第五話 プリン派とコーヒーゼリー派
部室に来ると。杏は読書、スフィアはデジカメの撮った写真を熱心に見ていて、ざくろは宿題、真央は机にねそべっている、夕は新作のゲームを買うとか何とかでいなかった。
俺は、俺専用の持ってきた冷蔵庫の中を見たら、中にプリンとコーヒーゼリーがそれぞれ4個づつあった。
「お前ら……俺の冷蔵庫にコーヒーゼリーやプリンを入れるな」
俺がみんなに注意すると。
「えープリン入れてもいいじゃん?」
「コーヒーゼリーはいらんが、プリンはいいだろ」
真央と杏が反発の声を上げる。杏の言葉に反応したのか残りの二人が。
「コーヒーゼリーのほうがおいしもん!」
「むしろ、プリンを入れないべき」
ざくろとスフィアも反発の声を上げる。
「お前ら、それはあたしらに喧嘩を売ってるってことか?」
席を立った杏が腰に手をやり、凄む。
「サブマスター が先に行ってきた原因です。コーヒーゼリーに謝ってください」
スフィアも負けじと立ち上がり、睨むように反論する。
「よし、ならこうする。意外とグルメな広兼に自分の好きな店のプリンとコーヒーゼリーを買ってくる。クリームが乗ってたりする小細工してるやつはなしだ。純粋な物で勝負する。それで、広兼がおいしいと言った方が、勝者だ!」
杏がルールを説明しだした。意外、と失礼なことを言われた気がするがまあいい。
「もちろん、受けますよ! ざくろさんもそれでいいですね?」
「おもしろそうだし、何よりコーヒーゼリー派の意地にかけて頑張ります」
スフィアとざくろもそれに乗っかった。
「あの……みなさん、俺は両方いらないんですが……」
「「「「広兼は黙ってて」」」」
「はい……」
俺は黙って従うしかなさそうである。
次の日、俺は4人がそれぞれ持ってきたプリンとコーヒーゼリー の前に座っていた。
「まずは私からー」
のんびりとした口調で蓋にプッチンプリンと書いてある、プリンを差し出した。まあ、これは俺も食べたことある。まあ、久々に食べたいからいいかな。
味はやっぱり普通のプッチンプリンだった。食べやすい甘すぎないカラメルとちょっと甘すぎるくらいのプリンの所謂普通の味だった。
「うん、普通でいいんじゃないかな」
「まあ、おいしいの探してるうちに飽きちゃったから、そこのコンビニで買ってきたー」
なんとも真央らしい答えであった。
「私の番だね!」
次に真央がずずいと俺の前に出てきて、俺にちょっと古くさい見た目のコーヒーゼリー を出してきた。なんか見た目が、とか思いながら食べる。
ん! これは! 決しておいしいとは言えないが、昔、食べたことがある。確かこれは。
「これ、あの駄菓子屋さんのだろ!」
「そうだよ! よくわかったね!」
「俺は一度食べた味はだいたい覚えてるからな」
俺は懐かしい味をかみしめながら食べた。
「広兼が覚えてくれたのはうれしいな」
えへへー とざくろが笑った。そこに杏が。
「そういう、『昔は一緒に居ましたー』みたいな幼馴染アピールやめてくれないかな、あたしの方が広兼と一緒にいる時間長いし!」
杏は頬を膨らまして怒っている。俺はざくろにこのコーヒーゼリーの評価を下す。
「懐かしい味を楽しませてもらったけど、でもやっぱり駄菓子屋さんのだから普通の味だったかな」
「うぬぬ、これじゃ倒せませんでしたか」
ざくろは悔しそうだった。
「さて、次はあたしのを食べてもらおうか」
そういうと、瓶に入った高そうなプリンを俺の前に出してきた。早速、俺はそれを食べることにした。
これは……松野屋のプリン! 濃厚なカラメル、どこかやわらかい味わいのプリン、それが口の中で調和されるように混ざる、後味はとろけるようなだった。
「これは素直においしい、正直絶品だ!」
「やりぃ!」
杏は価値を確信し、手をパチンとならす。
「待って、マスター! まだ私のがまだです」
焦ってスフィアが俺に蓋に松野屋と書いてある、コーヒーゼリーを出してきた。まあ、全部食べるに越したことはない。
これもまたおいしかった。甘すぎも苦すぎもない絶妙な味付け、ゼリー特有のプルンとした感触、喉にするりと入ってくる。
「これもおいしい、絶品であるのは間違いない!」
「私のおきにいりですので」
スフィアは胸を張っている。
「で、どっちなの? 広兼はプリン派、コーヒーゼリー派?」
杏が問い詰めてくる。
「もちろん、コーヒーゼリー派ですよね!」
スフィアも詰め寄ってきた。
弱ったな。これじゃどっちに転んでも冷蔵庫の場所が占領されてしまう。しょうがない。
「俺は……隠しててごめん、焼きプリン派だ!」
「「「「それは知ってる!」」」」
む、俺は隠していたつもりだったのだがな。
「まあまて、しょうがないから、焼きプリンの良さをみんなに知ってもらおうか」
俺はそういうと、冷蔵庫に入れてある。自家製の焼きプリンをみんなに渡した。これは俺がいろんな有名なお菓子屋さんの焼きプリンの味を学び、そして、わざわざ杏に自分で使えるバーナーまで作ってもらってそれを使い、研究に研究を重ね自分で様々な食材を集め作っている逸品だ。
「おいしいー!」めずらしく、元気な声を上げる真央。
「おいしい! 広兼すごい!」ざくろが飛び上がりそうな勢いで褒める。
「む、広兼の焼きプリンは食べさせてもらってなかったが、これはほんとにおいしいな」杏も何も言えないようだった。
「さすがマスター! 私たちにできない料理を平然と作ってくれる!」スフィアがどこかの脇役のような言葉を言う。
これで、みんな満足しただろう。これで俺の冷蔵庫は守られ。
「いや、だまされませんよ! 結局どっちなんですか?」
ざくろに話を戻されてしまった。困ったな、と思ってると、ドアががらりと開く。
「おう、みんな、何してるんだ?」
「夕! いいところに来た。お前はどっちが好きなんだ、プリンかコーヒーゼリーか?」
「え? 俺はヨーグルトが好きだけど」
杏の問いかけに予想外の言葉で答える。その答えにみんな。
「まあ、夕はおこちゃまだからねー」と、真央が溜息とともに吐き出す。
「夕さん、幻滅しました」スフィアは軽蔑の眼差しを向ける。
「お前は……つくづく残念だな」杏は何も言うことが無いようだ。
「サブマスターに同意です」スフィアも同じようだ。
口々に夕に不平の言葉を言う。
「俺、なんでこんなに言われるの? なんか悪いことしたか?」
俺は不思議そうにする夕の肩に手を置き。
「大丈夫、お前はいつも通りだ。ただ……タイミングが悪かった」
俺はそう慰めの言葉をかける。夕はいつまでも不思議そうな顔をしていた。
夕の反応にみんな目が覚めたのか、プリン派もコーヒーゼリー派は和解したので俺も冷蔵庫の段を使っていいと渋々言わざるをえなかった。教訓! 口は災いもの元。