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飛んで火に入るドラゴン迷宮管理人  作者: みきもり拾二
◆第二章 ドラゴン迷宮管理人の困惑
18/68

【18】第二の部屋


「(あの娘が、すげえ腕前だってのは認めよう。さて、この部屋はどうかな?)」


 ────ドラゴン迷宮、第二の部屋『連鎖の間』。


 ビクトルは前の部屋と同じように、『迷宮管理人ルート』の隠し通路にある覗き穴から、一団がやってくるのを待ち構えていた。


 部屋の中は真っ暗だ。

 時折、グジュリと、粘着質な何かが身動ぎする音だけが小さく聞こえてくる。


 息を潜めて待っていると、ようやくにして鉄製の大扉が音を立てて開いた。

 フワッと明かりが放たれる。


 そして、松明を手にしたデクスターが、ノッシノッシと踏み込んできた。

 足元で、ピチャリピチャリと、水の跳ねる音。

 綺麗に整えられた石床には、ところどころ、薄らと水が張っているのだ。


 そのあとを、ダッカドと日傭生の一団が続いてやってきた。


「どうしたんですか、サラちゃん?」


 入り口のところで、フォレシアン娘のお嬢が、短髪の少女戦士────どうやら、サラという名らしい────に声をかけている。

 見ると、短髪の少女戦士サラは、後ろをしきりと気にしている様子だった。


「……今、遠くで扉の閉まる音が気がしたんだが」

「(鋭いな、その通りだ)」


 この部屋の扉を開けた瞬間、ドラゴン迷宮の正門が自動的に閉まる仕掛けになっているのだ。

 その音のことだろう。


 フォレシアン娘のお嬢も、ピコピコと、その大きな耳を動かしている。


「何も聞こえちゃねーよ。気のせいだろ」


 部屋に5mほど入ったところで立ち止まり、辺りを見渡すデクスターが冷たく言い放つ。

 ダッカドはその横で、暗闇に閉ざされた部屋の奥をジイっと見つめていた。


 一団の持つ4本の松明の明かりが揺らめいて、左右にズラッと立ち並ぶ柱を微かに照らし出す。

 しかし、奥の方までは光が届かない。暗がりに溶け込んだまま、静まり返っている。


「すげー広そうだな、ダッカドの兄貴」

「ああ、奥の方まで続いているようだ。そして……何かいる」


 「気づくのが早え〜よ」と、ビクトルは舌打ちせずにはいられなかった。

 どうやら、以前そのままに、戦士としてのダッカドの神経は研ぎ澄まされているようだ。


 デクスターが一人、一歩二歩と奥に進み、左右に松明を振って部屋全体を眺め回そうとしているが、それも叶わない。

 数メートル先は、床も壁も天井も、暗闇に閉ざされていた。


「あら?」


 その時、フォレシアン娘のお嬢が何かに気づいて声をあげた。


「そこに石碑が……」


 入ってすぐ右手の奥に設置されている石碑を、発見したようだ。

 表面には、文字が刻み込まれている。


 デクスターが近づいて、石碑を照らし出す。

 フォレシアン娘のお嬢は頭の上の大きな耳をピコピコ動かしながら、その文字をなぞるように指さして、呟き始めた。


「暗闇に潜み蠢く粘塊の 洞沼淀む 石壁に

 湧水の如く 珠玉の宝

 勇なる戦士に 与えたもう

 汝 覚悟を持って望むなら 次なる御言を唱えたまえ

 光満ちて たちまちに 汝の行く末 開きたもう」


 天使文字(アークグリフ)で刻まれているのだが、どうやら、スキルもなしに解読できるらしい。


「灯りをつけられるみたいですよ〜」

「やってくれ」

「はい、喜んで」


 細い糸目でニッコリ微笑むと、フォレシアン娘のお嬢は石版に向かって、マルカデミーガントレットをはめた左手をかざした。

 そして石碑に書かれた最後の言葉を呟くと、マルカデミーガントレットが白い光を放った。


「(あ〜、やっちまったか。ハハッ)」


 小さく首を横に振りつつも、思わず笑みがこぼれてしまう。


 石碑がフワンと戦慄(わなな)くと、部屋全体が仄かな青い灯りに照らされた。


 そこはやけに天井が高く、細長い長方形の部屋だ。

 部屋のずっと奥、入り口の対面の壁には、同じような鉄製の大扉がついている。

 対面の扉まで奥行き100m、幅20m、高さ24mといったところか。


 床から壁から天井まで、石造りだ。

 左右の壁から3mほどのところに、円柱がズラッと5m間隔で立ち並んでいる。

 足元はところこどころ、少し水が浮いて湿っている。

 壁の上の方に空いた四角い穴から、チロチロと、少量の水が流れ出しているのだ。


 部屋の中央付近には、2台の『台車付き物見櫓』。

 その『台車付き物見櫓』の土台には、木箱が4つずつ乗せられている。

 重し代わりに、中にはまきびしや刀剣の端くれなどが、ギッシリ詰まっているのだ。


 その物見櫓が置かれた部屋中央の天井。

 そこには、木製で奇妙な紋様の描かれた円形の飾り板が貼り付けられている。

 直径10mほど。

 大きさも紋様も、『竜の間』の天井のものと同じだ。


 そんな、照らし出された部屋の様子に、「おー」と声を上げた日傭生たちが、一瞬にして凍りつく。


「ス、スライムだ!」


 部屋の中央から奥半分。

 そこには、ギッシリとスライムの大群がひしめいていた。


 左右の壁から奥の壁、天井や柱にも、スライムが貼り付いている。

 その数の多さに、後ろに控える日傭生たちから戸惑いの声が上がった。


 フォレシアン娘のお嬢とともに一団の後方に控えるサラだけが、悠然とした様子だ。


「チッ! 多すぎるぜ……どうする、ダッカドの兄貴? 構わず特攻するか?」

「ふむ……」


 見ると、ダッカドはマルカデミーガントレットのステータス画面を開いていた。

 すでに戦ったことのある相手なら、モンスター情報を確認できるのだ。


「(……対応が素早いな)」


 少しムカつきながらも、そこはビクトルも認めざるを得ない。


 暗闇と湿気を好むスライムは、洞窟や薄暗い森、沼地などに生息しているモンスターだ。

 粘着質な『スライムジェル』に、『スライム脳』『スライムコア』を持つだけの単純な構造で、クラゲのような見た目をしている。

 体長は高さ30cm、幅50cmほど。

 体表はヌメっとした粘液に覆われていて、動きはナメクジのように鈍重だが、肉食で、獲物と見れば強い攻撃性を示し、ワラワラと押し寄せてくる。


 スライムの厄介な点は3つ。


 1つは、スライムを形作る半透明な『スライムジェル』。

 この『スライムジェル』は非常に粘着性が強く、ネチャリと纏わり付いて長剣や曲刀など斬系武器の切れ味を鈍らせてしまうのだ。


 2つめが、光を浴びると合体して大きくなること。

 合体して巨大化したスライムは移動速度が上がり、人程度のモノならたちまちの内に飲み込んでしまうほどの脅威と化す。


 今、こうしている間にも、スライム同士で寄り集まって合体し始めている。

 部屋の灯りをつけるあの石版は、ある意味、罠だったということだ。

 しかし、すでに灯してしまった明かりを消すことはできない。


 ちなみに、部屋の奥の扉には、鍵がかかっている。

 それを開ける鍵は、この部屋のどこかにある宝箱の中だ。

 このまま考えなしに特攻すればまず間違いなく、奥の扉の前で、大型化したスライムたちに囲まれることになるだろう。


 3つめは、『特性発動』だ。

 これは、いわばスライムの自爆攻撃。

 「『スライム脳』を少し傷つける」「スライムを燃やす」といったことで発動される。

 その効果は、次のようになっている。


 <スライムの特性発動効果>

 赤スライム :炎

 紫スライム :毒霧

 青スライム :冷気

 黄スライム :麻痺

 黒スライム :爆発

 白スライム :閃光


 広い部屋とはいえ、この限られた空間内で『特性発動』されると、非常に危険なのは間違いない。

 特に、赤スライムや黒スライムが『特性発動』したなら、他のスライムも連鎖して『特性発動』してしまう。


「(『連鎖の間』────ある意味、本科生たちへのヒントだよな)」


 そんなスライムの基本的な対処方法は、次の3つだ。


 1つは、『スライム脳』を壊す、もしくはスライムから切り離してしまうこと。

 半透明な身体の上方にある、白い餅のような物体がそれだ。

 これを失うと、スライムは完全停止する。

 斬系武器で『スライム脳』ごとスライムの上半分を切り落とすとか、打撃系武器で『スライム脳』ごと叩き潰すとか、槍で突き刺し引きずり出すとか。

 ある意味、スライムの対処法としては、一番一般的な方法だ。


 ただこの方法が有効なのは、スライムが合体していない時、そして数が少ない時だ。

 合体して大きくなるとそもそも、『スライム脳』に攻撃が届かなくなる。

 そして数が多くなると、確実に武器の切れ味に影響が出る。


 特に前述した通り、『スライム脳』は少しでも傷つくと、3〜5秒ほど遅れて『特性発動』することがある。

 やるなら一気にカタをつけなければならないというリスクも存在するため、今回、この数の多さを前にしては、あまり有効な方法では無いと言える。


「(もしもどうしてもこの方法で行くなら、スキルを惜しまず使うことだな)」


 ミートワームの時と同様、マルカデミーガントレットでスキルを繰り出せば、武器の切れ味が鈍るのを抑えることができる。

 ただし、前の部屋でどれだけスキルを消耗しているか、またこの先、どれだけスキル使用を想定しているか、といった問題が付きまとうが。


 2つめは、燃やすこと。

 『スライムジェル』には、なぜかよく燃える性質がある。

 これだけ多いと、正直、一気に燃やしてしまうのが一番手っ取り早い。


 しかしこれも前述の通り、『特性発動』してしまうという難がある。

 さすがにこれだけの数が一気に『特性発動』すると、大惨事にしかならないだろう。


「(いや、ダッカドには是非ともやって欲しいが)」


 大惨事を期待するビクトルは、思わず「フフリ」と忍び笑いを漏らしてしまう。


 3つめの方法が、ここではベストで間違いない。

 それは、凍らせること。


 スライムは凍りつくと、身動きが取れなくなる。

 そうなれば、ただの氷の塊同然。

 『スライム脳』さえ変に刺激しなければ、小削ぎ剥がして積み上げておけばいい。


「(さぁて、ダッカドさんよぉ。その事に、あんたは気づくかな……?)」







ここでハプニング期待!(wktk

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