第一七話 迷走する活動
午後の最後の授業は自習だった。俺とざくろは静かに勉強していたので良かったが、杏と真央は睡眠学習、スフィアは辞書を読んでて、夕はゲームをしていた。いつも通りのことなのだが、しかし、問題は監督に来たのが、4人を目の敵にしている先生で、注意してもやめる気配がなかった4人をどうやら担任に告げ口をしたようだ、担任も、もう諦めているのだが、一応体裁があるので、放課後4人を呼ばれることになった。
「なんで、自習のときに寝ちゃいけないんだ? 誰かに迷惑をかけたのか?」
「あたりまえだが授業は勉強する時間だからな、それに先生も無駄ってわかってるから長くかからないだろ」
「まあな」
怒り心頭の杏を俺はなだめる。4人は教室で待機を命じられたので、俺は先に部室に行く。
部室にはすでにざくろいた。
「杏ちゃん達も災難でしたね」
「たまに、ああいう風に呼び出されるんだよ、そうしないと担任が英語教師に文句言われるからだよ」
「そうなんですか、ならいつものことなんですね」
安心するざくろ。
「いや、問題は真央以外の奴は、怒られて帰ってくると間違いなく機嫌が悪く帰ってきて、とばっちりがこっちに来るんだ、何か手を打たないと、ぎすぎすした雰囲気になるぞ」
「それはやばいですね……」
俺とざくろで悩んでいると、ふと教室の隅にあるティーセットが目に入る。
「あんなティーセット誰が持ち込んだんだ?」
「あ、私です。前回のパーティの時にお茶とかコップがなかったので」
「しかし、えらい立派なのを持ってきたな」
「えへへ、まだ、予備はあるんですけどね」
笑いながらざくろはティーセットに向かう。
「うん、古典的だが、食べ物で機嫌を直してもらおう」
「それが一番ですね」
俺はそういうと近くのコンビニに行き、クッキーを買ってきて。その間にざくろがコーヒー を淹れていた。クッキー を真ん中に置き、6人の席にそれぞれコーヒー を置いた。
「多分、怒って入ってくるだろうから、ざくろ、あれだ。『おかえりなさいませ、ご主人さま!』って、元気よくやってごまかすんだ」
「メイド喫茶効果ですね、わかりましたメイド服を着てきます」
「そんなのあるのか?」
「他にもいろんなコスチュームがそこの棚にありましたけど、誰のでしょうか?」
おそらく、スフィアのアホが、いざ(?)という時のためとか理由つけて持ってきたのだろう、だが俺たちの部活が不機嫌に始まるのを阻止するにはそれしかないようだ。
コツコツと足音がしたと思うと、最初に杏が入ってきた。
「まったく、あいつらはあたしの時間をなんだと思ってんだ。タイムイズマネーなのを知らないのか?」
「おかえりなさいませ、ご主人様」
機嫌の悪い杏に向って、満面の笑みで迎え入れるメイド服姿のざくろ。そして、コーヒーを持って立ち上がり、杏に渡す。
「ん、おお、うまそうなコーヒーとクッキーじゃないかありがとう」
空気に流され、すぐに機嫌が直り、席についてゆっくりとコーヒー 飲み始めた。
次に夕がやってきた、
「別に誰かの邪魔をしたわけじゃないのにこの始末、これだから三次元はおもしろくない」
「おかえりなさいませ、ご主人様?」
「あれ? 俺、まだVRダイブ装置使ってたのか、じゃないと部室にこんなかわいいメイドがいるわけがない!」
混乱する夕。かわいいと言われちょっと頬を赤く染めるざくろであった。
「いいから、おいしいコーヒーですよ」
「ありがとう、マイエンジェル」
俺は夕のセリフに背筋がぞわりとした。だが、機嫌は直ったらしいので、よしとしよう。
今度はスフィアが入ってきた。
「私は辞書を読んでいたので、勉強のうちに入ると思うのですが、相変わらず先生という人種はよくわかりません」
「おかえりなさいませ、ご主人さま」
「!?」
スフィアはわなわなと震える。
「ざくろさん、なぜそれを着てるのですか?」
「……なにか、問題がありましたでしょうか? ご主人さま?」
「グッジョオオオオオオオブ!!!」
スフィアが突然叫んだ。
「その奇麗な澄んだ青色の長いウェーブとメイド服のコラボ、まさに神が創り出した。芸術作品としか言えない、いや、待って。キャンギャルのコスプレのほうが似合うのか、いやいやいやメイド服の白いのが青い髪を引き立てているから着るとしたら白系統の服のほうがいいかも、ならナース服とかも……」スフィアが弾丸トークを始めるのを
「ストップストップ、落ち着いてください、まずはこのコーヒー でも飲んで」
ざくろがコーヒーを無理やり押し付ける
「黒のゴスロリとかもありなのでしょうか、いた……っ」
まだぶつぶつ言ってる。スフィアの頭を軽く叩いて黙らせる。
「マスター 何をするんですか、急に叩くなんて」
「いいから、お前はコーヒー でも飲んどけ」
「え、でもマスター」
「いいから! 深呼吸!」
「は、はい、スーハー」
「よろしい、じゃあ座れ」
スフィアは釈然としない様子でコーヒーを飲み始めた。
最後に真央がやってきた。さて、真央はどんな反応をするのかな。
「いやー長かったーなに言ってたかほとんど覚えてないけどねー」
「おかえりなさいませ、ご主人様」
「おおーなんかかわいい服着てるーいいねー」
真央はのんびりとした口調で言った。
「はいこれ、コーヒーです」
ざくろが真央のもとに向かうと。
「キャ、わぁぁ!」
コーヒーを持ったざくろが、教室と廊下の冊子に躓き、熱いコーヒー 中身が真央に降りかかったと思った。しかし。
コーヒーの液体が真央の前の空中で浮かんでいる。
その瞬間、俺と杏とスフィアは立ち上がり、警戒する。
「真央……どういうことだ?」
俺が真面目に質問する。
「あちゃーやっちゃったーまあ、こうなると言い逃れはできないねー私は【鬼】つまり妖怪なんだ」
真央があっけらかんと言う。
「それが、どういうことか……わかってるのか?」
俺は未だによく状況が理解できでいない。
「……うん、知ってるよ。RCONと私の所属する百鬼妖怪連合が敵対してるってこともね」
普通に答える真央に俺は苛立ちを覚える。
「じゃあ、なんで黙ってたんだよ!」俺は怒りをぶつける。
「それは、皆とずっと一緒にいたかったからだよ! こんな超常的な組織とか関係なく……ね」
真央が最初は大きな声で、しかしだんだん小さくなる声で、答える。
「でも、ばれたら、ここに居られないねー……じゃあね!」
「ま、待て!」
目に涙を浮かべて走りさる真央に俺の声は届かなかった。そのときポケットの携帯が震える。画面を見ると、RCON本部からの連絡のようだ。
「こちら、広兼、どうしましたか?」
「そちらに10人魔術師が向かっていることが判明した。所属は不明、我々に敵意はないが、くれぐれも注意をしてくれ」
「了解しました」
俺は本部との連絡を切ると、いよいよ本気になってきた。
「夕、すまないが、ティーセット片付けといてくれ」
夕も一大事を察すると、俺に目線を合わせると。
「おう! 絶対に真央を連れ戻してこいよ」
「ああ!」
俺と夕と頷き合う
俺は杏、スフィア、ざくろに向かって言った。
「杏、スフィア! 今の通話を聞いてと思うが、敵の目的はおそらくだが、ざくろか真央のどちらかだ、ざくろは身元が恐らくばれてないから、魔法使いの目的は真央だろう、正直、俺たちでなんとかなるかはわからない、でも、やるしかない」
3人はうなずいた。
「仲間のためだ、力の出し惜しみはしない、行くぞ」
俺たちは急いで真央の行方を捜すのだった。
天気がよかったのに、急に空が雲で覆われ、雨が降ってきた。




