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飛んで火に入るドラゴン迷宮管理人  作者: みきもり拾二
◆第二章 ドラゴン迷宮管理人の困惑
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【16】短髪の少女戦士

「ぎゃああ!! 熱い! 熱い熱い!!」


 そうしているうち、松明を持った日傭生の一人が、またしてもミートワームの糸に絡め取られてしまった。

 熱源を感知するミートワームだから、松明を持っている人間が集中的に狙われるのだ。


 手にした松明をむちゃくちゃに振り回しているうち、絡まった毒糸に、火が燃え移る。


「ぎゃあああああああ!」


 一瞬にして、全身を火に包まれた日傭生がのたうち回る。

 さすがのミートワームたちもこれでは手が出せない。

 燃え盛る炎に恐れをなしたように、ズリズリと後退し始める。


 その間にも、火は壁に張り付いた毒糸にも燃え広がっていく。


「ゲホッ! グホッ! おえっ!!」

「な、なんだ、この煙!?」


 洞窟内に、息の詰まる白い煙が立ち込める。


「いかん、一旦、外に出ろ!」


 ダッカドの声に、日傭生が我先にと洞窟の外へと駆け出していく。


「デクスター! そこの火だるまはリタイアだ」

「チッ! どんくせーヤツめ!」


 デクスターは舌打ちすると、即座に右手にはめたマルカデミーガントレットを振り上げた。


「我、汝の離脱を承認する────!」


 マルカデミーガントレットと、日傭生の白い首輪が白く煌めいて、火に包まれた日傭生は姿を消した。


 と、その時!


「シアアアアアアッ!!」


 三匹のミートワームが白い煙を切り裂いて、天井から壁から地面から、デクスター目掛けて飛び掛かってきた!


「っ!?」


 大口を開けて突進してくるミートワームたちを目の前にして、身動ぎ一つできないデクスター!


「せやっ!」


 シュヒン!!


 風を切り裂いて、人影が舞った。

 次の瞬間には緑の液体をまき散らし、三匹のミートワームの細長い身体は、ボトリボトリと地面に落ちていた。


「(すげえ! なんだ今の!?)」


 スタリと、軽やかに床に降り立つ人影。

 ダッカドとデクスターでさえも、驚きとともに呆然とした表情で立ち尽くしている。


「ここは、わたしに任せてもらえないか?」


 凛として落ち着いた声が、洞窟に響く。


 ────あの、短髪の原種アッグル娘だ。


 女のくせに、男のようなしゃべり口調だ。

 だが、そのギャップが、少女の中にある戦士としての気高きプライドを感じさせた。


 白い煙が立ち込める中、堂々と佇んでいる。


「(なんだ……あの娘……)」


 ヒゲもじゃ男ビクトルの鼓動がドキドキと高鳴って、耳の奥まで鳴り響く。

 まるで心臓でも射抜かれたかのようだ。


「(闇属性のエンチャントか……?)」


 少女に魅入られ、呆然とするビクトルだが、彼女が手にしているバトルナイフに纏わり付く黒い光を見逃さなかった。


 いつの間に、誰がそんなエンチャントを掛けたのか?

 戦士ばかりの一団と見えたのに、とビクトルは首を傾げた。


 先天性精霊力者(グァルノイド)のスキルということもあるが……。


「(だとしたら、瞳がターコイズブルーに光るはずだ)」


 短髪の少女戦士に、そんな様子はない。

 もしかすると、原種アッグルが使うとされる秘術か何かだろうか?


「どうした、答えろ。ヤツらもすぐそこまで、迫ってきている」


 油断なくバトルナイフを構える短髪の少女戦士が、チラリと、ダッカドとデクスターに視線を走らせた。

 呆気にとられていた様子のデクスターが、思い出したようにダッカドの顔色を伺う。

 ダッカドは、少し首を捻るようにして、短髪の少女戦士の後ろ姿を見つめていた。


 こうしているうちにも、奥から揺らめく白い光の一団が、シュワシュワといやな呼吸音を立てながら近づいてきている。


「……いいだろう」


 鼻と口元を片手で覆っていたダッカドが、ようやくに言葉を発した。

 少女は小さく頷き返すと、瞬時に動いていた。


「はっ!」


 戦士系スキルの『ウォールダッシュ』のごとく、ゴツゴツした洞窟の壁を駆けていく。

 奇声を上げるミートワームの間をすり抜けるように走り去ると、ミートワームの大群から一斉に緑の血飛沫が上がった。

 そして次々に、ボトリボトリと音を立てて、床に落ちてのたうち回る。


「(なんだこれ!? とんでもない強さだ……!)」


 優秀なマルカデミー本科生なら幾人も見てきたビクトルだが、彼女の強さはそれに比肩するほどに際立っていた。

 暗闇の中を、まるで全てが見えているかの如く、駆け回る。

 しかも一切、スキルを使っている様子がない。

 となれば、無限にその強さを発揮できるということになる。


 早くも10匹、いや20匹は切り裂いただろうか?

 それでも彼女の持つバトルナイフの切れ味は、一向に鈍る気配がない。


「(────本物の、戦士だ)」


 ポカンと口を開けて見守るビクトルの頬を、知らず、冷や汗が伝い落ちていた。

 同時に恐怖を感じる。


 ────彼女は、『組織』の人間だろうか?


 もしそうだとしたら、とても太刀打ち出来ない。

 彼女がいれば、あるいはドラゴンも倒せてしまうかもしれない……。


 激しい劣等感が突き上げてきて、胸が引き裂かれんばかりに打ちのめされる。

 これほどの人材が、なぜゆえに『組織』と共にあるのか……?


「ははっ! 楽勝だぜ!」


 松明を片手に、のんびりと後を追うダッカドとデクスターが、床でのたうち回るミートワームのトドメを刺していく。

 モンスター討伐にはファイナルアタックボーナスが入る。

 マルカデミーポイントを集めたいダッカドとデクスターからすれば、こんなに美味しい状況はないだろう。


「まあなんて強いんでしょう!」


 どこか脳天気な様子のフォレシアン娘のお嬢も、両手を胸の前で組んでニコニコ顔だ。





あれ、強い人がいる……。

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