第一五話 VR(ヴァーチャルリアリティ)ダイブ
テスト休み期間も終わり、普通の学園生活がスタートした。
桜は散り、もう、夏がすぐそばまで来ていることがわかるような日差しだった。
俺は教室に残っていたスフィアをと共に部室に行くと、そこには杏、真央、夕がいる。
杏はよくわからない機械をいじっている。真央は机に突っ伏して寝ており、夕は携帯ゲームをしている。俺は夕に話しかけた。
「また美少女ゲームか?」
「当り前よ! いま、桜ちゃんを攻略中なんだ。ああ……何てかわいいんだ。この中に入れたらなあ……」
ドン引きするようなセリフを夕はつぶやいた。それに杏が呟いた。
「一応、そういう装置は作ってるぞ」
「まじで、やってみたい!」
夕は身を乗り出して答える。
「真央は……って、寝てるからいいか、広兼はどうだ?」
「俺はいいよ、見てるだけでいい」
ゲームは夕が進めてくるゲームをたまにやる程度だった。
「どういう仕組みなんだ?」
夕が装置の説明を聞いてくる。
「要するに疑似VRダイブだな。装置にゲームディスクを入れるとそれを解析して、頭のコードを通じて脳に直接電気信号を送る。五感もリアルに感じれるぞ」
「お前、それって、RCONの訓練システム改造して作っただろ」
「あ、わかる? そうだよ、これはそのシステムを改造して作ったんだ」
俺もその訓練システムなら使ったことがあるので知ってる。
「もし、危険になったらのための安全装置もあるし、外からモニタリングができるからな」
「まあ、あたしもDQⅢ(ダンジョンクエストスリー)で使ってみたが、迫力があって楽しいぞ」
その技術をもっと別方向に使うとすごいのにな……
「いいから、早くやりたいぜ」
夕が待ちきれないといった様子で言ってくる。
「待て、注意点がある。もし危ないと思った時、耳に手を当てて、『エスケープ』って叫ぶんだ、そうすると強制的に現実に戻れる。あとはこっちが危険だと判断したら勝手にVR空間から強制的に戻すことがある。あとは、ゲームの世界観を表現するだけで、普通のゲームにあるような選択肢とかそういうのはないから受け答えは慎重に。ちなみにそっちの声や姿は見えるがこっちからの声は届かないから注意な」
「わかったぜ」
夕は待ちきれない様子で頷く
「それで、どのゲームをやるんだ?」
「このメモリーズときめきをやるぜ」
夕が出したのは、やっぱり美少女ゲーだった。
「これか、じゃあそこに座ってくれ、準備にかかる」
杏がそういうと椅子に座った夕にパソコンから21のコードが伸びたフルフェイスの装置を夕の頭に被せる。そして、頭にかぶった装置にディスクを入れる。するとウィーンと音がなる。しばらくすると、パソコンの画面に夕が映った。
『おおい、杏ちゃん、広兼、聞こえるか?』
画面には、夕の姿がはっきりと映っていた。
『向こうの声は聞こえないんだったな。さて、メモときの最初は通学からはじまるんだったな、おお! メモときの制服を俺が着てる、やばい、これはやばいぞ』
めちゃくちゃ楽しそうである。
『さて、最初のイベントは……そうだった、ここの角は走らないといけない』
そう行って、夕走り出した。角を出た瞬間、お魚くわえた女の子とぶつかった。さ○えさんの猫かよ……
『痛―い、何すんのよ!』
俺も夕に無理やりこのゲームをやらされたことがあるから少しわかるが、こいつは確か、笹原美紀だったかな?
『ごめん、僕も急いでたんだ、それより大丈夫かい? 怪我などしてないかい?』
気持ちわるっ! 現実の世界じゃぶつかっても、無視してゲームをし続けるあいつが僕とか言いながら優しく微笑えみながら手を差し出してやがる!
『そんなに痛くなかったし、でも、楽しみにしていた新鮮な鮎が』
『そっか、そんな大事な鮎だったのか、今度、一緒に釣りに行こう』
つっこみどころが多くて、もう、どこからつっこめばいいかわからなかった。
『それに、そこ膝、怪我してるだろ。これ、絆創膏』
『べ、べつに、うれしくなんかないけど……ありがとう』
ん? このやり取り、前どこかでやったことあるような気がするが、忘れた。
その後も数々の女の子とのイベントを100点以上の解答で答える夕、もうこいつはこの世界で生きた方がいいんじゃないか?
しかし、そういう八方美人はいずれ罰が下るものだ。なんと、夕がゲームの世界で住んでいる家で5人の少女が鉢合わせをしたのだ。
『『『『『ちょっと、夕! これ、どういうことなの?』』』』』
かなりの修羅場だった。だが夕はけろりとした顔で。
『どうもこうも何も、俺はみんなのことが好きだ! 一人何て選べる分けない!』
『『『『『最っ低!』』』』』
女の子たちはそういうと、夕に向かっていろんな物を投げつける。そして怒って帰って行く。
そして、画面にゲームオーバーの文字が表示される。
すると、夕は装置を外し、悔しそうにつぶやいた。
「くそぅ、何て事だ」
「あんなことするとそりゃあ女の子たちも怒るだろう」
「いや、もうすこし時間をかけて、好感度を上げてから、5人を呼べばハーレムになれるはずだったのに、チッ、焦りすぎたか」
夕は真顔でとても残念なことを言い出す。
「いっそ二次元で暮らせたらいいのにな」
「それができたら、お前はここにはいないだろう」
俺は深々と溜息をついた。
後日の話だが、放課後、俺が教師に荷物を持ってくのを手伝ってくれと言われて、たまにはと思い、仕方なく手伝うと、なんか異様に感謝されてしまった。なぜだろう。
そんなのはどうでもいい、そのあとすこし遅れて部室に行くと、もうすでにメンバー全員がいて、夕がVRダイブ装置をまた付けていた。残りのみんなが唖然としてモニターを見ているので、俺も見てみると、そこには自分の部屋で5人の女の子といちゃいちゃする夕の満足そうな姿がそこにはあった。こいつは現実であの性格だともてるんだろうなあ、でも、どうせ言っても聞く耳を持たないんだろうな、と二次元にいる男に向かってつぶやいていた。




