第一三話 買い物
今日は日曜日である。
昨日は家で朝はゴロゴロ過ごして、夜はスフィアとテレビを見ていた。
今日は焼きプリンの試行錯誤でもしようかと、考えていた時である。突然携帯が鳴ったので、俺は画面を確認せず取った。
「もしもし」
「あ、広兼? 暇か?」
声の主は夕だった。
「どうした、何か用事か?」
「いや、暇ならちょっと一緒に買い物行かないか? できれば、スフィアちゃんもいるとベスト」
「あー スフィアならさっき『乙女の秘密です』とか言ってどっか出かけた」
「乙女の秘密ってなんだよ」
「さあ? 化粧でも買いに行ってるんじゃないか?」
俺も実際に知らないので、適当に答えた。
「そっか、じゃあ広兼だけでもいいよ、じゃあいまから、真鞍町駅前に来れるか?」
「いいが、何をするんだ?」
「ちょっと、ゲームを買いたいんだが、小遣いの関係上、どちらかしか買えないんだ」
「なるほどな、いいよ、すぐ行く」
俺は通話をきり、着替えたらすぐに真鞍町駅前に向かった。
駅前に着くと、前と同じカジュアルな格好の夕が居た。
「おお、広兼、待ちかねたぞ、さあ行こうか」
夕はうきうきと歩き出した。
駅前の近くには大きなデパートがありその中にある一角のゲームショップに向かうつもりだ。
そして、目的のゲームショップに着いた。
「これなんだが、どっちがいいと思う」
ゲームのタイトルが同じで、両方ともメイド服を着ている少女がパッケージに移っている。何が違うのだろう?
「一緒じゃないのか?」
「よく見てみろ」
もう一度パッケージを見てみると、よく見ると、片方はスカートの丈が短く比較的に露出が大目の服を着ており、もう片方はスカートの丈が長く露出が少なめである。
「そういうことか、来ている服が違うってことだな」
「さすが、広兼だ。お前の感想はどうだ」
「いや、こういうのってストーリー が重要なんじゃないのか?」
俺も夕から進められたゲームを何個かやったが、やはりキャラクターより、ストーリーが凝ってる方が俺は好きだ。
「このゲームは両方同じストーリーだ」
「なら、どっちでもいいんじゃないか?」
「甘いな広兼、これは両方、キャラの個性が違う、それに最近はキャラがたってればそれだけで面白いものもあるんだ、例えば……」
夕はキャラが目立つアニメやらゲームをつらつらと並べだした。知らないものを出されてもよくわからないのだが。
「……つまり、キャラが立ってるアニメやゲームはそれだけで人気がでることもあるんだ、ここまでは分かったか?」
「お、おう」
やばい、このままだと、夕の語りがとまらない。だが、適当に選ぶと理由とか聞かれたときに詰まる。うーん、どうしよう個人的には男として、露出が高いほうが好きだが、そんな安易な理由だとたぶん納得してくれない。
そんなことを考えていると、奥のカーテンから、紙袋を持った、サングラスにニット帽を被ったジャージ姿でブルマの逆に目立つだろ。という格好の女がこそこそと出てきた。
というか、スフィアだった。
「おい、スフィア何してんだ」
俺が問いかけると、その女はとぼけて。
「ナニヲイッテルンデショウカ、ワタシハスフィアトイウジンブツジャアリマセンヨ、マスター」
「この世に俺のことをマスターって呼ぶのはお前しかいない」
しまった、という顔をして、スフィアがニット帽とサングラスをはずして。
「私の変装を見破るとはさすがマスターです」
「いや、こんなところにジャージにブルマとかお前くらいしか思いつかないからな」
俺がつっこんでると。
「おお、ちょうどいい所に、スフィアちゃん、どっちがいいと思う?」
夕がスフィアに聞いてきた。
「私はゲームをしないのでわからないですが」
「シナリオは一緒だから、パッケージで選んで欲しい」
「そうですね、私はあまり知識はないんですが」
一呼吸おき。
「こちら側のメイド服は露出が多くスカートの丈が短い、なので、活発で自己顕示欲が高い、または自分の体に自信を持っていて見せることに喜びを見出してる女性が出てくるのではないでしょか? こちらの正統派メイド服はまったく逆、つまり慎み深い女性、大人の魅力を魅せるような。そんな女性たちが出てくるのではないでしょうか?」
「ふむ、深いな……やっぱり女の子に意見を求めると違った目線が見えてくるな」
「いや、スフィアを一般的な女性として認識するのはまずいと思うぞ」
見せることに喜びを見出してる女性って何だよ。
「そうだな、こっちの大人の女性ってのが魅力的かな」
「いや、夕さん、待ってください」
「ん?」
「例えば、現実にそういう大人のメイドが居たら、夕さんはどうします?」
「三次元だから無視する」
いや、その答えは違うと思うぞ。
「もし、二次元だとしたらですよ」
「なら、ゆっくりと下手に出てゆっくり攻略するかな」
女性を攻略と来ましたか……
「じゃあ、同い年の露出の多い女の子が居たら、どうします?」
「そりゃあ、一緒に遊んで、たまに見えるパンツとかをチラ見……あっ」
「そうです。気づきましたか夕さん」
「あ、ああ、大人の女性の魅力に惑わされたが現実は同い年の若いメイドさんと遊ぶほうが楽しいな」
……現実じゃないからな。
「スフィアちゃん、俺はあんたの実力を見誤ってたよ」
「こちらこそ、同じシナリオのキャラが違うゲームで迷う夕さんに感服しました」
お互いにガッチリと手を交わしている。……ここがゲームショップじゃなかったらかっこ良かったんだけどな。
すっかり置いてけぼりな俺がふと気になって聞いた。
「お前、その紙袋はなんだ?」
「乙女の秘密です」
はみ出ているポスターから見て、どうみても乙女の秘密じゃあなかった。
後日、買ったゲームの報告を電話でして来た。
「いやあ、スフィアちゃんの予想どおり、こっちを買ってよかったよ」
「そりゃあ、良かったな」
スフィアを褒める夕の声を聞いてスフィアのマスターの俺としては何であれすこしうれしかった。
そこで、夕が本題を切り出し始めた。
「それでだが、もう片方も欲しくなったんだが金を貸してほし――」
「駄目だ!」
「なんでだよ!」
抗議してくる夕に俺は。
「お前に貸した金は絶対戻ってこないからな、これだけは譲れない」
あいつはお金に無頓着なところがあるのだった。




