幕間 王都警務官のシフォンケーキハチミツソースがけ。
まったく、うかつな姉をもつと大変だ。
どうしてああ、のんきなんだ。
中央地区警務官詰所に戻って警務部長に報告をした。
「ファウルシュティヒ、疲れて無いか?」
ゲルアシュアゼ警務部長が事務机の向こうから鋭い瞳を投げかけた。
恐ろしい洞察力だな…最近姉のことで疲れている。
たしかに疲れているんだが…。
「大丈夫です。」
オレは無表情を保った。
「姉さんのことで追い詰められてるんじゃねぇか?」
ゲルアシュアゼ警務部長がさらに鋭く切り込んだ。
まあ、うるさい取材陣を蹴散らして来るのはたしかにきついリュラガウスのいる傭兵学校にまでいって教官と上級生に撃退されたらしい。
「特に問題ありません。」
オレは淡々と処理を進めた。
「まったく、無理するなよ、たまにはハニータルトでも食べに行くか?」
焦げ茶色の髪に白髪混じりの無自覚色気親父が笑った。
「…家に帰りたいので。」
オレは帰りにパティスリー・イシカワのシフォンケーキ(ハチミツソース付き)を食べようと思い浮かべた。
上司とハニータルトをたべるなんて息がつまる。
「そうか…。」
寂しそうに無自覚色気親父が言った。
「では、失礼いたします。」
オレはそういって席に戻って荷物をまとめた。
ロッカーで制服から私服に着替えて外に出る。
「あ、レファルウス~、お疲れ~今帰り?」
傭兵ギルドからファリーエ・ハラシアーゼ高等槍士…まあ、早い話が星霜のファリーエが出てきた。
傭兵学校で同級生だったが相変わらず能天気な女だ…隙はないようだが。
「依頼に出るのか?」
最近ファモウラ軍国が不穏だと聞いた。
リラックスしているように見えてすぐに動けるようにしているのは仕事前の証拠だろう。
「うん、今晩の飛行挺でファモウラに小競り合いを押さえにいってくる。」
少し微笑んでファリーエが答えた。
「まだ、時間があるなら一緒にシフォンケーキでもどうだ?」
オレはおもわず誘った。
これが今生の別れになるかもしれないと思ってしまったからだ。
「パティスリー・イシカワ?いくいく。」
ファリーエがニコニコとオレの隣にたった。
パティスリー・イシカワは老舗の異世界菓子店だ。
先先代国王ウェティウス陛下の時代に異世界から落ちてきた初代店主が当時の国王夫妻の支援を得て開店した店で王家御用達だ。
「ねー!メルティウス殿下と結婚なの?」
ファリーエがハニーソースをシフォンケーキにかけながら言った。
オレは飲んでたお茶を吹き出しそうになった。
「………知るか。」
むせこみながらやっという。
王宮警護官の姉はしばらく出てきていない。
通信機も守秘義務の関係でその手のことは話せないはずだ。
「うーん、残念、レファリウスなら知ってると思ったんだけどな。」
ファリーエがシフォンケーキを大きく切りながら言った。
「そんなことよりもファリーエの方はどうなんだ?」
オレはシフォンケーキをハニーソースに浸して聞いた。
ファモウラの方ではだ雫一族を支持する連中が反乱をおこしているようだが…。
「ああ、そうだ、ナリディアさんが行方不明になった。」
ファリーエがどこか他人事のように言った。
「ナリディア先輩が行方不明?」
ナリディア・カザフ先輩…高等棍士蒼天のナリディアはファリーエとオレの傭兵学校時代の先輩だ。
「ファモウラで一応探したんだけどね…亡くなったにしても…見つからないんだよね。」
言いにくそうにファリーエがアイスティーにハチミツを注ぎ込む。
「……オレの上司みたいに異世界に飛ばされた可能性もあるかもな…。」
オレはフォークを持ったまま腕組みした。
「え…そんなこともあるんだ~…その人に聞いてみたいな、まだいるかな。」
上目遣いでファリーエが言った。
う、そんな目で見るな…。
「おー、帰ったんじゃないのか~?」
能天気にオレの上司サラリウス・ゲルアシュアゼが机から顔を上げた。
「あの、実はお聞きしたいことが。」
オレはファリーエに目をやった。
「ん?結婚でも決まったのか?それにしては抱き上げてねーな。」
ゲルアシュアゼ中央区警務部長がニヤリとした。
「かっこいい…じゃなくて、あの実は先輩がファモウラの戦場で行方不明になりまして、異世界に行った可能性もと言うことで…。」
少しぽーっとしながらファリーエが言った。
「ああ、そうだな…オレもファモウラの戦場からフロールシアに行ったからな…可能性は捨てきれないな…嬢ちゃんは傭兵らしいな…レオカシオ…ウルティアガは知ってるか?」
ゲルアシュアゼ中央区警務部長が腕組みしてきいた。
「はい…愛妻家のレオさんですよね。」
やっぱりぽーっとしながらファリーエが答えた。
無自覚色気親父恐るべし。
「レオ坊のやつそんな呼び名になってるのかよ、グーレラーシャ人相手にそこまで言わせるなんてな恐るべしだぜ。」
中央区警務部長が感心したように言った。
確かに基本的に相手に狂気と間違える?ほどの熱愛をするのがほとんどのグーレラーシャ傭兵国人だからな、そのグーレラーシャ傭兵国人に愛妻家と呼ばれるなんてどんだけ妻を抱き上げまくってるんだ?
「本当は黒豹のレオカシオさんで、高等剣士ですけど…本当にその件がわかるのですか?」
ファリーエがぽーっとしたまま言ったところでファリーエの通信機がなって、やばっ時間だよとファリーエが慌てた。
「あいつは、今ファモウラにいるはずだから連絡しておく、空港まで送っていってやれ若者。」
ニヤニヤしながら無自覚色気親父が言った。
「ファリーエ、送っていこう。」
ありがとうございますと挨拶をして出かけたファリーエに言うとそこまででいいといったので中央区警務官支部の入り口まで送った。
ありがとーと元気にファリーエがてをふったところをふりかえしていつまでも夕日に小さくなっていくファリーエを見つめた。
「あの…レファリウス・ゲルアシュアゼさんですよね。」
一人の女性が近づいてきた。
「なにかご用ですか?」
オレは愛想笑いを浮かべた。
「メルティウス殿下のお姉さま熱愛宣言についてどうに思われますか?」
女性は通信機をオレ向けていった。
「今、友達が傭兵業務で任地に赴いたところです。」
オレはそれだけいって家に向かって歩き出した。
まったく、みゅーな姉せいで感傷にも浸れやしない。
ナリディア先輩は行方不明だし…ファリーエだって帰ってこない可能性だってあるんだからな。
それにみゅーな姉にはメルティウス殿下よりカイレウスの方があってるとオレは思うんだが。
まあ、どうに転ぶかはわからないけど…準備しておかないとな。