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飛んで火に入るドラゴン迷宮管理人  作者: みきもり拾二
◆第二章 ドラゴン迷宮管理人の困惑
22/68

【22】助けなければ!


「全員退避!」


 ダッカドの声が響くが、逃げ道は、黒いドラゴンのその向こうだ!


「はああああああっ!!!」


 その時、立ち込める靄を切り裂いて、サラが雄叫びとともに姿を現した。

 左右の柱を交互に蹴りながら、三角飛びのように黒いドラゴン目掛けて飛んで行く!


「(無茶だ!! 人間一人が立ち向かってどうにかなる相手じゃない!!)」

「ギギャアアウ!」


 サラに気づいた黒いドラゴンが、大口を開いて右腕を振りかぶる!


「うおおおお!!」


 柱を一際強く「ダンッ!」と蹴り、切り違える勢いで、サラが突進していく!


 ビュン! ビシャアッ!


 一瞬の合間に、黒いドラゴンの鉤爪とサラのバトルナイフが交錯する。


「ギエエエ!!」


 指の間から一筋の血飛沫が糸を引く。

 苦悶の声を上げる黒いドラゴンは、それでも、すぐさまグルンと身体の向きを反転させた。

 そして間髪を入れず、着地際のサラに向かってジャンプした!


「まずい!! ジャンピングスタンプだ!」


 ズダン!!


 叩き潰すように、右手を打ち据える!

 その攻撃をすり抜けて、サラは軽やかに宙を舞っていた!


 しかし!


「キシャアアアッ!」


 黒いドラゴンが左手を横に薙ぐ!


 バシィン!


「ぐあっ!!」


 その掌は、サラを見事に捉えていた!

 黒いドラゴンの平手打ちに弾き飛ばされ、サラが背中から激しく柱に打ち付けられる!


 口から真っ赤な鮮血を吐き出しながら、サラが床に落ちていく。


 その姿を、まるでスローモーションのように、ビクトルは見つめていた。

 苦悶の表情、口から糸を引く赤い血、細い体の白い肌。


 その光景に、心の奥が震えていた。


 あの少女を、助けねばならないと────!


 気づいた時には駆け出していた。

 迷宮管理人ルートの狭い通路を走り、壁に設えられたハシゴを滑るように降りていく。

 隠し扉のカードリーダのスリットに素早くカードを滑らせてドアを開けた時、黒いドラゴンの吠え声と共に青い炎弾が襲い来る!


 ゴオオオオ!!


 熱風とともに炎弾が弾けて、通路いっぱいに炎が迸る。

 炎耐性のビクトルでなければやられていただろう。

 少し焦げた衣服を気にする間もなく、ビクトルは部屋の中へ駆け出した!


 あちこちで炎が揺らめいて、誰かの呻き声が聞こえてくる。

 その真ん中で、黒いドラゴンが再び雄叫びを上げた。


 サラは!?


 どこにも姿が見えない!

 そのことに、強い恐怖を覚える。


「みんな、目を閉じろ!!!!!」


 叫びながら、ビクトルは腰のポーチから『閃光目眩まし玉』を取り出すと、腰に差した小さなナイフを引き抜いて、グッと『閃光目眩まし玉』に突き立てた。


 「キイィ!」と『閃光目眩まし玉』から声がして、黒いドラゴンがギロリとビクトルを睨みつける。


「これでも喰らいやがれ!」


 瞬間、ビクトルは思いっきり『閃光目眩まし玉』を投げつけた。


 黒いドラゴンが悠然とビクトルに向き直る。

 その黒いドラゴンの目の前で、宙に舞う『閃光目眩まし玉』が「キヒイィィィン!!」と音を上げてまばゆいばかりの光を放った!


「ギエエエエッ!!」


 モロに閃光玉に目をやられた黒いドラゴンが、情けない声とともに後退る。

 グッと目を閉じ、ドタンバタンともがき始めた。


 その隙に、ビクトルは床に転がるスライムコアを掻き集め始めた。


「白、黒、青、赤、黄色、よし!」


 その中の黄色のスライムコアを掴み取る。

 『麻痺』の特性発動をするスライムコアだ。


「ギシャアアオオオウゥゥ!」


 黒いドラゴンの呻き声に顔を上げると、その頭の上に人影があった。

 ────サラだ!

 藻掻き回る黒いドラゴンのおでこににしがみつくようにして、バトルナイフを突き立てている!


「なんて無茶な!」


 ドラゴンの眉間は弱点の一つだ!

 そこを徹底的に攻めている!


 サラは黒いドラゴンの角をグッと握りしめ、再びバトルナイフを振り上げた!


 グズッ!!!


「ギシャアアアアアアアアアアアアアッ!」


 紫色の鮮血が迸り、黒いドラゴンが耳を塞ぎたくなるような声を上げる!

 バトルナイフを引き抜いて、さらに一太刀加えようとするサラに、黒いドラゴンは身を起こして激しく首を振った。


「くっ……!」


 大きく揺られて、サラが角を掴む手を離してしまう!


 フワッと宙に投げ出されるサラ!

 それでも見事な身のこなしでクルリと反転し、宙で体勢を立て直す。


「すげえ!」


 驚くビクトルの視界の先で、サラが床に軽やかに降り立つかに見えたその時!

 黒いドラゴンがカッと両目を見開いた────!


「早い! もう回復したのか!?」


 まだ十数秒しか経っていない!

 普段なら、もっと長い間、効果があるはずだ。

 ビクトルの背筋に寒気が走り、恐怖に心臓が鷲掴みされたような感覚に陥る。


 怒り狂う黒いドラゴンが、翼をはためかせてバックジャンプすると、「ブビュゥン!」と風が戦慄いて、3つの竜巻となってサラに襲いかかった!


 サラは強風に抗うようにして、床にバトルナイフを突き立る。

 しかし、床にへばりつくようにして耐えるので精一杯だ!


 それこそ、黒いドラゴンの思う壺だ────!

 黒いドラゴンはサラを見据えたまま、宙でクルリと身を翻した!


「やべえ! 『炎の槍』だ!」


 ビクトルは咄嗟に駆け出すと、手にしていた『黄スライムコア』にナイフを突き立てた!

 「キイィ!」と声がしたのを確認して、黒いドラゴン目掛けて力いっぱい投げつける!


 黒いドラゴンの口の中で、「ゴフュウ」と青い炎が渦を巻き、みるみるうちに膨れ上がっていく!


 その首元で、一瞬早く、『黄スライムコア』が「キヒイィィィン!!」と音を上げて弾けた!


 ボフンと黄色い霧が拡散すると同時、黒いドラゴンが驚いたように目を見開く!

 ガクガクと身を揺らす黒いドラゴンの口元から、ブハッと音を残して、青い渦が掻き消える。

 「ズダァン」と落下した黒いドラゴンは、信じられないといった表情のまま、身動ぎ一つできなくなっていた!


「よっし!!! 今のうちに逃げろ!!」


 竜巻に耐えたサラに呼びかける。

 しかしあろうことか、サラはバトルナイフを引き抜くと、雄叫びを上げて黒いドラゴンに向かって突進した!


「うおおおおおお!!!」

「何をしてる、逃げるんだ!!!」


 今は体勢を立て直すべきだというのに、何が彼女をそこまで駆り立てるのか!?

 その必死の形相を見て、ビクトルはハッとなる。


 命の危険に、死に物狂いで立ち向かう戦士たちの姿は、何度も目にしてきた。


 だが、目の前の彼女は、そのどれにも当てはまらない。

 まるで、全てを投げ打って挑みかかっているかのようだ。

 恐怖、悲しみ、憤り、怒り、憎しみ。

 そんな感情はどこにも無い。


 黒いドラゴンの頭に飛び乗って、バトルナイフを振り上げる。


 ただひたすらに、それを打ち倒すことだけが目的であるかのように、バトルナイフを突き立てる。


 そう、言うなれば、捕食のために狩りをする、獣のような────。


「グオオオオオウウゥゥゥゥ!!」


 黒いドラゴンが唸りを上げてガバっと身を起こし、大きく首を横に振る。


「……はっ!? 麻痺の効果も、もう切れたのか!」


 なんてヤツだ!

 ビクトルは今、二つの化け物を目の前にしている気分だった。


 サラの身体が、左右に大きく振られたかと思うと、「ブン!」とばかりに投げ飛ばされる。

 向かう先は、凍っていたはずのスライムたちの群れの中だ!

 黒いドラゴンのブレスで部屋の気温が上がり、そのせいで氷が溶け、スライムたちが蠢き始めている。


「ゴガオウッッ!!」


 さらに悪いことに、一声雄叫びを上げた黒いドラゴンが、首をすくめて後ろ脚をグッと踏ん張っている!

 同時に、周辺でユラリと青い炎が揺らめき始めた!


「りゅ、『竜爆炎』だと!!!? ウソだろ!?」


 こんなところであれを繰り出されたら……一巻の終わりだ!!!!


「みなさん、部屋の端の方に避けてください!」


 その時、奥の扉の方から甲高い声がした!

 あのフォレシアン娘のお嬢だ!


天宮(てんぐう)の盟約により、汝に命ずる!

 永久凍土の天空より吹き降りて、我が御前にその力を示せ!

 ────アイスストーム!!!」


 キランと部屋の奥が光る!!


「ゴアアアアア!!」


 それと同時、炎を纏った黒いドラゴンが宙に身を躍らせた!


 そして!!


 一瞬早く、「ゴオオオオオオオ!」と地面を震わせて、猛吹雪が巻き起こる!!


「うおおおおおおおおお!!!」


 咄嗟に柱の奥へ飛び退いたビクトルの背中を、「ヒュウウウ!」と冷気が襲い来る!

 そして「ブルウウウンン!!」とものすごい轟音と共に竜巻が一気に駆け抜けた!


「ギシャアアアアアアアアアアアアア!!」


 黒いドラゴンの唸り声が木霊する。

 物見櫓が吹き倒れ、「ドガン、ガシャーーーン!」と衝撃音が鳴り響く。


 部屋の中央に寄せられて蠢き始めていたスライムたちが、アチラコチラに跳ね飛ばされ、ベチャリベチャリと天井から壁から床に叩きつけられる。

 そして閃光や爆発、毒霧、麻痺霧などが一気に巻き起こった。


 ドン! ボフン! バーン!! バキーン! ドォーン!

 カラン、カン……ドシャ……キン……コン……カラ、カラ……。


 様々な音があちらこちらから上がった後、不意に、部屋は静寂を取り戻した。


 ビクトルが恐る恐る顔を上げると、部屋に、黒いドラゴンの姿は無かった。


 部屋中央の天井を見上げる。

 あの、紋様の描かれた木製のパネルが砕け散り、その上には暗い穴が口を開けていた。

 その穴の中を、黒いドラゴンの唸り声が遠ざかっていく。


「……あそこから来たのか……?」


 あの穴は、果たしてどこに続いているのか?

 通常のドラゴンが、あいつに置き換わっただけなのか、それとも、別途で出現したのか……?

 ビクトルは結論が出せないでいる。


 転送装置から、今すぐにでも『竜の間』に行って確認してみたいぐらいだ。

 とはいえ、脱力した身体が小刻みに震え、非常に重い。


 それにしても凄い威力のアイスストームだった。

 黒いドラゴンの『竜爆炎』を、見事にキャンセルしてしまった。

 『竜の間』に比べて天井が低かった分、効果があったのだろうか?


 それにスクロールが、使用者によって効果がこれほどまで異なるとは……。

 部屋の中央部分を正確に吹き荒らしている。

 魔法発動者の精度が高かった証拠だ。


 ビクトルの知らないことは、まだまだあるようだ。


「とりあえず……助かった……」


 呆然と声を漏らすビクトルの耳に、部屋のあちこちから呻き声が聞こえてくる。

 この大惨事の中、果たして何人の日傭生が、無事でいるだろうか?


 それに、あの短髪の少女戦士サラは、果たして無事なのか────?





いやいや、こんなので生きてるわけが……(フラグ

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