成50%未満でのパーティ全員リタイア」には、管理部による聞き取り調査が行われることになっている。

 何度も同じ状況に陥ると、場合によっては除籍の可能性もある。


 今回、理由ははっきりしているものの、あれこれ詮索されて拘束時間が長くなるのは間違いないだろう。


「(手は回してあるんだろうが、役人連中とはなるべく関わり合いたくないんだな。『組織』の方針だ)」


 息を潜めて事態を見守っていたビクトルは、思わず「フフリ」とほくそ笑んだ。


 そしてチラリと、ダッカドに視線を向ける。

 ダッカドは顎に手を添え、何事か思考を巡らせている様子だった。


「(少なくとも、クエスト50%達成までは行っておきたいだろう。それならば、聞き取り調査もないし、途中までのポイントも稼げるしな。だが……)」


 果たして、そこまで辿り着けるのか? それを考えているのだろう。

 これはチャンスだと、ビクトルは判断した。


「俺に、良い考えがあるぜ」


 ビクトルが声を上げた瞬間、ダッカドがバッと身を翻した!

 スチャリと曲刀を抜き放ち、ビクトルの耳元に突きつける。


 ボサボサの髪の毛が数本、はらりと切れ落ちた。


「……何者だ、貴様?」


 ビクトルを見下ろすダッカドの目が、冷たい光に彩られている。

 まるで気づいていない素振りだったが、当初からずっと、油断なくビクトルの動きを監視していたようだ。


 少しでも身動ぎしようものなら、即座に頸動脈を斬り裂かれるだろう。


「お前が雇った人間では無いのか、ダッカド?」


 サラが不思議そうに問いかける。

 ダッカドはその問いかけに答えもせず、ビクトルを冷ややかに見据えたままだ。


「おおう? そういや、見慣れねえツラだな……首輪もねえし、日傭生じゃねえ、ってことか?」


 デクスターも、今気づいたとばかりに顎に手を当てる。


「薄汚れた瞳をしている。身なりからして、まともな人間ではないな」

「さっき、『閃光目眩まし玉』を投げてくださった方ですよ! 生命の恩人です」

「ほう?」


 お嬢の言葉に、ダッカドがピクリと片眉を上げる。


「そいつぁ、おかしな話だ。ここは迷宮だぜ? 俺んらしかいないはずだ!」


 事態に気付いた様子のデクスターが、両手斧を構え、油断なくビクトルを睨めつけ始める。

 二人とも『組織』の人間だけあって、よそ者に対する警戒心は人一倍のようだ。


「(……チッ。面倒に自ら飛び込んだツケってヤツだ……ったく、らしくもねえドジを踏んじまったぜ……)」


 自嘲気味に口元に笑みを浮かべながら、ビクトルが肩をすくめて首を横に振る。

 その様子に、デクスターがさも気に入らないとばかりに「ドンッ」と足を踏み鳴らした。


「てめえ、余裕じゃねえか……! 自分の置かれた状況がわかってんだろうな、ああン??」

「名を名乗れ」


 突きつけられた曲刀が、ついと耳元に差し迫る。


「(さては二人とも、俺に気づいてないな……)」


 おそらく、ボサボサ頭と濃いヒゲのせいだろう。

 それならば、おめおめと、彼らに名前を告げる必要もない。

 まるでマルカデミーの役人であるかのように『迷宮管理人』を名乗る方が、『組織』の人間としては嫌に違いない。


「……俺は、迷宮管理人だ。お前たちマルカデミーの本科生たちがクリアしたあとを、掃除して回る人間さ」

「ほう……?」


 ダッカドとデクスターが素早く目配せする。

 デクスターは、思いがけない返答に、戸惑っている様子だった。


 思った通りだと、ビクトルは内心で「フフリ」と笑った。


「初めてここに来るお前たちにはわからないだろうが、俺にとっちゃ庭みたいなもんだ、この迷宮は。生活にも不自由しない。それに、フフフッ……」


 イタズラっぽい笑みを浮かべながら、皆の顔を眺め回す。


「マルカデミーの本科生たちが阿鼻叫喚する様子を眺めるのも、楽しいもんだ」


 デクスターが怒りの形相で両手斧を振り上げる。

 サラはクスリと小さく微笑み、お嬢は「まあ」とばかりに口元を手で覆った。


「だが、そっちの……サラとか言ったな。あんた、なかなかの腕前だぜ。もしかして先天性精霊力者(グァルノイド)か? 闇属性のエンチャントを使っているようだが」


 ビクトルに名指しされて、サラがちょっと驚いたように目を見張る。


「気づいていたか」

「ああ、もちろんだ。ここに来る連中の行動はちゃんと観察しなきゃな。何を取り残し、何を持っていったか。ああ、ちなみに」


 ビクトルは、ついと人差し指を立ててみせた。


「この迷宮の攻略ならお任せあれ、だ。俺の言う事に耳を貸すなら、『竜の間』まで問題なく連れてってやるよ。それと、さっきのアレ、な」


 クイッと親指を立てて、天井にぽっかり口を開けた黒い穴を示してみせる。


「────アイツの倒し方も、知ってるぜ?」


 これは完全なハッタリだ。

 通常のドラゴンなら問題ないが、さっきの黒いヤツは別途、対処法を考える必要がある。


 しかし、ダッカドとデクスター、そしてサラにも効果があったようだ。

 三人の、ビクトルを見る目つきが明らかに変わっていた。





そ、そんなハッタリかましちゃって大丈夫なんですかね~?

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