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飛んで火に入るドラゴン迷宮管理人  作者: みきもり拾二
◆第二章 ドラゴン迷宮管理人の困惑
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【19】ダッカドの決断


「……先ほどの宝箱に、氷魔法のスクロールがあったな?」

「(チッ……)」


 ダッカドが発した言葉に、ビクトルは舌打ちせずにはいられなかった。


 第一の部屋の宝箱からは、扉の鍵に加えて、『アイスバーン』と『アイスストーム』のスクロールが1本ずつ、『回復薬』『解毒薬』が数個ずつと『心臓のメダル』が手に入るのだ。


「それを使う。氷魔法を使えば、ヤツらは動きを停止するだろう」

「なるほど、そうなのか! さっすがダッカドの兄貴だ!」

「知識は正しく使ってこそ、意味がある」

「あたし、感動しました!」


 日傭生からも安堵と賞賛の声が漏れ、一同が盛り上がる。


「(ここまで冷静なヤツとはな……。だがまあ、『アイスバーン』と『アイスストーム』、どっちを使うのかで状況も変わってくるぜ)」


 余談だが、先の三人娘も同じように部屋の灯りをつけてしまい、「できるだけ相手にせずに駆け抜ける」という選択をして、24体の大型スライムに囲まれる事態に陥っている。


 それを一気に対処しようとして、僧侶娘が使ったのが────『アイスストーム』のスクロールだ。


 『アイスストーム』だと、部屋中央に置かれた物見櫓が木っ端微塵に砕けるばかりか、重し代わりの木箱から、大量のまきびしや刀剣の端くれが、ものすごい勢いでばら撒かれてしまう。

 それが直接、日傭生に当たったり、スライムの『特性発動』を誘発させてしまったりしたのだ。


「『ちょっと! これアイスストームじゃない!! あたしが使おうとしたの、アイスバーンなんだけど!!』」


 顔を真っ赤にして怒っていたが、真偽の程は定かではない。

 後ろで頭を抱える魔法使い娘に、呆れた様子で肩をすくめる戦士娘の様子を思い出して、ビクトルは忍び笑いを漏らしてしまう。

 そもそも、ああいうことは魔法使い娘に任せておけば問題なかったはずなのだが。


「(アイスストーム使え、アイスストームアイスストームアイスストーム……)」


 やはり、大惨事を期待しているようだ。

 日傭生が差し出す宝箱の中から、ダッカドがスクロールを1本手に取る。


「松明は消しておけ、ここでスライムを燃やすわけにはいかない。準備ができ次第、前進だ。スライムどもがこれ以上大きくなる前に」


 ダッカドが前進を促すと、男たちから「おう!」と声が上がる。

 4本の松明を床に押し付けて火を消すと、デクスターを先頭に武器を構え、油断なく前進し始めた。


「もう少し前進して、氷魔法を使う。しかし、油断はするな」


 再び、日傭生たちが「おう!」と応える。

 前方には、すでに3mほどの巨体に膨れ上がったスライムの姿もあった。

 そんなスライムたちが、壁からウヨウヨと一団に向かって集まり始めている。


「来るぜ、ダッカドの兄貴!」

「全員、止まれ!」


 言うなり、ダッカドは左手に持ったスクロールを、バッと縦に開いた。


「(いけ! アイスストーム!!)」


 期待を込めて握り拳を作るビクトル。

 ダッカドは右手にはめたマルカデミーガントレットを、颯爽とスクロールにかざした。


天宮(てんぐう)の盟約により、汝に命ずる!

 永久凍土の地表より 我が御前にその力を示せ!

 ────アイスバーン!!!」


 叫びながら、ダッカドがスクロールを振り下ろす。

 ビクトルは思わず「チッ」と舌打ちした。


 ダッカドのマルカデミーガントレットが白く光り輝くと、スクロールに描かれた天使文字(アークグリフ)が宙へと霧散する。

 そしてワラワラと迫り来るスライムたちに向かって、「ピキーン」と音を立てて冷気が降り注いだ。


 一団の前方に、瞬く間に冷気が迸る!


 スライムの群団を一気に凍らせ、奥の鉄扉をバンと鳴らした。


「やったぜ、ダッカドの兄貴! スライムのヤツら、全部凍っちまった!」


 デクスターの声に、日傭生からも歓声が上がる。

 しかし!


「(ハハッ、まだ続きがあるんだよ)」


 ビクトルが「フフリ」とほくそ笑む。

 凍りついたはずのスライムの群団の中で、わずかに身動ぎするものがいるのだ。


 冷気の特性を持つ青スライムだ。

 この種だけは氷魔法に強く、動き回ることができる。


 しかも、動かない他のスライムを取り込んで、合体することができるのだ。


「ニ手に別れ、動いているヤツを徹底的に排除する! 『スライム脳』を叩け! ただし、凍っている奴には手を出すな!」


 ダッカドがスラリと曲刀を抜き放つ。


「おうよ! 俺は左手に行く! ダッカドの兄貴は右手を頼んだぜ!」


 すぐさまデクスターも応えると、両手斧を振りかざし、スライムの群れの中へと突っ込んでいった。

 その後ろを、雄叫びを上げて数人の日傭生が追いかけた。


「(こういうところは息が合ってるな)」


 ダッカドとデクスターは、瞬く間に凍ったスライムの間を駆け抜けると、蠢く青スライムに向かってスキルを繰り出した。


「うりゃあ! 剛撃カチ割り斬んん!!」

「せい! 天翔飛燕突き!」


 ブチャリ! グチュッ!


 気味の悪い音が響いて、『スライム脳』から青い液体が噴き出すと、青スライムはピクリとも身動ぎしなくなる。


「うりゃあ! 剛斧弾んん!!」


 壁に張り付いてる青スライムに向けて、デクスターが両手斧を投げつける。

 両手斧は狙い過たず、青スライムの『スライム脳』を叩き割った。


「ウォールダッシュ!!」


 一方、ダッカドは壁走りのスキルで垂直な石壁を駆け上がっていく。


「せい! 天地一閃斬り!!」


 飛び抜けざまに青スライムの『スライム脳』を切り裂いて、軽やかに地面に着地した。

 ダッカドとデクスターの獅子奮迅の活躍により、青スライムたちはあっという間にその動きを停止していく。


 こうなれば、この部屋を制圧するのも時間の問題だろう。


「(ちゃぁんとスキルを使ってやがる……チッ、面白くないぜ……)」


 これにはビクトルも、青スライムが殲滅される様を歯噛みして見守るしか無い。


 と、その時。


 二人の活躍に触発されたのか、日傭生の一人が凍っている紫スライムに向かって、槍を振り上げた。


 ガツッ!


 氷を砕き、槍の切っ先が『スライム脳』に突き刺さる。

 その瞬間、紫スライムから「キィィッ!」っと甲高い声が上がった。


「(あ〜あ、やっちまった)」


 顔いっぱいに笑みが溢れるビクトルの視界の先で、紫スライムが「ボフッ」と音を立てて弾け飛ぶ。

 紫色の煙が周囲に広がって、次の瞬間には日傭生たちが苦しげにのたうち回り始めた。


 毒霧の『特性発動』をしたのだ。


「うギギギっ! ぐ、ぐるしい!!」

「あがががががが」

「うげほっ! うげっ!」


 今のように、凍っているスライムに中途半端な刺激を与えると、『特性発動』してしまうのだ。

 日傭生はそのことを知らなかったようだ。

 手出ししてこないのをいいことに、調子に乗ってしまったのだろう。


「バカヤロウ! 何やってやがる!!」

「毒霧だ! 近づかず、退避しろ!」


 青スライムを掃討中のデクスターとダッカドが怒声を上げる。

 モワモワと広がる紫色の煙から逃れようと、日傭生たちがわたわたと逃げ惑う。


「毒の手当てをしますから、こちらへ〜!」


 フォレシアン娘のお嬢が呼びかける。

 しかし、他の日傭生はパニックで、それどころではない。


「待て、毒霧が拡散しきらないと危険だ」

「えええ、そ、そうなんですか!? でも、このまま放っておくと……!」


 毒霧の中に倒れこんだ三人の日傭生は、泡を噴いている。

 身じろぎも弱々しくなり、今にも事切れそうだ……!




せっかく正しい判断をしても、パーティの統率が取れてないんじゃダメですね(ゲス顔

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