第一話 『空から美少女が!』という漫画のような話
4月、新たな出会い、別れ、または変化が訪れる季節である。日本中どこも一緒だろう、ここ真鞍町も例にもれずにそんな雰囲気を醸し出していた。
「もう、桜の時期か……」
鷹目広兼は高校一年、春の桜並木を歩きながら、ひらひらと舞う花びらを見ていた。風も心地よくちょうどその花びらが隣を歩いている相棒の一人の頭に乗った。
「なんつうか、自然って感じだな」
俺の右を歩いている、二年前は泣きついてきた少女、杏、が黄金色に輝く金髪に乗った桜の花びらを掃おうともせず返事をした。
羽田野杏は、昔からの俺の相棒で、一般的ものよりも、さらに何十年も先に行っている科学力をもつ組織、RCCNの天才科学者八人衆に、最年少でなるという、所謂天才というやつだ。身長は150cm位、艶やかな金色の髪は見るものを圧倒し、すこしも乱れていない。両側の一部の髪を括っていて、つまりツーサイドアップの髪型をしている。切れ長の大きい蒼い目は、宝石のように爛々と輝いている。そして林檎くらいのやや大きめの胸が目につく。
正直、とてもかわいい女の子の部類に入るだろう。
しかし、ネクタイ着用義務のあるこの学校でネクタイをせず、首元をあけ、スカートが異様に短いと言う、学生服を滅茶苦茶に着崩している、本人曰く『最高の学生服の着かただぜ』と言っているが、正直不良のそれにしか見えない。おまけに言動も粗野で口が悪い。根はいいやつなんだが……。
「桜は風情がありますね、そう思いませんか、マスター」
そう広兼問いかけてきたのは、杏のさらに右を歩いている女性、スフィアだ。
スフィア(学園では俺の妹ということで鷹目丸と名乗っている)は、俺のサポート役として杏に作られたアンドロイドであり、サイボーグとは違いアンドロイドなので人間と同じ生身の体だが所々人間と違う、例えば、普通の目と透視眼を使い分けることができたりする。身長は当時、160cmとして造られたらしいがいまは少し伸びている感じがする。漆塗りのような黒髪は、杏のそれと対をなすほどだ。綺麗なおでこが見える様な髪型が特徴的で、トレードマークの赤い丸メガネを付けている。杏とは対照的にきちんと制服を着ている。どこか真面目な性格だがどこかおかしい、それが、スフィアなのだが……。
「今年も何もなければいいんだけどね」
俺が、ぽつりと言うと。
「ふああ、平和が一番ですね」
スフィアが眠そうな目を擦りながら、応えた。
「何もなさ過ぎて、逆に暇だがな、魔法使いや妖怪が攻めてこないかな」
杏は相も変わらず、物騒なことを言うな……
何も知らずに聞くと、メンヘラっぽく聞こえるが、現実はそうではないのだ。
この世界はみんな知らないだけで、魔法使いも、妖怪も、超能力者も、サイボーグも存在するらしい……らしいというのは実際には見たことないのである。しかし事実、俺達3人は2年前、つまり中学2年生の時に、NSO(非政府科学集団)のRCONという組織から、俺が生まれたこの地域の観察を任された身である。
「何を言ってるんだ杏は、平和が一番! こうして綺麗な桜を見ながら、学園に登校できる。素晴らしいことじゃないか」
俺は桜の花びらを一つ掌に乗せる。
「だがよ、広兼、人生、なにかしらの刺激を求めてもいいんじゃないか?」
科学者らしい……らしいのか? 発言になだめるように
「まあまあ、今日から高校生、まあ、中高一貫校だからあんま変わらんが転入生が来るって噂だぞ」
「ほう、まあそいつが面白い奴だといいんだがな」
杏が道端の石を蹴飛ばす。
「サブマスターはよほど退屈してるんですね」
「まあな」
スフィアが苦笑交じりにあいのてを入れる。
俺たちの間に、和やかな空気が流れる。
そのとき、変な気配がしてみんな、一斉に空を見上げる、上空を転々と何かが飛んでいる。動き方からして鳥じゃないようだ。
この中のリーダーである、広兼は即座にみんなに指示を飛ばす。
「スフィア! あいつの正体を見てくれ!」
「了解」
その瞬間、3人の間にピンとした空気が張り詰めた、スフィアは一度目を閉じると、緑のモニターみたいな目に変わり、その空中の物体を見る。
「あれは……人間? でも消えては現れる、を繰り返しています」
スフィアは見た状況を俺たちに伝えた。俺は初めて見る非日常の気配にすこし恐怖を感じながらも任務を果たすべく、思考を巡らす。
あれは、なんだ? いや、何者なんだ? とりあえず安全のために撃墜せねば、しかし拳銃で撃つには遠すぎるし、SRだと早すぎて狙いが定まらない。
「杏、なにかあいつを撃墜、またはとらえる武器はないか?」杏に意見を求める。
「あるぜ! 光障壁爆弾、これをスフィアに投げてもらって上空に張れば、家に被害を出さずに撃墜できるはず」
ポケットから野球ボールくらいの大きさの爆弾を取り出す。これは前に使っていたのを見たことがあるのだが、ボタンを押して数秒立つと球状の光の壁が出来て5分間くらい敵を拘束してくれるはず。
「OK、それでいこう、万一、この攻撃を避け、向こうが敵意を持ってこっちに来たらスフィアは杏をかばいながらSMGで応戦してくれ」
「了解です。マスター」
スフィアは周りに人が居ないことを確認すると。すごい腕力で爆弾を上空に投げる。その直後、半径5m位の光の円が上空の人間を囲んだ。しかし、その人間はあっさりそれを超えすり抜けると、今度は俺たちの方向に向かって飛んできた。
まずい! と思い、とっさにカバンからSMG、スコーピオンを構える。スフィアも同じ姿勢で構えている。
その人間は俺の前にパッと現れる。俺はそいつにスコーピオンを向ける。
そいつは、今は乱れているが海のような青いウェーブの髪、広兼達と同じ学生服、それ以外に武装は見当たらない……ん? あれ、こいつ……
謎の人物は手を挙げて戦意なしのポーズをとる。
「待った、待った。私、何も悪いことしてないよ! それに広兼は何でそんな物騒なもの持ってんの?」
この底抜けに元気声で思い出した。こいつは……
「マスター の名前を知ってるとは、やはり暗殺者ですね」
今にも射撃をしそうなスフィアを手で制して、俺はそいつの名前を呼んだ。
「驚かせて悪かった。久しぶり! ざくろ!」
まだこの町にいたのか・・・
「覚えてくれたんだね、うれしいよ、広兼!」
俺はスコーピオンをカバンに戻し、ざくろと固い握手を交わす。
残された二人は唖然としていた。
「紹介するよ、こいつは昔の友達の吉峰ざくろ(よしみね ざくろ)だ」
「はいはーい、広兼の幼馴染のざくろだよ。お二方、よろしくっ」
紹介されたざくろは、手を元気にあげ答えた。
それに対して二人は。
「……怪しい、こんなタイミングで登場するなんて小説でしかありえない、よってあんたは暗殺者だ」
「サブマスターと同意見ですね、とりあえず、怪しい、変装の可能性もありえる」
二人ともざくろを怪訝な表情で見ている。正直、空を飛んでいた以上、俺も本当に信じていいのか悩んでいる。
特徴的な蒼いウェーブの髪で本人に間違いないのだが、何度も言っているが、如何せんこの世界には不思議で満ち溢れている、変装の可能性も捨てきれない。
「そうだ、あれ出してくれ」
広兼はふと思い、杏にあれを出すよう指示。
「ほい、きた」
そういうと杏はポケットをごそごそしたと思ったら、なにやら怪しげな薬を出し始めた。
「はい、超強力杏ちゃん特製自白剤!」
「んなもん使えるか!」
お前は白か黒かつける前に殺す気か?
「あれだよ、嘘発見器、杏が前作ってたやつな、これでお前らも信じてくれるだろ? すまないが仕事の関係上、お前を手放しで信じるわけにはいかないんだ、許してくれ」
俺はざくろに向かって頭を下げた。当の本人はというと。
「いいよ、それに私はそんな面白いことできるなら大歓迎だよ!」
とても楽しそうに言う、昔からこいつは変わらなかった。
俺たちは人通りを避けるため、裏路地に移動した。もちろんその際もスフィアはざくろを警戒して胸ポケットに手を入れており、すぐに攻撃体制をとれるようにしている。
杏のポケットは拡張空間(中身は某21世紀の某ロボットのポケットみたいなのを想像してもらえばいい)をまさぐり、目的の物を探しているらしく少し時間がかかりそうである、少しざくろについて分析してみる。
吉峰ざくろ(よしみね ざくろ)は俺がRCONに入る前、つまり小学生にあがる前くらいの頃に遊んでいた友達だ。本物なら、年は15歳で同い年である。背格好は、身長は160cm半ば、綺麗な海のように澄んだ青いウェーブがかった髪は昔のままで、胸は言いにくいがとても真っ平だった、しかし太陽のような笑顔といい、さっきの挨拶といい、天真爛漫な性格は変わっていないようだな……
そんなことを考えてる間に、杏が目的の物を探し当てたようだ。
杏は、メカメカしたヘルメットのような物体―――杏特製嘘発見器をざくろに装着させた。さて、質問の時間のようだ。
「これから、言うことに全て『はい』と答えてくれ」俺は真剣な口調で問うが……
「イエス!」
「ぼけるところじゃねぇよ!」
俺は必死につっこんだ。
「じゃあ、気を取り直して……あなたは女ですか?」
「いいえ」
ブー、とブザーがなった。
「……なんで、必要のない時に嘘つくんだ?」
「はい?」
「こんなときに、はいで答えるんじゃねえよ!」
はい、いいえ、だけなのになんでこんなに疲れるんだ。
「次、あなたは空を飛んでましたか」
「さっきの見てなかったの?」
「だ か ら、『はい』か『いいえ』だろ!」
「はい」
まあ、ブザーがならなかったし、杏特製嘘発見器の調子は良さそうだった。空気が張り詰める。それを察したのか、すこしだけざくろも真面目になったようだ。
「さて、あなたは人間ですか」
「はい」
音が鳴らない、この時点で、妖怪の線は消える。
「魔法が使えますか?」
「はい」
ブザーがなる。これで魔法使いという線も消える。
この世界にいるのは、妖怪、魔法使い、超能力者、科学者。広兼が知っているのはその程度だ。
「では、あなたは超能力者ですか?」
「はい」
ブザーが……ならない、つまり、こいつは超能力者というわけだ。
「次の質問だ、あなたはどこかの超能力の集団に所属してますか?」
「はい」
ブザーがなる。つまり単独というわけである。これで大分、俺たちの敵だという可能性が低くなった。どこかの集団に属していると、何かの任務で来たという線が大いにあり得るから逸れの可能性が消えたのは大きい。
「あなたはこの町に悪意を持って来ましたか?」
「はい」
ブザーがなる。つまり、悪さしようとしてるわけではないらしい。
「最後だ、あなたは俺たちの敵か」
「違う!絶対にそんなことしない!」
ブザーが鳴らない、本来は、はいと答えてほしかったんだが、違うと否定、つまり、いいえ、といって鳴らないということは、つまり俺たちに敵意がないということだ。
俺はやっと、警戒を解いた。
「二人とも、今ので分かったと思うが、どうやらこいつは超能力者だが、どこにも所属していない、つまり珍しいことに超能力者の一般人なわけだ。」
「まあ、あたしの機械がそういってるんならそうだろうね、疑って悪かったよ」
「サブマスター の発明は下らないものが多いですが、効果は絶対ですからね、信じましょう」
二人とも納得したようだ。しかし、どこか納得のいかない表情をしているのはなぜだろう……
「しかしその力、どうしたんだ?」
「あ、これ? よくわかんないけど、小学生の時、たまたま、ごみ捨てるのが面倒くさいなと思って、『これワープしないかな?』と念じたらひゅん、と消えて、ごみ箱の上に現れてこの力を知ったんだ」
「そんなどうでもよさそうなことで見つけたのかよ……」
俺は超能力が超どうでもいいときに発現したことに呆れる。
「うん! 漫画で似た能力見たことあるから、すぐ瞬間移動能力と分かったよ。でも、流石に周りにばれると不味いと思ったから、人が居ない時にこっそり遊んでて、そのうちに力が強くなった感じだね」
うんうん、とざくろ
「まあ、その力は今後も秘密にしておいた方がいいな、何かあったら俺たちが守ってやるよ」
俺が2人の顔を見渡すとコクリとうなづいた。
「今度はこっちの番! 広兼達はなんであんなおっかないもの持ってたの?」
広兼はどうしようか悩む。
こいつは一般人だ、でも、もう武装を見られたわけであり、隠し通せるものでもない。杏の力を使えば無理やりに記憶を消すことも可能かもしれないが、抵抗されるのも厳しいし……なによりも、広兼にとってこいつは友達だ。
「秘密は守れるか」
俺は静かに、ゆっくりとしゃべった。
「もちろん!」
信頼していたし、嘘発見器の装置もならなかった。なので、RCONのことや杏、スフィアの事情を話した。
「なるほど……つまり、広兼達はRCONという超進んだ科学組織の一員でこの地域の管轄を任されてる、そして、二人は付き添い、そういうことだね、だからあんな遠くで飛んでたら私を見つけれたんだね、普通の人は鳥と間違えるもん」
納得したようにうなづいた。
しかし、俺は釘を刺した。
「だが、さっきも説明したようにこの世は公になってないだけで、無数の組織が居るからな、もちろん超能力をよく思ってないやつらもいる。これからは人前ではもちろん、上空でも使わない方が安全だぞ」
「わかった、これからは気を付けることにする」
コク、とうなずいた。
広兼達は緊張を解く。
「しかし、その制服、俺達と同じ学園のだな」と広兼が呟くと
「転入生ってまさか、あんたことだったのか?」
杏がまさかと思いながらも聞いた。
「うん、高校からは両親に頼んで、こっちの学校に通うことになったんだ!」
ざくろは満足そうに言った。
「そっかそっか、ふふふ、楽しい学校生活が待ってそうだな!」
杏はひとり笑っていた。
「俺にとっては超能力者という監視対象が増えたけど、まあ、一般人みたいだし、上には報告しなくていいか、しかしなんでまた……まさかと思うが、俺に会うためか?」
広兼は少し期待して言ってみた。
「うん、昔、お互い約束したもんね、また会おうって、だからこの町に戻ってきたんだよ、ただいま、広兼!」
広兼は思わず顔をほころばせ。優しい笑顔で
「おかえり、ざくろ」
と、返した。
その返事に対して、顔をむすっとさせる二人がいた。それを不思議に思った俺は訊ねた。
「どうしたんだ、二人とも?」
「別に、なんでもねぇよ」と、杏。
「マスターは過去の方が大切なんですね」スフィアも嫌味を言ってくる。
「何をすねてんだお前らは? 今更確認するまでもなく、もちろんお前らも大切な親友だよ」
そういうと、スフィアは、ぱあっ、とした笑顔を咲かせ、杏も隠しきれずに嬉しそうな顔をした。
そこで、あることに気付いた杏は邪悪な笑みを浮かべた。
「ときに、ざくろというものよ、質問がある」
「なんですか?」
不思議そうに首を傾げた。杏は意地悪な質問をした。
「その胸は、Aカップあるのか?」
「え!!! ……もちろん、ありますよ!」
ブー、ブザー が鳴った。そう、まだ嘘発見器をつけっぱなしだったようだ。
「そうかそうか、Aカップないのか、そうかそうか、わかったわかった」
「私の胸の戦闘力は30万ですが……あなたは5もないのですね……ふん、雑魚め」
スフィアも便乗してからかう姿勢だ。おいおい……
「いいもん! 胸なんか飾りだもん!」
ぷるぷると震えながら、叫んだ。そして、杏はざくろの頭のヘルメット奪うとをかぶり、自分自身に問う。
「私はBカップですか? はい」
ブザーはならなかった。そして、次に、スフィアにかぶせると。
「あなたはAカップですね?」
「くっ……いいえ」
ブー、ブザーがなった。スフィアは悔しそうに杏の胸を見る。
いやいや、嘘発見器は胸の大きさを競い合う装置じゃないから、そういう目的のものじゃないからな。
「私のは、美乳だからいいんですし、ざくろさんより大きいからいいんですよ」
スフィアが開き直る。
「な、……胸は小さい方がいいという幼女趣味の方も多くいます!」
いや、人の好みはそれぞれだからだが、胸を張って言うことじゃないだろ、ざくろ。
「胸は大きい方がいいに決まってる!」
ざくろの発言に、すこし焦りを見せた。杏が言った。そこで、ざくろは悪魔的な提案をしてきた。
「ここに健全な男子高校生が一人います。それで決めるというのはどうでしょう?」
「いいだろう」「了解です」
ざくろの提案にみんなうなづいた。ちょっと待て、ここには男は俺しかいないぞ。
「さて、広兼、これをかぶってもらおうか?」
楽しげな笑みを浮かべて杏が近づいて来る、まずい、このまま俺の性癖が暴かれるのはいやだ。なので、俺は
「そんなこと、どうでもいい、早くその嘘発見器をしまえ」
そう言い残すと、3人のジトーっとした目線を振り切って、脱兎のごとく逃げ出した。
これから騒がしくなりそうだ。