新人王宮警護官の涙はレーズン巻。
いつもの制服より長い黒い王宮警護官の正装のたて襟、長袖の長衣に袖を通す襟章と右肩章はいつものラーキャとミツバチのものだけど金糸が使われてる豪華版。
ズボンも黒い細身のもの。
黒髪のミツアミも乱れのないようにきちんと編み込んで支給のラーキャとミツバチの小さい簪を根本にさしこむ。
連絡用のラーキャの花びらのピアスの装着もしっかりとする。
新人王宮警護官、リンレシア・ファウルシュテヒ…なぜかメルティウス殿下の外交警護に指命されました。
警護官の正装は黒でいつもより長いから動きにくいですにゅー。
本日の外交はヌーツ帝国の皇女殿下ジェーアリーヌ様との会談らしい。
そんな大国の皇女様が来るのに新人王宮警護官が警護してもいいんですかにゅ~。
黒い長い髪をエレガントに編み込んだ灰色がかった紫の瞳の皇女殿下は意外とみのこなしが良かった。
ヌーツ帝国伝統の華やかな白地に紫系の花柄の半袖の上着に紫の足首丈キュロット、薄紫の透け感のあるストールは頭から巻かれて首もとでエレガントに揺れている。
「この度はバカが失礼いたしました。」
麗しい皇女殿下が男らしく頭を下げた。
「バカとはどなたのことですか?ジェーアリーヌ殿。」
メルティウス殿下が微笑んだ。
「バカはうちのピエスギア外交官のことです。」
ジェーアリーヌ皇女殿下が苦笑した。
「ジェーアリーヌ皇女殿下は私との婚姻を望まれているというお話ですか?」
メルティウス殿下が少し人の悪い笑みを浮かべた。
「…あのバカはこれからしめますのでどうかご容赦くださいませ。」
美しい皇女殿下はりりしい顔をした。
最初のイメージと違うにゅー。
若い武人って感じがする。
「…ピエスギア外交官はジェーアリーヌ殿にけそうされているからあのような態度をとられたのではないのですか?」
妙に色っぽくメルティウス殿下が微笑んだ。
「いいえ、まったく!ちょっとよろしいですか?」
ジェーアリーヌ皇女殿下がすくっと立ち上がった。
外交である以上後ろには件のピエスギア外交官が控えている。
「ん?なにか問題ですかな?」
ピエスギア外交官が近づいてきたジェーアリーヌ皇女殿下に言った。
「この、アホ~!」
ジェーアリーヌ皇女殿下が飛び蹴りをかました。
そのまますぐに起き上がりバランスを崩したピエスギア外交官のにラリアートをかまして首を締め上げる。
た、助けた方がいいのですか?
隣にたつサリアノーレ・ゲルアシュアゼ先輩を見ると無言でメルティウス殿下の方を見たのでいどうする。
王族の守護がメイン業務ですにゅー。
「あんたのせいでこんなとこまできなくちゃならなかったじゃないの~!」
ピエスギア外交官を締め上げながらジェーアリーヌ皇女殿下が叫んだ。
「く、苦しい。」
ピエスギア外交官はいきも絶え絶えだ。
と、止めた方がいいですか?
サリアノーレ先輩がそっと拘束符を取り出したのが見えたのですみゅー。
一国の皇女に使うのはリスクが高いからサリアノーレ先輩、自分で責任を被る気です。
どうしよう…。
解放符出しておかないとです…慌ててますみゅー?
「お、ま、え、ら、ここがどんな場かわかってるのか!」
サリアディア先輩が動くより先にヌーツ帝国の随行員が書類を丸めてジェーアリーヌ皇女殿下とピエスギア外交官の後頭部を叩いた。
けっこういい音がしましたけど…大丈夫ですかにゅー?
「エリオット~!痛いじゃないのよ!」
ジェーアリーヌ皇女殿下がピエスギア外交官を離して後頭部を抱えた。
ピエスギア外交官はそのまま床に崩れ落ちて荒い息をしている。
「仕事せんかい!皇・女・殿・下・、外・交・官・のバカ二人!」
エリオット随行員が二人をまた頭を叩くと怒鳴った。
「ちょっと~私はバカじゃないわよ。」
ジェーアリーヌ皇女殿下が頭を撫でながら言った。
「エリオット、手加減していただきたい、私は体力バカ皇女殿下とちがって繊細なのですぞ。」
ピエスギア外交官がやっと立ち上がって言った。
「この大バカコンビ!だいたいお前がジェアと結婚したくないからと先走ったせいだろうが!」
エリオット随行員が両手を腰に当てて叫んだ。
「私に暴れん坊皇女の手綱がとれるわけないのですぞ!」
ピエスギア外交官が情けない事を宣言した。
「たしかにジェアは猛獣女だ、そして対抗できるのはグーレラーシャ傭兵国の王太子殿下くらいだろうが!段階があるだろう、なつかせれば可愛いですよとか!」
エリオット随行員が叫んだ。
「あんたたち、どんだけ私の事、猛獣だと思ってるのよ!」
ジェーアリーヌ皇女殿下が抗議した。
「ヌーツ帝国の猛獣姫いいえて妙ですぞ!」
ピエスギア外交官が言った。
とたん隣で爆笑が聞こえた。
みるとメルティウス殿下が肩を震わせて笑っている。
「なかがよろしいようですね、会談はまたにいたしましょう、王宮管理官、部屋にご案内しなさい。」
メルティウス殿下が笑いまくりながら命じた。
「ええ~?困りますよ。」
猛獣姫、もといジェーアリーヌ皇女殿下が言った。
「押してだめなら引いてみなともいいますぞ。」
ピエスギア外交官が口をはさんだ。
「失礼いたしました、ニバカ、いくぞ。」
エリオット随行員が二人の首根っこをつかんで引っ張った。
「エリオット!私は子猫じゃないわよ!」
猛獣姫が叫びながらも引きずられていく。
「諦めが肝心でございますよ、猛獣姫。」
ピエスギア外交官が本当の子猫のようになすがままで言った。
あのエリオット随行員って力持ちなんですにゅー…。
王宮管理官の後をついていく三人(プラスその他の随行員)を見ながら笑いそうになってなんとかこらえたつもりだった。
「笑っている場合じゃないわよ、報告書の作成が今回は大変そうよ。」
サリアノーレ先輩がそっと隣に来てささやいた。
「…はい、頑張ります。」
私はやっぱり笑いが収まりきらずふるえながら言ったですにゅー。
サリアノーレ先輩…半端ないですにゅー。
夕食時、いつもの王宮職員食堂で大好物の豚肉のレーズン巻きをパンにはさみながらつぶやいた。
少し時間が遅いのかあんまり人がいないですにゅー。
大型スクリーンには明日の天気をやっていた。
グーレラーシャ傭兵国、王都は明日は雨らしい。
中庭に出ることもあるからカッパを準備ですにゅー。
さっきまでサリアノーレ先輩にダメ出しされてたから本当に疲れましたにゅー。
外交警護の報告書なんてまだはやいかったです。
お父さんが警務官のサリアノーレ先輩みたいな生粋な王宮警護官とちがって未熟なんだから手加減してほしいですにゅー。
「疲れたようだな、大丈夫か?」
上から声がして見上げると…メルティウス殿下がたっていた。
こ、こんなところに?
お、お供はいないの?カ、カイレウスとか?
「こ、こんばんは。」
なんか変な発言ですね。
「ああ、こんばんはだな、驚かせてしまったか?」
メルティウス殿下が微笑んだ。
「な、なにかご用ですか?」
って私にようで来た訳じゃなくて通りかかっただけですよね。
食堂内がなぜか緊張に包まれる。
黒髪の男性…ハニーワッフルサンドを食べてる人がしっかりとみてるんですけど…知り合いじゃないですよね…。
「ファウルシュティヒ王宮警護官…いやリンレシナ嬢に会いに来た、少し良いだろうか?」
メルティウス殿下が微笑んだ。
「はい、どちらにうかがえばよろしいですか?」
なんか失敗したでしょうか…始末書嫌ですみゅー。
「不安そうな顔をしなくても大丈夫だ。」
メルティウス殿下が立ち上がった私の手を少し強引に握った。
「あ、あの…。」
あれ?この展開どっかで経験したような…ま、まさかそんなことありませんよね。
レーズン巻きのお皿をなぜか見てしまいました。
「食事中だったか?すまない。」
メルティウス殿下がそういいながら私の手を持って廊下に出た。
廊下から見える建物の間の魔法灯に照らされた中庭からきれいな月が見えた。
「そなたは誰かに求愛されているのか?」
ゴージャスな金のミツアミが水色のメルティウス殿下の瞳を彩っている。
真剣な眼差しにたじろいだ。
「あの、どういう意味でしょうか?」
私はそういいながらもカイレウスを思い浮かべていたです。
焦げ茶色の瞳の傭兵貴公子を…。
「カイレウスにさきをこされたか…だが言おう、私はリンレシナ嬢に求愛したい、どうか受け入れていただきたい。」
メルティウス殿下の麗しい顔が目の前にあった。
「あの、私…。」
王太子殿下の求愛なんて無理ですみゅー。
それに…やっぱり思い浮かぶのは焦げ茶色のあの人です。
中庭の明かりがぼやけた。
「泣かせてしまったか…すまない。」
メルティウス殿下がそっと頭を撫でた。
「あの…私、失業ですか…。」
そうだよね、王太子殿下振るんだからいられないですよね。
「…やめないでくれ…それに私はあきらめない。」
メルティウス殿下が私の涙をな、なめた?
「 今日はもうかえる、食事をじゃましてすまなかったな。」
メルティウス殿下甘い微笑みを浮かべてはなれた。
メルティウス殿下の金髪のミツアミ揺れる背中が王宮の王族の部屋群の方へ去って行った。
わ、私無理ですみゅー。
メルティウス殿下~諦めてください~。
それに…気になるのは焦げ茶色の傭兵貴公子…。
自分で逃げといてやっぱりそうなんです。
どうしたらいいんでしょうか?お月様。
わからないですみゅー。