第七話 RCONへの報告と鷹目家
学校はテスト一週間前となった。部活は活動禁止になるので、当然、科学探究部も活動はしない、まあ、ほとんど雑談で活動と言った活動もしていない気もするがそれは置いておこう。
今日は俺と杏とスフィアは学校を休んでいる。それも正式に許可が出ている。改めてRCONの権力の強さを知る。俺たちはRCONへの定期連絡のため、本部にある東京へ向かうために新幹線にのる。
杏は昨日徹夜で発明でもしていたのか、すぐ寝てしまった。なので、対面に座るスフィアに話しかけた。
「しかし、科学探究部なんて作って学園生活を満喫してるけど、いざ本部に帰ると俺たちは裏の人間だなって思うよな」
「そうですね、ですが、RCONに帰ることで学園生活のありがたみや楽しみというものがわかるというものですね」
「確かに、自分の任務を確認すると学園生活や家族がどれだけ大切かわかるな」
「はい、愛さんもマスター が帰ってきて嬉しいって言ってましたよ」
愛とは、俺の実の妹である。俺や父の仕事は秘密にしてあるが深く追及してこない、いい妹である。ちなみに母親は妹が小学生六年生で俺が中二のとき、つまり帰ってきてすぐに他界した。あのときは俺も妹も大変だった。
「まあ、あいつにもなんか土産を買って帰らないとな」
「そうですね、きっと愛さんも喜ぶでしょう」
たまにはいいだろうと俺は思うのであった。
四時間後、RCON本部のある東京都、葉桜に着いた。そこから少し歩いたビル、カモフラージュのためなのか、デフォルメのたぬきが目印の大手デパートの地下がRCONの施設である。
俺はデパートに入りエレベーター に乗って、5階と4階と1階と同時に押し続ける。そうすると、横の壁が開き、小さな空間の向こうにさらにエレベーター があった。横にあるボタンを押しながら合言葉を言った。
「たぬきの昔の名称は貉」
すると扉が開き、俺達はその中に入り、地下10階のボタンを押した。
そして、エレベーターから出て、長い廊下を歩きながら二人に問いかける。
「いつ来ても、ここは緊張するな」
「広兼は肝が小さいな」
杏はふんふーん、と鼻歌を歌いながらご機嫌な様子だ。
「いや、普通緊張するだろ、な? スフィア?」
「……え? うん、そうですね、かわいいですよね」
スフィアは緊張しすぎで何も聞いてなかったようだ。お前はここでつくられたのじゃないのかよ……
大きなドアを開けると、少し薄暗く、大型モニター を背後にコの字形をした大きな10人掛けの机に12人が座っている。ここは大会議室である。
その人たちは、会長と4人の幹部、7人の天才発明家である。年も年齢もさまざまなあつまりである。ちなみにひとつの空席は本来、杏の席である。
「真鞍町の経過報告をたのむ鷹目君」
真ん中に座っているつまり会長である人物。表情がよく見えないが、声から若い女性が報告を求めてきた。
「はい、報告にも書きましたが、超能力者が街にやってきました。その人物は一般人、問題はないかと……それ以外は特に異常はありません」
俺はつとめてはっきりと応える。
その言葉に場が沈黙する。
会長は俺を問いただしてきた。
「その超能力者の素性は割れたのですか?」
「はい、杏の、失礼、羽田野博士の嘘発見器を使い、敵意の有無、組織の所属、目的の確認をしましたが何も問題はありませんでした」
「そうか、ならばよい」
そこで、コの字に椅子に座ってるいる人の一人が発言した。
「そいつを捕えて、超能力のメカニズム調べるのはどうでしょう」
芯のある女性の声だった。発言から見て八大天才発明家の一人だろう。
「すいませんが、彼女は一般人でして、その生活を壊すのは難しいかと」
「むう、上の発言に逆らうのか」
「いや、そうではないのですが……」
俺が困っていると。
「あいつはあたしが見つけた。だから誰にも渡さない!」
杏がびしっと言った。
「そうか、羽田野ちゃんが目を付けたのなら諦めるしかないか」
その女性は素直に引き下がった。
「さて、羽田野、鷹目、スフィア、報告ご苦労、もう下がってもいい」
俺たちは一礼すると、大会議室から出る。扉が閉まるのを確認すると俺はため息をついた。
「ああああああ、緊張した、ざくろを実験体にする案が出たときは焦ったぜ、助かった、杏」
「ざくろは大事な友達だ、実験体にされてたまるか」
「サブマスターの言うとおりです」
「まあ、そうだな」
俺は二人の意見を聞き自然と笑みがこぼれていた。
そのあと、俺の教官に挨拶とお土産を渡す。
「おお、広兼、任務は順調か?」
「はい、何事もなく、平和に進んでます」
俺は普段通りに答えた。
「それはよかった。杏さんもスフィアも元気か?」
「もちろんです。おかげで楽しく過ごせてます」
「マスターとサブマスターと同じ意見ですね」
そして、教官に任務中の出来事などを話すのであった。
時間も時間だったので、予約していたホテルに泊まることにした。 食事は8時かららしいで先にシャワーを浴びる。
シャワーを浴び終わった後、のんびり過ごしていた
そろそろ食事の時間だと思っていたら、 ちょうどよくチャイムが鳴った。俺はドアに近寄ると、急にドアが開く。
「よう! 広兼! 元気そうだな、杏ちゃんもスフィアちゃんも元気そうだし、言うことなしだな」
ありえないほど高いテンションで現れ、ずかずかと部屋に入ってきたこの男、俺の親父、鷹目兼続だ。仕事の時は冷静だが、それ以外はすごいアッパー系な、いけいけ親父である。
「何しに来たんだ、親父、飯は3人分しかないぞ」
「いや、お前んとこに、超能力者がいるんだって? おもしろそうだから詳しく聞かせてくれよ、あ、もちろん仕事じゃなくて父として近況も含めて聞きたい」
何を隠そう、親父は4人の幹部の一人である。だからさっきの話を聞いていて当然だ。
なんだ、そういうことか、てっきり飯を食いに来たのかと思って早々に追い出そうとしていた。
「ああ、昔の友達なんだが、こっちに帰って来たみたいで小学生の時に超能力に目覚めたらしい、それだけだ、もういいか?」
正直この年になって親父に語ることはあんまなかった。
「つれないなあ、杏ちゃんからはなんかないのかい?」
「そうだねぇ、あたしたち3人と友達で部活作ったよ」
杏がそんなことを言う
「部活か、いいじゃないか」
「部長はマスターです」
スフィアが余計なことを言う。
「おお! 任務以外はしません、みたいな広兼がまさか部長をするなんてね」
「俺以外にやるやついなかったから仕方なくやってるんだよ」
「でも、まんざらでもないんだろ?」
にやりと親父が笑う。うぜぇ。
そのあと、すこし真面目な顔つきになって。
「一応、その子の能力値を調べておいた方がいい、本人が瞬間移動能力といってるが物体移動能力もあるかもしれないし、レベルが高いといつ超能力機関が嗅ぎつけて来るかわからないからな」
「ああ、わかった」
俺は深くうなずいた。
「そんじゃ、息子と娘の顔も見れたし、杏ちゃんやスフィアちゃんにも会えたし、俺は帰る」
そういうと、玄関に向かって歩き出した。帰り際に。
「友達は大事にな、広兼」
そんな言葉を残し、去って行った。
「しかし、相変わらず親父殿は嵐のような人ですね」
「うん、仕事との時とそれ以外の時のギャップがすごいよ」
スフィアと俺はそんな言葉を交わす。
「ちょっとテンション高いけど、いい人だからな」
杏はそんなことをつぶやくのだった。
次の日の朝、すこしゆっくりとして、朝食を食べた後、久々の葉桜を散歩し、妹へのお土産を買う。そして帰りの新幹線に乗りトランプでガチのばばぬきをする。負けた奴が勝った二人にジュースを奢ることになった。その提案をした後、空気が、変わった。
スフィアが透視眼を使う反則行為や杏がメガネ型の透視装置を取り出したりするのを必死に止め、真剣な心理戦が幕を開ける。
「広兼よ! ババはこっちだ」
「ふっ、手持ちは4枚、この枚数でここがババだと言うところを引くのはあまりにも危険かと言って、普通の人は逃げるためにどちらかの端を無意識に取るはず、よってババの隣だ、と言いたいところだが、お前は俺のことをわかってるから、このババと言われた場所はババではない……む、ババか」
「ふふふ、広兼は裏を読んでくるだろうと思い、裏の裏を書いたのだ」
「やるな、だが俺も負けないぞ、スフィア、ババはこの端だ」
「広兼さんは残り3枚ですか、広兼さんの性格から鑑みてババを示したところにババを配置する確率が高いですね。なら、この真ん中は盲点なはず……な、どうして?」
「お前のことだから、確率で考えるだろうと思い、俺が端にババを持ってくるように思わせるように仕向けたのさ」
「さすがマスター、おみそれしました」
そのあと、ババはもう一度、杏に戻り、俺と杏はあと二枚となり、スフィアは一枚だった。
「さて、二分の一でババだ。ここで二択の心理戦に持ち込んでも広兼の尋問には負けることは分かっている。さあ、どっちだ」
「わかってるじゃないか、じゃあ俺はこの右を頂くとしようかな」
俺はカードをつかんだ、そのときににやりとする杏を見逃さなかった。
「甘いぞ杏、俺はまだカードを引いていない、つかんでいるだけだ。カードをつかんでから変えてはいけないというルールはない。よって、俺は左のカードを選ぶ」
もちろんババではなかった。よって俺は一枚になりスフィアにカードがいき無事あがることができた。
「広兼、汚い!」杏が抗議の声を上げる。
「これは真剣勝負だ、それにルールを破ったわけじゃないからな」
「ちくしょう」
杏が苦々しげに吐き捨てた。
そんなことに気を取られてる間に、杏がババを入れ替える前にスフィアがそっとババじゃない方をとり、あがった。
「あっ、スフィアまだ混ぜてなかったのに」
「サブマスター 勝負は気を抜いた方が負けなのですよ」
「むぅ……」
こうして、杏の負けであとからジュースを奢ってもらうことになった。まあ、ジュース1本でよくもまあ、これだけ白熱できるよな。
真鞍町の駅に降りて、約束のジュースを奢ってもらい、杏を借りているアパートまで送り、俺とスフィアで家に帰ってきたときは6時を過ぎていた。
家のチャイムを鳴らすと、妹の返事が返ってきて。鍵が開いた。
「お帰り、兄さん、姉さん」
ふわふわな黒いセミロングの髪をポニーテールにしていて、いつでもパジャマを着ていそうな容姿、おっとりとした目の妹が出迎えてくれた。
「ああ、ただいま、ほれ、これがお土産だ」
そういい、黄色いシュシュを渡す。
「わあ! ありがとう!」
嬉しそうに早速そのシュシュを今付けているのと取り換える。
「どう? 似合う?」
「ああ、愛によく似合ってるぞ」
お世辞ではなくほんとに似合っていた。黒髪のセミロングにたんぽぽの小さな花が咲いているようだった。
「愛さん、これ私からもお土産です」
そして、葉桜チェリーパイを渡した。
「わあ、おいしそう、あとでみんなで食べよう」
「そうしましょうか」
うれしそうな愛だった。スフィアも満足そうであった。
いつも通りの夕食のとき、愛が突然言い出した。
「最近、兄さんも姉さんも帰り遅いよね、なにかあったの?」
「いや、俺達、部活作ったんだ」
「え!?」
妹がすっとんきょうな声を上げた。
「そうですね、兄さんが部長となって部活を作りました」
「そうだったの、知らなかったな」
妹がすこし不貞腐れていた。
「今度、俺の焼きプリンやるから許してくれ、な」
「うん、わかった」
妹はうなづき、またいつものような他愛のない会話に花を咲かせるのだった。
深夜、愛が寝たのを見計らいスフィアの部屋を訪ねる。
「スフィア、起きてるか?」
「なんですか? マスター夜這いなら明日にしてください」
スフィアがごろりと寝返りを打ち音が聞こえる。
「毎日してるみたいに言わないでもらえるかな」
「知ってますよ、訓練ですか? いいですよ、行きましょう。着替えるので待っててください」
そうして、五分後ジャージ姿のスフィアが出てきた。
俺はスフィアと一緒に軽いランニングをして、そのあと近所の公園に行った。
「さて、いつも言ってるが、手加減なしの試合だ」
「了解です。マスター」
「先に相手を無力化させた方が勝ち、範囲はこの公園内、迷惑になるので大きな音を立てるのはNGで、始め!」
そういうと、お互い内ポケットからサイレンサーを付けたハンドガンを取出し撃った。弾はペイント弾だ。
もちろんお互い避ける。距離にして5m、一度、茂みに隠れようとするスフィアを俺は追いかける。赤外線スコープが無い今、茂みに隠れられると透視眼を持っているスフィアの方が圧倒的有利で、俺の負けがほぼ確定してしまう。
なので、逃がしてはならないのだ。茂みにはいったスフィアに俺はペイント弾を撃つ。しかし、避けられ完全に見えなくなる。しかし、まだ諦めない。俺は公園の中央に立つ。ここなら茂みから狙撃されても大丈夫、カバンから前回使ったスコーピオンより弾が多く入るSMG、P90を取り出す。
まったくの無音状態が続く。
周囲に気配を研ぎ澄せ、集中。
向こうはSRでも取り出しているのだろう。この距離だから連射型のドラグノフ辺りを使ってくるのだろう。
この勝負、敗色が濃厚だ。向こうの初撃がどの方面からでも不味い。もし後方だったら対応が遅れてまず避けられない。もし前方だとして、俺の身体能力で運よく避けれても二発目を避けられる自信がない。相手がミスするのを待つしかない……
そのとき、がさっと後ろで物音がした。思わず振り向こうとしたが俺はそうはせず、右方を射撃した。俺は後ろの音があまりにも大きかったのでブラフだと読み、石を投げれる右方か左方どちらかと思い、右方を射撃した。
しかし、次の瞬間、物音がした方から弾が飛んできて、俺の右わき腹にペイント弾がついていた。
「私の勝ちですね。マスター」
そう言って、ドラグノフを担いだスフィアが出てきた。
「参った、今日は負けだ、ブラフと見せかけたブラフとはやるな」
「前に、マスターが使った作戦を真似してみたのですよ」
スフィアは銃を収めながら、恥ずかしそうに話す。
「マスターも赤外線スコープなしで暗闇の中、ここまで戦えるのはすごいと思います」
「今日はこういう状況を想定してやりたかったからな」
「奇襲されることもありますもんね」
スフィアは銃を片付け終えると、俺の隣に並ぶ。
「さて、明日もあるし今日はここでやめようか」
「了解」
俺が先を歩こうとすると、スフィアが小声で。
「あの……マスター……演習は私が勝ちましたし、手でも繋いで帰りませんか? なんて」
手をもじもじさせて、俺の方を上目づかいで見てくる。
「? まあ、いいよ、今日は負けたしな」
「やった!」
うれしそうに俺の左手を握る。
「ふふふ……」
「なににやけてるんだよ」と突っ込みながら、俺とスフィアは家路につくのだった。