第6話 巻き込み
三人は撮影現場であるモールの向かいにある海岸に向かい始めるが、優希が撮影機材置いてるところに車移動させろよと言ってきたので、わかったとだけ伝えて車に向かうのだが、駐車場に人だかりができてる場所があった。
優希はそれを見て、なんだ?なにかあったのか?と目を輝かせていたのだが、理由はほぼ間違いないので、溜息をつく慎であった。
案の定、俺たちの乗ってきた車をみてザワザワしていた車好きな人たちだった。そこで優希が、スゲースゲー慎見ろよあれ!たしかあれって、四~五千万するんじゃかったっけ。乗ってみたいよなぁとか興奮気味に肩を掴みながら話しかけてくるのだが、当の本人たちは苦笑する事しかできない状況だった。
慎たちが、人の間をすり抜けその車に近づきはじめると、優希がおいお前何してんの、近くで見たいのわかるけど傷つけたらやばいんじゃね?と言っていたが、俺がちょっとすいません危ないですよとドア周辺の人たちに声を掛けて、助手席のドアを開けると周囲からおぉ~とざわつき始める。写真いいですか?とのことで、もう出るから手短にお願いしますと、言った途端にシャッター音が鳴り始めることになった。
その情景は、依然行ったことのあるモーターショーみたいだなと感じた。
「おい、慎なんでおまえあの車のドアあけれるんだよ。」
と慌てふためきながら、両肩を掴んでくる。
「いや、俺が鍵持ってるからだよ。でないと開けられないだろ?」
「そうじゃなくて、なんでそんなもん持ってるんだってことだ。」
そりゃそうだよなぁ、ただの大学生が普通もってないよなぁと思いながら、優希に体を揺らされ続ける。ふと鏡を見ると俺たちのやり取りを見ながらケラケラと笑っていた。
優希には、爺さんから借りたと伝えると、
「あぁ~、なら納得だわ。慎のお爺さんなら大概のことは、納得してしまうね。」
と苦笑していた。
「納得しちゃうんだ・・・どうなんだそれ・・・」
どうにも納得できないのは、俺が身内だからだろうか。
「慎君、とりあえず移動しないと、優希さんの仕事に差し支えるんじゃないかと思うのですよ。」
あぁそうだねと答えながら、優希には徒歩で現場に向かってもらうことにする。なんせ二人しか乗れないものでねすいません。
「了解!楠木優希現場に直行いたします。」
敬礼をした後、回れ右の後ダッシュで去っていった。その姿をみて、確信に近い嫌な予感しかしない慎であった。
「すいません。もう出ますので、通してください。」
と、最初よりも増えた人だかりをすり抜け助手席に鏡をエスコートして、乗車してもらった。撮影していた人たちも、ありがとうございましたと、手を振っている人や、頭を下げている人などまちまちだったが、皆楽しそうなので幸せな気分になっていた所に水を差す事が一つだけ発生した。駐車場に集まっている人だかりは何か事故か、事件が起こったのではないかとモールの警備員が駆けつけてきたのだ。
警備員に事情を説明をして、もう出ますので安心してくださいと伝えたところ、お気をつけてと言われモールを後にする。
しかし、まぁ次から次へとイベントが発生するなぁと思いながら、鏡にそのことを話すと遊園地みたいなテーマパーク行くより遥かに楽しいじゃないですか。と力強く回答されたのであった。
あぁ この人は大概のことは、面白ければ無問題という人なんだなと、心の底から感じた。実際、こんなイベントはそうそう発生しないので、自分自身でも楽しく思っている。
そうしているうちに、撮影機材の積んでいる車を見つけ、近くに駐車させる。車から降り、鏡をエスコートしていると、優希と撮影スタッフ一同が勢ぞろいしてこちらを眺めているのに気づいた。カメラマンは、ほほぅといいながら右手で顎をいじって優希のマネージャーと話しており、他のスタッフは羨望の溜息らしきものをついていた。
そして、優希は悪戯っぽく笑っている。やっぱり予感的中じゃないか。予感というより、確信しての予感だったが、その通り過ぎて呆れてしまうほどだった。
少し恥ずかしいかなと感じながらも、車から降りた鏡と二人で邪魔にならないよう見学させていただきますと、挨拶もそこそこに撮影準備が始まることになったのだが、カメラマンと優希のマネージャーが慎に相談があると話しかけてきた。
「赤坂君、ちょっとお願いがあるんだけど、聞いてもらえるかな?」
優希のマネージャーである堀さんが、慎に声を掛ける。
「どうしたんですか?僕でお手伝いできることなら、報酬次第ではおききしますよ。」
と冗談っぽく返答する。
この堀さんは小太りではあるが、見た目に反してかなり身軽で驚かされた人だ。しかも、依然優希にひきづられ強制的に撮影見学させられたときは、ただの見学だったはずなのに、半ば強制的に手伝わされた事があったのだ。理由は、かなり足場の悪い撮影現場だったこともあり、スタッフが怪我をしたという事で、少しだけどバイト代だすからと道具もちやら、なにやら雑用をさせられた時に、話したことがある愛嬌のある憎めないキャラクターの男性だった。また、足場が悪いのに、それを感じさせない動きだねと、スタッフ全員に賞賛されてしまったのを思いだす。
「ははは、厳しいなぁ~。では、とりあえず話しを聞いてもらっていいですか。お願いというのは二つあるのですが、一つは撮影に赤坂君が乗ってきた車を撮影に貸してもらえないでしょうか?ナンバーなんかはちゃんと消しますし、報酬も多くはないけど出させてもらいます。正直、レンタルとかすると、結構いい金額するから、ガソリン代と使用料ということでこんな金額でどうでしょう。デート代にはなると思いますよ?」
交渉という事もあり、フランクな話し方から一転して、堀さんは丁寧に話をし始める、提示された金額は、個人的には十分すぎるという事もあり、快く受諾した。
「ありがとうございます。助かります。」
にっこりと笑みを浮かべ深々と頭を下げて謝意を表す堀であったが、次のお願いのほうが本題になるのですがと前置きをしたうえで、カメラマンに視線を促した。
カメラマンは久保と名乗り、右手を差し伸べてきたので握手を交わす。一応顔見知りではあったが、再確認も兼ねて慎も名乗ることにした。
「では、早速ですが二つ目のお願いと言うのは、僕からになるのですが、まず今日の撮影は雑誌の優希君特集と、その雑誌の付録として簡単なちょっとした映像付録のDVDをつけることになったんです。そこで、海岸で撮影する事にしたんですが、思ったよりありきたりでアクセントが足りないなということで、なにかアクセントが欲しいという事で、考えていたんですね。それで、気分転換も兼ねて海岸掃除のボランティア活動をしていたんですね。そこに、渡りに船のように赤坂君が現れてくれたと、これは、もう被写体として活用できるチャンスをカメラの神が私に与えてくれたに違いないだ。」
拳を握りしめ熱く語りだし最後に、少し噛んでしまった姿を見て慎は苦笑する。鏡は、真剣に聞いてうんうんと深く頷き納得しているようだった。しかし、この内容はあくまで、堀さんと交渉した結果成立している話なので、内容を理解した上で
「それで、さっき堀さんが交渉してきた内容になるという事ですね。わかりました。でも、それは一つ目のお願いだという事だと認識しましたが、二つ目のお願いというのはどういったものになるんでしょうか。」
久保は、なにか話しが噛みあっていないかのような表情をすると、
「あれおかしいな、どうもうまく伝わってないようだなぁ。堀さん、今のじゃわからなかったかな?」
堀は顔の左半分が引きつるように苦笑しながら
「今のは、事情がわかってる僕には分かるけど、赤坂君にはわからないでしょう。久保さん興奮しすぎましたね。僕が代わりに、お話ししましょうか?」
なんで?と呟きながらも、じゃ悪いけどお願いと堀とハイタッチをして、久保は堀の隣に移動する。
「ごめんなさい。久保さんは、普段はこんなに説明が下手じゃないんだよ。それはわかって欲しいです。ただ、今の説明じゃちょっと分かりにくかったかもしれないけど、まずカメラマンの久保さんの迸る熱い思いは理解してもらえましたよね。」
慎と鏡は顔を見合わせ、再び堀に向かって二人で分かりますと頷く
「ありがとう。それを理解してくれた上で聞いてくれると、有難いです。簡単にいうと被写体ってのは、あの車と車に乗っていた。君たち二人も含まれると、考えてくれないかな。」
その説明を受け、二人は口が半開きになり驚く。
「いやいやいあや、なに言ってるんですか。僕ですよ?僕なんかが映ったら、久保さんの作品バランスがおかしくなるでしょう。鏡さんは、綺麗だから映えるのは間違いないので、そういうお願いはあり得るんじゃないかなと思ってましたけど、何故僕もはいるんですきゃ。」
焦りすぎて噛みまくってしまう慎であった。まさか自分にもお誘いが来るなんてのは想定外すぎて動揺してしまった。
「それに、これは鏡さんにも確認しないといけないですよね。」
と、鏡を見ると顔を少し俯かせ頬を赤らめ、うなじを左手でポリポリ掻きながら
「慎くん。いや堂々と、そんなん言われたら、正直恥ずかしいんやけど・・・いや、嬉しいんやで?綺麗言われて嫌な人なんておれへんと思うんやけど、こんな人がぎょうさん(たくさんと言う意味)おるところで、言われたらなんて言ったらわからへんわぁ。」
慎の顔を見ることができないようで、それを見て慎はしまったと狼狽し始めることになった。
気にするところそこ?と堀と久保からの突っ込みが入ったのは言うまでもない。
そのやり取りを、見ていたスタッフと優希が爆笑の渦に巻き込まれていた。
「え~とで、どうします?素人さんという事もあるし、急な話しだから、あまり無理には言えないんだけど、久保さんのモチベーションも最高潮なので是非協力いただきたいです。」
堀は、両手を握りしめ俯き加減に慎と鏡へ一歩足を踏み込みながら力強く語りだした。
「それって、もうやってよ。お願いだから。バイト代出すからっねっね?ということですよね。」
慎は、頬を紅潮させながら返事をする。
「平たく言うとそうだけど。鏡さんでしたね、多くはありませんが、当然鏡さんのバイト代もちゃんと出します。」
それを聞いた鏡は、
「ん~、夕方くらいまでなら、私はいいけど慎君はどう?」
「わかりました。鏡さんがいいなら、僕も協力します。ところで、僕もバイト代出るんですよね?」
口頭での契約事だから、きちんと最初に話しをしておかないといけないので、確認はしておく必要がある。金額が多い少ないの問題ではなく、後で揉めるのが嫌だったからである。
そこで、堀から返ってきた回答は
「ん?赤坂君のギャラはさっき車のレンタル代の中に組み込んでたんだけど?少なかった?でも、これ以上はちょっときびしいかなぁ。」
受けてくれる前提で提示してきたようだ。慎は、ここに確信犯がいるよ~と思いながらも、車は爺さんのものなので、自分の労力も無しで得られるのも心苦しいので
「わかりました。ひょっとしたらなぁ。なんて甘く考えた僕が間違いでした。」
「いやいや、それ自体は間違いじゃないよ。交渉はするべきものだと思うから、でも出せるなら何とかしたいけど、受けてもらうために最初からMAXで提示しちゃったもんだから、ごめんね。」
急な話しで無理を言ってるから、ということで金額を上乗せしていてくれていたらしい。
そして、話しもまとまり衣装やメイクを施され、撮影準備もできたとのことで、撮影にはいることになり、慎と鏡は、顔を見合わせて無言で肩を竦めた。
読んでいただきありがとうございます。
駄文ですが、楽しんでくれると嬉しいです。