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第二話 科学探究部設立

俺は息も絶え絶えに、レンガ造り学園にたどり着く。あのあと、スフィアがアンドロイドの脚力を活かし、猛スピードで追ってきたが、途中で追いかけるのをやめて諦めたらしい。

この学校には、もちろん、杏もスフィアも通っている。

私立水鳥学園しりつみずとりがくえん。全校生徒2458人の中高一貫校、一学年は400人程度、6クラスあるもあるマンモス校である。偏差値も高く、駅からもショッピングモールからも近いということで、結構人気のある学校だ。奨学金制度も充実している。

 俺は1年A組の、窓側の自分の席に着き、三人が来ないことに、ほっと一息ついていると、隣の席の男子クラスメートが声をかけてきた。

「おはよう、広兼、相変わらず目つき悪いな」

「大層な挨拶だな」

 優しそうな目と、黒い短い髪は野球青年のそれだが、中身はおたくのそれだ。目つきが悪いらしく、口下手な俺に話しかけて来る数少ない友人の一人、空野夕そらの ゆう、いろんな話題を持っているので、話しかけてくる奴も外見の割に多い、ただ、ひとたび2次元のことについて話し出すと、『あ、ああ、うん、わかったから帰ってくれない?』と言われるほどしゃべる。なので、クラスからは残念イケメンと称されている。

「あれ? 杏ちゃんと丸ちゃんは一緒じゃないの?」広兼に不思議そうに訊ねる。

「あ、ああ、ちょっといろいろあってな」

 俺は友人たちにRCONのことについての諸々の事情は全部秘密にしているので(秘密組織だから当然なのだが)お茶を濁す。

 一瞬眉をひそめたが、すぐに話題を変えてきた。

「それはそうと、新学期始まってまだ間もないと言うのに、新入生が来るらしいぞ」

「……あ、ああ、そうだな」広兼はざくろと知っているが言わない方がいいだろう。

「? 何か知ってるみたいだけど、俺もあんま興味ないな」

 夕は心底興味がなさそうだった。

「でもまあ、『メモとき』の美紀ちゃんみたいなのだったらいいんだけどね」

「ゲームと現実を混ぜるんじゃない~」

 パシンと頭を叩かれた夕が振り返るとそこには、くすんでいるがふんわりとしたセミロングの茶髪は、不良っぽさを感じさせない暖かさがあり、頭のてっぺん辺りに2本、ぴょこん、とした髪、細い眠そうな目をこちらに向けた、どこかだるそうな雰囲気の女の子が、仁王立ちしていた。

彼女の名前は、紅衣真央あかい まお、身長160cm弱、特筆すべき点は、メロンのような大きい胸である。夕と一緒で俺達に声をかけてくれるうちの一人だ。こいつは何ていうんだろう……てきとー、うん、この言葉がふさわしいだろう。まあ、その分付き合いやすいのでこちらとしては嬉しい限りだ。

「ところで、転校生って女の子確定なのー?」

 間延びした声で問いかけてくる真央。

「さあ? 夕が勝手に勘違いしてんじゃね?」俺はしらを切った。

「ふーん、まあ、どっちでもいいけどー ああー お腹すいたなー」

 転校生の話題に飽きたのか、真央は空腹を訴えかけてくる。

「しょうがないな、菓子パンやるよ」

 昨日の帰りに買ってカバンに入れっぱなしだった、パンを渡す。

「さすがー 夕ちゃんと違って、ひろっちは違うなー 大好きー」

 真央が俺に抱き着いて来る。あの、真央さん、その、胸が当たってますし、それに周囲の視線が痛いのでやめてもらえませんか、と言いたいが、俺も男だ、なかなか言い出せずにいると。

「マスタ……いや、兄さんから離れてください!」

 びしっとした声が教室のドアの近くから聞こえてきた。どうやら、追いついてきたスフィアらしい。

「もうー 丸ちゃんは固いんだから」

 そう言って、俺から離れた。ほっとしたような寂しいような気分になった。

「なにやら、あたし抜きで楽しそうなことしてたようだな、広兼よ」

 杏も後ろからやってきて、スフィアともども、俺に近寄ってきた。

「おっ、やっと鷹羽トリオが揃ったか。やっぱ朝の風景はこうでないとな」

 夕はうんうんとうなづいている。なんか俺と杏とスフィアでいつのまにか変な通り名がついてしまっているらしい、まあ、気に留めてもいないが。

「それより、真央よ、あたしの広兼に抱き着いてもらうのはやめてもらおうか」と、杏の言葉に。

「ええー ひろっちはみんなのものだよー」

「いや、俺は誰の物でもないから」

 変なことを言い出す杏と真央につっこんでいると。ちょうど担任の先生が入ってきた。

「はい、席についてください」

 みんな、いつもはなかなか席に着かないのだが、今日はすぐに着いた。そして、起立礼をすましたあと、先生は嬉しそうな声で。

「みなさん、嬉しいお知らせがあります。なんと新しい女の子がこのクラスに加わります」

 男子は喜び、女子は落胆の声を上げていた。俺と杏とスフィアは大方予想が着いていたので無反応だった。

「みんな、静かに! どうぞ、入ってきてください」

 先生がそういうと勢いよく扉を開け、どうどうと教壇の上に立ち。

「吉峰ざくろです。趣味はたのしければなんでもおっけー、好物は焼きプリン!」

 太陽のような笑顔ではっきりと自己紹介をした。

「はい、ざくろちゃんです。みなさん仲良くしてくださいね、えーと席は」

「あ、広兼の隣がいい!」

 教室がざわめきだした。

 あいつ、なんて馬鹿なことを……

 広兼……? 鷹羽トリオと知り合いなの? まじか、鷹目に目を付けられたくはないな……

 このざわつきを聞いてのとおり、俺はクラスで避けられている。どうやら目つきが怖いのと初対面の人とは口下手、おまけに一度、上級生に8人がかりで絡まれたとき、完膚なきまでに杏とスフィアと俺の3人で叩きのめしたのがとどめとなったのだろう、悪いことをした自覚はまったくないんだが、いまや鷹目トリオと呼ばれている。

そのため現在、同じクラスで俺達と話すのは夕と真央の二人くらいなものだ。

「そう? ちょうど鷹目君の隣が空いてるし、そうしましょうか」

「わーい」

 無邪気にはしゃぐざくろ、お前はこの微妙な空気というものがわからないのな……

 杏やスフィアは飽きたのか、もう机に突っ伏して寝ていた。こいつらも、いい根性してるよ、ほんと。

「隣に来ちゃいました。それで、すこし不安なことが」

 お、やっぱりざくろはこの空気にきづいたのかな。

「広兼さん……その……教科書とか見せてくださいね」

「ああ、もう好きにしてくれ」

 やはり、空気が読めていないのであった。


 その日の授業、英語の時間

  俺とざくろは真面目に授業を受けているが、杏は熟睡、スフィアはぼーっとしていて、夕はゲーム、真央はご飯を食べている。いつものことだが、フリーダムすぎる授業風景。

 大抵の先生は諦めて放置しているが、英語の先生だけは諦めていない、ご苦労なことだ。

「紅衣! この問題の選択肢はどれだ」

 少し考えた後、だるそうに答えた。

「3はひっかけだから、もぐもぐ、4ですかねー」

 ぐぐぐ、と言いながら。次の人を指名した。

「次、空野! この問題を訳せ」

「しまいにはすっかり消えてなくなってしまったにちがいありません」

 間髪入れずに答えた。

「お前ら! 正解すればいいってもんじゃないぞ」

 じゃあ、どう答えろっていうんだろう……

「鷹目妹、お前はぼーっとするな! この単語の意味を応えろ!」

「学校指定の英和辞典の357ページの2段目の5行目に書いてあります」

「意味を答えろと言ったんだ!」

 先生はいまにも爆発しそうだ。

「おい、羽田野この問題の穴をうめろ!」

「ん!」

 杏は顔を上げず俺を指差した、俺は。

「杏、寝てるんで代わりに渡されたこの紙を読みますね、えーと、その部分は『~~のような』のlikeが入ります。それよりも、その2つ前の穴埋め問題は前後の関係から穴を埋めるのは難しい、生徒に教える前にちゃんと自分も予習きちんとしろ、だそうです」

 先生が苦虫をかみつぶしたような顔をして、黙って答えを書くのであった。正直先生がかわいそうになってくるほどだ。


 無事(?)に授業が終わって昼休憩。ざくろの周りに人が集まろうとしていたが、ざくろが俺達、5人の中に入ってきたのでみんな散って行った。

そして、俺達は机を繋げると、ざくろを加えた6人で昼ご飯を食べていた。すると急に杏が突拍子もないことをいいだした。

「そうだ、部活動をしよう!」

 俺は食べ物をふきだしそうになる。えっ、部活?

 今まで、この一年やってもいないし、やるきもなかったのになんで?

「ちょうど、人数も規定の7人、顧問は担任が空いてるからやってくれるだろう」

「いやいや、ちょっと待て、何の活動するんだ」

 俺は戸惑いの声を上げる。

「……科学の追究?」

「あきらかに、今、考えましたようなことを言うな、駄目だ駄目だ、俺達は忙しいだろ?」

 俺は忙しいを言い訳にした。だが……。

「すいませんが、兄さん、私たち相当暇ですよ」

 痛いところを突いてくるスフィア。そうなのだ、任務に付いてるとはいえ、ここ2年間、超常現象に関わる事件は今朝を除いてこの付近では一件も起こっていない。

「ほかのみんなだって面倒くさいだろ? な?」

 俺はみんなに問いかけるがこれは愚策だった。

「おもしろそうだからやってみたいです!」うれしそうにざくろが

「暇だし付き合うぜ、杏ちゃん」夕が親指を立てている。きらりと光る歯がむかつく。

「まあ、暇だし、いいよー」あいかわらずだるそうだが、最後の砦だと思った真央までもがGOサインを出すのであった。

「おや、広兼以外はみんな乗りきみたいだな、ここで俺はやりませんっていうとどっちがわがままかな?」

 蒼い瞳が爛々と輝いていて、その中には愉悦が取って見れる。

 くそっ、仕方ないか。

「……はいはい、わかった、わかりました。で、どうせ俺が手続きとか、その他めんどくさいこと全部やらなきゃならないんだろ」

「さすが、長年一緒にいる分、わかってるみたいだな」

「まあな」

 しかし、部活か。よく考えると、やってみたい気もする。頑張るか!

「やるからには、徹底気にやるぞ、もちろん俺が部長だ、お前ら準備はいいか?」

「「「「「おー!!!」」」」」

 みんなノリノリだった。


 一週間がたった。

 現実は甘くないことを俺は痛感していた。部の設立のためにはもちろんだが条件がある。

①顧問が居ること

②部員数7人以上

③生徒100名からの署名

④生徒会の承認

⑤4月から4月末または10月から10月末のどちらかの期間のみ設部可能

この5つが必要なのだ。①と②は確保した。残りの③と④だが、③は夕と真央の人望と俺とスフィアが校内で不良に絡まれてるやつ蹴散らして、助けた人にお礼として書かせる作戦に出た。そして、なんとかこの一週間で100名の署名を得たまでは良かった。と多分行けると思う。問題は④だ、この一週間で生徒会の連中は鷹羽トリオが不良を倒して、助けた人に脅して署名を無理やり書かせた不良として認識しているらしく、少しは聞いて貰えたが許可は下りなかった、接触して分かったことだが相当厳しいようだ。それに今は4月27日、今日を除くと、もう3日しかない。

俺は放課後にみんなを集めて、意見を求めていた。

「一応、あとは生徒会の承認だけで、部はできるがこれが厳しい、皆の意見が聞きたい」

 そういうと、ざくろが手を挙げ元気よく答える。

「土下座して頼み込む!」

「俺は嫌だぞ、それに多分だが、そんな情に流されないと思う」

ざくろの提案を却下する。

「まあ、私は考えんのめんどくさーい」

 真央はそうそうに投げだした。

 元々宛てにしてなかったので真央はいい、ここは長年付き合ってきた、二人に聞くことにする。

「スフィアはどう思う?」

「そうですね、生徒会室を占拠とかどうでしょう?」

「どうでしょう……? じゃねぇよ! んなことして何になる?」

「でも、生徒会のみならず、全生徒に訴えかけれますよ」

「警察沙汰になるよ!」

 俺は嘆息した。

「杏はどうだ?」

 もう、杏しかいなかった。

「そうだな、生徒会の面々をとっ捕まえて洗脳をかけるのが手っ取り早いだろう」

「いやいやいや、んなことすると、上に怒られるに決まってるだろ」

「そうだな、催眠のほうがばれないし時間が少なくて済むな」

「だから、そういう問題じゃないんだって……もういい、くそっみんな手詰まりか」

 俺が諦めかけていると。

「俺は? 俺には聞かないの?」

「……どうせ、美少女ゲームの攻略方法をためすとか言ってくるんだろ」

「なぜわかった!?」

 俺は夕に憐れみの視線を向けてると、ふと頭に取り留めのないことよぎる。

「そういえば、確かだが会長は夕のことを好いてたよな、それにスフィアは副会長に好かれてるよな」

 ちなみに、会長、副会長も女だ。なぜスフィアが好かれているかというと、メガネをはずし、前髪でおでこを隠して男装すればかなりの美少年に見えるような容姿だからだ。

「そうなるとだ。うん、これしかない、夕とスフィアにはすこし頑張ってもらうぞ」

 俺は夕とスフィアに作戦を話し始めた。


 翌日の放課後。俺は杏に作ってもらったイヤホン型小型通信機とペン型カメラを夕と男装したスフィアに渡し装着してもらう、そして俺、杏、ざくろ、真央の4人は屋上でその通信内容を聞きながら指示を出すことにした。作戦の内容の確認をしていた。

「夕とスフィアは実行部隊だ。まず夕が会長に俺が言った通りに部の活動内容を話し、部の設立の有意義さをかっこよく話す。スフィアは昨日説明したからいいな、あとは俺の、いいか俺だけの指示を聞いてくれ」

「何で!? 俺は?」

「お前は余計なこといいかねんからだよ」

 夕がぶーぶーなんか言ってたが無視して俺は言った。

「作戦開始!」

 夕とスフィアがノックをして部屋に入る。

 そこには生徒会が勢ぞろいしており、運がいいことに仕事がひと段落した感じだった。生徒会は合計で7人、会長、副会長、書記、会計、それと雑務が3人。3年から1年まで様々な学年が入り混じって構成されている。

「失礼します。会長お願いがあります」

「あ……あらなにかしら、空野君」

 席から立ち上がった会長は、夕の真面目な表情にドキッとしたようだ。

「先日、俺達の部長、広兼じゃなかった鷹目君がお邪魔したと思いますが、あのことについてなのですが」

「でも、あれは広兼君に無理やり誘われたんでしょう?」

 すこし顔が曇る。そこに畳み掛けるように言葉をつなげる。

「違います! 俺たち、科学探究部はみんな自分たちの意志で参加してます。それに俺たちは未だに解明されていない科学の現象をみんなで研究したいんです! 会長、いや、江藤さん!あなたはそれがわかっていただける、聡明な方だと伺っております。お願いします。俺たちの部活を認めてください。お願いします」

 夕が迫真の演技で頭を下げる。あいつにセリフを頼んだとき、美少女ゲームのセリフをもじりたいと言い出した。俺はそれを了承して任せてみると、やはりあいつに美少女ゲームを絡ませると最強だな。

「ま、まあ、そこまで言うなら認めてあげてもいいわよ」

「会長! 何を言ってるんですか!」

 夕と会長の間に入り、副会長が止める。ここまでは想定内だ。

「渡里辺先輩、なんでそこまでむきになるんですか? 私たちが作ろうとしているのはそんなに悪い部活じゃないと思うんですが、それに私はあなたがむきになってる理由もわかりません。そんな人だとは思わなかったのですが」

「い、いや違うのよ鷹目さん、あなたの兄が問題を起こすかなと思って」

「マスター はそんな人じゃない!」

 スフィアは髪を振り乱し、怒りにまかせて叫んだ、周りの時が止まる、時計の音が、カッチコッチ、と無音の教室に響く。

「マ、マスター? 兄のことかな。でも、あなたがそういうならそうかもしれないですね」

 俺は二人の心を動かすことに成功したようだ。

「そうですね、渡里辺さんもいいと言ったことだし、仕方ないですね、科学探究部の設立を認めま――」

「ちょっと待ってくださいです、流されないでください、これは罠です先輩」

 横から会長じゃない別の、くるくるとした、おそらく天然であろうパーマの短い黒い髪をしており、丸い大きな黒い目、書記のバッジが胸に輝いている。

そいつが椅子から立ち上がり、夕とスフィアに近づいてきた。

 作戦の成功のほっとしていたその矢先にそんな言葉を聞いたもんだから、俺は凍りついた。

「そもそも、なんで、この二人がお願いに来てるの? そしてなんで鷹目妹は男の人の制服を着てるんです?」

 声を発しているのは生徒会書記の雷儀秋葉らいぎ あきはである。同じ一年生で先週生徒会に抜擢された人物である。

なるほど、こいつ、結構、頭が切れるな。

「そ、それは私はたまには、男の子の制服を着てみたいと思ったからですね」

「それで、生徒会におねがいに来るのは甚だ失礼というものです」

 言うとおりである。

「だけど、この格好、渡里辺さんには気に入ってもらえるかと思いまして」

 スフィア! その言葉はまずい!

「気に入ってもらえる? 部の設立を認めてもらうためじゃなかったですか?」

「いや、それは、そのですね……」

 スフィアが言葉に詰まる。そこに助け舟を出した。

『雷儀と言葉を交わすとせっかくの雰囲気が台無しになる。ここは夕の付き添いで来て、みんなに似合うかどうかを見てもらうためだと言うべきだ。』

「ごめん、雷儀さん。私は夕の付き添いで、生徒会のみなさんにこの格好をみてもらいたかっただけです」

「最初からそう言ってくださいです、つまり、私たちを誘惑しに来たそうですよ」

 副会長は少しうれしそうだったが、他の人は一気に不穏な表情になる。

俺は歯噛みした。状況は生徒会側の優勢だった。さて、どうするかと思ってた時に。

『もう、夕の好きにやっちゃいなよー、こっちの目論見ばれたみたいだしねー』

 横から真央が口を挟んできた。まあ、長引くと不利だし、夕を信じてみるか。

『夕、あんたはゲームでいろんな女の子を説得して来たんでしょー? なら会長をうんと言わせてー』

 真央がそう言った。その直後、夕は雰囲気がガラリと変わり、モニターでは分からないが顔つきもかっこよく(俺たちにとってはうさんくさく)なったのか、会長に近づいた。

「江藤さん、俺はあなたのことを信じてる。俺のやりたいこと、それを潰すあなたじゃないと俺は信じている」夕は江藤会長の手を取る。

「それにあなたはこんなにかわいらしい、そんな人が俺のやりたいことを無下にするわけがない」そして、耳に口元を近づけこういった。

「信じてるよ、ゆ・う・こ」

 俺達、屋上組はあまりの臭さに直視できず思わずモニターから目を背ける。しかし会長には抜群だったようで耳まで真っ赤になって俯いてしまう。そして、決意をした顔でこう宣言した。

「科学探究部の設立を認めます! 異論は認めません! こんなに強い思いがある人を私は見過ごすことはできませんは」

「会長、冷静になってく――」

「うるさいですよ、雷儀書記、私が決めたことです。もし反対できるとしたら副会長だけです。どうですか?」

 雷儀の言葉を遮って会長が副会長にそう宣言する、スフィアは真摯な瞳で副会長を見ていた。

「そうですね、会長の言うことは、もっともだと思います」

 副会長も認めた。

「決まりですわね、科学探究部設立決定です!」

 雷儀は苦々しい顔をしており、俺たちは屋上でガッツポーズをしていた。

 こうして、科学探究部は設立されたのであった。

余談だが、後から聞いた話らしいが夕のセリフは全部ゲームのセリフや行動を真似したものであったらしい、それに、あとから会長から下の名前で呼んでいいか? と聞かれたところ素直にOK を出したらしい。ちなみに現実でセリフを言ってみた感想を聞いたところ、美少女ゲームの中の方が断然いいとか言っていた。空野夕、どこまでも残念な奴だった。


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