第六話 テスト勉強とお礼
テストまで二週間を切った。
私立水鳥学園は大きな期末試験が4回ある。そのなかの春にある、一番初めテストだ。
俺はテスト勉強のために図書室に行くことにした。部活は休むことをスフィアに伝えた。
なぜ図書室に行くかというと、授業を観たらわかるように、あいつらは、ざくろ以外は頭がいいので勉強を教えてもらおうと一度部室で勉強をしたのだが。そうだな、数学を例にだしみんなの教え方を表そう。
スフィアは1問の解説にやたらと模範的な、しかも30分くらいかけて説明するので、時間がいくらあっても足りない。
杏は、結構分かり易く教えてくれるのだが、よく、高校生レベルではない数式を使って解きだすので参考にならない。
真央は数学なのに擬音語を多用するのでわかりにくい。
夕は話が脱線しまくるので論外。
ざくろは、俺よりも勉強できない。
それに、部室に行くと勉強できる組がうるさくて集中できないのも一つの要因である。ざくろはそこで勉強しているようだが。
要するに集中したいので、図書室に来たのだった。
図書室内はテスト前ということもあり、それなりに混んではいたが、座れないほどではなかった。俺は端の席に座り、数学のテスト範囲の勉強から取り掛かることにした。…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………結構時間がたった時、俺はひとつの問題で詰まってしまった。うーんこの図形どうやって面積求めればいいんだ? シャーペンを置き悩んでいると急に後ろから声がしてきた。
「あんた、何してるんです?」
紅いパーマの生徒会書記の腕章が付いた、俺の女生徒が問題を覗き込んでいた。
雷儀秋葉だった。
「何って、見りゃわかるだろ、数学だよ、数学、それでこの問題を悩んでるんだよ」
「これは、BからEに補助線を引けばいいんです、あと――」
すらすらと雷儀はとても分かり易くかつ丁寧に教えてくれた。
「おお! お前すごいな、おかげで分かったよ、助かった!」
俺は感動してしまった、こんなに分かりやすい説明をしてくれる人が居るとは。
「べ、べつに感謝される筋合いはないです、前の服のお礼もありますし、あとここ図書室だから静かにしてくださいです」
雷儀は手で髪を弄びながら、頬染めて言った。
「確かに……そうだ、お前さえ良ければだが、どこか別の教室で教えてくれないか?」
「わ、分りましたです、しょうがないです、それに、私には雷儀って名前があるです」
「わかった、じゃあ頼む、雷儀」
「あくまで、これは服を貸してくれたお礼、お礼です」
妙にお礼を強調しているが、正直、一人では手図まりを感じていた時だったのでとても助かる。
俺たちは俺のクラスのA組に行く、3人の生徒が教室でしゃべっていたが俺が来たことで、そそくさと帰って行った。
「すごい嫌われようですね」
「悪いことは何もしてないんだがな、目つきと不良をよく成敗するからそのせいだろうな」
俺は何気ない風に言うと、自分の席に着いて隣のざくろの席を寄せ雷儀を座らせる。そして、勉強を教えてもらう。正直、科学探究部のみんなよりも格段にわかりやすい。
「しかし、改めて言う、前は少しやりすぎたよ、すまんな」
「い、いいですよ、そんなこと、終わったことです、それにあなたには少し助けてもらったです、私もやりすぎたことだったです」
「そうか、なら良かったよ、雷儀がこんな面倒見がいい奴だったなんて思わなかったからな」
「い、いい奴だなんて、あなたこそ、正直、不良かと思ってたです……でも真面目に勉強してるし、さっきの話も嘘を吐いてるようには見えないです。実はいい生徒なのですね、勘違いしててごめんなさいです」
お互いが素直に謝る。
「勘違いするのも無理もない、目つきも悪く、おまけに不良を倒しまくる。そりゃあ不良と思われても仕方ないよな、悪いことなんか何もしてないが、やっぱり不良という一般人から見たら絶対的に怖いものを軽く倒す奴なんて怖がって当然だよ」
「確かにです……」
俺がぶっきらぼうにいったが、雷儀の表情は曇ったままだった。
そのあとも、いろんな科目を教えてもらうと下校時刻が迫ってきた。
「さて、雷儀、今日はありがとう、見直したよ、また何かわからないことがあったら教えてくれ」
「べ、べつにいいですよ、そ、それと」
雷儀はもじもじしながら。
「もし良ければです、生徒会に入らない? あなたは見た目よりもいい人です」
そんなことを言ってきた。
「知ってると思うが、俺はもう科学探究部に入っているんだやめることはできない」
「生徒会は掛け持ちしている人多くいるです、私だってオカ研の一員です」
そうだったのか、生徒会ってそんな感じだったのか。
「勉強教えていて分かったけど、あなたは頭の回転早いです、結構切れ者でしょ?」
「そういう、雷儀だって、部の設立の時は正直手ごわい相手だったよ」
俺はお互いを褒めえ合った。
「で、どうするの? 入るの?入らないの?」
「俺は……」
その時、教室のドアが壊れそうなぐらい勢いよく開いて、杏とスフィアが入ってきた。
「広兼を迎えに来たんだが、何、誘惑してんだぁ! この天パがぁ!」
杏は罵声を浴びせる。
「マスター 私たちを裏切るおつもりですか?」
スフィアが冷たい視線を俺に送ってくる。
俺はため息を吐き雷儀にこう言った。
「だ、そうだ。残念だが生徒会に入るのをこいつらが許してくれないだろうしな、誘ってくれたのはうれしいよ、ありがとうな、雷儀」
俺はスフィアと杏に引きずられながら雷儀にやさしく微笑んだ。
そうすると、前、貸した服を投げてきて。
「く、絶対あきらめないです! それと服かえしたからね!」
雷儀は悔しそうに叫んだ。
今日は雷儀の意外な一面を見れたおもしろい日だった。
翌日、俺は無理やり部室に連行される。なんでも雷儀の毒牙にかからないようにしたいらしい、でもなあ……
「あんな奴よりもあたしたちが教えてあげる」
「あのなあ、教えてもらうのはいいから、そこでおとなしくしてくれないか?」
「嫌だね、そんなのおもしろくないね」
杏を筆頭にみんな俺に教える気満々だ、いや、ざくろ、お前は俺よりも下だろ。
「はあ……」
そうして、なかなか進まない勉強をするのだった。