第八話 定期試験作戦
さて、定期試験が明日に迫った前日、教室でざくろが俺に泣きついてきた。
「うぇーん、広兼、テストで点が取れる気がしないよ」
座ってる俺の肩に埋まってるようだから、傍から見たら俺がざくろを泣かしてるように見えるからやめてほしいものである。
「俺に言われてもなあ、こればっかりはどうしようもないよ」
「折角、松野屋の焼きプリンを広兼に上げようと思ってたのに」
なん……だと……。
「おい、詳しく聞かせろ」
「うん、昨日、親戚の人が家に来てお土産としてもらったの。それで広兼がいるかな、と思って」
「なるほど、わかった。仕方ない、報酬としてそれをもらえるのなら協力しよう」
「さすが広兼、話が分かってくれる。で、どうすればいい」
うきうきとざくろが話す。
「それは、ここで話すのはな、あとで話そう」
そこで話題を切ったのだった。
しかし、松野屋の焼きプリンを食べれるとは、今日はついてるぞ。
杏とスフィアに今日はざくろの家に寄って帰るといい、杏とスフィアが付いてきたいと言ったが、焼きプリンを取られたくなかったので適当な言い訳をして追い返す。
そして、ざくろの家に入り、ざくろの母に軽く会釈をする。すごい驚いていたけど、ささいなことだ、そして、ざくろの部屋に入ると驚いた。部屋中に漫画が散らばっている。
はじめて、いや杏の部屋に入ったことあるけど、あいつはなんていうか次元が違う。ざくろの部屋はとてもじゃないが花の女子高生の部屋とは思えない汚さであった。
「なんでこんな汚いんだ?」
「そう? 好きな漫画の場所は分かるよ!」
そんなこと自慢されても困る。
「まあいい、それよりも例のぶつを先にくれ。スプーンは持ってきてある」
「用意周到だね……分かったちょっと待ってて」
そういうと、一階に降りて焼きプリンをとって戻ってきた。そしてそれを差し出す。
「おおおおお、これだ、間違いない。ありがとう」
俺は早速、蓋を丁寧にはがして、焼きプリンを食べる。
「うまい! やはり、松野屋はすごいと思う、焦げ目のほろ苦い味、プリンの程よい甘さ、仕上げと言ってもいいまるで花の蜜のようにあまいカラメル。俺の作る焼きプリンはまだまだ改良の余地があると考えさせられるようなおいしい一品だ」
「さて、献上品も食べたし、明日のテストどうしやしよう、親分」
ざくろが手を揉みながら聞いてきた。どこの三流の悪役だ。
「ああ、もちろん手伝う、それはな……」
俺は恐ろしい作戦を伝える。ざくろは驚愕して。
「そんなこと、していいんですか?」
「ああ、焼きプリンのお礼だこれくらい安いものだ」
「でも、うまくできるかわかりませんよ、やったことないですから」
「でも、試す価値もあるし、できれば間違いなく補習は回避できる」
俺は自信満々にそういいざくろを納得させるのだった。
次の日、テスト当日
水鳥学園の高一のテストは一科目一時間を四日に分けて行われる。最初のテストは数学だった。
テスト開始の合図が出され、俺はざくろにこういう作戦を伝えていた。
『テスト開始して、俺が急いで問題を解く、鉛筆で机をトントンとしたら俺の答案とざくろの答案を同時に瞬間移動と物体移動の両方を同時に行うんだ、そのとき、なるべく同じ位置になるように移動させてくれ、周りに気付かれると事だからな、そして、5分だ、5分間でできるだけ答えを覚えるんだ、それ以上は教師にばれるだろう、できるだけ答案覚えて元に戻してくれ、それと文章を書く問題と国語は自力でやる。これを写すのはあまりにも疑われるリスクが高いからだ』
ちなみに瞬間移動とは自分が触れているもの又は自分自身、物体移動とは離れたものを移動させる超能力だ、ざくろは瞬間移動と言っていたが、間違いなく最初に発言したのは物体移動だ。だからできると踏んだ。
俺は15分前に合図を送る。すると音もなく答案が入れ替わる。一応、分かる問題は埋めろと言っていたが、あいつ、この二週間何を勉強していたんだ? と思うくらい埋まってなかった。
5分後、答案は戻って来て、ざくろは必死に鉛筆を動かし始めている。良かったどうやら成功しているようだ。
二限目は国語でこの作戦は行われず、三限目は古文で作戦通りに動いた。
そして授業終了後、杏たちはテストなんか何も思ってないのか、こちらに寄ってきた。
「いやあ、45分も時間が余った。あたしにとっては字の書きとりテストみたいなもんだよ」
いや、杏、その言葉は敵を増やすぞ。
「うぅ、早弁できないのがつらいー」
そういえば、真央はテストの途中で『せんせー テスト終わったんで、ご飯食べてもいいですか?』とかあほなこと言ってた気がする。
まあ、ざくろ以外はどうしてこんなにできるんだってくらい、頭いいからな……
そんなことを話していると、ざくろがくらっ、とよろける。
「ざくろさん、大丈夫ですか?」
「う、うん、ちょっと頭がくらっとしただけ」
スフィアが心配そうに尋ねると、ちょっとしんどそうにしていた。
「ざくろ、やめるか?」
俺がたずねると。
「ううん、せっかく広兼が考えてくれた作戦だもん、最後までやり遂げるよ」
ざくろは首を横に振った。俺とざくろのやりとりを杏はこっそり見ていた。
テストは二日目、三日目と順調に終わる、目に見えてざくろが疲弊しているのがわかった。だが、止めても、『大丈夫』の一言で返されてしまう。
しかし、事件はテスト最終日の最後の科目の物理で起こるのであった。
俺のところに答案が帰ってきて。ざくろが問題を解こうとしたら、ざくろの目が虚ろになり、近くのいろんなものが消えては別の場所に現れる。幽霊の悪戯みたいな現象が起こる。教室がパニックになる。これはざくろが原因なのは科学探究部の面々は気づく
そのとき杏がポケットから電球みたいなのを取り出す。次の瞬間、一瞬で教室全体を覆う限りなく蒼に近い白の光で包まれる。そのあと、杏の行動に気付いた、科学探究部の面々以外は眠ってしまった。ざくろはあいかわらず虚ろな目をしている。ときたま、後ろの本棚の本が移動したりしている。
「これは……ざくろは、超能力の使い過ぎの過負荷を起こしている。でも、これを使えば!」
さっき取り出した電球のような装置を近距離でざくろに、照らす。そうすると穏やかな表情でざくろは眠り始めた。
「さて、ざくろも落ち着いたところだし、ここ数日、広兼とざくろがこそこそ何かしているのは知っている。話してもらおうか」
「実は……」
俺は事情を話す。すると杏が怒りだした。
「広兼、一気に二つの能力を同時に使うのは訓練がいるのにそんな緻密な作業をさせるなんて、何考えてるんだ」
「すまん、そんなこと知らなかったんだ、ただ、ざくろを助けたかっただけなんだ……」
俺は自分のことの重大さに気づき、反省する。
「広兼、それはざくろにちゃんというんだぞ、まあ、広兼も今後は気をつけるよ――」杏の言葉が終わる前に。
俺の頬に鈍い痛みがはしる。頬を叩かれたのだ。
しかしそれは杏ではなく真央に。
「知らないじゃすまないよ! ここにあんずちゃんがいたから良かったけど、もし、いなかったらどうなっての?」
真央はいつものだるい口調はなく、怒りをあらわにした、声で俺を叱る。
「真央……」
「科学に精通してる広兼はわからないかもしれないけど、魔法も妖力も超能力も全部が全部、人には見えないだけで、負荷が掛かってることが多いんだよ! その人自身が、すごい負担に思ってることがあるの!」
真央は普段では考えられない圧迫感、鋭い口調で俺を責めてくる。
「それは自分から言うことでもないし、まして人に言われることでもない、でもまだそのことに気付いていない人を気遣うのは周りの責任でしょ! 違う!?」
「真央、それぐらいにしとけ、広兼も別に悪気があったわけじゃない。それに謝ってる」
真央は知らず知らずの内に大きな声を出していた。それを夕が止めた。
「あ、ごめん、ちょっと興奮しちゃって、らしくないね……」
真央はしゅんとなった。
「いいよ、今回は完全に俺のミスだ。友達の力をよく知らずに使い、無理しようとしてるのを止めれなかった俺が悪い」
「うんー 私もちょっと熱くなっちゃってごめんー」
俺が謝ると真央は元のおっとりとした雰囲気で俺に謝ってきた。
「しかし、真央、なんで、そんなこと知ってるんだ?」
杏がいぶかしげに真央に問う。
「いやー なんとなくそんな感じがしただけだよー」
真央はおっとりとして、そしてつかみどころのない返事をするのだった。
そうこうしてるうちに、今まで寝ていた生徒や先生が目を覚まし始めたので俺も寝たふりをするのであった。
当のざくろはというと。
「うーん、あれ? いつのまにか寝てた、でも頭もすっきりしたし、張り切って写すぞ!」
そのとき、終了のチャイムが鳴り響いた。
「あ、待って、まだ書けてない……あああああ」
ざくろの悲痛な叫びがここまで聞こえてきた。勉強は自分でやれってこったな。
テストが終わった後、皆で部室集まり、ざくろが過負荷したことを伝え、そのことを謝るとびっくりとして。
「いやあ、あの時、やっと、どきどきとしたテストが終わったって、安堵したら、急に意識が遠のいたと思ったら、そんなことになってたなんてね、広兼が謝る必要はないよ、無理をしたのはこっちだからね、ごめんごめん」
あくまで、軽く言うざくろだった。どうやら過負荷したのは能力の使い過ぎというよりは、能力を使った後に安堵して、ついうっかり出た感じだった。
「まあー 大事に至らなくてよかったよー」
真央がのんびりと言う。どうやらいつもの真央に戻ったようだった。
「でも、本棚ぐちゃぐちゃで花瓶も割れてたけどね」
夕が余計なこと言ったので、杏にわき腹をどつかれていた。
そして、ちょっと危険だったざくろとの試験作戦は幕を閉じたのであった。