表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
飛んで火に入るドラゴン迷宮管理人  作者: みきもり拾二
◆第一章 ドラゴン迷宮管理人の愉悦
13/68

【13】本科生のパターン

「早っく来ないっかな〜、エロくて可愛い女の子〜♪」


 ────ドラゴン迷宮、入り口正門の前。

 その上の斜面の茂みに、厚着して腹ばいに横たわるヒゲもじゃ男ビクトルが、鼻歌交じりに望遠鏡を覗き込んでいた。


 太陽はすでに西の空へと大きく傾き、もう間もなく夕刻といった時間帯だ。

 緩やかな陽光がドラゴン迷宮の石造りの正門に降り注いでいた。


 しかし、望遠鏡の先、深くなった木々の中へと続く土道には、まだそれらしき一団が見えてこない。

 いつもならもう、到着していておかしくない頃合いだが。


 ここは標高700mほどの山腹。まるで部分的に削り取られたような崖斜面に、ドラゴン迷宮入り口はある。

 森林限界付近のため、木々はまばらで、ドラゴン迷宮の入口付近は少し開けている。

 麓から続く土道の脇には、ゴツゴツした岩が顔を覗かせ、そこにへばりつくようにして背の低い草木が群生していた。


 地域的に寒冷な土地柄ということもあるだろう。

 吹き抜けていく風は、冷たい。


 ちなみに、標高1500mほどのところにある山頂には、噴火口がある。

 迷宮の中に、煮えたぎるマグマが顔を覗かせている部屋があるのは、そのせいだろう。

 一説によると、ドラゴンが迷宮の奥で暴れ続けると、火山の勢いが増して大噴火を引き起こすのだとか……。


「真偽の程は、定かじゃないけどな」


 ここに居着いて2年ほどになるが、そんな予兆はまるで感じられない。


「はあ……しっかし、待ちくたびれちゃったぜ……」


 溜め息をついて、正面に広がる山裾に視線を向ける。

 山々の連なる向こう、かすかに街並みが見えている。


 エイムレルビス連邦王国第一州マルカーキス伯領州都、通称”聖騎士養成都市”マルカグラードだ。マルカグラードの象徴とも言える山腹の大聖堂と、その背後で街を見下ろす聖ハノエル像が、ここからでも見ることができる。


「道に迷ってるとか、そんなドジっ娘ちゃんは、さすがの俺でも勘弁だぜ〜」


 ボサボサの頭をボリボリ掻きながら、大あくびをする。


 ビクトルの経験上、良い稼ぎをもたらしてくれる一団と、そうでない一団がある。

 大別すると、次の6パターンだ。



 (1)ベリーグッド、女の子たちだけのパーティ


 理想的なのは、先の三人娘のような女の子たちだけのパーティだ。


 パーティメンバーが前衛・後衛・支援とバランスよく揃っていて、レベルも適正か少し足りない程度なら言うことはない。

 正直、そうしたパーティはあと少し工夫するだけで十分にクリア可能だ。


 なのになぜか、女の子たちだけのパーティには、そうした工夫が足りない傾向がある。

 なんでもかんでも、自分のやり方に強引に当てはめて物事を解決しようとする嫌いがある。

 柔軟性が足りないというか、一本調子というか。

 理由はよくわからないがともかく、ビクトルにとっては嬉しい傾向というわけだ。


 多くの報酬はあまり期待できないのだが、尊敬と感謝を得られて気分が良い。

 なにより、ムフフな事や、可愛い彼女との出会いが大いに期待できるっ!……はず。



 (2)グッド、報酬が期待できる


 ズバリ、中流〜上流貴族の子息にこのパターンが多い。


 彼らはもともと、日傭生をたくさん集めて、数で押し切ろうとする傾向にある。

 自分の手は汚さず、結果だけを求める傾向が強いのだ。


 だが、それではこのドラゴン迷宮はクリアできない。

 被害が大きくなると、途端にうろたえ始めるので、付け入る隙も大いにあるのだ。

 報酬で全て解決できると思ってる節があり、少し役立つところを見せれば素直に受け入れてもらいやすい。


 持ち込みの食料やアイテム、予備の装備なども多く、余り物を気前よく置いていってくれるので上得意と言える。



 (3)グッド、優秀なパーティ


 手助けの必要がない優秀なパーティも、ビクトルにとってはありがたい。


 彼らは様々な知恵と工夫を駆使して難関を乗り越えていくからだ。

 ビクトルの持つ攻略法の多くは、そうした優秀なパーティを観察して得たものだ。


 必ずクエストをクリアしていくし、余り物を残していく傾向にもある。



 (4)微妙、男ばかりorリア充カップルでそこそこやれるヤツら


 男ばかりでそこそこやれる集団は、助言メモだけで済ましている。

 身体能力とスタミナに優れる男たちは、知恵を貸すだけでも推進力が上がる。

 ただし、男たちはなぜか、コバンザメっぽい事を嫌がる傾向にある。

 木片や金属片など、彼らにとってはゴミ同然な物でもビクトルにとって価値があるということを気づかれると、途端に態度が硬くなることが往々にしてあるのだ。

 どうせ残していくだろうに、「それはオレたちのものだ。勝手に盗るな!」「お前の物にするために使わせないようにしている、そういうことか?」などと言い始めると手に負えない。

 まあ要は、「オレたちの縄張りで勝手なことをするな」ということだろう。

 それで信頼を失うのもバカバカしいので、焦ってアレコレ掻き集めたりしないように気をつける必要がある。

 将来、良い兵士になるタイプだろうが、出世欲もあるので、そこら辺を邪魔しないようにしなくてはならないのだ。


 それと、リア充カップルも正直、微妙だ。

 クエストを無難にこなしつつ、夜も充実とか、これほど見ててつまらないものはない。

 新婚旅行のついでか何かのつもりだろうか?

 撒き散らされた避妊具の始末をする身にもなれ、という話だ。

 少し助言を与えて、さっさとクリアしてもらうのが一番だ。


 このパターンは、キレイにクエストクリアさえしてもらえれば、残り物を頂ける分だけマシというものだろう。



 (5)バッド、悪ノリ野郎の烏合の衆


 最悪なのが、男ばかりで下準備もそこそこの、悪ノリ野郎どもだ。

 本科生時代のビクトルそのものだが……。


 「楽しけりゃいいんだよ!」とか「俺たちの戦いをすればいい!」とか「一旗揚げる! 何度でも!」などとほざいて、まず間違いなく、ビクトルの助言には目もくれない。

 そして我先にモンスター討伐ポイントを稼ごうとして、しっちゃかめっちゃかな戦闘になる。チームワークなんて、これっぽちもない。

 だから余計な被弾が多く、補助アイテムを手当たり次第にジャブジャブ使い込んでしまう。


 そして、安息処を汚しまくる。

 壁に落書き、ゲロや糞尿放置、さらに仲間割れ……。

 散々、悪ノリで騒ぎまくった挙句、クエスト達成見込みがなくなると、喧々諤々の内輪もめを起こし始めるのだ。


 元々、マルカグラードを離れてどんちゃん騒ぎがしたいだけの連中だ。

 戦闘中にお手製の手榴弾を投げ込んでやりたい殺意に駆られることもある。

 昔の自分と重ね合わせて、顔から火が出るような思いにもなる。


 はっきり言って、観察するだけ無駄。

 途中リタイアが目に見えているので、放置しかない。



 (6)バッド、ケチ×ケチ


 できればお断りしたいのは、ケチなパーティ。

 スキルバレットの出し惜しみも去ることながら、補助アイテムすら全て持ち帰りたいなどと言い出した時には、もうお手上げだ。

 そこまでコストにこだわるなら、しっかり下準備するか、鏡を見て出直して来いと、小一時間説教したくなる。

 散々、ダダを捏ねた挙句、夜逃げ同然にひっそりと姿を消すことが多いから、全く信用出来ない(たち)の悪い連中だ。


 5と6の2パターンに関しては、モンスターも残されて危険だ。

 当たったら運が悪かったと諦め、次のパーティが早めに来てくれることを願うしか無い。



「んで、遅れてくるパーティに多いのは……2と5だ」


 貴族の場合、往々にして準備に時間をかけるものだ。

 「他とは違う」、そういった見栄が、彼らを仰々しい装飾品で飾り立てさせる傾向にある。


 5は……なんというか、ホントにただのバカ。

 そのことは、ビクトルが一番良くわかっているつもりだ。


「よ〜し決まりだ! 今回は貴族のお嬢さまご一行に間違いな〜し! お求めの『竜の間』はこちらでございますよ〜」


 なんてことを言いながら、無理やりテンションを上げてみる。

 しかし耳に届くのは、家路を急ぐカラスの鳴き声ぐらいだった。






うん、女の子が来るよ! 間違いない!(確信

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ