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飛んで火に入るドラゴン迷宮管理人  作者: みきもり拾二
◆第二章 ドラゴン迷宮管理人の困惑
21/68

【21】急転直下!


「もうちょっと右だー! 右ー!」

「ま、待て! スライムをどかしてからだ!」


 日傭生たちの威勢のいい声が、肌寒い部屋に木霊する。


 今は二手に別れて、『台車付きの物見櫓』を動かしている最中だ。

 左右の石壁上部の穴に、何かあると考えてのことだ。

 ダッカドの一団は部屋の入口から向かって左側、デクスターの一団は右側の壁を捜索している。


 しかし部屋の奥半分は、床も壁も一面、凍ったスライムだらけ。

 凍ったスライムは『スライム脳』さえ刺激しなければいいとはいえ、慎重に扱う必要がある。

 物見櫓にも凍ったスライムが張り付いているから、それを排除するのに少々手間取ったのだ。


 ダッカドの指示で、重しとして物見櫓の台車に載せられていた木箱を解体し、その板を使ってスライムたちを小削ぎ剥がし始めてから、ようやくに事態は収束に向かった。

 そうしたところは、冷静だ。

 今はもう、邪魔なスライムは、ほぼほぼ排除しきっただろうか。


 剥がしたスライムは、部屋の奥半分、柱と柱の間に無造作に積み上げられている。

 こういう時、人手があると確かに便利だと認めざるを得ない。


 すでに入口側の方は探索が終わり、全員が部屋の中央から奥の扉側に固まっている感じだ。

 ここまでくれば、奥扉のある壁上方の穴から宝箱を入手するのも時間の問題だろう。


「(なんかトラブルでも起きねーかな〜。起こりそうにねーよな〜。さすがにな〜)」


 あの僧侶娘でも突如現れたりしないかなどと思いつつ、そんなことをぶつくさと呟く。


 サラとフォレシアン娘のお嬢は、奥の扉の手前で皆の働きを見守っている。

 どこかこの二人だけは、他の連中と比べて浮いている感じだ。


 まあ、余計なことをしない、というのはある意味賢い選択でもある。


「(水も凍っちゃってるしなぁ……あれじゃ、スライムコアがスライム化することも無いだろうし……はぁっ……)」


 溜め息をつきながら、毒霧の『特性発動』をしたスライムから床に転がり落ちた『スライムコア』を、ボンヤリと眺める。

 あれさえ残っていれば、水を得ることで『スライムコア』から『スライム脳』と『スライムジェル』を作り出し、スライムは復活することができるのだ。


 この部屋にちょろちょろと流れていた水は、そのためのものだ。


 『スライムコア』は直径4.5cmほどの球体で、弾力性がある。

 一見すれば、ただのゴムボールといったところだ。

 壊れにくく弾みやすいから、何かの拍子にどこかへ転がって移動ができるという利点がある。

 さらに、乾燥した場所に放置されても、10年以上耐えられると言われている。

 子供が遺跡からゴムボールを持ち帰ったら、実はスライムだった、なんてことはよくある話だ。


 「ボフン」と弾ける『特性発動』は、敵を痛めつけるとともに、『スライムコア』を飛ばす意味もあるのだ。

 スライムの生存本能といったところだろう。


 ちなみに、『スライムコア』にも『特性』は凝縮されている。

 『スライムコア』を「高温で燃やす」「電気ショックを与える」「鋭い刃物を突き刺す」などすると、「キイィ!」と唸った3秒後に、断末魔とともに『特性発動』をして自爆する。


 つまり、『スライムコア』は、そのまま『閃光目眩まし玉』や『手榴弾』『麻痺玉』などに利用できるというわけだ。

 この『スライムコア』を上手く活用すれば、少々の戦力不足はしっかり補うことができる。

 この部屋は、その補助アイテムを大量に手に入れられるチャンスでもあるのだ。

 ドラゴン迷宮に挑むマルカデミー本科生たちに用意された、設計者の良心といったところだろう。


「(まあ、それを活かすも殺すも本科生次第だが……それにしても、ふあ〜〜あぅ……つまんねーからダレちゃったぜ)」


 そろそろ次の部屋に先回りしておこうかと、ビクトルが思い始めていた時だった。


「(……ん?)」


 何か聞こえた気がして、ビクトルがビクッと背筋を伸ばす。

 奥の扉前で待機しているサラとフォレシアン娘のお嬢も、何か異音を感じたらしく、上の方をキョロキョロと見渡していた。


 その他の人間は、物見櫓を動かすのに集中している様子だ。


「(……まただ。何かの吠え声か?)」


 さっきよりもはっきり聞こえた気がしたと思ったその時!


 ズガシャアァァァン!!


 轟音とともに、部屋の中央の天井から、何か巨大なものが落ちてきた!


「(うおおおおおおっ!)」


 思わず声を上げるビクトルの目に映ったもの!


 全身、真っ黒な鱗にコウモリのような大きな翼。

 長い首と長い尻尾、ゴリラのような胸前に、鋭い鉤爪の前足。

 背中には鋭い刺のような体毛がビッシリと生え揃い、頭には凶悪そうな角が何本も突き出ている。


 口からチロチロと青い炎を吹き出して、その目は紫色に染まっていた。


「(────ドラゴン!!! こ、こんなところでドラゴンだと!? しかも……いつもと違うヤツだ!!!)」


 誰もが突然の来訪者に声を失っている。


 床に這いつくばるようにして降り立った黒いドラゴンは、すぐにパーティの気配を感じて向き直った。

 そして一声、大きく吠えた。


「ゥゴアギシャアアアアアアアアッ!!!!!!!」


 耳の奥までつんざくような大咆哮────『極限竜咆哮』だ!

 石壁がビリビリと音を立てて震え、腹の底まで振動が伝わってくる。

 両手で耳を塞いでも、脳みそごと揺さぶられるような感覚だ。


「(い、いきなり第三段階だと!?)」


 通常のドラゴンなら、竜心臓が剥き出しになってから繰り出してくる攻撃だ!

 しかも本当に第三段階なら、攻撃パターンはぐちゃぐちゃで、速すぎて隙という隙がない状態になるはずだ!


 耳を塞ぐビクトルの背中に、冷や汗が伝い落ちる。


「ウガアアアアア!!」


 一同の動きを封じ込んだ黒いドラゴンが、間髪を入れず、首を仰け反らせて頭を引く。

 そして続けざまに青い炎弾を吐き出した!


 ボン! ボン! ボン! ボン! ボン!


「(炎弾!? しかも五連!!!?)」


 いつもは三連のはずだ!

 吐き出された青い炎弾が物見櫓を撃ち、柱に当たって弾け散る。

 凍ったスライムの群団をも撃ち抜いて、『特性発動』をあちこちで引き起こした!


 ボフンと紫の毒霧や、黄色い麻痺霧、爆発や閃光が一斉に上がる。


「うぎゃあああ!」

「ひいいい!!!」

「ひぎゃあああああああ」


 物見櫓に乗っていた日傭生たちが炎に包まれ、床にいた日傭生たちが毒霧に巻き込まれる。

 一瞬にして、部屋の中は、阿鼻叫喚の地獄絵図と化した!






な、なんか出たああああああ(アワアワ

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