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飛んで火に入るドラゴン迷宮管理人  作者: みきもり拾二
◆第二章 ドラゴン迷宮管理人の困惑
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【17】ミートワーム女王


「(あっさり、女王の間まで来やがった……。マジで、ハンパねえな)」


 ミートワームの森を駆け抜けた、と言ってもいいだろう。

 短髪の少女戦士は、早くもミートワーム女王の5匹のガードたちと交戦を繰り広げていた。


 しかしここでも、彼女はミートワームを圧倒し、寄せ付けない。

 飛び交う糸を切り裂いて、緑の血飛沫が上がるとともに、ミートワームの情けない呻き声だけが洞窟内に木霊した。


「ギチギチギチギチ……」


 それを見守る蛾のような姿をしたミートワーム女王が、怒りに震えて節足を掻き鳴らす。


 他のミートワームたちと同様、目はない。

 小刻みに蠢く細長い触覚が、暗闇でも敵の位置を正確に探り当てるのだ。

 怒りに赤い唇をめくり上げ、獣のように鋭い二本の牙を剥き出しにして、威圧するかのように鋭く尖った歯をカチカチと鳴らしている。


 細長い節足の一番前の対が、カマキリのように鋭い刃となっている。

 不用意に近づこうものなら、一瞬にして切り裂かれるだろう。


 太くて長い腹袋は、地面にドッカリと付いている。

 その周りには『ミートワームの水晶体』があちこちに張り付いて、白い光を放っていた。


 その背後には、毒糸で作られた、大きな水滴型のものが天井からぶら下がっている。

 ミートワームの巣だ。

 卵から孵化したばかりのミートワーム幼体が、糸の間から顔を覗かせ、獲物の気配を嗅ぎ取るかのように、身をうねらせている。


 その中には、次の部屋に進むためのカギが入った宝箱も置かれている。

 女王を倒さなければ、この先には進めないのだ。


 突然、女王が横にヒュンと動いた。

 激しい羽ばたきに、「ゴオ」と音を立てて、鱗粉を含んだ強風が短髪の少女戦士を襲う。


「ふんっ!」


 短髪の少女戦士は大きく宙に舞い上がり、クルクルと伸身宙返りで距離を取った。


「ぎゃああ! 痛たたたっ!!」


 後ろで控えていた日傭生たちが声をあげる。

 女王の鱗粉には、やはり、毒が含まれているのだ。


 女王は激しくジグザグに動きながら、短髪の少女戦士との距離を詰めていく。

 地表に引き摺るその大きな腹袋が、ズリズリと音を立てていた。


「(距離を詰めて、毒糸の網で絡めとるつもりだな)」


 女王の毒糸は、蜘蛛の巣状に広がって獲物に襲い掛かる。

 絡め取られれば、為す術は無いだろう。


 背後で数匹のミートワーム幼体が、獲物が捕らえられるのを今か今かと待ち構えている。


 短髪の少女戦士は、油断なくバトルナイフを構えると、ニヤリと笑った。


「来い。お前の攻撃は、わたしに通用しないことを証明してみせよう」

「(自信過剰か、本物か……いや……)」


 答えはすでに出ている。


 瞬間、女王がブルンと大きく水平に円を描くように回ると、その大きな腹袋がグイッと持ち上がる。

 そして短髪の少女戦士に向けて、腹の先から毒の網を迸らせた!


 同時に、短髪の少女戦士が宙に飛ぶ!


 誰もが「絡め取られる!」と思ったその瞬間、女王が放った毒の網は、無残にも切り裂かれていた!

 なんという早業だろう!


 そんな短髪の少女戦士に向かって、ミートワーム女王が凶悪な鎌を振り上げる!


「うおおおおお!!」


 雄叫びと共に、短髪の少女戦士がグルグルと横に回転しながらミートワーム女王に真っ向から打ち掛かっていく!


 シュキィン! ブシャリ!!


 女王の鎌と、少女のバトルナイフが交錯し、閃光が走る。

 次の瞬間には、女王の腰から下が、スッパリと斬り裂かれていた。


「ヒギェェェェ!!!」


 緑の液体をまき散らしながら、女王が上体だけでブワンと大きく宙を舞う。

 怒りに顔を歪め、大口を開けてその牙を光らせる。

 そして床に降り立った短髪の少女戦士目掛けて、鎌を振り上げ突進した。


「はっ!」


 素早く壁に向かって飛ぶ短髪の少女戦士!


 タンッ! ブンッ!


 女王が鎌を振り下ろす寸前に壁を蹴り上げると、華麗な背面跳びで女王の背後へと回り込んだ!

 そして目にも留まらぬ早さで剣撃を繰り出す!


 ズバババババッ!


「ヒギィィィィィ!!」


 その羽根を無残に切り裂かれ、「ベチーン!」と酷い音が響いて女王の上体が地面に叩きつけられる。


「地這砂塵斬り!!」


 その機を逃さず、女王に向けて、ダッカドがスキルを繰り出した。


「ギヒャアアアァァァァッ……!」


 ダッカドの一撃は、見事に女王の首を跳ね上げた。

 不気味な断末魔が尾を引いて、洞窟の隅々まで木霊する。


「『お見事です〜。ミートワームの女王討伐で〜す』」


 どこからか、あの気の抜けるようなアナウンスが鳴り響いた。


 ゴツゴツした地面に、スタリと華麗に降り立つ短髪の少女戦士。

 ブンとバトルナイフについた緑の液体を振り払うと、何事もなかったかのように、スタンと鞘に納めた。

 ……あれだけの戦闘を繰り広げながら、全くの無傷だ。息すら上がっていない。


「きゃあああ、すごいです!」


 フォレシアン娘のお嬢が歓声を上げて拍手を送る。


「(確かに……すごいの一言だ)」

「野郎ども、仕上げだ!」


 デクスターの声に、日傭生たちが「おう!」と声をあげる。

 そしてまだ息のあるガードや、残された数匹のミートワーム幼体に殺到し、メッタ刺しにしていった。


 さすがにこうなると、多勢に無勢だ。

 ミートワームたちは抵抗する間もなく、その身を地表に横たえていく。


「ダッカドの兄貴! この扉、カギがかかってやがるぜ!」


 第二の部屋に続く大扉の前で、デクスターが意気揚々と声を上げる。


「あそこに何か無いか探すんだ。付近もくまなく捜索しろ」


 落ち着き払ったダッカドが、ミートワームの巣を指し示した。

 こういうところは、冷静で心得ている。


 ダッカドたちが扉のカギを探し回り始めたのを見届けて、ビクトルはそっと腰を上げた。

 そしてその場を去ろうとした時、短髪の少女戦士の呟きが、聞こえた気がした。


 「許せ。間もなくわたしも、そうなる運命だ」と────。






第一の部屋をあっさりクリア。ビクトルも舌を巻くしか無いですが、何か、事情もありそうですね?

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