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飛んで火に入るドラゴン迷宮管理人  作者: みきもり拾二
◆第一章 ドラゴン迷宮管理人の愉悦
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【02】ピンチな本科生

「『ざんね〜ん。倒す順番を間違えてま〜す。最初からやり直しですね〜♪』」


 石造りの部屋いっぱいに鳴り響く、気の抜けるような明るい口調のアナウンス。

 それと同時に、新たに2体のゴーレムが姿を現した。


「また最初からって、どういうことよ!! もう三回目なんだけど!?」

「アナウンスのとおり、倒す順番を間違えたからに決まってるでしょ!」

「す、すみません! わ、わたしの魔法がトドメを刺してしまって……」


 ここはドラゴン迷宮の一室、円形の薄暗い部屋だ。

 部屋の中央の天井には、黒々とした雷雲が浮かび、時折「ゴロゴロ」と放電の音を立てている。

 その雷雲の下、周囲を6本の石柱に囲まれた直径17mほどの狭い窪みの中で、3人の少女と2人の男のパーティが、8体のゴーレムを相手にしているのだ。


「謝んなくていいから! で、どれからだっけ?」

「ストーンゴーレムからです!」


 魔法使いらしき娘の言葉に、戦士らしき娘が頷く。


「ちょっと、こっち来ないでよー!!」


 その向こうで、頭に怒りマークを浮かべた僧侶らしき娘が、襲いかかってくるゴーレムの一撃をスルリと交わした。


 三人の少女の右手には、手首の部分の色が違うだけであとはお揃いの、白金のガントレットが薄らと輝いている。

 マルカグラード聖騎士養成アカデミー────通称”マルカデミー”の本科生たる証、マルカデミーガントレットだ。


 そして、彼女らとともに右往左往している二人の槍兵姿の男たち。

 その首には、幅の広い頑丈そうな白の首輪がはめられている。

 彼らは、三人娘に雇われた傭兵────『日傭生』だ。


「日傭生二人は、サンドゴーレムの足止めして! ストーンゴーレムは私がやるから!」

「スキルバレットの無駄遣いは、もうお断りなんだから! 早くしてよね!」

「こうなったら、素早いアイスゴーレムを倒しておきます?」

「ダメよ、順番通りに倒さなきゃ! まーた余計なのが増えちゃうんじゃない!?」

「あ……そ、そうですよね」


 混乱するパーティが、ようやくにして体勢を整えようとしたその時だった!


 天井の雷雲から「ゴロゴロゴロ!」と大きな音が響いたかと思うと、間髪入れずに「ドガシャァァン!」と稲妻が轟いた!


「グモモモモ……」


 真下にいたゴーレムが稲妻に撃ち抜かれ、その胸の緑色のコアが「パァァン!」と弾け飛ぶ。


「『ざんね〜ん。倒す順番を間違えてま〜す。最初からやり直しですね〜♪』」

「ちょっ……! う、ウソでしょ!?」

「なんなのよそれ〜!!!(怒怒怒)」

「ま、また2体増えます!」


 倒す順番を間違えれば、1体減っても2体増える。

 さっきからそれの繰り返しで、ついにゴーレムは9体になってしまった。

 狭い戦場が、益々狭くなる。

 今の状況はさしづめ、ゴーレムの森に迷い込んだ三人の少女たち、といったところか。


 1体1体の動きは緩慢だが、一斉に攻撃を繰り出されると避ける場所が無い。

 右に避けても左に避けても、すぐにゴーレムの攻撃に晒される状況だ。


 ドガッ!


「うがあああッ!」


 次々に襲い来るゴーレムの猛攻を避けきれず、日傭生の一人が背中を殴られて床に転がった。

 激しい痛みに身を捩らせて、悶絶している。


「ひいいい!!!」


 ザグッ!


 その向こうでは、もう一人の日傭生が、背後から来たアイスゴーレムに背中を斬りつけられて倒れこんだ。


「は、早く、か、回復スキルを!」

「もうスキルバレットは使い切っちゃってるんだから!!」

「ウソでしょ!?」

「グ・オ・オ・オ・オ・オ・オ!!!」


 慌てる三人娘を尻目に、ゴーレムたちが一斉に、床に転がる槍兵二人目掛けて腕を振り上げる!

 その時────!


「早く日傭生たちをリタイアさせろ! そこから撤退するんだ!!」


 突然、部屋の隅から男の声が響いてきた。

 予期せぬ出来事に、三人娘はビクリと身をすくめた。


「だ、誰!?」


 ここは迷宮の奥深く。

 クエスト中の彼女たち以外、他に人はいないはずだった。


「何をしてる、早くしろ!」


 部屋の影から、声の主が走り出てくる。


 焦げ茶色の髪の毛が伸び放題のボサボサ頭に、もみあげから鼻の下と顎まで綺麗につながった濃いヒゲ。

 薄汚れた半袖シャツに半袖ズボンを履き、その上に穴の開けられた一枚布を首からすっぽりと羽織り、腰紐で結んでいる。

 腰には革製のポーチを下げ、足は紐止めした麻のサンダルを履いている。


 ────”自称”迷宮管理人のビクトル=ヒエルマンだ。


 と言っても、三人娘にとっては、どこからどう見ても怪しげな浮浪者だろうが……。


「安心しろ、俺の言う通りにやれば、キミたち三人だけでもここはクリアできる! 今は体勢を立て直すのが先決だ!」


 ボサボサの前髪の間から覗く鳶色の瞳は、真剣そのものだ。

 言葉の端々にも、とても演技とは思えない、鬼気迫るものが感じられた。


「うぎゃあああああああっ!!!」

「うげふっ! がはっ!!!」


 そうしているうちにも、ゴーレムの腕が次々に床に転がる男たちを打つ!

 魔法使い娘がハッとして、右手にはめた白金のガントレットを振り上げた!


 もはや彼女たちに、彼らの重傷を癒している余裕はない。

 今すぐリタイアさせれば、聖騎士養成都市マルカグラードにある『リタイア部屋』の手厚い看護によって、一命は取り留めるだろう。

 そして数日の内には、元の元気を取り戻すはずだ。


「我、汝らの離脱を承認する────!」


 バッと勢い良く右手を振り下ろすと、白金のガントレットが真っ白な光を放つ。

 同時に、二人の男の身体が白い光に包まれて、やがて跡形もなく消え失せた。


「よしっ、いいぞ! 一旦、前の部屋へ戻ろう! ゴーレムはその窪みから出られないから大丈夫だ!」


 ヒゲもじゃ男の手招きに、戦士娘と僧侶娘は訝しげな表情を浮かべながらも、顔を見合わせて頷いた。


「これは一時的な戦略的転身なんだからね!!」






ピンチに陥った三人娘の前に颯爽と現れたヒゲもじゃ男ビクトル!

どうなるこのあと!?

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